繊細な変化、繊細な感受
リオンが仕事でノイシュタットヘ出向する、その前日。
「今だと気候はどんな感じかな」
「初冬だな。先方の手紙に落ち葉の散るころだと書いてあった」
「桜の紅葉かぁ」
ノイシュタットヘ行くといってものんきなものだ。
出発前日でもリオンの様子はいつもと変わらない。
「リオン、お土産に葉っぱ拾ってきて」
「……………なぜ僕が」
というか、なぜ葉っぱ。
リオンの顔にはありありと疑問と嫌さ加減が浮かんでいる。
「向こうにも派遣スタッフいるでしょ? 誰かにやらせれば」
リオン自身の手による収集でなくても良いらしい。
「ついでに何かおいしそうなお菓子があったら」
「菓子がついでか」
明らかに思いつきのもっともらしい要望を追加されてみて、あきれた。
「大体、出向といっても一泊で帰ってくるんだぞ。出向というより、出張だ」
さすが、イクシフォスラーの現存する数少ない乗り手である。
イクシフォスラーは神の眼の騒乱後、ダリルシェイドの復興組織の管理下にありつつ、割と重宝していた。
飛行竜のように積荷を運ぶには向かないが、要人が移動するには、十分すぎるくらいの機能性である。
そして日ごろ、何かと忙しいリオンであるから優先使用権は彼にあるのも当然で。
「だから新鮮な葉っぱを運送してくれるものと信じてる」
「ちょっと待て、僕は一体何屋なんだ」
「あくまで、お土産」
日ごろ、物欲に乏しい反動か、ほしいと思ったら、入念な下調べを経たとしても割とすぐに手にしているタイプであるので、譲る気配はない様子。
「……………わかった。適当でいいんだな」
「うん、適当で」
このままでは「じゃあ一緒に行く」といいかねないので、リオンは折れた。訳がわからないまま。
三日後。
夕方にはリオンは帰ってきていた。
窓の外に、振動と着陸音を感じて は外に出る。
「おかえりなさい」
声をかけた先はリオンと、彼と一緒に戻ってきたスタッフの2人。
「………………………ひょっとして、それ、頼んでたやつかな」
「あぁ、頼まれていたやつだ」
2人がかりで運び出される大きな木箱を見て、 はぱちくりとする。
決して重そうではないが、箱の大きさから見るに、量がすごい。
「お前が欲しいといったのだろう?」
フッとリオンは瞳を細めて笑う。
どうやら、ささやかながら意地悪をされているらしい。
「どこに置きますか?」
「向こうの入り口にお願いします」
重さは自分でも持てそうかなーという感じだったが、明らかに大の大人の男性が2人で運んでいるので、チャレンジするのはやめた。
明日は休日だ。
リオンはそのまま休みに突入するらしく、自室へ続く廊下にあるその通用口まで一緒に来る。
箱を置くと2人のスタッフは通用口から中へ入り、部屋とは反対の正面玄関の方へ戻っていった。
「…………開けていい?」
「あぁ」
木箱のふたは簡素な金具で止められている。
金具をいくつかはずすとふたは簡単に開いた。
中には紅く色づいた桜の葉っぱ。
刹那的に大型のクッションが2つできるくらい詰まっている。
「…………………ん、いいにおい」
「におい…?」
はがさりと箱のそこからひとつかみ桜の葉を取り上げるようにかき混ぜると、そういって大きく息をする。
「そうだよ。桜のにおい。落ち葉からもするんだよ。知らなかった?」
そうして、 ががさがさと香りを確認しつつ、選りすぐったらしい枯葉を両手に取り上げたので、リオンも腰を屈めてそれを嗅いだ。
ほんの微かだが甘い、品のある香りだ。
「桜のお茶とか桜餅はにおいするけどね、ふつうの桜はあんまり香らないんだ。匂い桜って呼ばれる桜もあることはあるんだけど、大体街にあるのは香りが微小なタイプだから」
