Never Ending Story
好きだった絵本
テーブルの上に見慣れない本が置いてあった。
『はてしない物語』
灰色をベースとした決して派手ではないケースに白い文字がそう書かれていて、赤い分厚い背表紙が覘いている。
なんとなく見やっていると自室から出てきた が声をかけてきた。
「それ、けっこうおもしろいよ。リオンも読んでみる?」
「なんの本だ? 小説か」
覘いている背表紙が事典と見まごうくらい分厚かったので、思わず聞いた。
はケースを手に取ると本を取り出す。
ケースは手書きの文様のようなものと、何かの生き物や木立のようなものが描かれているようだが、本の装丁はいたってシンプルだった。
だが、とても丁寧な作りだ。
赤い布地に、エンボス模様のようにタイトルが織り込まれていて、光の具合で浮かび上がって見える。
の手元を見ても重みを感じられる本で、それがますますあらゆる意味で何か重みのあるものにして見えた。
頑丈そうなハードカバーを開くと、緑と赤のインクを用いて描かれた鳥とユニコーンの模様がタイル状に並んでいる。
ぱらぱらと の手がページをめくる。
目次と、再びタイトルの文字を経由して物語の初めのページ…
いきなり、鏡文字で飾り枠に書かれた シンプルなロゴが目を引いた。
『 古本屋 カール・コンラート・コレアンダー』
物語はそこから始まるらしい。続きは、普通に文章として描かれている。
「……これね、児童書なんだよ」
「児童書?」
「子供が読む本」
その割には、ページ数が異様に多いし、ぱっと見、文字も細かいように思うが。
「それはわかる。なぜそんなものをわざわざ……買ってきたのか?」
「たまたま本屋で児童書の古本のコーナーがあって……眺めてたら、他のどうでもよさそうな本に隠れるようにして置いてあったから、逆に気になって」
そういわれれば、ケースは少し古ぼけて、背の部分は少しひしゃげている。
中の本はそれこそ頑丈にできているらしくまったくの無傷だ。
が閉じた本の表を、丁寧に撫でた。
「タイトルもそうなんだけど、なんだか他の本と全然違って見えてね」
そういう はとても楽しそうだ。
「宝物でもみつけたかのようだな」
「ある意味、ほこりかぶって隅に置かれてる本が面白かったら、お宝だと思うよ」
ルーティに聞かせてやりたい。
「この話はね、この本の主人公がこの本を古本屋でみつけるところから始まるんだ」
「この本とは、その本か?」
「そうだよ、ここの表紙のタイトルの周りに楕円模様があるでしょ? よく見るとこれ……」
二匹の蛇だ。互いに相手の尾を噛み、楕円につながっている。
リオンはそれを別の場所で見たことがあった。
「ウロボロスの環じゃないか?」
「よく知ってるね」
それは一匹の蛇であることもある。ともかく、それらは始まりも終わりも無い完全なものとしての象徴的意味が備わった、と時の書物で読んだことがある。
無論、児童書ではなかったが。
他にも、それらは永遠性だとか循環性だとか、様々な意味に捉えられることもある。
「これがね、そのまま物語の中でも出てくるの。おもしろいでしょ?」
「おもしろいかどうかは読んでみないとわからないが……」
もう中身を知っているかのような口ぶりだが、 はまだほとんど読んでないと言った。
言及はすまい。
「リオンは小さいころ、どんな本を読んでいたの」
「どんな本だと思うんだ」
「帝王学とか」
「わかっているなら、聞くな」
安穏とした物語や、絵本の類はほとんど目にした覚えがない。
気づけば読書は趣味の一端とはいえ、そういうものとは程遠いものばかり手に取っている気がする。
まぁ…今更だ。
が。
「児童書も大人になってから読むと新しい発見があるよ」
はそうは思っていないようだった。
「お前は児童書に限らず、図鑑だろうが童話だろうが読むタイプだろうが」
「童話は児童書じゃないかな、リオン……」
「……」
目の前の本が童話と同じ部類の本には見えないため、失念していたゆえの発言である。
「でも、児童書に限らず、一度読んだ本でもしばらく経ってから読むと違ったものが見えるし。……特に好きだった本はいろんな意味で読み返すと楽しい気分になれるよ」
「好きだった本、か…」
少し、考えてみる。
「そういわれると楽しいというものとは程遠い本ばかり読んでいた気がするな」
「わくわくするような」
「ない」
「うーん」
なぜ が悩むのか。逆ではないのかと思ったところで が出した結論は直球だった。
「じゃあこれ読んでみて」
「この年になって児童書か」
「しかも初めての」
「お前が言うな」
そう言いつつ、渡された本をつい手に取る。
「大人になってから読むと、深いよ」
意味深だ。
ことのほか重いその本は、読みたくないと意地を張るほど子供っぽくもなく、だがしかし、しばらく自室の枕元に置いたまま悩むことになりそうだった。

全26章、565ページのボリューム。
ミヒャエル・エンデ作「はてしない物語」は映画化もされているのでそっちを先に見ていた私は、物陰からこの本を見つけた時にわくわくしました。
児童書というには普通に文学小説っぽいです。(ちなみにファンタジー)
アトレーユは一作目の方がかっこいいと思う。
この話に出てくるのは絵本ではないですが、タイトルの好きだった絵本、というのは某ゲームのBGMのタイトルから取りました。
なんとなく、懐かしくて楽しいものを見ると、心躍るようですね。