−間奏曲−インテルメッツォ
砂漠の花−トリエット
オアシスの町に入ると空気の温度が変わった。
町の北側を潤す水は透明で、火照った肌を風がほどよく涼ませてくれる。
久々の町…というには過酷な環境ともいえるが、ともあれひと心地つくのはひどく久々な気分だった。
「ふぃーやっと着いたー!」
それはロイドたちにとっても同じなのか…
一行は次の目的地へ向けて準備のために行動することになった。
といっても、買出しの準備に行ったのは武器の調達にクラトス、道具屋にはリフィル、ジーニアス。後は自由行動だ。
「凄いね〜砂漠の町!っていう感じで」
「どんな感じだ」
とりあえず今はまだこの先の話はしていない。
神子の旅に同行するとかしないとか。とにかくすぐにさよならということはないのは確かな状況だった。
ひとつめの封印を上手く解放する事が出来たからか、幼馴染3人組が先に足取り軽く行くのを見てからジューダスとも歩き出す。
足元にも細かい砂が敷き詰められていた。
砂漠よりも踏み固められてはいるが強い風が吹いたら町は黄色くなるだろう。
町の入り口から左手にはむき出しの駱駝色の広場に、露天が並んでいた。
それがいかにも異国情緒で
は意味もなく凄いなどと言ってしまったところで案の定ジューダスが呆れた。
「カルバレイスはまた違う雰囲気だったでしょ。向こうは露天なんてなかったし、オアシスというよりきちんと「町」っぽかったと思う」
言われてみれば確かに。
港もあったしそこに並んでいたのは露天というより市場だった。
それに比べるとここは本当にオアシスがあった場所に人が集まってできた場所、といった風かもしれない。
開拓前、とでもいえばいいのだろうか。貧しさはないが、定住よりも旅人のための町のようである。
「異国的なのは否定しない」
「店、見てみる?」
「そうだな」
といっても並ぶ露天の前を眺めるように見て回るくらいだ。
興味があるというより通りすがって眺めているような状態か。
ジューダスが目を留めそうな武器はといえば、和刀やコレットの使っているチャクラムなど二人からすると珍しいものもあったが、さすがにラストバトルを切り抜けただけあって自分たちには必要のないものだった。
「…何故武器に並んで遊び道具が売っている…?」
「ジューダス、それ、ジーニアスが武器にしてるでしょ」
などとジューダスが異世界に対して悩む瞬間もあったりしたわけだが。
それは剣玉だった。
「あぁ、確かに飛び道具といえば飛び道具だな」
「無理に納得しなくてもいいって」
「あれで敵を殴っていただろ」
「詠唱のリズムとってるんじゃなくて?」
ジーニアスは詠唱をするときに剣玉を使っている。
それは
にとっても軽くカルチャーショックな光景だった。見かけがお子様だから許される光景ではあると思う。
二人は早々に見学をやめて町の中央に戻るとそのまま広い道を町の奥に向かって辿った。
そちらは入り口の広場とはうってかわって大したものもないようだが代わりに緑と、オアシスの色鮮かな光景が広がっていた。
「オアシスだー」
「お前はこちらに着てから見たままの事を言うな」
「だって何かわくわくしない?こう全然違う場所に来るって」
「……」
素直に嬉しそうなので揚げ足は取らないことにする。
オアシスの水は透明で、たしかに人を癒す場所ではあった。
しかし、おいそれと近寄れないようにはなっている。
桟橋があって水番の少年が見張っていた。それほど水が貴重だということだろう。
ただ、その上を吹き抜ける水の恩恵を受けた湿り気を帯びた風だけは誰にでも等しく、自由に分け与えられていた。
「涼しい」
どちらともなくふらつくことをやめてオアシス脇の草地に移動した。
木陰に入るといままで浴びていた熱風が嘘のようだ。
腰を下ろすと急に疲労感が襲ってきた。
「
、寝るなよ」
「寝ないよ」