確かに、桜が匂っているなどと聞いたことがない。言われればお茶や茶菓子はあるのにだ。
「特に雨上がりは少し香るみたいだけど…陽をたくさん浴びて色づいた落ち葉がいっぱい集まって、かつ落ちたてで雨で湿っているとか割と条件厳しいのかなと思う」
「まぁ沿道はすぐに片付けられるからな。…で、それをどうするんだ」
「…………………………。どうしよう」
土産に欲しかったのは、香りだったらしい。
だが、すぐに使い道を思いついたのか、 はそれを少しはなれた場所に引きずっていて、ぶちまけた。
「……焼き芋でもしてみようか」
「またそんなことを……」
「そんなことって何。これだけ葉っぱ集めるのめちゃくちゃ大変だよ。私、落ち葉で焼き芋ってさりげに自分でやったことない。貴重な体験だ」
確かにヒューゴ邸で焼き芋など、シュールの極地である。
むろん、リオンも未体験ゾーンではある。
「バケツと火種を用意しよう」
肝心のイモはどうするのか。
今日の陽は、あと一時間もすれば落ちるであろう。
リオンはそれまでの間、暇つぶしに傍観することにした。
結局、イモは食堂から調達したものの…
「…燻っ!! これひょっとして…人眼的にまずい?」
「火事だと思われるだろう! 早く消せ!!」
点火1分ちょっとで消火。
煙がすさまじかった。
これは田舎でないと、ある意味、通報されるな……………
新たな教訓も得た、晩秋の夕暮れだった。
2015.11.12
何ゆえ、風流な話にオチがつくのか不明ですが、都内のアパートで焼き芋やろうと試みたことを最後の最後で思い出し。
最初はマリアンさんのマイブームに染物でも付加しようと思っていたはずなのに…
おイモは葉っぱが炭になってから、投入ですぞ(何)
冬の気配が近づいて。
けれど、日差しが心地よい、今日この頃。
- 桜葉-
リオンが仕事でノイシュタットヘ出向する、その前日。
「今だと気候はどんな感じかな」
「初冬だな。先方の手紙に落ち葉の散るころだと書いてあった」
「桜の紅葉かぁ」
ノイシュタットヘ行くといってものんきなものだ。
出発前日でもリオンの様子はいつもと変わらない。
「リオン、お土産に葉っぱ拾ってきて」
「……………なぜ僕が」
というか、なぜ葉っぱ。
リオンの顔にはありありと疑問と嫌さ加減が浮かんでいる。
「向こうにも派遣スタッフいるでしょ? 誰かにやらせれば」
リオン自身の手による収集でなくても良いらしい。
「ついでに何かおいしそうなお菓子があったら」
「菓子がついでか」
明らかに思いつきのもっともらしい要望を追加されてみて、あきれた。
「大体、出向といっても一泊で帰ってくるんだぞ。出向というより、出張だ」
さすが、イクシフォスラーの現存する数少ない乗り手である。
イクシフォスラーは神の眼の騒乱後、ダリルシェイドの復興組織の管理下にありつつ、割と重宝していた。
飛行竜のように積荷を運ぶには向かないが、要人が移動するには、十分すぎるくらいの機能性である。
そして日ごろ、何かと忙しいリオンであるから優先使用権は彼にあるのも当然で。
「だから新鮮な葉っぱを運送してくれるものと信じてる」
「ちょっと待て、僕は一体何屋なんだ」
「あくまで、お土産」
日ごろ、物欲に乏しい反動か、ほしいと思ったら、入念な下調べを経たとしても割とすぐに手にしているタイプであるので、譲る気配はない様子。
「……………わかった。適当でいいんだな」
「うん、適当で」
このままでは「じゃあ一緒に行く」といいかねないので、リオンは折れた。訳がわからないまま。
三日後。
夕方にはリオンは帰ってきていた。
