オズの魔法使い 2
「ふふふ、食べちゃうぞ」
「恐ろしい!!!」
「ちょっと待て。なぜ僕がブリキ役でお前がライオンなんだ」
「ウッドロウさん、こんにちは!」
全然怖くないのかかかしは笑顔で挨拶をしています。
「君、ほら、ネコ科は好きだろう? 存分に触ってくれても構わない。恐ろしいなんて思ってもいないくせに」
「成人男性の猫耳恐ろしい」
ドロシーはどこが恐ろしいのか、理論的に述べてみました。
「それにライオンはちょっとネコ科でも特別で、特にオスはどんくさいイメージですね」
「それでもブリキよりマシだと思うが、どうかね」
「まったくだ#」
ブリキのきこりは配役におかんむりです。
『ライオンなんて坊ちゃんの方が似合うにきまってるじゃないですか! 名前のスペル舐めないでください!』
まぁ納得。
「大体、ここで出てきたということはお前も一緒に行くということだろう。一体、何が望みだ!」
そういわれると大体持てるものは持ってる感じがしないでもない。
スタンも気になるのかなぜかわくわくしながら返答を持っている。
「実はわたしは臆病ものなのだ」
「えぇっ!」
まともに反応したのはスタンだけだった。
ふっと、嘲り笑うような笑みを放ってから遠くを見やるブリキのきこり。
ここはどうしてと聞いてやらなければならないところだが、聞く気がしない。
彼は勝手に話をつづけた。
「ライオンと言えば百獣の王だろう? 吠えれば大抵のものが逃げる。だがさすがにゾウやクマが襲ってきたら逃げるだろうな」
「お前はカンバラーベア一匹一人で倒せないのか」
薄い笑みが消えないブリキのきこり。
しかし、ライオンは聞いてません。
「何より、愛する人に告白し、その人の愛を手に入れる勇気がない」
「誰のことだか知らないけど早くエメラルドの都へ行こう」
ドロシーはすたすたと歩きだしました。
ブリキのきこりとトトが続きます。
「えっ、ウッドロウさんは!?」
「何、問題ない」
前と後ろに顔を行ったり来たり向けるかかしの肩にライオンは手を置きます。
「私も一緒に行こう」
こうしてライオンも一緒に歩きだしました。
「……私、ふつうに臆病なライオンは原作ので良かったなー」
あんちょこ再び登場。
『ブリキのきこりをはじきとばして爪がおかしいって…実は心臓がどきどきしてるライオンとかかわいいね』
「ブリキのきこりは心がある証拠だからうらやましいって。おもいやりもあるからだって」
「ないだろ。むしろ勇気よりおもいやりをもらいに行け」
ドロシーはしっぽの先でなみだをふく臆病なライオンならもふもふしたいのにと思いました。
そしてさらに翌日。
小さな谷が道を遮っていました。
谷底は深く岩がゴロゴロしています。
『困ったね、どうしよっか』
「というか、なぜ街道に橋がかかっていないのか……」
「いいから、いちいち疑問を提示するな」
ブリキのきこりもかかしも谷底を見ながら思案に暮れています。
「ふふふ、さっそく私の出番のようだ」
そういってライオンは注意深く谷の幅を目で測りました。
「私なら跳べる。さぁやってみるとしよう」
そして、背中をこちらへ向けます。
「一番軽いのがかかしだし、落ちてもケガしない設定だからスタン一番ね」
「お願いします、ウッドロウさん!」
「うっ」
ライオンはまず、かかしをのせて谷を飛び越え……
「あ~~~~………!!!」
「まぁ、大の男二人じゃ重いだろうな」
幅は4m無いくらいだったので、ブリキのきこりとドロシーは、幅跳びの要領で向こう岸にたどり着きました。
「し、死ぬかと思った……」
「私もだよスタン君……」
「ライオンさんは勇気があるわ。決して臆病なんかじゃないわ」
「棒読みだぞ、」
