平穏な関係
平穏な日々
それは誰にも邪魔されず…
If−天国からのシャル日記
例えばこんなエピソード
ロニ=デュナミスがつむじ風のロニと呼ばれる所以は、ごく一部では有名だ。
「お前、もういい年なんだからスカート捲りなんかするなよ」
「してねーよ!」
というわけで、本格的に彼がきれいなお姉さんを好きになったのは、坊ちゃんやルーティが神の目を追って旅をしているくらいの年齢だった。
つまり17,8といったところだろうか。
「思うにロニが年上趣味なのは、孤児院が年下のお子様ばかりだからなんだろうね」
「冷静に分析している場合か」
「もしかしたら同年代、あるいはそれ以下にふられると敗北感が大きいからかもしれない」
「…」
そこまで言われるとロニに同情してしまう坊ちゃん。
今日は久々にクレスタを訪れていた。
生ぬるい笑みを浮かべて二人はデュナミス孤児院への道を辿っていく。
「あ、リオンさん… さん!!」
孤児院の庭で小さな子供たちの相手をしていたロニは背中に5,6歳の子を乗せたまま振り返った。
そのままダッシュでやってきて
の手をすちゃりと取るとどこで覚えたのかキラーンと星を飛ばしながら、おかしなオーラを発しのたもうた。
「いらっしゃいませ、マドモワゼル」
「………ロニ#」
坊ちゃんに睨まれてさっと手を退く。
は何がツボに入ったのかそれより前に必死で笑いを堪えているが。
実のところ、ここのところこれが恒例の行事と化している。
身もふたもない言い方をすれば…
ロニは
を狙っているようだった。
無論、相手はロニだからしてそんな危機感などこれっぽっちもないわけで。
小さい頃だとて、
はスカートなどはかないのでめくりの被害にあったこともない。
そもそも二人に対しては尊敬的な念を抱いていたらしく、敬意のようなものは持たれていたし、それは坊ちゃんにとっても決して悪い関係ではなかった。
が。
なぜだか、今年に入ってそれがやや変化してきたらしい。
正確に言うと、ロニの身長が坊ちゃんのそれを越えたあたりから。
「
さん、お茶、お注ぎしましょうか?」
「…ロニ、気持ち悪いよ」
といいながらも
は苦笑するに留まっている。
そうだね、
にとってはまだギャグの範囲内だろうね。
更に言うなれば、坊ちゃんに対する態度はそのまま、
に対する態度だけが変わったのは…
スタンやルーティの仲間としての敬愛的な存在から、自分が大人になったことでもっと身近なものになったということなのかもしれない。
しかし、対して坊ちゃんは…
「……」
うっわ、すごいご機嫌斜め。
まぁ明らかにロニも調子に乗っているから仕方ないだろうけどね。
誰しもそういう年代があるものなんだよ、きっと。
「ロニ、その辺にしときなさいよ。リオンが怒るわよ〜」
「どうして僕が怒らなければならないんだ#」
怒ってますが。
「はは、最近ロニは
に惚れこんでるよな」
「えぇ、だってスタンさん。
さんくらいの女性はルーティさんを除けばこのクレスタにはいないじゃないですか…!」
「もう、ロニったら」
…デュナミス家、ロニを挟んでほかほか地球ファミリー展開中。
坊ちゃんは頬杖をついてそっぽを向いている始末。
参加しないのは意地といえば意地なんでしょうね。
「リオン、うかうかしてるとロニに取られちゃうわよ」
「そういう問題じゃないだろうが。大体、健全がモットーの孤児院でどうしてこういう因子が出てくるわけだ?」
「あ、酷いです。男として女性を敬うのは当然の本能じゃないですか!」
「「……本能」」
この辺りがロニといえばロニだ。
まともに取り合う前に、坊ちゃんと
の顔に呆れたような笑みが浮かんだ。
「駄目よ、ロニ。
は理性的な男の人が好きなの。本能とか言っているうちは
は落とせないわよ」
「!!そうなんですか!」
「炊きつけるな」
大体どうしてそんなに本気モードなのか。
一度も
が手痛く断っていないということもあるのかもしれないが、坊ちゃんがそこで同じようなことを訊くと原因が明らかになった。
「だって、リオンさん、
さんとつきあってないんでしょう?」
「!」
「俺、ずっとそうなのかと思ってたんですよ。なんとなく恋人、って感じはしてなかったんですけど…
暗黙の了解かなって。でも違うって聞いたから」
言われちゃった。
「この子、
がフリーだって言ったら面白いくらいショック受けてたわよ」
「お前か#」
からからと手を振りながら笑うルーティに、この事態の発端が何であったのか察する坊ちゃん。
「そんなわけで
さん!俺とつきあってもらえませんか!」
ついでにロニに告白させる機会を与えてしまった。
…………これだけの面子の前で、完膚なきまでに断られるのか、
それともこれだけの面子の前だからこそ、執行猶予が与えられるのか───…
