ご奉仕〜さん波乱の1日〜(匿名さん)
その日は、ヒューゴ主催のお茶会パーティ(謎)が開かれていた。
リオンも招待されていたため、一応出席している。
「さーてと、何しようかなぁ…」
そんなイベントはよそに、
はヒューゴ邸の廊下をぶらついていた。
無論、パーティの行われている客間とは随分と離れた場所だ。
屋敷内は自由に見てくれてかまわないと、ヒューゴからの許可は得ている。
ちなみに
はパーティには招待されていない。
今日は1日フリー。存分に歩き回ろうではないか———
と、そんな思考が頭をめぐっていたちょうどその時。
「あ…
さん!ここに居たのね」
後ろから呼び止められた。やわらかな女性の声。
「マリアンさん…?」
振り向いてみると、見知った顔のその人がいた。
ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる。私を捜していたんだろうか。
「
さん。あなたに…お願いしたいことがあるの」
何故だか非常に言いにくそうに、マリアンはそう切り出した。
「はぁ…何でしょう」
かなーり、嫌な予感がするんですけど……
ちらりとこちらの顔を窺いながらも、意を決したのかマリアンは再び口を開いた。
「今日1日、メイドをやってもらえないかしら」
ご奉仕
〜
さん波乱の1日〜
「…あの、生憎ですがそういう趣味は」
「そういう意味じゃなくて」
どうやら冗談で済まない状況らしい。
ざっくり否定するその口調は、どことなく険しい…
というか“そういう意味”ってどう意味だかわかってるんですかマリアンさん。
彼女は深刻そうに目を伏せて、されどつとめて穏やかに事情を話した。
「どうしても人手が足りなくなってしまって…。パーティの支度のほうで手いっぱいなの。私も街へ買出しに行かないといけなくて」
「それで、暇人の
さんにお願いしよう、と」
「…ごめんなさい。あなただって、大切なお客様なのに…無茶なお願いだとわかってるわ。でも、引き受けてもらえるならそれ相応のお礼はさせて頂きます」
それ相応の、お礼。
「…たとえば何です?」
「この屋敷の書庫から、好きな本を一冊持ち出していいとヒューゴ様から仰せ遣っているわ」
それは…なかなか素敵な報酬だ。
ヒューゴが直々に仰せ遣わせている辺り、少々気がかりではあるが。
「……わかりました。引き受けましょう」
途端、マリアンの顔が驚きの色に変わる。
「本当に?」
ああ、よほど意外な返事だったらしい(笑
「はい。特にすることもないので…良い暇つぶしになりそうですし」
「ありがとう。助かるわ…それじゃ制服に着替えてもらわないといけないわね」
制服。それはこの領域内ではメイド服を意味する——
「あー、マリアンさん…」
「さ、
さん。こちらへ—」
こちらが口を開きかけた途端、それを遮るかのごとく腕を引かれて否応無く更衣室へと連行された。
そのさりげない強引さは、ノイシュタットの某お姉さまを彷彿とさせるほどだった。
——そして、今に至る。
メイド服にモップ。そんな図式通りの
の姿が、そこにあった。
しかし『ご主人様〜』などと愛想を振りまくわけがない。
彼女は眉間を寄せ、紙切れ一枚と睨めっこしていた。
マリアンから渡されたメモ書き。
そこにずらりと並ぶ文字の羅列。
…とても今日1日でこなせる量ではなさそうだ。
早くも、溜め息が洩れた。
とりあえず、ここの掃除を済ませよう—
そう決心し、廊下のモップ掛けを始めてみた。
「……意外に面白い…。」
何しろオベロン社総帥のお屋敷だ。
パーティーの行われている客間や台所などを抜きにしても相当な広さがある。
廊下一つとっても並の広さ・長さではない。
これだけ広い屋敷の掃除ともなれば、燃えてくるというものである。
は一心不乱にモップを掛けて廊下を奔走していた———
