家族扱い?
野焼き
寒さが厳しい日ともなれば、ダリルシェイドにも雪が舞う日がいつ来てもおかしくないであろう、その季節。
「今日は、野焼きするのよ! いい時に来たわね」
昨年、孤児院の年末大掃除に巻き込まれて凄惨な目にあったリオンと は、今年は早めに休暇がてらクレスタに顔を出してみた。
そうしたところ、ルーティに笑顔でそういわれた次第である。
「……この孤児院は、年中何かしらのイベントをしているのか?」
「そうなのかもね」
今度は来るとしても、前もって連絡を入れないでおこうと心に決めるリオン。
十中八九、「いい時」というのは、彼らにとってではなくルーティにとっての話であろう。
そして、クレスタにおいて「いい時」の設定権があるのは、ルーティだ。
が無情にノートーンな声で答えてくれた。
「でも野焼きって?」
スタンが野良仕事でもしそうな格好でやってきたので一応聞いてみる 。
「この時期、枯れ草がすごいだろ? だから、一か所に集めて焼いちゃうんだよ」
「それはふつう、春先にやるもので、しかも農林業を営む者がするのだと僕は認識しているが」
「すごいなリオン! そうなんだよ、新芽が出ないうちにやるんだよな。オレもリーネにいる頃はよくやったよ」
出会ったのが旅立ち後なので忘れそうだが、彼は本来羊飼いをして暮らしていたクチである。
知っていて当然なのだろう。
酷寒地を除き、草原は森林へと遷移する。野焼きを行うことで、この遷移がリセットされ、初期状態の草地に戻る。
無論、灰が肥料になったり害虫を焼き殺す効果もあるとされるが、本来はそういう目的で行われるものだ。
少なくとも、街中で行われるものではない。
「孤児院の敷地って広いでしょ? しかも街はずれだから裏の平地なら野焼きしても誰にも迷惑かからないし、きれいにするって意味で恒例行事なのよ」
「……火事と間違われたことは」
「あはは、それくらいは挨拶しておくし恒例だから大体、街の人もわかってるよ」
そういってスタンが先導するように歩き出す。
その先、割と近いところで子供たちの声がきゃあきゃあと聞こえていたので、嫌な予感しかしなかったが肉体労働はそうそうしなくても済みそうだ。
既に枯れ草の山が出来上がっていた。
「あーあとは火を入れるだけか。……破壊的で面白そうだね」
「お前、除草作業の時も同じこと言ってただろう」
「リオン……人間は、ある種の破壊行動で適切にストレスが発散できるものなんだよ。運動と同じで」
「破壊と再生かぁ……すごいな!」
何が。
「とりあえず、それはお前のような人間が言うことじゃない。非建設的な破壊行動しかしない輩が考えるべき……」
「火祭りだぁ!!!」
リオンは自分と の間に突如湧いて出た少年ロニの頭を無表情に抑えて何事もなかったかのように、そのまま後ろに放る。
「じゃああとはお願いね」
そのまま何事もないかのように続けようと口を開きかけたところでルーティにそう言われた。
「待て」
「子供たちに任せるとさすがに危ないのよ。スタンもつけてあげるから」
つけてあげるのはスタンじゃなくて、僕と が言うべき立場だろう。
一体、どういうことなのだ。
しかし、残念ながら は乗り気そうだった。
「あぁ、こどもって火遊び大好きだもんね」
「お前の言う火遊びというのは、一体対象年齢どこまでのことだ」
「花火とか」
純然に返された。
深読みのし過ぎではないだろう。花火と答えればほかの色々も、と答えたに違いない。
素直にあきらめる。
「子供も大人も大好きでしょう?」
「むしろ子どもではなくお前が活き活きしている」
「ダリルシェイドでそんなことしようものなら、火事と間違えられて通報されるもんね」
楽しそうだ。
「僕はやらないぞ」
「番は何人もいらないし、 がやってくれそうだからそれでいいわよ。あんたにも飲み物くらいは差し入れてあげる」
「何もやらないと言っているのに、なぜ僕に差し入れが入るんだ」
「 は火の見張り番。あんたは、 の見張り番。でしょ?」
ぐうの音も出ない。
