空が在るならば、もっと美しい光景を君と見られただろうに
街は秋色に染まっていた。
光の中、細い雨が降って鮮やかに濡れた葉の色はそれは見事だった。
-秋色-
冬が近づいている。
それが、本来の時間軸を捻じ曲げるように加速度を増してしまった。
外殻が閉ざされる、その前に…
クラウディスにてバルックと戦い、残るはヒューゴのみ。
それですべて終わるだろう戦いを目前にスタンたちは一度、ラディスロウへと戻っていた。
ラディスロウへ戻ると言うことはつまり…
無重力エレベータでダリルシェイドへも降りられるということだ。
どうせ休むなら安全な場所でふかふかのベッドで休みたい。
…ということで、街に降りて来ていたりする。
「リオン、ちょっと来て!」
がなぜか浮かれた声で彼を呼んだ。
「なんだ」
いいからいいから、という声にかまけて着いていくといつのまにやら外に出る羽目になる。
「…いつか言ってた並木道って、どこ」
突拍子もなく訊かれた。
「いつかとはいつの話だ」
そんな話はしたことがない。
聞き返しながらも記憶を探る。
大体、ダリルシェイドのことなど一度も───…
「落ち葉がきれいだって言って、シャルに「いつもロクに見てないくせに」って言われてた」
「……………………お前、妙なところで記憶力がいいな」
人の名前や顔は覚えようとしないくせに、本人すら忘れているようなさりげない一言を覚えていたりする
。
リオンはそれが、ジューダスであった頃の話であることを思い出した。
改変された現代…あれはスペランツァを出た辺りだったか。
『僕、そんなこといいました?』
「言った」
『???』
何も思い出していないシャルティエに、知っていながらきっぱりと答えたのでシャルティエは軽く混乱しているようだ。
リオンは小さくため息をついて通りへと出た。
「そこの角を右に曲がって港方面へ出てみろ。大きい通りだからすぐわかる」
「行かないの?一見の価値ありって自分で言ったくせに」
さりげなくプライドを抵触する口調で言われ、リオンはあっさりと陥落する。
どうせ今日はもう休むだけなのだから、問答するだけ無駄な労力だ。
先に立って歩き出した。
太陽光がさえぎられ、本来はまだ少し遠いはずの冬は駆け足で近づいている。
うかうかするとばっさり落ちてあっというまに紅葉は終わるだろう。
…美しいものは儚いものだ。
などと情緒的なことをリオンが思ったかどうかはともかくとして二人は散歩というには速い速度で並木道へとたどり着いた。
イチョウの並木。
黄色く染まった木々の波。
「うわぁ、これはきれいだねぇ」
「枯れているだけだと思うと情緒も失せるがな」
『また、そういうことを…』
ふん、と言い切ったマスターをシャルティエが諌めている。
「自分が綺麗だって言ったのに」
「わかったからもう言うな」
その一言でリオンは態度を素直に改めることにした。
並木道に入ると風に揺られてはらり、と黄色い葉が落ちてくる。
木々にはまだ緑の色も見受けられ散るには早いようだが、今年に限っては特別なのだろう。
風はいつになく冷たかった。
「何か…枯れてても舞い散る葉ってきれいだよね」
「お前は動きのあるものが好きなんだな」
なんとなく言ってみたところ、ビンゴだったらしい。
桜にせよ紅葉にせよ、そういう楽しみ方は気づいた人間だけの特権だ。なんとなく情景のひとつでしかない人間の目には、なんとなくしか美しいとは思えない。
そうでない人間といると、自然と疎さも変化していくような感覚に、時折陥る。
「そうだね、桜も咲き誇っているときより散っているときのほうが好きかも。……………揺らして落としたいくらいに」
冗談なのか本気なのか、時々わからなくなる瞬間だ。
風が吹いて、また、はらりと木々は葉を落とした。
「この時期は、雨も時雨てきれいだよね」
「そうか?」
『駄目駄目、坊ちゃんはそんなふうに見てないから』
「じゃあ今度は見てみなよ。ダリルシェイドはどうか知らないけど…虹が出やすい季節でもある」
「いずれ、光が射さなければ見られないだろ」
別に深い意味があったわけではない。
は空を見上げた。
外殻が落とす影は、もうたゆたう水面などではなく空気穴のあけられた蓋のように空に覆いかぶさっている。
それでもまだ光は気まぐれのように時折差し込んだ。
すると、黄色くなった葉は、いっそう鮮やかな彩りを見せるのだった。
「それなら、外殻がなくなったらまた来よう」
「……………その頃には並木自体がなくなっている可能性も大きいが」
現実主義万歳。
大気に淡い、秋の光を振り仰ぎながら情緒のないことを言っても
もそういう人間だからしてここで頬を膨らませるようなこともない。
けれど笑い飛ばすほど、情緒を放棄するでもなかった。
「今日のリオンはちょっといじわるだ」
『…いつもと変わらない気もするけど…?』
「どういう意味だ。僕がいつも意地が悪いとでも?」
「『………………?』」
心外とばかりに言ってみたところでやぶへびだった。
考え込んでしまった二人に、リオンの一喝が飛んだのは言うまでもない。
確かに…
ジューダスであったなら、言っただろう。
「そうだな」と。
言えないのはただの気まぐれ。
それだけのことだった。
…それでも今は、すこしだけこの時を楽しもう。
明日には散ってしまうだろうものたちを惜しみながらも───
意地悪と言うより素直じゃない(笑)
紅葉がとてもきれいです。
毎日、少しずつ葉を落とす木々をみています。
…針葉樹林がまばらなのはなんとかならないのか。
やっぱり綺麗なのはもみじとイチョウですかねぇ