「な……
!?」
そこへ偶然通りかかった客員剣士。
「あ、リオン。パーティーに出てたんじゃなかったっけ」
そう尋ねれば、あからさまに不機嫌そうな顔で答えた。
「あんなもの、形だけだ。ヒューゴ様がどうしてもとおっしゃるから、開会式にだけ顔を出してきた」
あー…やっぱり嫌だったんだ、お茶会パーティ(謎)。
「…お前、何やってるんだ」
痛い所を突かれる。
さて、どう答えたらいいものか—…
「1日メイド体験」
「は…」
返ってきたのは、そんな声と呆れ顔だった。
何とも居た堪れない空気になったので、素直に事情を話すことにした。
「マリアンさんに頼まれたんだよ、人手が足りないから手伝ってくれないかって」
「マリアンが…?」
訝しげにそう聞き返すリオン。
「うん。ほら、パーティのほうで他のメイドの人達も忙しいから」
「そうか…それにしても」
何とも言えない表情で、言葉に詰まるリオン。
「ありえない、って思ってる?」
「…ああ」
うん、自分でもそう思う(笑
「この服装さえどうにかしてくれればね〜…」
「大体お前、どうしてそんなことを引き受けたんだ」
「…報酬として、イイ物が貰えるからね。」
ぴくり、とリオンの眉根が上がる。
「何だ、それは」
「書庫にある本、どれでも一つ好きなものを持ち出していいって」
その答えは、妙な説得力を持っていたようだ。
「…まぁ、せいぜい頑張るんだな」
それ以上言及する必要もないと思ったのか、リオンは自分の部屋へと向かった。
「さて、やりますかね」
モップを持つ手に力を込め、
は掃除に取り掛かった。
◇ ◆ ◇ ◆
「……ふぅ。」
廊下のモップ掛け、窓拭き、棚の整理…それらを一通り終え、ようやく一段落といったところか。
「あと残ってる仕事は—」
メモ書きに目を落とす。
ふいに目に入ってきたのは
*リオンの部屋の掃除 ←ここ重要。
…ちょっと待て。“ここ重要”って何だ!?
その意味は図りかねる。が、いずれにせよこの仕事をパスするわけにはいかない。
リオンの部屋へと足を運び、ドアの前で立ち止まる。
一呼吸置いて、拳をドアにあてがう。
コン、コン、コン。
「…誰だ」
「部屋の掃除をしに来たんだけど」
「…
か。僕の部屋はいい。」
「でも“ここ重要”って書いてあるし」
「…何の話だ」
「ゴミ拾いだけでもさせてもらえないかな」
「………好きにしろ」
ガチャリ。
「気が済んだらさっさと出ていけ。わかったな」
「うん。ありがとリオン」
掃除という名目があるにしろ、人の私室に入るというのはなかなか気が引けることだ。
部屋の主はふてくされたかのように、机に頬杖をついてこちらを見ている。
何となく罪悪感を感じてしまう。
「—って、掃除するほど汚れてないね」
部屋を眺めてみるなり、そんな感想が洩れる。
床には塵一つ落ちていないし、本棚にも埃はなく、本は綺麗に整頓されている…ベッドの下も完璧だ。
きっとマリアンが毎日欠かさず掃除をしている為だろう。
リオン自身の性格も相俟って、部屋は常に清潔に保たれているようだった。
「…チェック完了。じゃ」
「おい」
早々に部屋を出ようとドアノブに手を掛けたところ、意外にも呼び止められた。
「…何?」
「ゴミ拾いだけでもしていくんじゃなかったのか」
先ほどとは裏腹に、そんな言葉を投げかけられる。
「だってゴミがないよ。私がこの部屋に手を加える必要はないと思う。だからもう気が済んだ」
まだ仕事が残っている、あまりゆっくりもしていられない。
「…少し、休んだらどうだ」
彼が口にしたのは、予想外の言葉だった。
けれどきっと、その言葉こそがリオンの本心であり。
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
