冬が終わり、春になる頃にそれが何であったのかを思い出した。
-追悼-
あれは自分も一緒にいたときだ。
街中を歩いていると、一人の少女がやってきて真面目な顔で
シン
に言った。
「あなたの生き方を見て、手術する決心がつきました」
唐突だった。
名も知らぬ少女だ。
言ってから一転。頬を崩して笑ったのが印象的だった。
それから少しだけ話をして、病を患っているのだと知る。
もう少し話をして、いつもヒューゴ邸の前を通っていたことを知る。
密やかに…彼女はこの街を復興させていく自分たちの姿を見ていた。
それだけだ。
結局、名前すらも知らないまま、少女は病人とは思えない足取りで軽やかに去っていった。
一輪の花を礼にと残して。
そして、その数ヵ月後に少女は再び現れた。
そのとき見せた顔はごくどこにでもいる、けれど心からの笑顔で…
それだけで結果がどうだったのかは知れた。
そして少女はまた来ると言い残して去っていった。
やはり名も知れぬまま。
そして…ようやく暖かくなってきた頃。
舞い込んだ遠い訃報はシン
を悩ませるには十分だった。
「お前がそんな顔をする必要はあるのか?」
特にいつもと違っていたわけではない。
彼女の表情は、…特に負の表情は見た目よりも雰囲気に現れる。
それは知る人にしかわからない。
「手術…しなければ生きられたのかな」
それは違うとわかっていても思わずにはいられない可能性。
「しなければ一生、病から逃げているだけだったろうな」
そう、少女は始めて自分たちの前に現れたそのとき、確かに「もう逃げない」と言った。
だから笑顔だったのだ。
きっとその選択をすることのできた自分が誇らしかったのだろう。
知らない人間にいきなり声をかける勇気も、いっしょにあの時あったのだ。
それは文字通り、人生を切り開く選択。
「そう、なんだよね。わかってはいるんだけど」
「わかっているなら何を悩む?」
あの少女こそ、どれほど悩んだことだろう。
けれどそれを乗り越える悦びを、彼女は知ったはずだった。
「長く生きることだけがいいとは限らない。それは僕らが一番良く知ってるはずだ」
「うん」
返事は強くはないが、確かだった。
部屋によどんだ空気を入れ替えるためにリオンは窓を開けた。
春の日差しと一緒にどこかあたたかな風が入ってくる。、
秋に咲いたあの花は
また春を迎えて、咲こうとしていた。
あとがき**
あまり語ることはありません。
そこにいたことを私は覚えていますので、何も心配しないでください。
この言葉がわかる方にこの話をささげます。