瞳を閉じて風の香を嗅ぐように頭を後ろの木に預けたを見て思わずジューダス。
その時、さらにその奥から賑やかな声が聞こえてきた。
「ロイドたちだ」
ジーニアスも一緒だ。リフィルが居ないが、ということはもう買い物は済んだということだろう。
「あ、
〜」
コレットが細い道から手を振ってくる。ジーニアスも両手で口元を覆うようにして声をかけてきた。
「用意終わったよ〜一旦、入り口に集まろうって!」
「──だって」
「そうか」
立ち上がる。
違和感を覚えたのはその時だった。
「あっ」
「…っ!?」
がくり、と
がひざを崩してしまった。
「おい…?」
ジューダスを掴み損なって草地に四つんばいになった状態から一瞬止まった。
立ち上がろうと試みたところで、ふらりとよろめきジューダスがそれを危うく受け止めた。
「どうした?大丈夫か」
「…あ…はは、ごめん。ちょっと気が抜けちゃって」
「どうしたの!?」
力が抜けたままの状態であると察したジューダスが一度腰を下ろさせるとジーニアスたちが駆け込んできた。
「少し疲れが出たようだな。休ませてから行かせる。先に行っててくれ」
そういわれても、と3人は顔を見合わせる。
思えば、フォルトゥナと戦って以来、休息といえるような休息はとっていない。
それは大して長い時間ではないかもしれないがあの時、彼女はかなり疲弊していたはずだ。
自分だとて、ベストコンディションであるかといえば疑問だ。
ここにくるまで気丈に振舞えていたのは異世界を如実にする日々に加え、いきなり砂漠横断と来てはむしろ気を抜いているわけにはいかないせいだったのかもしれない。
それが一息ついてしまえばどうなるか…
「お前はつくづく砂漠とは縁がないな」
さっきの場所に軽々と戻してやって自分も隣に腰掛けた。
けれど何故か
の方が心配そうにコレットたちを見上げる。
そんな視線には気づかないジーニアスは大きく肩をすくめて少々生意気そうな顔を横に振った。
「そりゃああれだけ暑くちゃね。元気なのはロイドくらいだよ」
「なんだよそれ!クラトスだってけろっとしてただろ!」
「あの人は何考えてるかわからないもん。僕も疲れたよ〜」
疲れたようには見えんのだがな。
最年少のジーニアスを眺めながらジューダスは呟きを心の中だけに留めておく。
「あっ私も!私も疲れちゃった」
「えっ大丈夫か?」
元気一杯拳を握り締めたコレットをロイドは素直に心配するが…
「ね、ロイドたち先に行っててくれないかな。私もここで少し休んでいきたい」
それを聞いてジューダスの眉が神経質に動く。
まだ、間に入ってこられるほどには彼らを認めてはいない。
が着いていきたいといったから、今はそうするだけだ。
自分のスペースに他者が不躾に入り込むことには未だ持って慣れてなどいなかった。
いや、もしかしたらそれは生来の気性としか言いようがないのかもしれないが。
「じゃあ俺も少し休んでこうかな」
「もー、姉さんたち待ってるよ!」
「ロイド、ジーニアスと一緒に行って私たち、遅れてくって言っておいて?」
「そうか?じゃあ先に行くよ」
ロイドとジーニアスは並んで道の向こうに歩いていった。
すとん、とコレットはジューダスの隣に腰を下ろす。
ジューダスはふい、と顔を背けた。
単なるおせっかいだ。天使化は確かに苦痛と変化をもたらしたようだが、むしろその後は彼女は体力的には問題ないように見える。
自分にとってはあまり好ましくなかった。
も彼女がどうしてそうしたのか、気づいたようだった。
「ごめん」
「ううん、疲れちゃったのは本当だもん。でも、どうしたの?」
間に挟まれて会話をされると居心地が悪い。
ジューダスは立ち上がるとその場から移動した。
「無理をしただけだ。気を張っていたんだろう」
「まぁそんなところ?」
まさか出会うちょっと前にカミサマと戦ってました。とは言えない。
が苦笑した時だった。
「無理ってホントに大丈夫?」
