愛と謎生物
リオンがリビングで本を読んでいる。
読んでいる、というより眺めている、の方が正しいだろうか。
文庫やハードカバーではなく、変型版の薄いものだ。
カバーがかけられていて、表紙は見えないが通りすがりに が見たものは。
「リオン、何の本読んでるの?」
珍しい色合いのものだったので、つい気になって は声をかける。
ソファの後ろからの奇襲だったせいか、リオンは珍しくびくりとして本をとっさに閉じた。
「なんだ、急に!」
「なんとなく、カラフルなのが見えたから。リオンにしては珍しいなって」
「……たいした本じゃない。借り物だ」
ではますます珍しい。リオンは本を選ぶので、人から借りるならよほど興味を惹くものだろう。
そんなふうに好みを知っていて本を薦める人に、心当たりはない。
そして、その本はなんとなくリオンの好みのものではないように見えた。
まず、文字というものが見えなかった気がする。
「……ちょっと見せて」
「……………」
なんだろう、今の沈黙が物語るものは。
断られたらそんなにいかがわしいものなのかと切り返してあげようと思いつつ はしばし、リオンと向き合っていた。
そんな次の展開を察してか、悩んでいたが観念したように差し出すリオン。
本を開く。
「なにこれ、かわいい!」
珍しく の口から放たれるその言葉。大体、動物にしか発されないので、本に対して発されるのをリオンははじめて聞いた。
「フルカラーパステルとか。リオン、これ読んでたの!?」
いろんな意味で笑いが止まらない 。
そこに描かれた癒し系(?)のキャラクターがツボにはまっているのだろうが、リオンは複雑そうな顔をしている。
だから見せたくなかったのだ、とばかりに。
だったら自室で読んでいれば良かったのだが。
「キャラかわいい! 絵本みたいですごく読みやすいね」
興味の対象がキャラクターから文字に移った。
そして、(おそらくカモフラージュ用につけられていた)カバーをはずす。
白い表紙に2頭身の謎の生き物が書かれていて、タイトルは豪華に金色の箔押しだった。
「一応、偉人の名言集なんだ。へぇ~」
ぱらぱらと読み始める。
一ページ一ページに、大きな文字で名言が一言だけ書いてあって、下のほうに小さな文字で説明。ページ全体にはファンシーな絵本そのままにキャラクターたちがいろいろな姿で表現されている。
読みやすい。
ついに冷静な域に戻った が始終無言なリオンに視線を向けた。
「珍しいね、リオンがこういうの読むの」
「……借りたくて借りたというより、半ば持たされたといっていい状態だった」
言い訳はしなくていいのに、そして小さくため息をついた。
「でも目を通すこと自体珍しいし……ひょっとしてマリアンさんにでも持たされた?」
「………………」
ビンゴだったらしい。
「なら納得だな。女の人はこういうの好きそうだし」
はリオンが読んでいたことについては取りざたせずに本を改めて眺めた。
「絵は謎キャラでかわいいのに、文章はまじめ……不思議な本だね」
まじまじ。
「あっこれは何かわかる。『愛するということはみつめあうことではありません。同じ方向をみつめることです』って」
「……お前の口から愛だのという言葉が出ると違和感だな」
「ねー」
ねーじゃない。
リオンは、先ほどとは違う意味のため息をつく。
「でもほら、みつめあうと視野がすっごく狭くなりそうじゃない。だったらもっと他のところを見回して、その先が同じ場所だったら素敵だよね」
単純に今、リオンと は同じものを見てはいるが、これもまた楽しい時間だろう。愛はともかくとしても。
「愛しているという言葉を使わずに、愛を示さなければなりません……なんだろう。マリアンさんは何を持ってリオンにこれを読ませたかったんだろう」
「そんなこと僕がわかるわけないだろ」
書かれているのは愛のことばかりではないが、どうも収束点がそういう方向性にありそうな内容だ。
「あ、でも書いてる人によってやっぱり嗜好が違うね。こっちの人は冒険家だって。死にかけて辞世の名言を残したところ遊牧民に助けられたとか。リオン、ここまで読んだ?」
「文字の少ない本だからな。もうすぐ読み終わる。お前も読むか?」
「読むー」
子どものような返事をして、 は楽しそうにページをめくっている。
「……」
2冊目があることは、まだちょっと黙っていようと思うリオンだった。
2017.9.27
すみっこぐらし名言集。
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