暗器
が珍しくナイトガウンを着て、リビングのソファに座っていた。
「着る毛布」よろしくふわふわとしているそれは、外出に不向きではあるが最近の自室での室内着としてのお気に入りである。
厚手で若干動きづらいのと、見栄えからかあまり共用スペースでは見る姿ではない。
「珍しいな、寒いのか」
「あ、リオン」
私用の外出から帰ってきたリオンは、暖炉に火を入れたばかりなのか温まってきている部屋の空気を感じながら言う。
休日。時間はまだ昼前だ。
「今はそんなに寒くないけど、日が薄くなると途端に寒くなるよね」
「そうだな」
今の会話には、違和感を覚えるべきだったのかもしれない。
けれど、さして意味もないのでリオンは流して自分も定位置に落ち着いた。
「ねぇ、リオン。ちょっと手を貸して」
「?」
用意されていたポットに手をかけかけて、ふと、は思い直したように言ってくる。
手を貸して、というのは助けてくれということではなく文字通り、手を出してくれという意味らしい。
の左手が差し出されているので、リオンは疑問符を浮かべながらも自分の右手を差し出した。
しかし、は出していた左手をひいて、右手を出してくる。なぜだかリオンの手の甲の上にかざすような感じで。
その瞬間。
「ケルルルル!」
「……っ!!」
とっさに手を引いたリオン。モンスターとの戦闘時並みの反射速度はさすがだ。
それくらい、警戒に値するものがあったのだとも言える。
「なっ…何を入れている!」
そうして何かが潜んでいるらしきそこを注視すると、それはのガウンの広い袖口からあっさり顔を出した。
スズメほどの小さな鳥だった。
「……すごいでしょ、暗器だよね!」
暗器。
身体に隠し持つ事が出来る小さな武器の総称。
衣服や、日用品に仕込ませて使うことができる。
ハロルド=ベルセリオスは暗器の使い手でもあったが、晶術のインパクトが強すぎてほとんど印象に残っていない。
ただ、あの袖口のファーにはいろいろと、実験用のあれやこれやも仕込まれていたのだろうと、後々脳裏をよぎることになるが、それはまた後の話だ。
「お前……小鳥が暗器とか……なぜ僕を攻撃させる……」
頭を抱えたくなる気分でリオンはかろうじてそう返した。
実際片手で額を抑えている自分には気づいていない。
聞くべきことは他にあるのだが、それが最たる疑問であるのも確かである。
「2階に住み込んでるスタッフのペットなんだけど、一泊でかけるから預かってほしいって言われて、さっき預かったとこ」
とりあえず、その最たる疑問の答えにはなっていないが、一番に聞くべきだった経緯については答えてくれた。
小鳥はの袖口から出てくると何事もなかったかのように、チッチッと小さく鳴きながらの指先や、ガウンの上を渡り歩いている。ずいぶんと人慣れしているようだ。
「私も鳥ってインコくらいしかこうやって遊んだことないけど、すごい攻撃力なんだよ」
不意打ちという意味では、ピヨピヨの一撃より重かった。
ピッ、コピッ
かわいらしい声(?)で鳴きながら、さっきのはなんだったのだろうというくらいの愛らしさでその場でホッピングを始める。
コピピピピ ピーヨピーヨピーヨ
「……踊っているようだが」
「ご機嫌だね」
では先ほどのは本当になんだったのか。
「文鳥なんだけど、気が強いんだよ。私が体感した限りでは 文鳥>インコ>鳩 という感じの攻撃力の構図ができる」
「体格差に反比例している」
「リオンがそれを言うのはおかしい」
「…………」
散々、体感してきたことなので、怒りたいがなんとなく怒れないので黙す。
「でもね、文鳥って頭もよくて時間がわかったり空気を読んだりするんだって!」
「嬉しそうだな」
「鳥、好きだもん」
猫も犬も好きだろう。トラも豹もドラゴンも。
「さきほどの攻撃は空気を読んだとはとても思えない」
「まぁね」
少し遠い目をする。
体感した、ということはもやられたのだろう。
「割と怒りっぽいみたいなんだけど、指先とか向けなければ次の瞬間には機嫌よくしてるから継続はしないみたいだよ」
「指先……?」
「くちばしを向けるとけんか売ってることにいなるんだって。だからペンとか使ってると食いついてくる」
なるほど、とがったものを向けるなということか。
ならばなおさらなぜ僕の指先を向けさせるようなことをしたのか。
無駄な疑問なので、口にはしなかった。
そんな人の気も知らずに、文鳥はちょんちょんとテーブルを渡ってリオンの腕に乗った。
はガウンを脱ぐ。
「まさかお前……この暗器に僕を攻撃させるためにそこに仕込んでおいたんじゃないだろうな」
「違うよ。部屋で構ってたらなんか潜るのが楽しそうだったからそのままこっちに来てたの」
その間も小さく鳴きながらちょんちょんとそれは跳ね回っているが、小さい故か全く邪魔にはならない。
おかしな光景ではある。
「ちなみにインコの本気の攻撃は『ペンチでつかんでひねる』タイプだから覚えておいた方がいいよ」
忘れていいだろう。
「20時になったらかごから出して遊んで、水浴びさせてそのまま就寝だって」
「夜に水浴びか」
「だから、飼い主の生活に合わせるんだって。ごはんも人が食べ始めるとえさのとこに行くらしいよ。お利口だね~」
鳴き声がコミュニケーション手段なのだろう。
話しかけられて手を差し出されると文鳥は再びの方へ戻った。
どうでもいいが、その笑顔をなぜ動物に見せて、人には見せないのか。
親指ほどの小さな頭をなでながらはとても幸せそうだった。
ピーヨピーヨピーヨ
特に邪魔にもならないので、リオンも構わず自分のすることを続けることにする。
とりあえず、さきほどもらってきた書類にサインをしようとして……
クケケケケ!ゲルルルルル!
「だから、ペンはダメなんだって」
ものすごい勢いで豹変して、無機物(ペン)に攻撃をはじめた文鳥を前にリオンは動きを止める。
「くちばしで確認するみたいだから、紙も引きちぎられないように気を付けてね」
ゲルルルルルル!
無視して、ペンを動かし始めると、文鳥はいつまでもペンに向かってくらいついてくる。それどころか怒りがエスカレートしてきたようだ。
何かのおもちゃのように見えて不思議といらつくほど鬱陶しいとは思わなかったが……
カッ!カッ!
「リオン……性格悪くなるから、やめてよ……」
「なぜ僕が怒られなければならないんだ」
不条理だった。

2016.12.22筆(2017.1.4UP)**
文鳥の 攻撃力は 半端ない(5・7・5)
せっかく酉年なんで新年にUP
