結局は、受け止め方。
どすこい
「ねぇねぇ、DVって何!?」
騒乱終結×年後のクレスタの孤児院にて。
それなりに年月もたって、いろいろなテストでいろいろな点数を取ってきたくらい成長しているカイルが聞いた。
「どうしていきなりそんなこと聞くんだ?」
「八百屋の隣の家のソニアおばさんが言ってたんだよ。最近その言葉よく聞くね、って」
それって何かと聞いたらその人もよくわからなかったらしい。
言葉が独り歩きをしている状態のようだった。
「ロニが知ってるんじゃない?」
はロニにふってみた。
「えっ、俺ですか!?」
「ストレイライズ勤めなら、人権問題だのなんだの得意分野だろう」
その通り、彼は現在、ストレイライズへ神団兵として勤めている。
の知る結末では彼はなぜかパン屋になっていたようだが、家族を守る力をつけたいという気持ちもあって、やはりそちらへ進んでいるのが現状だ。
そんな彼が、今日は久々に里帰りをするというから、リオンとも来てみた次第である。
カイルの羨望のまなざしを受けてロニはうっと言葉を詰まらせた。
ここで、答えなければ兄貴分として男が廃る。
「カイル、DVってのはな……どすこいバイオレンスの略だ」
「どすこいバイオレンス!!?」
なぜか声を大にして目を輝かせたカイル。
リオンとは同時にお茶を吹き出しそうになった。
直後には、テーブルに突っ伏して声は出さずに肩を震わせて笑っている。
リオンからは呆れと憐みの混じったまなざしが向けられた。
「バイオレンスって、つまり暴力のことだろ? どすこいがつくってことは、張り手とかのことかなー」
スタンが茶菓子代わりか、ふかしたサツマイモをザルごともって現れた。
「何それ、楽しそう!」
……どすこいという言葉が妙な方向性で、想像力を駆り立ててはくれる。否定はしない。
「ロニ、お前 時事問題に弱すぎだろう」
「そんなことないですよ、神殿は俗世から隔絶されてますが常に流行にはアンテナを張ってます!」
「例えば?」
「女性のファッション、だな」
なぜかきらーんと星を飛ばしつつ、敬語になってないロニ。時々こういうことがある。
なんとなくはわかる。一緒に旅をしていた頃のノリになると無意識に出るのだろう。
「今年の流行は腰にスカーフをまくことだ!」
炊事場ではおなじみTシャツに黒いパンツ姿のルーティが背中を向けて洗い物をしている。
リオンとの視線は二人同時にその腰にまかれているものへと向かった。
「で、どすこいバイオレンスって何なんだ?」
笑顔でスタンがいもを下ろして、テーブルに着いた。
「違う『ドメスティックバイオレンス』だ」
断じてどすこいではない。
しかし、そうすると見知らぬ言葉に意味がまったくわからなくなる人々。
「一言でいうと家庭内暴力のことだよ。家庭外でも恋人とか婚約者でもありなんだけど」
「うわぁ、物騒な言葉だなぁ」
「男が女を殴る家庭の話はまれに聞くこともあったがな。最近、そういうものが問題として取り上げられるようになってきてる」
平和になると人権問題が取りざたされるようになるのはどこも同じらしい。
「その点、うちはみんな仲いいから問題ないよな」
うんうんとうなづくスタン、カイル、ロニ。
は思いついたようにカバンから何か紙切れを取り出した。
「体だけの暴力ってわけでもなくて、いろいろあるらしいよ」
デートDVチェックリスト(DVのチラシ)登場。
「ちょっと待て、なぜおまえがこんなものを持っているんだ」
「ダリルシェイドを出るときに配られたの。資源ごみに出すとこもないからそのまま…」
「へーこれにあてはまるとDVになっちゃうんだ」
テーブルの真ん中に置いてみんなでのぞき込む。
もまだ全く見ていない。
「項目が結構あるなぁ」
「僕にはよこさないでお前にだけ渡すとか、何か失礼じゃないか」
DVは主に女性が被害者になっていることが多い。……というのが世間一般的な認識だ。
なので、男女二人で歩いていたからの方にだけ渡したのだろう。が。
「ほかの人と話していると嫉妬したり責めたりする……これってむしろ、女の人の方がやってそうじゃない?」
「嫉妬するくらいでDVかよ~俺、嫉妬くらいされてもかわいいvとしか思えないけどな」
ロニのたわごとは嫉妬してくれる女性がいる前提の話として聞いておく。
「相手にこうしろ、ああしろ、誰々とはつきあうな、等指示をする」
「あぁ、これは嫌だな。恋人じゃなくても普通に、ないんじゃないか?」
「自分王国の王様かな」
さらにチェック項目は続いている。
大体が、脅したり壊したり責めたり怒鳴ったり…と確かに家庭内でなくても不愉快になりそうなことばかりではある。
「これ…『俺と**とどっちが大事なんだ!という言い方をする』って…」
「僕はよく『自分と仕事とどっちが大事なのか』と言われて困り果てている男を見るぞ」
ありがちすぎて目に浮かぶようだ。
「私は女の人とそういう話しないから、わかんない」
「ははは、そういう話に交じってるさんて想像つかないですね」
「あっ!」
その時、突然カイルが声を上げたので、全員が何事かとそちらを見た。
「どうした?」
「な、なんでもない!」
特に紙を見ていただけで、何かあったわけでもないらしく、ぶんぶんと首を振った。
急に何だ。
