アイテム係(小さん)
アイテム係
「アイテム係、ご苦労だったな」
「勝手に係にするんじゃねぇっ!」
「……というわけで、俺は今回の任命に異議を唱える」
宿屋内食堂にて、ロニはテーブルに両の手を突いた状態で立ち上がるとおもむろに言った。
「「「「「「………………」」」」」」
一同は、暫くの間動きを止めてジッとロニを見る。
そして
「ナナリー、このシチュー美味しいよ」
「本当だねぇ。あとからおかみさんにレシピを訊いてみようかな」
「カイル、このパンも美味しいわよ」
「うわぁ、まだ暖かくてふわふわしてる!これならいくらでも食べれそうだね、リアラ!」
「あら本当、美味しいわぁ。ぐふふっ。これに私特製のスペシャルスパイスをふりかければ、更に……」
「うわ、やめてよハロルド!」
「…………」
全員何事も無かったかのように食事と会話を再開した。
誰か一人でも再び顔をロニに向けるという事は……無い。
「って!無視すんなぁっ!」
危うく話す・座る・食べる…等、全てのタイミングを失うところだったロニが慌てて話を元に戻した。
放っておくと話が堂々巡りになりそうだと思ったのか、
仲間達は渋々といった面持ちで顔を再びロニに向ける。
ジューダスが、深い溜息をつきながら問うた。
「何が……というわけで、だ。一体何の話をしている?」
「あ、ひょっとして今日の昼間、戦闘でジューダスがロニをアイテム係に任命した事?
まだ気にしてたんだ」
シン が、少しだけ意外そうな顔をして言った。
手に持ったスプーンを、行儀が悪くない程度に弄んでいる。
そんな彼女の言葉に、ロニを除く一同は「昼間の?」と疑問形で呟くと、顔を見合わせた。
そう、それは昼も半ばを過ぎ、そろそろおやつの時間ではないか、
今日のおやつはピーチパイにしてみようか、
フルーツやミルクが結構余ってるからパフェも良いんじゃない?
などと女性陣が盛り上がっていた時間帯。
日常茶飯事ではあるが、今日も今日とてそんな時間に襲ってくる無粋なモンスターがいたわけで。
当然の如く一同は迎え撃ったのだが、如何せん、おやつに気を取られていた。
その所為とは言い切れないが、隙が生まれたのだろう。
モンスターの数が多かった事もあり、いつもよりも戦闘に苦戦してしまった。
そんな中大活躍したのが、
体格が良い=力持ち=荷物を沢山持ってもへこたれない
……という理由からパーティの荷物の大部分を手元に置いていたロニである。
彼はカイル・ジューダスが前衛、 シン ・ナナリーが中衛、リアラ・ハロルドが後衛、と
各々が各自最も得意とするポジションで戦っている中を縦横無尽に駆け巡り、
「カイル!毒状態のまま戦うな!パナシーアボトルを使え!」
「 シン !オレンジグミ食え!」
「リアラ、ハロルド!レモングミだ!」
「ロニ、ついでだからスペクタクルズでそのモンスターを調べておいてちょうだい!」
「任せとけ!……っと、ジューダス!ナナリー!
無茶すんじゃねぇっ!体力減ってるじゃねぇか!
アップルグミを食え、アップルグミを!」
……と言う具合に頼まれてもいないのに保護者のスキルを駆使しまくり、
必要と思われる場所に必要なアイテムを配っていたのであった。
挙句、その姿を嘲るかのように、最後の一匹に止めを刺したジューダスがこう言ったのだ。
「アイテム係、ご苦労だったな」
折角皆の為に頑張っていたと言うのにこんな事を言われたのでは、
腹の一つや二つは立つというもの。
怒りとツッコミを綯い交ぜにしたようなロニの叫び声が、辺りに木霊したのであった。
「勝手に係にするんじゃねぇっ!」
「「「「「「…………」」」」」」
思い出した……と言うように全員が顔を見合わせ、沈黙した。
その姿に満足したかのように、ロニが言う。
「思い出したみてぇだな」
そのロニに、 シン が言う。
「けどさ、それって一応ジューダスの冗談でしょ?
わざわざこんな食事の場で否定しなくても、
別にロニがアイテム係に固定されたわけじゃないんじゃない?」
「否!」
シチューを再び口に運ぼうとしながらの発言に、ロニはいつにない真剣な表情で否定した。
「冗談だとか、固定されたわけじゃないとか言ってくれるけどなぁ、 シン !
よく考えて思い出してみろ!その戦闘の後の、俺の境遇を!
頭の良いお前なら思い出せるよな!なぁ!?」
最後は半ば哀願のようになってしまっているロニの言葉を聞き流しながら、
シン はシチューのニンジンを飲み込みつつ思い出そうと考えてみた。
ニンジンはトロトロに煮えていて、甘味も旨味も充分だ。
そうそう、甘味と言えば結局おやつはパフェにして、
皆で食べながらワイワイやっていたらまたしても無粋なモンスターが襲い掛かってきたんだったか。
「いくぞっ!岩斬滅砕塵!」
「喰らえ!魔人剣!」
「ロニ、カイルにオレンジグミ!あんな調子で特技ばっかり使ってたらTPが持たないよ!」
「カイルっ!オレンジグミだぁっ!」
「ついでに、ジューダスにもオレンジグミ!ジューダスも結構減ってるよ!」
「ジューダスっ!」
「古より伝わりし浄化の炎……落ちよ、エンシェントノヴァ!
