彼と彼女の絆
冷たい。この時代に来てから大分寒さに慣れてきたと思うが、雪に埋もれてしまったら流石に寒いよりむしろ冷たい。そして、右足だけが熱を持っている。
(捻ったかな?)
はゆっくりと体を起こし、服や髪についた雪を払う。そして、周囲を見てみる。赤や銀、ピンクや黒と、仲間は結構白の中では目立つものだ。
しかし、自分の視界内には白しか見えない。ということは。
「はぐれた」
自身の声が、吹雪の中でもやけに響いた。
カイル一行はバルバトスに攫われたアトワイト救出の為、スパイラルマウンテンを目指していた。
なのに、なぜは今一人なのかというと。
原因はやっぱりカイルだった。周囲の寒さに耐えられず、
「バーンストライク!!」
火炎系晶術を仲間に相談せずに放ってしまったのだ。本来なら、冷気によって効果はほぼなかっただろうが、カイルは雪が積もり固まった足場の悪い積雪部分にいた。
結果、熱によって小規模な雪崩が起こってしまった。崩れる足場を彼らは安全地帯へ向かって走って走って。は足を取られてしまった。
「っ!」
は前を歩いていたジューダスのマントを思いっきり掴んだ。ガシっという確かな感触。ジューダスも振り返り、手を伸ばそうとしたが。
ビリッという布の裂ける音。
『あ』
マントが破れた。所詮マントに人を支える力などない。こうして、は崖の下へと落ちていった。
右足の熱はだんだんと痛みにかわっていった。
(まずいな。雪でも当てて冷やしてみようか)
しかし、止めた。凍傷になる、という意思が聞こえたからだ。
とりあえず、前方に洞窟があったので、そこに入ってみるとそこは奥が深く、ほんのりと薄明かりが灯っていた。
まさか此処がスパイラルマウンテンでは、という予感が走った。まあ、そうだとしたら、目的地なので皆も見つけやすいとは思う。が、彼らがを見つけずに先に来るとは思えない。
まあ、落ちた地点の目と鼻の先にあるので大丈夫、だろう。
「でも、やっぱり寒いな」
そう言ってジューダスのマントを裂き、火をつけた。
一方その頃ジューダスは、
「まったく、どうしてお前はこうトラブルばかり・・・」
「ごめんって」
カイルを叱っている真っ最中だった。
「こんなことになるなんて全然思わなくて」
「故意にやったやってないの問題ではない。現に、お前の考えなしの行動で、戦力が分断されてしまった」
そう、今ジューダス達はだけではなく他の面々とも逸れてしまっているのだ。のように落ちたのではなく、別々の方向に逃げて逸れただけだが、慣れない環境で、しかも二人だけで戦うのはかなりまずい。
「とにかく、雪崩が起きた場所に戻るぞ。奴らもその周辺にいるだろうからな」
「うん。・・・ジューダス、本当にごめんね」
「・・・・・・」
カイルはしゅんとなって、それでもきちんと謝罪した。ジューダスは反省の見える顔に、軽く微笑む。おそらくこいつの父親や母親には見せない種類の、には良く見せる微笑。
「その台詞は、一番の被害者であるに言え」
「うん」
二人は、ゆっくりと歩き出した。
そして、カイル達は、まあ皆違う方向に逃げていただけなので、最初に雪崩が起きたポイントで全員無事、合流した。
「で、は?」
以外は。
「・・・考えたくないけど、雪崩に巻き込まれて、雪の下敷きになってるんじゃ」
「いや、多分それは無い」
ナナリーの考えを、ジューダスは否定した。
「は雪崩で崩れていく最中に落ちていった。しかもあいつの落ちた所は雪崩の中心部より離れていたから、奴の上に雪が落ちても大した量じゃない。何よりこれは、表層雪崩に近いからな」
「表層雪崩?」
ロニがカイルに説明を始めた。
「雪崩には、地面に近い積雪が溶けたり凍ったりして起きる全層雪崩と、重さとかが増加して上の面だけが落ちる表層雪崩の二種類があるんだ。多分今回のはカイルのバーンストライクで上の層の雪と雪のつながりが無くなったりして起きたものだから、全層雪崩よりは雪の量は少ないんだよ。それに、これは範囲も狭いしな」
「へえ、ロニ詳しいね」
「旅するんだから、自然現象くらいはある程度把握しておかないとな。それと、雪崩は大きな声を出すと起きるものじゃないんだとよ。あれはデマらしい」
「何それ?」
「いや、映画でよくある話だが、実は違うってこと」
「映画?」
ロニが言ってることの意味がわからず、カイルが聞いていると、咳払いをしてジューダスが言った。その顔には緊張が見て取れる。
「だが、表層雪崩は全層雪崩と違って、地肌が見えないから、どこまで崩れたか分かりにくい。それに、層が残っていて再発もありうる」
その意味を悟ったリアラとナナリー、ロニがすぐさま顔色を変えた。大してカイルは頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「どういうこと?」
「・・・がここに戻ってこないってことは、多分何か戻れないわけがあるんだと思う。怪我をしたとか、気絶してるとか。だから、私達が早く行かなきゃいけないけど、どこからどこまでが雪崩の起きた場所かわからないと、見つけるのはとても難しいのよ」
「ああ。見当違いのところを探すことになりかねない。雪崩の地点から歩いていけば、再び雪崩が起きる危険もある」