コレットがしつこく聞いてしまったのでイラりときてジューダスは顔をしかめたままこう言った。
「僕らはお前たちと会う前に神と戦っていたんだ。大丈夫なわけないだろう!」
「えっ」
「…ジューダス」
「ふん、信じる信じないはお前の勝手だがな」
わざわざコレットとは反対側にどさりと腰を下ろして腕を組み瞳を閉じるジューダス。
神と聞いて目を白黒しているのはコレットだ。
聞くからに、この世界で神と言うのはマーテルとやらだけだろうに。
「えっと…」
「コレット、冗談だから。気にしないで」
冗談と言うにはご機嫌斜めで憤然として見える。事実、あまり良い気分ではなかった。
「でもジューダスも私も、ちょっと大物と戦った後だったから…気が抜けたら少しゆっくりしたい気分かな」
「だったら少しでも休んでおけ」
横槍を入れてしまう。
砂漠に縁がないわけではないだろう。
けれど、カルバレイスでも倒れたことがあるしホープタウンに着いたときも怪我で休息を余儀なくされていた。
とすると関係ないとわかりつつもこの砂漠の町でふらふらしているのは、看過できない。
ここで喋繰っている場合ではないと言うのに。
「でも、悠長にしてたら…置いていかれちゃうしね」
「
」
「だいじょぶだよ」
にっこり笑うとコレットは立ち上がり、両手で服の汚れを払った。
「私、二人に一緒に来て欲しいと思うから」
黒い瞳と紫の瞳が同時にコレットを見上げた。
その時、ロイドたちが戻ってきてまた大きな声をかけてきた。
「おーい!」
「今日はここの宿に泊まるって!夜まで自由時間だよ〜!!」
「あ、ちょうど良かったね」
おそらくは、彼女が疲れた、と言ったことはこうなることを見越したわけではないだろう。
けれどリフィルたちはそれを聞けば休もうと言い出すのも必然に思えた。
旅は急ぐが仕損じては意味がないのだから。
「コレット、
、大丈夫?」
何度目だろうか。鬱陶しいほどに同じことを訊く3人だ、と思う。
「うん、今日はゆっくりできるならもう少し歩いてもいいかな?」
「どこに行く?!」
「この先にね、占いのテントがあるの。来る時は封印の場所なんか聞いたんだけど…今度は普通に行ってみたいな」
「おっし。ジューダスと
はどうする?」
「僕らはここにいる」
来たときのように騒がしく3人組は去っていった。
「…」
「賑やかだね」
「落ち着きがないと言うんだろう」
あの3人は幼馴染、というやつだ。
年相応ではあるのだろうが今まで「仲間」としか認識していなかった関係とは異なりどうにも慣れそうもない。
ジューダスは我知らず、溜息をついた。
「ようやく静かになったな」
「私たちも行ってみる?」
「馬鹿か。僕は休めといっているんだ。自分でまともに歩けるくらいにはな」
「うーん」
「それとも僕に抱えられて宿まで行きたいのか」
「……」
微妙〜な沈黙を返されて、振ったジューダスの方が言葉を詰まらせてしまった。
嫌なのかそれでいいのか、それすら悟れない。
「悩むな#」
「そうだね、ここの方が涼しいだろうし…」
喧騒が去って風が髪を撫でるとやはり気が緩んだのかは瞼を下ろす。
「…
?」
「寝られそう」
「寝ればいいだろ」
「…」
「
」
「ん」
寝かそうとしているのか起こそうとしているのか、自分でも良くわからないがジューダスは彼女の反応をうかがった。
思うに、彼らが戻ってくるのがいつなのか周りの状況を考えると、非常に半端な状況らしい。
「………あいつらが来たら起こしてやる」
「じゃあ寝る」
言うとあっさりこてりと草地に横になると大きく呼吸をしたのがわかった。
言葉が途切れて静かになる。
背中を向けているので眠っているのかはわからないが…
ジューダスも息をついて木の幹に背を預けた。
* * *
その晩…
はコレットと一緒の部屋だった。
あとはジーニアスとリフィル。クラトスとロイド、そしてジューダスが同室だ。
