12月も下旬。
カウントダウン 9
クレスタから手紙が届いたその日。
朝から酷く冷え込んでいて、 はベッドから出るのに苦労した。
空にはどんよりと雲が垂れ込んでいて、雪がふりそうな気配もする冬の朝。
幸いなことに、先にリビングにいたリオンが暖炉に火を入れていてくれたため、部屋は私室より寒くない。
それでも、予定のことを始めるには相当の時間を要した。
天気が違うだけで、ここまで行動力に差が出るものだろうかとリオンは暖炉の前から離れようとしない を、つい今しがたまで眺めやっていた。
今は、ルーティの手紙に目を通していたところだ。
「年末年始に遊びに来ないかと書いてあるぞ」
宛名は珍しくリオンになっていた。大体連名であったり、ルーティの場合は筆まめな 宛てであることが多い。
けれど今回も内容は、まぁ二人宛てだ。
「年末……?」
もう月は下旬なので、年末といえば年末に差し掛かっている。
行くのであれば年始にかけてということは泊まりで一、二泊といったところだろう。
ダリルシェイドの復興拠点も、復興の落ち着いた近年はその頃には大体休業だ。
しかし
「行かない」
珍しく の返答は、即答であるのに否定的だった。
素直にリオンはその感想を述べる。
「珍しいな。いつもはあいつらに会いに行くのにも積極的なのに」
「年末はいろいろやることがあるからね」
といいつつ は、ハンディモップを手にカップボード(食器棚)のガラスにかかった格子をなでている。
「やること?」
「見てわからない? 掃除です」
掃除は割とマメにしている方だと思うが。
毎日は手に届かないところもある、身辺をきれいにして新しい年を迎えろという意味もあるのかもしれない。
年末大掃除。
その慣習にリオンが気づいたのは、割と最近である。
具体的には、騒乱が終わって、このヒューゴ邸の管理が使用者本人たちの手に移った頃。
それにしても、さしせまって作業量に個人差があるのは常日頃きれいにしているかしていないかの差であると思う。
「掃除といっても、ガラス拭きくらいだろうが」
「そう、さすがにヒューゴ邸だけあって、家具は高級。しかもこの部屋は元長期滞在用の客間だけあって、グレードが割と高い。…このカップボードってウォールナットだっけ?」
オークが高級家具の代名詞であるが、それを超える高級素材であるようだ。
リオンにとっては割とどうでもよい。
「それがどうした」
「だから、日常手入れを怠ると大変なの。壁布も一年に一回拭けばいいとかいう素材じゃないし」
「だったらなおさら年末にまとめてやることはないんじゃないのか」
「気持ちの問題だね」
無垢材(木材)は基本、水拭きなどできないのでまめに乾拭きをしたり、時にはオイルで撫でることも必要だ。
この辺りは多分、マリアンの方が詳しいだろう。
その知識自体も 伝手にマリアンに教わったものだと聞いた。教わったというか、聞きに行ったのだろうが。
「気になるところもあるし、ガラスなんか特にそう。いつも思うんだけど、ここの格子状の掃除はメイドさんたちはどうしてたんだろうか」
ハンディモップでほこりを落とした後に、 はそれと対峙する。強敵らしい。
「インテリアとしてはきれいだけど、ほこりも溜まりやすいし、機能性には欠ける」
「大体、美しさを追求するとそういうことにならないか」
「あぁ、確かにね」
納得した模様。
スタートダッシュは遅かったものの、そうして、ルーティへの返事は保留にして は黙々と掃除を続ける。
それが窓ガラス、そして自分の部屋にまで広がったところで日が落ちた。
「…………大体、終わったんじゃないのか」
「うーん」
やるだけやって満足したのか、 の返事はどこかのんびりだ。
「服の整理もしたいなぁ……」
手持ちの服は女にしては少ない方だと思うが、一体どこまで片付けるつもりなのか。
ちなみに高いところは水拭きしようとしていたが、いつもモップでほこりを落としているため、予想外に汚れていないことに気づいた分、時間がかからなかった。
「クレスタに行くか?」
もう一度、聞いてみた。
「行かない」
しかし、相変わらず即答を受けて首をひねるリオン。
「たまにはみんなで年越しも魅力的なのはわかるから、リオンが行きたいなら止めないよ。でも私は年が明けてから遅れていく」
「?」
心底わからない。
「年末に行ったら、絶対大掃除の主戦力にカウントされる。あれだけ大きな孤児院の大掃除とか、年末の数日間でまともに終わる気がしない」
「そうか、僕も行かないから安心しろ」
自分宛てだけに手紙が来た理由がわかった。
うっかりのってしまう所だった。
年末年始くらいはゆっくり過ごしたいと思うリオンだった……
2015.12.23 筆
大掃除の季節です。寒すぎ、動けない。
新年まであと9日。