食に対する興味はそんなものかと思ってしまったことはさておいておく。
<シャル日記>-ユキノシタ-
日ごろ、これといって偏食は見られない
。
かといって坊ちゃんの好き嫌いを馬鹿にするようなこともないが、
坊ちゃんとしてはなんとなく自分の側にだけ弱みがあるようで面白くないわけで。
そんなある日、とある料理を口に運んだ
の表情がいつもと違うことに
たまたまその現場を目撃していた坊ちゃんは気が付いた。
彼女の表情を変えたのは、料理そのものというよりそこに添えられていた些少の何かだった。
「…ロニ、これ…」
今日に限って彼女はその何かが何だかわからないまま口に運んでしまったらしい。
無防備にもほどがある。
今はまだ食事の時間ではない。旅の途中での早めの休憩。
みんな好き勝手にそこここでくつろぐ中、どうやら
はロニの作った試食のご相伴に預かっていたらしい。
「それか? それはふきのとうの味噌炒めだ!」
製作者であるロニ=デュナミスは笑顔満面で答えた。
「ふきのとう?」
何事かととおりすがった坊ちゃんの口から復唱される。
それに答えたのは
だった。
「地下茎フキ属の多年草。春になると寒冷地では雪の下から出てくるからそのまま『ユキノシタ』と呼ばれることもある」
「要は雑草だろうが」
せめて野草といってください、坊ちゃん。
「大人の味覚だぞ」
確かに酒のつまみにいいかもしれない。
色といい見た目といい作り手といい、自分の口にもつまんで運ぶロニの姿にわけもなく納得できた。
「食ってみるか?」と薦められて坊ちゃんも怪訝な顔ながらチャレンジしてみることに。
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本当に少しだけ口に入れたその数瞬後、坊ちゃんの眉が小難しそうにしかめられるのを僕は見た。
は額を軽く押さえるようにしてふらふらと小川の方に歩みを寄せる。
多分、口に入れた量は坊ちゃんより多かったのだろうが、そんなに気持ちが悪かったのか。
「なんだ!お前らお子様だな」
「…食べたことがないわけじゃないけど、…この苦さは苦手かも」
「…」
「このほろ苦さがいいんだろうが~♪」
なんとなく親父くささを漂わせた発言でロニ。
は川べりの岩に腰をかけるとひんやりした川風を浴びてはぁ、と息をついた。
「マイナーな料理だな」
とこれは坊ちゃんの感想。
美味いともまずいとも言わないあたりうまく逃げている。
たぶん、口には合わなかっただろう。二口目は断っていた。
「珍しいんだぞ?季節ものだし、サバイバルにももってこい」
…サバイバルというより珍品料理といった感じだけど。
「まぁ…春の味覚だよね」
「春だろうが夏だろうが必要性を感じない」
「でも人間の身体はこういう春のものを食べると活動に向けて目覚めるんだって聞いたことがある。…薬効はありそうだ」
「年がら年中世界を旅している人間が今更、季節に合わせろというのは難しい話だぞ」
坊ちゃん、よほどまずかったんですか?
もう二度と食わんといわんばかりに聞こえます。
「そうそう、それに大人になったらおいしく感じるんだぞ?」
「「嘘つくな」」
ロニは平然とふきのとうの味噌炒めとやらを食べている。
なんとなくそういうこともあるんだろうと思っても、とっさにハモって反論してみる二人だった。
よしんばそれが真実だとしても、きっとそれがおいしいと感じられるのはあと40年後くらいに違いない。
天地戦争時代を生きた僕らにとっては春の味覚なんて想像だにできないものであったけれど。
もうすぐ、春だね。
Fin.
あとがき**
今日の私の弁当に混入してました。
いつも昼食は何かしらしながら食べているので口に入るまでそれがなんだか理解してないことも稀にあり。
気持ちの斬新さを忘れないために昼休みにそのまま作った作品です(笑)
ただ苦いとかではなくてですね…口にした数瞬後に「う…」と思う大自然織り成す不思議複雑な味です。
味噌味の料理は味噌汁とさば味噌以外はあまり好きではありません。
ちなみに、ヒロインは嫌いなものが無いのではなく単に刹那的なので好き嫌いも顕著にならないだけだと思います(笑)