ドロシーは、さすがライオンはけものの王だと思いました。
そしてみんなはまた黄色いレンガの道を歩き出しました。
しばらく行くと、今度はおかしな音が聞こえてきます。
「モンスターの声だ!」
「この声はまずいな。とりあえず逃げるしかないか」
ライオンがまっさきに逃げ出すとみんなも走り出しました。
ところがまた、大きな谷が行く手を遮っていました。
「さて、どうしよう」
「がけっぷちに大きな木がある! あれを切って倒そう!」
かかしが大きな声で言いました。
「大きな木が切れるくらいなら、モンスターが倒せるのでは」
「正論だが、僕に任せておけ」
ブリキのきこりが一刀両断のもとに大木を切り倒し、ライオンが感心したようにつぶやきました。
「脳みそがないなんて、信じられないなスタン君」
「それ、本気で言ってる? ウッドロウ」
「モンスターだ!」
ドロシーがまずトトを抱いて渡り、つぎにブリキのきこり、かかしが続きました。
そしてライオンがさいごにとびのり木を渡り始めると二頭のモンスターも橋に飛び乗り襲い掛かろうとしています。
「待ってくれたまえ!」
仕方なく、ブリキのきこりはライオンが渡り終えるのを待って振りかざしていた刃を勢いに任せ打ち付けました。
大木の橋はどーっとモンスターたちといっしょにおちていきました。
こうして、おそろしいモンスターを(実質リオン一人で)やっつけたドロシーたちは、やっとながい森の中の道を抜けました。
ところが、森を抜けてほっとしたドロシーたちを待ち構えていたのは大きな川でした。
みんなはいかだを作って川を渡ります。
ドロシーはトトを抱いてのりこみ、臆病なライオンはいかだの真ん中に座り込みました。
「おい#」
「はっはっは、私は臆病で水が怖くてね」
そういう設定なので仕方ありません。
全然怖そうじゃないライオンを真ん中に仕方なしにかかしとブリキのきこりは、長い棒でいかだを動かしました。
いかだが川を横断するように進むと、急に流れが激しくなって、いかだはどんどん川下へ流され始めます。
「大変だ! レンガの道が遠くなっちゃうよ!」
「まぁ想定してしかるべき事態だな」
流れているのだから直線で横断するのは無理と言う結論に落ち着いているブリキのきこり。
かかしは慌てて長い棒を力いっぱい川底に突き刺しました。
ガッ。
「うわー!」
「スタン君!!」
ところが、棒が川底から抜けなくなってしまったのです。
かかしだけ棒と一緒に川の上に取り残されてしまいました。
「かかしは勇気ある行動をしているけど、今のは間抜けだと思う」
「僕も同意だが、このままだと僕らも危ないぞ」
川のまっただ中で棒一本にしがみついているかかしはどんどん遠くなっています。
「よし、こういう時はセオリー通りに行くんだ」
ドロシーの一言にブリキのきこりとトトの視線もその先へ向かいました。
すなわち、残った臆病なライオンに。
「わかった。ライオンが向こう岸まで泳ぐからしっぽを全力で掴んでろ」
「私かね!?」
「ライオンさんは本当は勇敢なんだよね。水も滴るいい男になれるよ」
「任せたまえ」
ドロシーの一言でライオンはそういって川に飛び込み、一生懸命泳ぎだしました。
『流されてる! 流されてるよ!』
「まぁ雪国育ちでは泳ぎのスキルがあるとは思えないから……」
ブリキのきこりはドロシーにしっぽを任せて棒でなんとかいかだを誘導することに成功しました。
「どうかね……私はいい男かね……」
はぁはぁと死にそうな息遣いで四つん這いにうめくライオン。
「なに、問題ない」
ドロシーが意味深な言葉を返してから二人と一匹はダッシュでかかしの元に戻っていきました。
かかしは長い棒の先で、べそをかいていました。
「誰か、助けてあげてください」