「え!?じゃあどうやって探すの?」
「吹雪で跡がこれ以上わからなくなる前に、注意しながら下におりていくしかないな」
それは、彼女の発見に時間がかかるということ。そして、彼女が此処に戻れない理由が、もし時間が経つ毎に酷くなるものだとしたら・・・。
ことの重大さがようやく分かったのか、カイルは青い顔で頷いた。
は途方にくれていた。外は吹雪が酷くなる一方だ。
火炎系晶術が使えても、ジューダスのマントくらいしか燃やせるものが無いこの状況は非常にまずい。念の為マントは裂いてから燃やしているが、いつまでもつかわからない。
そして、何よりの問題は食料だ。アイテム袋はロニがもっている為、自分の手元には食料なんて物は無い。グミがいくつかあるが、それは本当に切羽詰った時まで取っといた方がいいだろう。
とにかく、早くジューダス達と合流しなければ本当に凍死してしまう。
なのに、右足の痛みは酷くなるばかりだ。
(ジューダス・・・)
は両手で持っているものをぎゅっと握った。
柔らかい布と、硬い感触がそこにはあった。
誰かに呼ばれた気がして、ジューダスは振り返った。
「ー!居たら返事しろー!!」
他の仲間は先ほどまで、彼がしていたようにはぐれた彼女を探している。声を出しても良いと分かっているので、皆声を張り上げている。
「ジューダス、どうしたんだい?」
ナナリーが突然動きを止めたジューダスの様子を不思議に思い、声をかけた。今彼はマントが無く、表にはある青い炎のような模様の無い黒で包まれた背中は、雪の中でもはっきり見ることが出来る。
「声が」
「声?」
ジューダスはどこか遠くを見るような眼をしていた。おそらく、声の出所を探しているんだろう。ナナリーも耳を澄ましてみる。しかし、彼女には風の音とを呼ぶ仲間の声以外聞こえてこない。と、
ジューダスが走り出した。仲間が後ろから彼の名を呼ぶ。
「ジューダス!?」
「こっちだ!」
「は?」
「はこっちだ!」
「ホント!?」
最初にジューダスに続いたのはカイルだった。続いてリアラ。ナナリーとロニも、ジューダスがのいる場所が分かったのか分からなかったが、二人に続いて走り出す。
先程から探索していたので、雪が固まった部分を避けるのは嫌でも慣れてしまったロニは、すぐにジューダスに追いついた。
ジューダスはもはや雪崩の跡を見ずに、前だけを向いている。そして、問い掛けるカイルやリアラに構わず走り続ける。その背に向かいロニも叫んだ。
「こっちだって。何だってそんなことがわかるんだよ!?」
「いいから付いて来い!!」
そう言ったジューダスは、積雪部分は避けながら、まっすぐ達のいる方へと走りつづけた。まるで、導かれるかのように。
しばらくすると、何かを引き摺った跡があった。それは、前方の洞窟まで続いていた。
「!!」
ジューダスはまっすぐその洞窟へ入っていった。そこには、
「・・・ジューダス」
僅かな火に当たって暖を取るがいた。彼女はまるで彼が来る事が分かっていたように、いつも通りだった。ジューダスは、先程までの勢いが急激に消えてしまうのが分かった。
「ーーー!!」
そんなジューダスの横をすり抜け、カイルとリアラはに飛びついた。
「痛っ!!カイル、リアラ痛いって」
「無事で良かったー!!ごめんね、オレのせいで」
「いや、足捻ってるけどね」
「え!?見せて、」
すぐにリアラがヒールの詠唱を始めた。ロニとナナリーは本当にがいたので(いないと困るのだが)、驚いていた。
「ホントにいたよ」
「だな。ジューダス、どうしてがここにいるって分かったんだ?」
しかし、ロニの声が聞こえないのか、ジューダスはどこか疲れた顔でぶつぶつ呟くだけだった。
「あんな声だったから、よっぽど危険なのかと思っただろう」
唯一まともにロニが聞こえたのはそれくらいだった。
「ごめん。ありがとう」
は、同じくらい小さな声でそう言った。
自分達には分からないが、ジューダスとの中では何かが通じているようだった。よく分からないが、ロニはそう思った。
おまけ
「シャル、もっと声出して」
『ぼっちゃ〜〜ん!ここです!僕らは此処にいます!!ぼっちゃ〜ん!!』
「もっと!」
『僕だけじゃなくても一緒に』
「いや、人間の声帯じゃそんな大声(?)だせないよ」
『うう、感覚ないのが辛いって久しぶりに思うよ!ぼっちゃあああん!!』
「こっちだ!」
「こっちだって。何だってそんなことがわかるんだよ」
「いいから付いて来い!!」
「(シャルが)あんな(大)声だったから、よっぽど(が)危険なのかと思っただろう」
「(シャル)ごめん。ありがとう」
『うん。とりあえず坊ちゃんにも一緒に謝ってね』
二人の絆はシャルティエ。
あとがき
こんにちは。最近暑いですね。季節を考えてないですが、遭難話はやっぱり雪山でしょう。
ジューダスとのラブを書きたかったんですが、不発でした。でも、これはこれでシャルととジューダスを第三者から見るとどんな感じかという話になってよかったとは思います。
カイル、ハロルドは素質があるっぽいですけど、他の皆はどうなんでしょう。多分ロ二には素質が無いと思うんですけどね。小屋イベントの様子だと。
では、読んで頂きありがとうございます。