-夜に咲く花-
「でね、あの花の花びらは実は1枚1枚が花なんだって。タンポポも菊もそう」
「…だから種子があぁいう形でできるわけか」
それは初めて知る事実だった。
昨日見た貧乏草ことヒメジオンについて
は調べてみたらしい。
彼女によれば、菊もタンポポも一見花びらの多い花のようだが、あの一枚一枚が舌状花と呼ばれる花そのものでありそれぞれに種子ができる。
大きく形態を分類すると頭状花序という種類にあたるらしい。
「ヒメジョオンとハルジオンはよく似てるけどハルジオンは茎が空洞でつぼみが下向き。更にヒメシオンっていう別の花もあって、でもそっちよりヒメジョオンの方と姿かたちが類似しているから混乱してハルジオンがハルジョオンって呼ばれることもあるらしい」
…それこそ混乱しそうな話だ。
そんなことをまじめに聞かされた日には冒頭部分でカイルたちなど脱落しそうな話題になってきたところで
は当の問題に話を修正した。
「で、結局貧乏草の由来はわからなかった」
「お前が知りたかったのはそこか」
何ゆえ貧乏なのか。
そもそも、貧乏などと不名誉な名前を、とりたてて毒にも薬にもならない野に咲く花につけるメリットが誰かしらにあるというのか。
むしろ忌み嫌われてつけられたような名前ではある。
そういうものに限って子供がたまたまおもいついた遊びから俗称ができてしまったりするのかもしれないが。
そう考えると確かに謎のネーミングではある。
「つぼみが垂れてて貧相だからかなぁ…でもヒメジョオンも貧乏草って言われるらしいし…貧乏長屋の屋根にも生えてそうなイメージだから?」
…貧乏長屋?
ジューダスには聞きなれない言葉である。
の脳内では、純和風の時代劇に出てきそうな長屋がイメージされていることはいうまでもない。
「まぁ、確かに貧乏な方が根が強い感じはするがな。雑草とはよく比喩されるかもしれん」
「ハングリー精神っていうと前向きだよね」
「ところで僕らはなぜこんなくだらないことを話しているんだ」
「いいじゃない、どうせ後は寝るだけなんだから」
明々とした野営の焚き火が後方で時折はぜる音を夜闇に響かせている。
もうすぐ月が出るのか暗くはないが明るくもない。
星もひそやかな夜。
は街道にしゃがみこむようにしてハルジオンを見上げていた。
ジューダスはその傍らで自分より丈の低いそれを見下ろしている。
『どっちにしても不名誉な名前ですよねぇ』
じゃあゴージャスな名前をつけてあげたらどうだろうか。
それこそ下らない話題には敢えて触れずに
も立ち上がった。
残念ながらどこをどう頑張っても前向きにとらえられそうもない名前だ。
「…背が高いせいか葉っぱと花の大きさとか、白と黄色の部分のバランスも悪いかも。ハルジオン限定で言えばこの花の周りでことごとく俯いているつぼみも体裁が悪い」
確かにそういってしまうと半端にしおれているようで貧乏くさい。
名前の由来をつきつめようとする
の見解は、個人的趣向もあいまって容赦なかった。
無論、それで嫌いだとかそういうようにも見えないが。
「あぁ、でも最初はそういうつもりで見てたんじゃなかったんだ」
どうも彼女の中では貧乏草だという以前に何か思うところがあったらしかった。
は街道から逸れて腰より高いヒメジオンたちの合間に体を滑り込ませ、一歩草原の中へと進んだ。
「ジューダス、ちょっと散歩してから戻ろう」
「…」
『ほら、お誘いですよ。行きましょうよ♪』
シャルティエの声に押されるようにしてジューダスも闇色のマントを揺らして一歩分け入る。
花はかすめるがまばらな草原なので汚れると言うほどこみあってもいないし、止める理由も特になかった。
「ほら、貧乏草だろうが何だろうが、夜になるときれいだよね」
青い闇の中で、浮くように咲く花。
昼間は目を惹く赤い鮮明な花も乱れる濃い緑も闇の中ではひそやかだ。
代わりに、何の存在感すらもない風景の一部であった小さな花々が今は静かに夜の闇をかざっていた。
群生すればそれは見事なものだ。
「…余計なものが見えないからだろ」
『全く、素直じゃないですねぇ』
「素直な感想だ」
こんな時、なぜかシャルティエは漏れなく
に味方をする。
もっとも仲間たちの元へ戻れば黙るほかはないので喜ぶのも当然かもしれないが。
呆れたようにもらしたジューダスは、黒衣を闇に紛らせながら、先を歩く
の背中を見やった。
彼女の白い服もまた夜闇の中で、あまりにも目立つ。
ジューダスは冷たくなってきた夜の風を頬に受けながら、足元すらおぼつかない草原の中を進んだ。
誇示せずとも、先を導くように揺れるその姿を追いながら。
あとがき**
闇の中で、白は目立ちます。
一見ぱっとしない薄青の花もきれいです。
よく考えると、この二人は白黒コンビですね(笑)