……ロニ!私にもオレンジグミをちょうだい!」
「ロニ!アタシにアップルグミをくれないかい!?」
「ロニ〜!私の代わりにスペクタクルズを使っといて頂戴〜」
「うわぁぁぁっ!」
「そんな……!」
「ロニ!カイルにライフボトル!早く!!」
「カイルーっ!!」
「…………」
とりあえず、ロニアイテム係任命後の一連の戦闘を思い出してみて、
シン は無言になった。
その態度が全てを思い出したと語ったように見えたのか、
ロニは改めて喋りだす。
「わかっただろ!?何でどいつもこいつも俺にばっかりアイテムを配らせるんだよ!?
後衛にいるリアラやハロルドなんか、自分で食う余裕ぐらいあるだろ!?」
確かに。
パーティの荷物の大部分はロニが持っていると前述したが、
回復アイテムが一箇所に固まっているのは少々博打行為である。
アイテムを持つ者が倒れたらアウトだし、
以前 シン やジューダスがそうなったようにパーティからはぐれてしまい、
それに加えて状態異常に陥ってしまう事だって有り得る。
そんな不測の事態に備えて、このパーティでは一応
全員が各種グミを数個ずつと、
パナシーアボトル・ライフボトル・ホーリィボトルを一本ずつ持ち歩くようにしているのだった。
つまり、全員が回復アイテムを持っているのだから
わざわざロニに頼まなくても自分のグミを食べた方が早いじゃないか、
というのがロニの言い分である。
そんなロニに、 シン は少々呆れ顔で言った。
「けどさ、それはあくまで非常用なわけだから、
普段の戦闘では一番沢山回復アイテムを持ち歩いてるロニから
貰おうって考えるのが普通じゃないのかな?」
「う゛……」
ロニがたじろいだ。
シン は、間髪入れる事無く責め続ける。
「皆からアイテムを頼まれるって事は、それだけ頼りにされてるって事じゃない。
頼りにされるのが不満なの?」
「う゛ぅ……」
「あと、アイテム係が嫌なら、折角増えた称号を返還してもらう事になるけど……
それでも良いの?」
「う゛ぅっ……」
ロニは、最早ぐうの音も出ない。
さて、静かになった事だし食事を再開するか……と、
シン が冷めかけたシチューに三度スプーンを突っ込んだ瞬間である。
「きゃあっ!カイルっ!?」
隣からドタンッという音がして、リアラの悲鳴が聞こえた。
見れば、カイルが椅子から崩れ落ち、顔を真っ青にして脂汗を流している。
これは、毒の状態だ。
まさか、エルレインの手がこんなところにまで!?
微かに緊張を感じながら、 シン は卓上を見た。
出された料理は、ほぼ全員が全てに手をつけている。
他の六人がピンピンしているのに、カイルだけが毒状態になるとは……。
……となると、カイルだけが食べた物がある筈だ。
そう思い、カイルの席を丹念に見る。
「……どうやら、原因はこれだな」
ジューダスが、呆れたように呟いた。
見ればその視線の先には、真っ赤なりんご。
白雪姫じゃあるまいし、りんごに毒なんてそんなベタな……と思いつつよく見てみれば、
そのりんごからは虫が顔を覗かせている。
「あ、これってひょっとしなくても……むしくいリンゴ……」
どうやら、毒は毒でも食中毒のようである。
とりあえず、即死の心配は無い。
少々ホッとしながら、 シン は立ち上がった。
「部屋からパナシーアボトルを取ってくるよ。
動かさない方が良いでしょ?」
そう言って、 シン が食堂から出かけた時だ。
「いや、パナシーアボトルなら取りに行かなくてもあるぜ」
声の主は、当然と言えば当然の事ながらロニ。
彼はポケットからパナシーアボトルを取り出すとカイルに使用し、
その後回復したカイルに「拾った物をよく見もしないで食うな」と説教を始めたのであった。
その様を見ながら、 シン はぼそりと言った。
「何だかんだ言ってさ、ロニってアイテム係が似合うよね……」
その言葉に、横にいたジューダスが返す。
「全くだな……食堂にまで回復アイテムを持ち込んでいるとは……
どこまで心配性なんだ、あいつは……」
「けど、そのお陰で今回は迅速に処置ができたわけだしね」
「そうだな……流石はアイテム係と言ったところか……」
本人の知らないところで、ロニのアイテム係イメージがどんどん定着していく。
そして後日、ロニは新たな称号を得たのだった……。
『ロニは「真のアイテム係」の称号を得た』
Fin
**あとがき**
我が家でもロニはアイテム係でした。
メインメンバーがカイル、リアラ、ロニ、ハロルドだったのですが
カイル・リアラ→セミオートプレイ(私:カイル、妹:リアラ)なのでアイテムを使うと簡単にやられる。
ハロルド→詠唱時間が長いのでアイテムが手遅れになり易い。
……と言う理由から必然的にロニがアイテム係となりました。
攻略サイトでロニがアイテム係になった戦闘でジューダスが止めを刺すと
二人の掛け合い(「アイテム係〜」)が聞けるというのも理由の一つでしたが(笑)
ところで、TODの1は未だプレイした事がないのですが、
「むしくいリンゴ」は毒効果を受けるのでしたっけ……?
あまり知識の無いネタを使ってしまって申し訳ないです……(汗)
それでは、この辺りで失礼致します。
**管理人コメント**
むしくいリンゴ→毒。なつかしい話です。
それはさておき、アイテム係の定番ロニが主役(?)のステキなお話です(笑)
じつは気のつく兄貴なロニの様子がとっても良く出ていて和みました。
小さん、ありがとうございます。
