秋の散歩2
あまりに天気が良いのでリオンは少し足を伸ばして昼休みの時間を使い、散歩に出ていた。
大体運動は、訓練やら外回りの仕事で事足りているので普段は、館内で過ごしている。
今日はたまたま、朝から一歩も外へ出なかったため、出てみた。ただの気まぐれだ。
そして、その気まぐれな進路の先で、みつけてしまう。
その先は細い道で下っている。馬車が通れないこともないが勾配もあるし、道幅からも厳しいであろう。日常的に整備されていると言うわけでもなく人通りはほぼ、なかった。それは今日に限ったことではない。
リオンのようにきまぐれでもなければ通る人間はいまい。そんな道だ。
先は斜面と木立に挟まれて陰が続いているせいか、少し暗かった。
わずかにカーブになったその陰に入る手前は、ひなただ。
そこに がしゃがみこんでいた。
最近は、昼休みの散歩が日課になっているらしかったから別に外で会ってもおかしくはないだろう。
リオンが声をかけようとして、思わず固まったのは彼女が何を思ったのか、視線の先…木の葉のたまりに手をつっこんで両手でそれを頭上に放ったからだ。
はらはらと舞い散る枯れ葉たち。
どこか楽しげに眺めることしばし。
「あ」
こちらに気づいたのでリオンの時もそれをかわきりに動き出した。
「こんなところで何をしているんだ」
相変わらずしゃがみこんでいる に聞く。他に言うべきことは思い浮かばなかった。
「木の葉がひだまりに積もっててあったかそうだなって」
今時点における感想を述べる 。
ここ数日の快晴で、それらは道の先にも相当落ちていたがどれも渇いて風が吹くたびにかさかさと音を立てている。
「それで、頭上に放る意味は?」
「……」
見てたのか、という顔になる。
時間差があったのと、めったに人の通る場所でもないため、そこから見られていたとは思わなかったのだろう。
さすがの も一人遊びを見られて、少し複雑な顔をした。
「花が散るのと一緒で、枯れ葉が散るのを見るのも好きなんだ」
「……」
では、風に散るのを見ればいいではないか。
というリオンのごく一般的な感性に基づいた指摘は通じまい。
「きっと、動くものが面白いんだね。この時期は水も澄みはじめてきれいだし」
その下り坂の木立を抜けると小さな川がある。
「ここが散歩コースなのか」
「最近はね。……ここはきれいな鳥の羽も何日かに一度落ちていて、ちょっとお得なコース」
何がお得なのかはよくわからないが、 はそれをつまみあげた。すでに発見済みであったらしい。
それはスモールフェザーだった。
とはいえ、結構な大きさがある。しかも書物や絵画で見るようなものより、なんというか付け根に近い部分が妙にふわふわとして、いかにも軽そうだった。
「何の鳥だろうね。この大きさだと結構大きそうだし、真っ白でこんなに軽そうな抜け羽って見たことない。そんな鳥が毎日のようにこの辺に来てるって思うと、ここがちょっと特別な場所に感じるから不思議」
毎日散歩をしていてもその鳥自体は見かけたことはないらしい。
「もうすぐ昼休み終わるけど、リオンはこの先に行くの?」
「いや、もう戻る」
はじめからそちらに行くつもりはなかった。
も立ち上がって、一緒に戻る方向へ歩き出す。
わざわざ道脇に固まって積もっている落ち葉に踏み込みながら。
足取りが妙に軽いので聞いてみた。
「楽しいか?」
「うん」
子供か。
そんなリオンの率直な脳内の感想はため息になったためか、彼女なりの正論が返ってきた。
「落ち葉を踏む感触がおもしろいし、ひだまりにたくさん積もっているとそこでゴロゴロしたくなる」
「絶対やめろ。子どもでもやらない」
むしろ猫ならやるであろう。
実際、こんな日は街角で落ち葉にうずもれるようにして丸まっている猫の姿がたまに見られることまで、リオンは知らない。
「さすがに人目があるとねー……大人って、難しい」
「一応、自重はしているんだな」