がここで「遊ぶ」というなら全くその通りになるだろう未来が見える。
「万が一があるから、防火線と水くらいは準備しておいた方がいいよ」
「バケツはすぐに持ってこさせるわ。あんたには私の作業用ブーツを貸してあげる」
「素直に長靴と言え」
「今日は風がないから野焼きにいい日だわ~」
全然聞いてない。
早くもつっこみつかれそうな展開だった。
「ねぇスタン、道具と手袋貸してくれないかな。草をかき集めて、火の中に突っ込んでも大丈夫そうな……」
子どもたちはすでに撤収して、使われた道具も草を運ぶ荷車くらいしかなかったので、これから違う作業をするには確かに何か不足感はある。
はそこまで言って、脳内ではイメージできているであろうその名前が出てこなかったらしい。
「あれ、なんて言うんだろう。猪八戒が持ってそうなやつ」
何の話だ。
「あぁ、あれかぁ……うん。わかった! すぐに持ってくるよ!」
多分、全くわかってないと思うのだがスタンがそう言って物置の方へ走って行った。
そして持ってきたのは9本歯の鍬だった。熊手に似ているが歯のついた先端部分は長方形に近い形であるし、少し違う。
「そうそう、それ。……なんて言うんだっけ?」
「レーキとか馬鍬って言う人もいるよ」
「聞いたこともなかった」
それでは名前が出てくるはずもないだろう。
よく通じたものだ。
スタンにしてはというべきか、リーネ出身のスタンだからこそというべきか、珍しく感心してしまう。
同時にルーティによる「適材適所」という言葉が思い起こされた。
「今日は天気がいいけど、少し草が湿ってて火が付きにくいんだよなぁ…」
着火するのに、手間取るスタン。
最近、天気が良かったり悪かったり交互に来ているので乾ききらなかったのだろう。
「私も着火用の道具持ってるけど、点火口のとこが悪いみたいでつかないんだよね」
レンズ式のものではなく、オベロン社製品が出回る前に主流だったガスを使うタイプのものだ。
復興拠点の外回りのスタッフには支給される品でもある。何かと重宝はする。
しかし、今はそうでもないのでいつまでもつかないのをただ、眺めるリオン。
「まだつかないの?」
ルーティが手袋と長靴を持ってやってきた。
「仕方ないわねぇ……ディムロスがあったら一発なのに」
そういいながら、道具のせいではあるのだが手際の悪そうなスタンにルーティは苦い顔をしている。
「……水月のディスクのことは伏せて置け。特にルーティには」
「うん。そうする」
ファイアボールが使えれば、それこそ瞬殺だろう。
そして、その後、ほかのディスクが意外と日常生活にも便利であることを知れば使われかねない。
リオン→そんなことのためにいちいち利用されるのは、まっぴらごめんだ。
→枯葉の山が瞬殺されたら面白くないではないか。
本人たちの思惑をよそに、利害は一致していた。
「ついた?」
「くすぶってるから、その内つくと思うんだけど」
ルーティが孤児院内へ戻ってすぐくらいに大量の煙が上がりはじめていたので、確かにそろそろ火は着きそうだ。
「この煙。……葉っぱが湿ってるからなんだろうけど、これでダリルシェイドで焼き芋やることをあきらめたんだよ」
そんなこともあったな。
落ち葉で焼き芋を焼くのが夢だと聞いたことがある。
……リオンにしてみると全く理解できない夢である。
他にもハンモックで寝てみたいとか割とささやかなのだけれどなかなか普通の人間はやらない謎の夢を は多く持っているようだ。
「焼き芋かぁ……いいな。今度は菜園のイモをとっておいてそうしてみようかな」
「ここ、つきそうだね。……」
「ちょ、 !?」
その上からは煙が出ているにも関わらず、山になった枯葉の中に手を突っ込む。
がさがさと積まれた枯葉を掘って、かまくらっぽいものが出来上がった。
「オレ、枯葉のかまくらはじめて見たよ……」
「私も、はじめてこうなった」
行動に意味はある。スタンにそこから空気を送らせれば上に着火してくすぶっていたものは一気に燃え上がった。
