夢ヲ見ルヨウニ、生キテイコウ―――――

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INTERVAL ルーティ=カトレット


 世の中、色んなヤツがいるわよね。
 とりわけこのパーティってばバラエティに富んでると思う。
 皆が、皆毛色が違うって言うか。
 アトワイトに話したら、あなたもそうよ、なんて言われたものだわ。
 その時はどういう意味かってくってかかったけど……
 まぁ悪いことでもないかもね。
 お互い違うのに認めながらわきあいあいってのは、結構面白いと思うし。
 だけど、そんな中になつかないヤツもいて
 ……さすがにここまで来ると達観したわ。
 それも個性なんだってね。
 ムリに踏み込んでも追い出されるだけ。意外にわかりやすいじゃない。
 でも、実はもっと厄介な手合いが一人───

「あんたたち仲いいわよね」
「「は?」」
 ここから先のことを地図を見ながら話し合う二人にルーティは唐突に話しかけた。
「何血迷ったこといってるんだ?」
 とうとう頭がおかしくなったか?とばかりにリオン
  も特に動じる気配はない
「何よ~おもしろくないわね、いい感じよねって言ってるのに反応なし?」
 ……そりゃ任務の話してる時に言われても。
 単にからかいたい気持ちで放った二度目の言葉に反応を示したのはリオンだった。
「どこをどうみたらそう見えるんだ、馬鹿者がっ」
 そう言ったリオンには明らかに動揺の色が伺える。
 そういう態度をとるとますますルーティが助長するのだが。
 お約束のパターンに気づいた は止めもせずにひっそりとなりゆきを傍観し始めている。
「だって、いつも一緒にいるじゃない。次の目的地決めるときとか、ルートの確保とか……」
「それはお前らに話しても何の解決にもならないから必然的にそうなるんだ」
「ってことはリオンは を頼りにしてるって事ねぇ? このリオンが」
「僕は求められたことに対して説明をしているだけだ!」
 ぷっ、と噴出しそうになるのをかろうじて顔をそむけることでごまかす。
  はこの二人のやりとりが好きである。
 自分が当事者にされていることも忘れておもしろがっていた。
「とか何とか言って~あんた任務にかこつけて と二人きりになりたいだけなんじゃないの~?」
「いい加減にしろっ」
「あ、じゃあとりあえず私が退席してルーティと二人きりにしてあげるよ」
「「え?」」
 わけのわからん提案もお手の物だ。
  は笑いを堪えきれなくなったかのようにそういい残して部屋を出て行った。
 ちょっと待て。
「……なんでこうなる?」
「そんなこと私に聞かないでよ」
 ルーティはあっけにとられてそれを見送ってしまっている。
「ねぇ、 って……大丈夫なの」
「何がだ」
「何がって……」
 そう言われると困る。何がどう、という訳でもないのである。
 記憶喪失という割には気楽にやっているようにも見えるし、慣れないはずの旅の最中においてもソツなく動いている方だ。
 むしろ、仲間の中では一人にしておいても一番心配ないタイプだろう。
 それなのに。
 何なのだろう、この違和感は。
 口篭もっているとリオンの方から声がかかった。
 それはひどく抽象的な言葉で。
「お前は気づいていないわけではないんだろう?」
 珍しく真摯な態度。
 ルーティはまっすぐに見つめられてつい、視線をそらした。
「うん、知ってる」
 意外と鋭いのよね、こいつ。
 意外と、と言う言葉が適切なのかどうかはわからない。
 それだけいつも緊張感を持続させて周囲に気を配っているということだ。
 そういう意味なら確かにリオンは機微に聡いと言える。
 フィリアやマリーやスタン。
 どちらかといえば「ボケ」が多いこのパーティでは繊細な部分に気づく人間は自然と決まってくる。
 ルーティも何気に気づくことは得意だが性格上、ほかに注意力が散漫していることも多かったり、いつも難しいことを考えているわけではない。
 というかそれこそ集中力が持たないのは自分でも目に見えていた。
  は、放っておいても大丈夫。
 判断力、行動力、そして一人で事に当たる気構えはたぶん、わがままな私たちとは比べ物にならない。
 それが、かえって何かを抱え込んでいるようで。
 しかも自覚しているようにそれを取り落とそうともしない。
「もう少し頼ってくれてもいいのに」
「頼れるほどの人間か? お前は」
「何よっ! もっと仲良くしたいって思うのがそんなに悪い!?」
「……下らん」
 そうだった、こいつにそんなこと言っても無駄。
 自分の失言を悔やむ前にリオンが追撃を放ってくる。
「だったら、お前から突っ込んでみたらどうだ。得意だろう? 人の領域を踏み荒らすのが」
「なーんですってぇぇえ!?」
 ふん、と向こうを向いたまま。
 リオンはもう、当てになりそうもない。
 しょうがないわね……
 ルーティは小さく溜息をついた。
 でもね。それじゃダメ。
 あの子は多分、頭がいい。
 だから私たちがいくら気休めを言っても真実を誤魔化すことはできないのよ。
 きちんと伝わってはいるけれど、それでは解決できないことがわかっているから。
 自分が考えて決めるべきことをわきまえている、とでもいうのかしら。
 あるいは見極める力を持っている。
 だからあの子の懐に入るならば、本質を理解する人間である必要がある。
 その上で、ごまかしたりしないこと。
 詭弁は通用しない。
 それらを解決に導くのはせめて彼女と同等に話せる人間で
 おそらく、深入りしない一方ではっきりと物が言えるほうが良い。
 それが の信頼を得ることができる人間……?
 なぜか信頼だとか安心だとという言葉とは最も程遠い人物しか思い当たらず、ルーティはその矛盾に顔をしかめるしかなかった。
「何だ」
 その視線の先で無表情にリオン。
 何も答えず、ふぅっという溜息をつかれ彼は不愉快そうに眉を寄せる。
 リオンはひねくれてて、口も悪い。
 けれど「ウソ」はつかない。
 フィリアが沈んだときは私やスタンでもなんとかなる。
 でも はそうはいかない。
 だから
「あんた、しっかりしなさいよ」
「なぜ今頃、しかもお前にそんなことを言われなければならないんだ」
 言われていることがわからず「?」と訝しげな表情が返ってくる。
 勝手に完結して、勝手に言いたいことだけ言うルーティに、とうとう呆れた視線を投げかけるリオン。
 そんな彼には構わず口笛でも吹き出しそうな勢いの彼女の口調は重くない。
 まあいいわ。
 別に指摘しなくても勝手にやってくれそうだから。
「私はもう少し解決したら、おいしいところで仲良くなることにするわ」
「?」
 ルーティはふっきれたようにそういって部屋を出て行った。さっぱりわけがわからないままのリオンを置いたまま。

 はっきりいって私も人をみる目はあると思う。
 孤児院でたくさんの子供を見てきたからかもね。
 気付いてるのかしら。
  ってばあいつといる時が一番気が緩んだ顔しているのよ。
 ……私に言わせると……それこそ理解できないわ……有り得ないわよ。
 でも、もしかしたら、あいつなら絶対立ち入られないって思ってるのかもね。
 でも、覚悟しなさい。
 もう少しして、その壁が緩くなったら……
 私も遠慮なく立ち入らせてもらうからね。

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