逆にため息をついた を横目で見る。
「お前は本当に一人遊びが好きだな」
「リオンが一緒に遊んでくれたら楽しいし、それが無理なら微笑ましい顔でそっと見守ってくれたらなお、楽しい」
「ちょっと待て。違う意味で楽しもうとしているだろう!」
別にそんなつもりはないとさらりとかわされたが、微笑ましい顔で見守る自分とか一体それは何者なのだ。
リオンにだとて、自己イメージというものがある。
うっかりイメージをしてしまって頭を抱えたくなると、隣で が薄く笑みを浮かべた。
確信犯はやめろ。
「リオン、そこのイチョウの下、銀杏落ちてるよ」
「?」
それ以上は何をする気もないらしく、 は話題を変え、黄色くなった葉をつけた大木を指差した。
木の下にオレンジ色の実がたくさん落ちていた。
「あんまり人通らないから、拾う人もいないんだね」
「それはそもそも、食うか何かに使えるものなのか?」
「……そういえば、ダリルシェイドで食べられてるとこは見たことないかもね」
時間はまだ少しある。
はイチョウの木の下でしゃがみこんでその実を眺めた。
落ちたばかりなのか張りのある実をつついて転がしている。
「私も、料理とかしたことはないけど、確かこの中の種を炒って殻を剥いて食べられたはず」
想像がつかない。
「普通実を食べないか?」
「……」
そういうと は無言で、大分前に落ちたであろう溶けかかっているそれを、触らないようにさくらんぼのようについた茎?をつまんでリオンの前に差し出す。
「……っ」
独特な匂いが鼻を突く。これはきつい。
「食べられるのかどうかは知らないけど、触るとかぶれそうだし試食はお勧めしない」
「する気にもならないだろ!」
「でも物の本には高級食材、ってあった気もする。後で拾ってみよう」
今の匂いからするに、こういう結論になる。
「……僕は食べないぞ」
「私も食べるのではなく、拾うのが好きなのです」
もはや、よく知っている。
今日のところは拾う気がないのか、 はそのまま館へ向けて木を離れた。
「お前の散歩コースはいろいろありそうだな」
「うーん、あとは魚の溜りとか、栗が頭上から降り注ぎそうなデンジャラスゾーンとか、毎日同じところにたくさん小鳥がいるところとか、周りを見ながら歩くと面白いよ」
デンジャラスゾーンはいらんだろう。
多分、この調子だと人気のないところを歩いているのだろう。細かく聞くと色々な意味で、心配事が発生しそうである。
「木の実が落ちてる小道とかはこの時期ならではの風情だよね」
そんなことを話しながら、町並みに戻る。
……エメラルドグリーン、ヒスイ色。
美しい彩のビーンズが食卓に上がったのは、それから5日ほど経ったあと。
「これは何だ?」
「珍しいものらしいけど、きれいでしょう」
オレンジの実からは想像もできなかった。
種であることも想像できなかった。
故に、リオンはそれを口にした。
少し苦みがあるが不思議な味だ。
おいしいかと言えばそうでもなく、まずいかと聞かれればまずくもない。
首を傾げるくらいのリオン。
「それ、銀杏だよ」
「……!」
食べないといったのに、食べてしまった。
正体を知らされて、無意味にひと悶着が起こるのはすぐ後。
「でもまずくはないでしょう?」
そう言って は殻のついた種を見せる。
シルクのように光沢のある硬い種。 の手の中のそのいくつかは粒も揃っていて、きれいだった。
「これがあの、腐臭の先にあるのか」
「腐臭とか言うな。まずそうだ」
珍しく逆につっこまれてリオンは観念した心地で美しい緑のそれを見た。
珍しい秋の味覚は、 の散歩の戦利品だった。
ちなみに、羽も集めているらしく、今秋から無意味なコレクター魂が発揮されていることをリオンは知った。

2017.11.07筆(12.17UP)
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