会話がさっぱりつかめない組み合わせだがまぁなんとかなるだろう。
みんなそれなりにマイペースそうだし。
人の心配をするより──
「今日は楽しかったね〜」
…自分の心配もした方がいいかと思ったが、コレットは人懐こいので特に問題はなさそうだった。
「占いとか?」
「うん、えへへ。相性占いしてもらったんだよ」
普通に女の子の会話だ。
「ロイドもジーニアスも友達、だって。良かった」
いいのか、それで。
心底嬉しそうなコレットに
。
友達であることを確認するために占いをする人間は少ない、と思う。
「あのね、
もジューダスも友達に…なれるかな?」
ジューダスは難しいだろうが。
「なれるでしょ」
自分を限定して答えるとコレットはやはり嬉しそうに笑った。
なろうと思ってなるものでもないが可能性として否定するものでもない。
「今日はありがとう」
「え、何?」
「オアシスのところで気遣ってくれたでしょ」
少ない荷物の整理をしながら
は改めて礼を言った。
コレットは大げさに両手を振ってついでに首も振ってみせた。
「そんなこと…!でも…疲れてるなんて全然気づかなかった。二人ともすごく戦い方も上手いし。ごめんね?」
「いや、私もジューダスも元々気づかれるほうじゃないから…コレットこそ旅は初めてなんでしょ?大丈夫なの」
「うん。全然へーき」
それは嘘ではないのだろう。
彼女は実際けろりとしていた。
それが逆に少々気にはなっていたが…行きの砂漠ではそれなりに辛そうだったのに、少なくとも封印解放後のトリエットまでの道のりはこんな調子だったのだ。
あの天使化の儀式が彼女に何らかの変化をもたらしたのは確かなようだった。
「それにね、二人とも一緒にいられることになったでしょう?良かった、って」
それは夕食時に決まったことだ。
改めて今後について話したところ、彼らの同行に誰も異存は述べなかった。
リフィルとクラトスについては審査続行、といった感はあるが強力な戦力の加入は歓迎らしい。あとはコレットがじゃあ決まりですね、などと悪びれも無くいえば実質的に決定のようなものだった。
「私ね…嬉しかったの」
「?」
コレットは笑みを先ほどよりもずっとおとなしいものにして自分が座っているベッドの上に視線を落とした。
「あんなふうに言ってくれる人、はじめてだったから」
いつの話だろうか。
聞かずとも彼女は答えてくれた。
「はじめて会った時に、一緒に来てくれるって…特別な人間だからとかで終わらせるのか、って」
言葉は飛び飛びだが、半分はジューダスが言ったことだ。
彼女は「特別扱いされないこと」が嬉しかったのだろう。
「頑張って、って言われなかったのがすごく新鮮で…あ、でもね神子の仕事はちゃんとしようと思ってるよ?」
「うん」
それこそ頑張って、と口を着いてでそうなところだが、はそうは言わなかった。
時には力になることだが、なんとなく他人事めいていて重要なことにこそ簡単に使うのははばかれらる。
だから頷くだけで話を聞き続けた。
「私、頑張るから…いっしょに来てくれる?」
「そうだね。旅してたくさん色々なものも見たいし」
「あ、私も〜!だってイセリアから出るなんてめったに無いんだよ?それに…」
コレットの気色が不意に沈む。
「私……になったら…もう……から」
小さく俯いた唇が動いたが聞き取れなかった。
「コレット?」
「せっかくだもん楽しくしたいよね」
何事も無いように微笑んだその顔は、年相応の笑顔でしかなかった。
あとがき**
コレットが幼馴染たちの言葉とは違う新鮮さを二人に覚えたことと、ジューダスが内心全く馴染んでないことを描きたいと思って出来た番外です。
ジューダスは
が着いてくから自分もいる、程度で…積極的に関わろうとはしていません。
やはり異世界だからでしょうか(聞くな)。ついでに踏み入られると不機嫌になるクセが水面下で勃発中(笑)