そこへ洗い物が終わったルーティがやってきた。
「なぁに? …… あぁ、それね。DVとかいう……」
「ダリルシェイドで配ってる人がいて、もらったまま持ってきちゃったんだよ」
ルーティが手を拭きながら覗き込んだ。
「やだっ! 私、スタンからDV受けてる!!」
「「えぇっ!!!」」
チェック項目を眺めていたルーティが急に深刻そうな顔をして慄いたように肩を縮めた。
「し、してないだろ!? 手なんて上げたことないし、いつも言うことだって聞いてるし!」
……いうことを聞かせているルーティは(1)、(8)、(10)あたりに該当しそうだが、敢えて中身には触れないでおこう。
「(14)よ! 最後の。……私、生活費を渡してもらってないわ……!!!」
孤児院は寄付などでおもに運営が賄われている。
「それは……でもできる限りのことしてるし、街の人の手伝いしてもらったものはみんな渡してるし!」
スタンが一生懸命弁解している。
うん、スタンはDVができる人間ではない。よくわかる。
なので、ロニ、リオン、はいつもの何かが始まった、くらいの気持ちで眺めやっている。
カイルだけは心配そうにはらはらと見ているのでが言う。
「大丈夫だよ。いつも通りでしょ」
「え?」
「これで、何か今まで本気でけんかになったことあった?」
そう言われて考え込むカイル。
「ないや」
「まぁ普通に考えて、スタンさんがDVとかないしなー。安心しろよ、うちはいい孤児院だ!」
「うん!」
和やかムードの四人を前に、ルーティが腰に手を当てて言った。
「何よ、甲斐性なし! いつまでたってもバカなんだから」
(12)→「馬鹿だとしょっちゅう言われる」
「そういう言い方はないだろ~? 今日だって手が空いたから薪を多く割っといたよ」
「そう、じゃあついでに物置の整理も手伝ってよ」
「今から?」
「奥から出したいものがあるのよ」
「わかったよ。あ、二人ともちょっとだけ出てくるけどゆっくりしててくれな!」
そしてエルロン夫妻は出ていった。
「なんだかんだ言って、仲いいよね」
「まぁ、あのルーティだからあのスタンでちょうどいいんだろ」
そしてじっとまたチラシをみているカイル。
「どうしたんだ?」
「んー結構ここにあることって、当てはまるのがあったりするのかな、って思ったけど……全然違うね!」
「そうだな、人の感じ方はそれぞれだからな。本人たちが互いに苦痛に思ってないならDVではないだろう」
今度はなんだかロニが黙っている。
「?」
「ルーティさんのビンタは……やっぱり愛がこもってるってことでOK……?」
「食らいたくなかったら食らうようなことをしなければいいだろうが」
あれは物理的手段なので、どうとらえるかは人によるだろう。
愛と思えばこそ、食らった側も言わんとしていることを考えられるが自分のことしか考えていない人間には難しいかもしれない。
「結局は、とらえ方ってことかぁ…」
「それは本人たちにしか、わからないことだからな」
そんなことを言っていると、なぜかルーティだけがものすごい勢いで帰ってきた。
ちらしをバッと手に取る。
「あんた…!」
「?」
そういって振り返られたのはリオンだ。
「にDVしてんじゃないの!」
「は?」
「(12)よ、(12)! に向かって馬鹿とか言ってんでしょう!」
「なっ…」
それはルーティがさっきスタンに行ったので、記憶に残っている項目だ。
「しょっちゅうは言われてない」
が答えた。
「その前に『自分より劣っていると思っている』て書いてあると思うけど、そういう意味で言われてるんじゃないから、気にならないよ」
リオンが何かを言う前に、本人があっさり否定したのでルーティはつまらなそうな顔をして「ちぇー」と言いながらチラシを文字通り放って行った。
「……リオンをからかいたかっただけか……」
「なんてはた迷惑な女だ#」
そのためにわざわざ勢い込んで戻ってくるところがルーティらしいといえばルーティらしいが。
「ははは、やっぱりそうだよね。本人が幸せならそれでいいってことだよね!」
急にカイルがご機嫌で笑い出した。
「なんだ?」
「だって、ここで暮らしてるみんなもリオンさんもも全然違うけど、オレ、みんな大事だよ。そりゃたまにはけんかもするけどさ……その紙に書いてあること、細かくてよくわからないけど、うちとは関係ないんだなって思って」
「そうだな、俺もみんな大事だ! だから兵団戻ったらもっと強くなって戻ってくるぜ!」
ロニにとってはやる気の元となったらしい。
絆を再確認したという意味では、良いチラシだったのだろう。関係ないということは幸せだ。
「ちなみにさん」
「?」
ロニが突然問うてくる。
「もし俺がバカ、って言ったら許してくれます?」
「八つ裂きにする」
「「「……………………」」」
冗談だか本気だか、無表情で即答されたロニは、絶対に言わないでおこうと心に決めた日でもあった。
どすこいバイオレンス万歳。
チラシを配られると目を通してしまう人。
相手の携帯メール見るとか行動を追及するのはどっちが多いのだろうなどと思ってみる。
そして、男性相談センターはない不思議。
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