確かに今日は動きっぱなしだ。少しくらい休憩を取ったほうが残った仕事もはかどるだろう。
すとん、とベッドに腰を下ろす。
その途端、何かが抜け出たように一気に疲労感に襲われた。
「ここの仕事って大変なんだね」
「当たり前だ、どれだけ使用人がいると思ってるんだ」
そんな何でもない会話が、何故か体の疲れを癒してくれる気がした。
「まぁ、やりがいはあるよね。私はもう二度とごめんだけど」
「僕もお前に毎度毎度、掃除をしに部屋に来られるのはごめんだな」
「そしたら、マリアンさんに会える機会が減っちゃうからね」
「…っ!!僕は別に、そういう意味で…」
「もう行くね。まだ少し、仕事が残ってるから」
座り心地の良いベッドから離れるのは嫌だったが、さっさと終わらせないと余計に気だるくなる。
立ち上がり、ドアへと向かう。
「
」
「…何?リオン」
振り向かずに、背中を向けたまま尋ね返した。
「僕は…掃除をする為だけに此処へ来られるのが、嫌なだけだ」
「うん、今日はごめん。それじゃ、また明日…」
それだけ言って、部屋を後にした。
—ガチャリ。
今度はきっと、何の為でもなく。開けられるだろうそのドアの音を聞きながら。
*Fin*
おまけ−裏話 + 後日談−
「…マリアン。例の作戦はどうなった?」
「もちろん実行致しましたわヒューゴ様。このビデオに
さんの素敵vメイド姿がばっちり記録してあります」
「そうか。よくやってくれた。何しろこの計画の為だけに、何十機ものオベロン社特製新型レンズカメラを屋敷の随所に設置し、さらにエミリオの部屋には超小型の最高級盗撮用を搭載したからな…そしてお茶会パーティ。あれはスケジュールの調整に苦労した…
だがしかし!!これも全ては『
君メイド化計画』の為!!ふははははーっ」
「……さすがヒューゴ様、目的の為には手段を選ばない…恐ろしいお方だわ」
———今回の騒動はヒューゴ(とマリアン)の陰謀だった、という裏話。ヒューゴがただの変態オヤジです;;
そして後日談。
「
…その本はこの間の報酬か?」
「うん。よくわかったね」
「『レンズ科学読本』か…この本なら屋敷の書庫でなくとも見かけるが」
「甘いね。これは『初版』のレア物。
現在出回っている第二・第三版には載ってない、“レンズ世界選手権”とか“おしゃレンズ講座”とか、
実にくだらないレンズの使用法が載ってて個人的にはすごく好き」
「…全く、理解できんな」
———デスティニーの時代に『レンズ科学読本』があったかは謎です;;
**様あとがき**
タイトルは本文にもある通り『ご奉仕〜
さん波乱の1日〜』です。
ただ単に“
にメイド服を着せたい”という思いのもと書き始めた、趣味丸出しの作品ですが大丈夫でしょうか;;
ホントに突っ込みどころ満載…だと思われます。
シャルがいない時点でちょっともうかなり致命的ですね(爆
それでも私なりの、“リオンと
の話”を書きたい!と思い、せいいっぱい書きました。
はリオンと同様、なかなか複雑な性格をしているのでどう書こうか少々悩みましたが、とても書いていて楽しいキャラですね。
一応ジャンルとしてはギャグなので、読んでもらう管理人様はじめ自由本舗の訪問者様たちに少しでも楽しんでいただけたら、と思います。
**管理人コメント**
この話を読んで短編「GOOD MORNING!」がひらめいたという曰く付きの(え)作品です。
メイド話は管理人は書かないだろう部類ですが、読み手として純粋に楽しめました!
こういう作品を頂くと、企画やって良かったなぁと思います(満腹満腹)。
ヒロインの性格もですが、リオンの性格もとてもよく掴れているなぁと感じました。
「掃除をする為だけに此処へ来られるのが嫌」というのがとても彼らしく思います。
自分の作品の二次創作であるにもかかわらず、とても新鮮です。