ある意味賭けっぽい。
の視線が、坊ちゃんの方を見た。
断ってしまえと言えるような状況ではないので少々気まずそうに視線をはずすしかない。
その時にはスタンやルーティの方も
の視線は一巡していたわけであるが。
そして最後は手を取って頭を垂れているロニに、ではなくそれからにまにまとしているルーティに戻った。
「そうだね…」
ふっと口元を緩める気配に坊ちゃんとロニが顔を上げた。
「リオンに勝ったらつきあってみてもいい」
「「!!!!」」
これに驚いたのは全員だった。言うまでも無く一番衝撃が大きかったのは意表をつかれたリオンのようだが。
「どうしてそこで僕が出て来るんだ!」
「いいじゃない。どうせ勝てないんだもん」
返事はこそっと
。どうやら確信犯で単に面白がっているらしい。
それを察してリオンは押し黙る。ついでにプライドを決して悪くは無い方向性で触発されているにも違いなかった。
そんなこととは知らないロニはといえば…
「いいですよ、やろうじゃないですか」
目の前の余裕の自分より小柄な青年に向けて余裕の表情を浮かべて見せた。
その判断が間違っているとも知らずに。
その一言で、
とは違う意味で確実に坊ちゃんのプライドにロニが触れたのはわかりきったことだった。
即答で受けてたった坊ちゃんは、飄々としながら立ち尽くしているように見えるが…本気だ。
僕にはわかる。
坊ちゃんは剣を、ロニはハルバードを、それぞれ手に庭で対峙した。
「へへっこれでも毎日訓練してるんですよ。ちょっと自信あります」
「根拠のない自信は怪我の元だぞ」
ロニがハルバードを背に担ぐと、何を思ったのか坊ちゃんは…
鞘のついたままの剣を草地に放った。
「…え?」
「素手で相手してやる」
お、怒ってます。
剣なら無論余裕だけど、それを捨てたと言うことはむしろ、完膚なきまでに叩きのめすくらいの気持ちなのかもしれない。
顔が笑ってないし。
「そりゃリオンさんは「英雄」なんだからハンデはもらえたら嬉しいですけど…後悔しないで下さいよ!?」
「調子に乗るなよ」
と、ここで坊ちゃんの顔に初めて笑みが浮かんだ。
思いっきり冷笑なんですけど─────(汗)
腕っ節だけなら既にロニの方が上だろう。
体格としては既にロニはしっかりした成人男性のそれに近い。
けれど。
「ぎゃわー!!!」
後悔したのは(やっぱり)ロニの方だった。
「…やっぱり無理だった、か」
「いてっ」
ルーティが四角い絆創膏をロニの頬に張りながら笑っている。
床にどかりと座ったロニ。
その横のテーブルの前では坊ちゃんが椅子に腰をかけ足と腕を組んでいる。
ロニは冷ややかな視線で見下ろされる形になっていた。
「リオンさん、体術までできるなんて…」
「当たり前だ。お前と僕では格が違うからな。身の程をわきまえろ」
「…………………すんません…」
あ、今のは色々な意味が含まれてますね。
ともあれ、手痛いのを一発どころか十発くらい(しかも最後の半分はコンボだった)くらったロニは猛反省しているようだった。
同時に改めて認識したようだ。
…リオン=マグナスと言う人には叶わないのだ、と。
ちょっと図体が大きいからって侮っちゃ駄目だよね。
自信過剰なこの時期には、いい教訓になったんじゃないだろうか。
この瞬間から、身長差に反比例したその後の関係が、
定着したことは言うまでもない事件だった。
その現場。
−思い込みにて早云年−
ロニ「…ルーティさん、リオンさんと
さんには子供はいないんですか?
ルーティ「は?
ロニ「いつもここに来るときには二人だから。
ルーティ「あ、あのねぇそういうことじゃなくて…ロニ、何か勘違いしてる?
ロニ「?
ルーティ「あの二人、結婚とかしてないわよ
ロニ「ええぇ!?そうなんですか!?
ルーティ「ついでに言うと恋人でもないから。
ロニ「!!!!!(ピシャーン!ドガーン)←雷の落ちた音。
ルーティ「…
はフリーってことかしらね
ロニ「そんな…そんな…勿体無い………………!!(よろよろ)
スタン「………ルーティ、いいのか?あんな言い方して。
ルーティ「事実よ、事実。それに面白そうじゃない♪ロニが
を口説いたらあいつ、どんな顔するのかしら〜
スタン「…悪魔
ルーティ「何か言ったぁ!!?
スタン「な、何も!!
その瞬間、彼の中で何らかの無謀な挑戦が始まったらしい。
あとがき**
新年早々、Dシリーズに乾杯(?)。
もしもシリーズなのでこれで未来は決定、というわけではありません。
ただロニは…一度はこんなことがあるだろうな、と(笑)
TOD2EDではなぜかパン屋になっている彼ですが、
ここでの彼はこの後、一度はアタモニ神団に入ると思います。
で、ルーティに反対されるけど
が推す、みたいな。
それから数年後は旅に出ます。夢は広がります(笑)
