春が来て
「リオン、買い物に付き合ってくれない?」
がそういうのは珍しいことだった。
大体休日には食料品の買出しに出るので、荷物持ちとして一緒に出ることは割とある。
ミルクなど大きなビン類を買うと一気に重くなるのでそんなものを女一人に持たせて、ひとりで待っているのは逆に男としてのプライドの問題でもある。
と言っても、 は で自分で持とうとするタイプなので、それなりに折半して買い込んでくるわけであるが。
そして、概ね必要なものはその時に買うので、改めてこのように買い物に付き合う、ということはまずなかった。そもそもが互いに自分のものは自分で買ってくるわけで。
「何か大物でも買うつもりなのか?」
「違うけど……駄目かな」
珍しいので、つい、いろいろと憶測を立ててしまうリオン。
そうじゃないのかとそれ以上は追求せずにつきあうことにする。とくに今日は用事もない。
天気もいいので、散歩がてら行く気にはなった。
それが間違いだったのだと思う。
……まっすぐにたどり着いた先は衣料品店だった。
衣料品と言うと、服以外も置いていそうだが、まぁ、主に服屋だ。
女性の店というより、女性をターゲットにしつつファミリー向けの品物が扱われている。
女性客がほぼ99%を占める感じがするのは気のせいではないだろうが。
「……まさかの服か?」
「うん、実は春物が全くなくてね。去年の今頃からどうしようかと思ってたんだ」
去年の今頃……ならば去年の春シーズンはどうやってしのいだのだろうか。
一緒に暮らしていたはずなのに、全く記憶のないリオン。
いや、そうじゃない。
「なぜ僕を付き合わせた?」
「……適当に見繕ってくれないかな。私はあっちから当たる」
「ちょっと待て」
一緒に見るのではなくなぜいきなり分かれようとするのか。
「お前の服だろう?」
「リオン……私は昨年も不自由を感じ、服を探したんだけど、欲しい服が全く見当たらなかったんだ」
「……」
意外とこだわりがあるのだろうか。
そのあたりは素直に聞いてみる。
「だから何だ」
素直…………
「今年もパッと見、そんな予感がするから適当に選んでさっさと帰りたい」
平和になったこの時代。復興拠点の男性陣によると、初デートはまず喜んで買い物に付き合うらしい。
しかし、それが何度か続くと「女の買い物は長い」とつきあいたくなくなる心情に陥るのが大方のお約束のようだった。
「そう言っても好みがあるだろう。ここまで来たから付き合ってやるが、自分で探せ」
「……わかったよ……」
珍しいことだが渋々と言った様子で 。
店内を眺めながら、足を進める。
レジの前には、マネキンが春の装いで並んでいた。
そしてしばし。……というには店内一周程度の短い時間。
「今年もなさそう」
本当に困ったように 。適当でいいじゃないかと思いつつ、それなりに平和な街に落ち着いている状態なので少しはおしゃれなどしたいのだろうかなどとありそうでなさそうなことを考えるリオン。
「どんなのがいいんだ」
「動きやすくかつ、派手や華美でないもの」
まぁ、わかる。
「リオン、そんな感じで適当に選んでくれる?」
自分で選ぶのも飽きるほどなのか、呆れそうな顔をしながらリオンは適当に手近にあった服をハンガーごと取り上げた。
「…………リオンはレースとか好きなわけ」
シンプルなTシャツ型だが、たまたまその服の襟口は荒く編まれたレースが花柄のような模様で縁取っている。
「好きと言うわけじゃない!」
リオン(16歳)、ジューダスの服装を思ってか、 はほぼ表情を変えずに聞いてくる。
フリフリは の趣味ではないだろうが、その服を眺めながら はあらぬことを考えていたようだった。
「私もその荒目に編まれた感じは嫌いじゃないよ。でも、私の年でそれ着たら痛くないかな」
「……お前が正確に何歳なのかは知らんが、モデルが着てるから自分もと言う無謀な感じのやつはけっこういるぞ」
遠まわしに、モデルが着ればきれいだが同じものを着て同じようになるか疑問である旨が内包された発言だ。
大体、年が云々より似合うならそれでいいではないか。
「自分が着たいものを着ればいいだろ」
「それがみつからないから、困ってる。これとかちょっと心惹かれるんだけどな~」
そういって が手にしたのはアンサンブルだ。
それなりにおとなしい色合いだが、そういえば部屋でもこんな感じのを着ていなかったか?
どうも上に羽織る系が好きらしい。と思ったら。
「これ、フェイクアンサンブルなんだよ。着るのが楽なんだ」
「……」
羽織とインナー部分がつながっているものだった。
「じゃあそれにすればいいだろ」
ため息をつきつつリオン。
「これは七部袖だからダメです。長袖がいい」
そういわれて周りを見ると、長袖らしきものがないものに気づいた。桜が咲きそうな季節直前であるが、もうアパレル業界は大分季節を先に行ってしまっているらしい。
「ついでにいうとハイネックのがいいんだけど、さすがにこの季節でその条件だとノースリーブでしかないという極端な品揃えになってくる」
「……お前な……こぞって腕だの首だの出す季節になぜそこまで隠す方へ持っていくんだ?」
「……見せるほど自慢できるものでないから」
謙虚といってよいのだろうか。 がそれを言ってしまうとふつうに首筋や胸元を開けている女性陣のレベルはいかがなものかと改めてあまりリオンはそういうことに興味がないことを知った。
「というのもあるけど、冷えるんだよね。寒いほどではなくても長袖でも全然暑いと思わないの。だから長袖で良い」
おしゃれなものより実用性重視。だが、最低限のデザイン性重視。むしろ余計なものがついているものは好みではない。
リオンには「 の気に入る服が見つからない」理由がわかった気がした。
はっきりいって、トレンドを追いがちな女性服ではその条件を満たすのは逆に難しいだろう。
ちなみに冬はなぜかインナーにあたる純毛のセーターが似たような品で売り出されるため、あまり困っていないようだ。
「なんか、色がおかしなことになってきた」
「それはな、ここが『ミセス』のゾーンだからだ」
2周目をリオンの目もあわせて見ながら回る。
ミセスと言っても年は相当上相手だろう。どれもグレイがかった妙に地味な色のものばかりだ。なのに、スパンコールがついてキラキラしていたり、正直微妙なゾーンである。
というわけで通り過ぎて、ちょっと が興味を示した場所は…
「ここは『大きいサイズ』だからな? お前が1.5人くらい入るかもしれないぞ」
「あっ、ホントだ」
紛らわしい、と言う感じだが服によってはあからさまに大きいのでなぜ気づかないのか、お前は天然ではなかったはずだと喉まで出かかるリオン。
そして、十数分で出た結論は。
「うーん、今回もダメか…仕方ない、夏まで待とう」
だった。
去年もそれで乗り切った予感。
「夏服はあるのか」
「なぜかたくさん」
汗をかく季節でもあるので、替えはあった方がいいとは思うがそういう意味ではない気もする。
深くはつきつめまい。
「もう少し早めに買いに来ればいいんじゃないのか? 大体季節を先取りで売り出されるだろう」
「かもね」
その返事の時点で、来年も服は見つけられない未来が見えた気がした。
2018.4.2筆(8.1UP)
春服が一着もない(コートはある)。
この世界だったら旅装扱ってる店の方が何かありそうですね。
……更新日が真夏酷暑日ってどうなのよという、公開の遅れ具合乙。
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