窓の外に、振動と着陸音を感じて は外に出る。
「おかえりなさい」
声をかけた先はリオンと、彼と一緒に戻ってきたスタッフの2人。
「………………………ひょっとして、それ、頼んでたやつかな」
「あぁ、頼まれていたやつだ」
2人がかりで運び出される大きな木箱を見て、 はぱちくりとする。
決して重そうではないが、箱の大きさから見るに、量がすごい。
「お前が欲しいといったのだろう?」
フッとリオンは瞳を細めて笑う。
どうやら、ささやかながら意地悪をされているらしい。
「どこに置きますか?」
「向こうの入り口にお願いします」
重さは自分でも持てそうかなーという感じだったが、明らかに大の大人の男性が2人で運んでいるので、チャレンジするのはやめた。
明日は休日だ。
リオンはそのまま休みに突入するらしく、自室へ続く廊下にあるその通用口まで一緒に来る。
箱を置くと2人のスタッフは通用口から中へ入り、部屋とは反対の正面玄関の方へ戻っていった。
「…………開けていい?」
「あぁ」
木箱のふたは簡素な金具で止められている。
金具をいくつかはずすとふたは簡単に開いた。
中には紅く色づいた桜の葉っぱ。
刹那的に大型のクッションが2つできるくらい詰まっている。
「…………………ん、いいにおい」
「におい…?」
はがさりと箱のそこからひとつかみ桜の葉を取り上げるようにかき混ぜると、そういって大きく息をする。
「そうだよ。桜のにおい。落ち葉からもするんだよ。知らなかった?」
そうして、 ががさがさと香りを確認しつつ、選りすぐったらしい枯葉を両手に取り上げたので、リオンも腰を屈めてそれを嗅いだ。
ほんの微かだが甘い、品のある香りだ。
「桜のお茶とか桜餅はにおいするけどね、ふつうの桜はあんまり香らないんだ。匂い桜って呼ばれる桜もあることはあるんだけど、大体街にあるのは香りが微小なタイプだから」
確かに、桜が匂っているなどと聞いたことがない。言われればお茶や茶菓子はあるのにだ。
「特に雨上がりは少し香るみたいだけど…陽をたくさん浴びて色づいた落ち葉がいっぱい集まって、かつ落ちたてで雨で湿っているとか割と条件厳しいのかなと思う」
「まぁ沿道はすぐに片付けられるからな。…で、それをどうするんだ」
「…………………………。どうしよう」
土産に欲しかったのは、香りだったらしい。
だが、すぐに使い道を思いついたのか、 はそれを少しはなれた場所に引きずっていて、ぶちまけた。
「……焼き芋でもしてみようか」
「またそんなことを……」
「そんなことって何。これだけ葉っぱ集めるのめちゃくちゃ大変だよ。私、落ち葉で焼き芋ってさりげに自分でやったことない。貴重な体験だ」
確かにヒューゴ邸で焼き芋など、シュールの極地である。
むろん、リオンも未体験ゾーンではある。
「バケツと火種を用意しよう」
肝心のイモはどうするのか。
今日の陽は、あと一時間もすれば落ちるであろう。
リオンはそれまでの間、暇つぶしに傍観することにした。
結局、イモは食堂から調達したものの…
「…燻っ!! これひょっとして…人眼的にまずい?」
「火事だと思われるだろう! 早く消せ!!」
点火1分ちょっとで消火。
煙がすさまじかった。
これは田舎でないと、ある意味、通報されるな……………
新たな教訓も得た、晩秋の夕暮れだった。
2015.11.12
何ゆえ、風流な話にオチがつくのか不明ですが、都内のアパートで焼き芋やろうと試みたことを最後の最後で思い出し。
最初はマリアンさんのマイブームに染物でも付加しようと思っていたはずなのに…
おイモは葉っぱが炭になってから、投入ですぞ(何)