窓の外
ファンダリアの短い夏が終わると、秋というあるかなしかの季節を越えて冬が早々にやってくる。
ファンダリアに役職上国賓としてかねてより招かれたリオンは、あまり豪雪にならないうちにとを伴って、ハイデルベルグへとやってきていた。
役職上の役目を早々に果たして、通された休憩用の貴賓室に入る早々、外を眺める。
白銀の世界だ。
「まだ雪は少ないと聞いていたが、思いきり積もっているじゃないか」
「一昨日から今年はじめてのいい降りっぷりでね。いい時に来たといえばいい時じゃないか?」
豪雪を避けてきたのだが。
そこから見える庭は、ここに至るまでの道のように除雪されていないので、積もった雪がそのまま何にも侵されることなくただ、深く積もっている。
降りたてなので、庭の木も何もかもに雪が陰影を与えるようにかぶさっていた。
ただ、はそれを気に入ったらしい。
「うーん、足跡をつけたくなる見事な積もりっぷり」
……はるか昔(ここからは未来という時間軸において)、似たようなことを聞いた気がする。
除雪が進み、陽が出たりすると道脇の雪は意外と汚れて見えてくるので、積もりたてのさらさらな白一色というのが格別というところには、同意しよう。だが。
「足跡どころでは済まないだろう。ひざ上まで埋まるぞ」
そうなると雪中行軍といった方が的確だ。
リオンはあきれたようにため息をつきつつ、ソファに腰を下ろした。
メイドが温かいお茶の準備をして入ってくる。
ウッドロウはが窓辺で庭を眺めているので、同じように窓際に寄って外を見ている。
庭……といっても、今は、葉を落とした木の枝しか見えない。
貴賓室の庭だから、おそらく温かくなればそれなりの見栄えのものが植えてあるだろうが、今はみんな同じに見える。
「ほら、君。君から騒乱後にもらった木はあそこにある」
そういわれたので、ティーカップを持ち上げたリオンも顔を上げた。
座った位置でも、見える。
まだ背の低い……正直周りから比べると貧相な木だ。
「あぁ、あれかぁ…。3mくらいだし、小さいから雪でしなだれかけてますね」
「一番、良い場所に植えたつもりだが……その、なぜあの木だったのだろうか」
今の時期だから貧相に見えるのではなく、おそらく一年中あまりゴージャスとかいう感じでもないのだろう。
観賞用というより、山野木に見えないこともない。
「それはお前がねだったから適当に見繕ったものだろう。大体雪国に植えられる木など限られているぞ」
ウッドロウの言わんとしていることを悟って、ぜいたくを言うな、とリオンは切り捨てる。
そう、決してあれはから送られた真心の証ではなく、友情の証に何かをとか言い出したウッドロウに対して、それでも国交がどうとか言い出すものだから仕方ない、耳を貸した代物だ。
「なぜって、耐寒性のある木で、すでにこの辺に植えられてる木じゃつまらないし、私もあんまりああいうの興味ないんだけど一応いろいろ考えてみた結果で……」
「花も咲かないのか?」
「いや、黄色い花は咲くのだが…」
不満というより残念な感じのようにも聞こえる、その声音。
そんなことを話していると鳥たちが群れになって、背の高い庭木に渡ってきた。各々の場所に止まる。
最初は中くらいの鳥が来て、それから小さな鳥たちもどこからともなく訪れる。
「鳥がたくさん来たね」
「こんなふうに雪が降った日は、急に食べるものがなくなるせいだろう。こういう場所に団体で移動してエサを探すことが多いようだ」
「野生動物も難儀だな」
冬眠するものならまだしも、鳥がよく生きていけると改めて思わざるを得ない光景だ。
木々の芽など食べているのだろうか。
芽が出る季節でもないと思うが。
警戒するものはないと思ったのか、それが思い思いに移動を始めて、何かしらをついばみ始めている。
「…………」
もソファに座り、お茶を飲みながら他愛のない雑談。
雪が降り積もる日は、静かだ。
しかし、ふと、時間がたつにつれそれに気づいたリオン。
「……」
「?」
の視線は、雪と鳥の群れを眺めている。
動くものなので、飽きが来ないのだろう。
それをリオンもなんとはなしに眺め見て……
「あの木だけ、鳥が群がってないか」
それはが贈ったという小さな木だった。
「あぁ……そういえばそうだな。どうしたのだろうか」
そうしてウッドロウの視線も外へ向かう。
彼にとっては慣れた景色だったので、リオンやほどにはそちらを見てはいなかった。
「あの木には、実がなるからね。普通人間は食べないけど、小さいし鳥にはちょうどいいんじゃないかな」
いつのまにか、各々の場所にいた中くらいの鳥も、小さな鳥も、けんかをすることなくその周りをにぎやかに行き来して、その木で何かをついばんでいる。
割と近い位置に植えてあるので、その動きはよく見えた。
「雪のバードウォッチングにはいい部屋だね」
それで、ウッドロウもその木の意味が分かったらしい。
がたりと立ち上がり、窓辺へ歩を寄せる。
しばらく鳥たちを見ていたが、窓を開けた。
冷たい風が入ってきたが、部屋は暖房で暑いくらいだったのでちょうどよい。
中くらいの鳥はすぐに飛び去った。
警戒心が少ないのか残っていた小さな鳥たちも、やがてチッチッと鳴きあいながら一羽、二羽と去っていった。
それでも何羽かが枝を渡りながら、まだ、何かを探している。
「……お前、放蕩をやめてから、見えなくなったものがあるんじゃないのか」
春に大輪の花を咲かせるのではなく、冬に人知れず実をつける小さな木。
そこにやってくる小さな命。
長い冬のこの国で、その木が植えられてからどれほどの鳥がこの庭を訪れたのだろうか。
「そうか……そうかもしれないな」
ウッドロウは鳥たちのいなくなった庭を遠くに眺めたまま、そうつぶやいた。
花は大きくなくとも、
人の目を引かなくとも、
もっと大事なものがある。
それは、たくさんの命をつなぐ命の営み。

2017.1.16UP**
はじめてウッドロウがまともな人だ……!!(驚愕)
最近、鳥が優しいです。なぜか、野鳥が逃げなくなりました。
降雪地帯の方は、柿の実は全部取らないで残してあげたらいいことありますよ。
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