シルフの悪戯
とても暖かい、2月の終わりの日。
「春だね」
「そうだな」
旅をしていると、ひとところにとどまらないせいでむしろこちらから季節に赴く傾向にある日々である。
その最中、冬の季節と春の季節の境目付近の町で休み、翌朝。
宿の外にその気配を感じて、
は外へ出た。
仲間たちは旅の疲れを癒すべく休憩中であるから、行動はまちまちだ。
ジューダスは、なぜか一緒にいる。
「たまにはこうしてのんびり季節を感じるのも悪くないね」
『モンスターと戦ってると、なかなかできることじゃないもんね』
二人きりなので、シャルティエからも遠慮なしに声がかかる。
「……お前、旅の最中でも休憩中はいつも似たようなものだろう」
「そうかな」
日差しはとても柔らかく、風もほとんどないので、うららかという表現がぴったりの日だった。
「休憩に入るとふらふら一人で出歩く馬鹿はどこの誰だ」
「……どこの誰?」
「……」
柳に風だ。
シャルティエからも苦笑が漏れている。
と、
の目線が少し遠くに投げられた。
それが小川の向こうに止まったままなので、ジューダスの視線もそちらに流れる。
季節的にすると、まだ日が落ちれば寒いころだ。
緑の方が少なく、葉のない木々が数本と茶色い畑のようなものが見える。その向こうは、急峻な土手になっていて、やはり枯れた草しか見えなかった。
『どうしたの?』
「いや、シルフが遊んでるなと思って」
「は?」
は、黙って一本の木を指さした。
それほど大きくはない、けれど人の背よりは高く枝を伸ばすその下で、風が渦を巻いて秋に落とされたまま雪の下に眠っていたであろう木々の葉を躍らせていた。
『つむじ風、ってやつですかね… !』
それがやにわに高く、大きくなったかと思うと、空に大量の葉を巻き上げ、瞬時に消える。
視線を空にさらわれるジューダスと
。
「すごーい」
葉は、すぐには落ちてこなかった。
がそういうまで、どれくらいの時間が経っただろう。すぐに、どころではなく、いまだ一枚も落ちてはこない。
むしろ、上昇を続け、黒い影は、もうはるか上空だ。
太陽の光を遮るように手をかざして天頂を見やる
。
「鳥みたいだね」
それは確かに、風に舞う木の葉というより羽ばたく鳥のような動きを見せて遠ざかっていく。
黒い影と相まって、ほかに見上げたものがいたらそれが木の葉だとは思わないだろう。
あるものは羽ばたき遠ざかるムクドリのように、あるものは滑空するツバメのように、それぞれの動きでそれぞれの方向へ消えていった。
『こんなの初めて見ましたよ』
「あぁ、僕もだ。
、お前にはシルフが見えたのか」
ジューダスには何も見えなかった。
しかし、この風の無さといい木の葉の動きといい、シルフが遊んでいるといわれれば納得できないではない光景だ。
「ううん」
あっさり
は首を振る。
『……見えてなかったの?』
ジューダスも腑に落ちないといったようにやや眉を寄せる。
「そうだったら楽しいねという話」
「……」
それなら、後付けで言えばいいだろうになぜ先にそう言ったのか。
「シルフみたいな精霊はああいういたずらが好きみたいだし、もしあそこにシルフがいたら私たちがびっくりしたことに喜んでると思うよ」
どう反応していいのかわからない。
「で、また機会があったら私たちを喜ばせてくれようとする」
「……メルヘンだな」
『メルヘンですね』
おそらくは、不可視のものを信じないより信じたほうが面白いとかそういうことだろう。
まぁ、信じても特にデメリットはない。
(むしろ、今の理屈なら、信じない方にデメリットが生じるであろう)
「シャルまでそういうこと言うんだ」
ジューダスの反応は想定内だったとしても、シャルティエの同意には少し不満そうだった。
『あ、違うよ。……坊ちゃんはそういう意味じゃないと思うけど、僕は素敵だと思うよ』
「僕を一人悪者にするつもりか」
『ち、違います』
あちらを立てればこちらが立たず。
今度はジューダスから非難の声が上がって、シャルティエは思わず弁解を始めようとしている。
だが、ジューダスがただため息をついたのを見てその必要はないと判断したらしい。
「面白いものが見られたね」
『たまにはのんびり散歩するのもいいですねぇ』
うららかな日差しの下、二人は歩き出す。
旅路にはないゆっくりとした足取りで、まだ少し遠い春の息吹を感じながら。
2016.2.28(筆)2017.3.7UP
午前中に洗車してたらふと、無人の木の下に、そんな光景。
午後は、つらつらと春を探しに行ってきました。
ねこやなぎとふきのとうを発見。採取☆(※私は食べません)
と、ここまで書いたのがほぼ一年前。季節ものなので出しそびれて1年後(笑)
2017年はまだまだ根雪が残ってます。
