犬と猫(日常的脳内討論会)
リオンという人は、動物に例えるなら犬と言うより猫に近い。……と思う。
犬と言うのは、群れを作って上下社会を形成する。
飼い主がかわいがるつもりで、まかり間違って小型犬を「高い高い」しようものなら、その犬の中では立場上、飼い主が下で自分が主人という認識になる。
犬について少しでも詳しい人間には割と常識だ。
それでいうなら猫は横社会に近い。
猫同士のコミュニティは確かに存在し、力関係上の縄張りもあるが犬のように群れはしない。
かといって情が薄いわけではなく、オス猫も自分の子を守るような行動に出ることもあるし、メス同士が共同で育児を行うこともある。
が、基本、ボス猫の「命令」のもとに統制されて生きているわけではない。
飼い主の言うことを聞くか聞かないかも、多分に本人の意思……人間はきまぐれとでもいうのだろう、によることが多々ある。
無論、個体差はあり、だが、犬のように一様に「しつけ」ることは難しいだろう。
気が向けばお手をしてくれる猫もいるが稀である。
彼らは「できない」のではなく、おそらく言われていることを理解した上で「やらない」。老練な猫ほど、その傾向がある。
犬はしつけられれば、個体の意思よりもリーダーの命令・指示を重視する。というより、そもそも言うことを聞くように「しつけ」ができる、と言い換えることが出来るだろう。
猫は、特にお手だのおかわりだのという芸当自体をしつけることは難しい。
だが、ルールは教えれば守ることが出来るようになる。
それ以外での嫌なことはしないのだ。
そういうところが、猫っぽい。
……だがしかし。
命令系統を遵守し、的確に与えられた任務をこなす。
という意味では犬に近いのではないか。
まじめに任務に取り組み、それを達成するために合理的な判断をする。
客員剣士時代のリオンを思う。
犬にも色々いるので、愛玩犬であるチワワなどのようなものを想う者はいまい。
温和でフレンドリーなレトリバー系で無いのも確か。
だが、組織に所属し有能に任務を遂行するのは、訓練された警備犬(ガードドック)……例えば、シェパードなどだったらそれっぽいと言えないこともない。
むしろ、割とハマっている。
……。
しかし、感情表現においては、やはり猫に近かろう。
犬は……わかりやすい。
あくまで一般家庭における、一般的な飼い犬の話だ。
野犬でも同じだろう。
万能な感情表現をする尻尾の動きに加え、怒る時は唸り声、鼻にしわを寄せる等、割とすぐに感情が表に出る。それも大きな動きで。
我慢、をしても目つきに出やすい。白目の面積が増えたりする。耳の動きでもわかりやすい。
猫も尻尾と耳は感情表現の基本だが、多少の感情の動きでは何食わぬ顔をする。
例えば、興味のないおもちゃを無理やり押し付けた場合がわかりやすいだろう。
犬の前に置く。おそらく匂いをかいで、ぷいっとどこかへ行くなりするだろう。それでも押し付ければ「嫌だ」と首を振るなりのけぞるなり身体で表現するはずだ。
猫の前に置く。おそらく、無反応だ。「わざと」それがないもののように振舞う。香箱座りなどしている前ならてきめんだ。
それでもぐいぐい押し付けるとようやく嫌そうな顔をする。激情というより、顔をゆがませる程度であることが多いと思われる。
さらにしつこく押し付けてはじめて、そこからいなくなるなり、短気なら一撃くらうなりするだろう。
だが、犬のように「いやいや」と言ったジェスチャーはしない。仮に相手に一撃くらわせたとしても、ふん、とばかりにいなくなるくらいだろう。クールだ。
……やはり、猫っぽい。
犬は足の構造上、足音を立てるが猫はまるで忍者である。
表情にもそれが出ているのではなかろうか。
感情を読み取るには微細な空気を読むのが、ポイントになる。
犬は、わかりやすいのだ。
はかつて複数の犬猫などと暮らしていたため、その違いがよくわかる気はする。
ついでに言うと、鳥とも一緒に暮らしていたが、鳥は愛情深い。
表情筋が少ないため、表情がわかりづらいと物の本には書かれているが、目を見れば大体わかる。
猫とは違う意味で空気を読めば感情がわかる手合いだ。鳴き声も大事なコミュニケーションツールである。
が、犬猫のように理知的な判断と言うより本能的な感じがしないでもないので、詳細は割愛する。
……では、シェパードタイプの訓練された犬と、猫としてみたら、どうなのだろうか。
そんなふうにつらつらと考えていると、どれくらい時間は経っていただろうか。
わかりやすい事柄を思い出した。
自分のこれまでの思考をすっぱりと結果付けるくらいのシンプルな例だ。
それはスタンとカイルである。
スタンとカイルは犬である。
断じて猫ではない。
迷うことなく犬である。
それも、シェパードなどでなく、フレンドリーで陽気でわかりやすいタイプの犬種であろう。
そう考えると、「同じ」とは全く思えないので自然、どちらかといえば「猫」という結論に達することになる。
……リオンは猫っぽい。
結論が出た。
よく晴れている。
朝は雪でも降るかと思われるほど気温が落ちたが、日差しが柔らかい。
だがさすがに風は冷たくて、すっかり落ちている木々の葉は、風が吹くたびにかさかさと音を立てながら転がっている。
それを踏みながら、屋敷に戻ると空気の流れが止み、暖かな日差しだけが窓から入るため空気はぬるんでいた。
昼に程近い時間で、一番暖かくなる頃合だろうか。
午後はのんびり部屋で読書にでも興じるのもいい日かもしれない。
休日なので人気のないホールを右へと抜けて、自室に戻るリオン。
扉を開けて……
陽だまりの中、ラグの上に身を横たえている を見た。
「……」
自分が帰ってきたことに反応が無いので、声はかけずに近寄る。……眠っている。
手元には本があるが開かれていないところを見ると、単純に日向ぼっこでもしていたのだろう。
「猫のようだな」
ぽつ、と思わず呟いてリオンは静かに上着をハンガーにかけ、視界の端で少し身体を丸めるように、枕にしたクッションを半ば抱くような姿の を見やる。
静寂と、陽だまりの暖かさが部屋には満ちている。
小春日和のある初冬の日の出来事だった。
2017.11.22筆(2018.1.10UP)
大体彼女は脳内で、こんなことをとりとめもなく考えている。という例
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