「ただ積み上げたって着くわけないだろう。ちょっとは考えて積め」
枯れていたならそれで瞬殺だったろうに、そうして空気を送ってもついては消え、ついては消えの繰り返しだ。
それでも火が着くたびに、風上に移動しつつ は少しずつ枯れたものを炎の上に放って行く。
山は確実に小さくなってきているが、熱中しすぎて、ついに煙の洗礼を浴びた。
「目に入ったー」
「しみるだろう。ものすごく」
風上からリオン。何もしていない。というか確かに の番はしている気になる。
風はほとんどなかったが、風向きは頻繁に変わるので、枯葉の山の周りを移動しながらひたすら火を絶やさないように枯葉を処理している を見ていると……
何が楽しいのだろうか
と本気で思う(同時に何かの動物を見ている気分にもなる)。
時々、手袋をしているとはいえ、かき回されて中も燠(おき)状態になってきた山に手を突っ込むのはどうかと思うので聞いてみる。
「熱くないか?」
「少し熱い」
そろそろやめておけ。
スタンはそれを単純な安全作業と思っていたらしく、リオンとのやりとりを聞いて、いきなり慌てだしている。
厚手の手袋がとけるか焼けるか、そろそろしてもおかしくはないと思う。
予想に反して火の番というほど炎が上がらないので、おそらく「いかに火を絶やさず枯葉の山を燃やしきるか」に目的がシフトしているのであろう。
シンにとって、試行錯誤のゲーム感覚であろうことには変わらない。
スタンと一緒に作業をしているが、明らかにスタンと違う動きをするので、まぁ見ている方は飽きないと言えば飽きない。
しかし、山が半分以下になったその頃。
さすがの も飽きたらしい。
「手ごわいなー」
は壊れた携帯着火用の道具をそこへ向けた。
カチ。
消えかけてくすぶっていただけの枯葉に向けてスイッチを押す。
いきなり炎が上がった。
「何それ!!?」
「ガスだよ。こういう使い方もあるんだねー」
自分でやっておいて何を言うか。
しかしまぁ確かに、すでに火がついているところに噴出すればそれは大きくなる。
の向ける道具の先を舐めるように火がついて回り、通常では不可解な軌跡で炎が広がって行った。
「すごい! 一気に燃え出した!」
「なんか……魔法使いみたい」
確かに、形状は短いがスティック状だ。
童話に出てくる魔法使いが、杖を向けるとその先に小さな明かりがともるだとか炎がともるだとか、ものすごくありがちだが、その瞬間、壊れた着火機材は、そんな魔法使いの杖と化して見えた。
それで炎は勢いづいて、撹拌しながら灰になりかけた山の直径が4,50㎝になると、 は周りに水をまきだす。
燃え残りが広がらないようにして、遊びは終わったとばかりに片づけ始めていた。
実際、飽きた時点で、効率重視の作業だろう。
おかげであっという間に終わった。
なぜ最初からそれをやらないのかと言いたいところだが、見ているだけのリオンはその理由がわかっているし、何よりスタンが早く終わったと喜んでいるので、何も言わないことにする。
ルーティが差し入れなど持ってくる前に終わったのだから、実際、見積もりより早かったのかもしれない。
「あら? 終わっちゃった?」
空になったバケツをもって戻ろうとしたところにルーティがポットと紙コップをもってやってきた。
「曇って寒くなってきちゃったし、終わってよかったよ」
「そうねー助かったわ。ありがと!」
そして、4人で揃って休憩のために孤児院へ戻る。
「ねぇ、次はいつ来てくれるの!?」
「………………………………当分来ないな」
お茶を飲みながら、ルーティはこころなしか目を輝かせながら聞いてきたが、リオンはそう答えただけだった。
他意はないにしても……
クレスタを訪れる度に扱いが、客人のそれから離れていくことに心なし危機を覚えるリオンだった。
2016.12.20**
まぁルーティにとっては二人ともすでに家族同然なのかと(笑)
元ネタは15時くらいまで約1時間の自発作業でした。
火遊びは火の用心の元、行いましょう。
||お題メニュー ||