『あー僕がソーディアンだったらねぇ……』
「よし、ライオン。もう一回泳いでスタンを連れて帰ってこい」
ライオンは無理とばかりにぜーぜーと息を切らしていましたが、その時、コウノトリが空から降りてきました。
「助けてあげたいけど、あんなおもそうな人形は無理かなぁ……」
「大丈夫。かかしの中身は軽いわらだもの」
ドロシーのさわやかな笑顔にコウノトリはがんばってスタンを運んできてくれました。
かかしはみんなに抱き着いて喜びました。
そして、みんなはまたレンガの道を歩き出します。
すると今度は、広いケシ畑に差し掛かりました。
「わー、きれい!」
「しかし、なんて強いにおいだ」
咲き誇る花々にドロシーも笑顔になります。とてもあまい良い香りがしていました。
「な、なんだろ……オレ急に眠く……」
「起きろ。そして寝るのはこっちの役割だ」
「えー眠くないよ」
かかしとブリキのきこりとドロシーが会話をしています。
ブリキのきこりはその匂いに毒があることに気が付きました。
ライオンも大きなあくびをしています。
「僕とスタンでを運ぶからライオンはひとりでここから逃げろ」
なぜ、ライオンは名前ではなくライオンと呼ばれるのか。
誰も謎に思う人はここにはいません。
「ウッドロウさんを…置いていく、な ん て ………ふわーぁ」
「お前はいいからさっさとここを離れろ#」
むしろかかしの方が即効性がありそうでしたが、一番先に行ってもらうことで事なきを得ることができました。
「シャル―? おーい」
『ZZZ……』
トトは真っ先にやられていた模様です。
ともかくブリキのきこりはドロシーを連れて走ります。
そして、かかしが横向きに倒れそうになってケシ畑がもう少しで終わるところで、眠ってしまったライオンに気づきました。
「一応毒だからこのままにしておいたらライオンは死ぬわけだが……」
「それが狙いで置いてきたのでは」
かかしとブリキのきこりはライオンをそのままにしてドロシーをケシ畑から離れた草むらに運ぶと、ほっと息をついています。
「ダメだよ! ウッドロウさんを助けないと!」
「お前が行けば即効寝るだろ。かといって僕が行ってもあの重い体を毒気の中運ぶのは無理だぞ」
ふたりはライオンに助けられたことを思い出しました。
「いいやつだったが、どうしようもないな」
原文のままブリキのきこり、棒読み状態。
その時、草むらから野ネズミが飛び出してきました。
「たすけてー!!」
見ると赤い目をしたヤマネコが今しも野ネズミを捉えようとしていました。
ドロシーが思わず、ヤマネコに飛びつくとヤマネコは突然の出来事にびっくりしてパニックになって逃げて行ってしまいました。
「あーねこ~」
「残念そうだな」
「助けていただいて、ありがとうございます!」
助けようとしたのと、猫をもふもふしたかったのが半々ぐらいだと思いつつ、ブリキのきこりは小さなねずみを見下ろしました。
「私は野ネズミの女王です。本当にありがとうございます」
ネズミは何度も頭を下げました。
するといつのまにか草むらからたくさんの野ネズミたちが現れてドロシーの周りに集まりました。
「全員でかみつけば、猫一匹撃退できたのでは……」
呟くドロシーに女王はいいました。
「さぁ、みなのもの! 私の命の恩人様の願いをなんでもきいておあげなさい!」
「特にありません」
ドロシーがきっぱりと言った時、やっとかかしがわらの詰まった頭でライオンのことを思い出しました。
「そうだ! リオン、ウッドロウさんをなんとか助けてもらおうよ!」
「……どうしてもか?」
なぜか渋るブリキのきこり。
ネズミたちはそれが頼みならばと大勢で走って行って、下からライオンを持ち上げるとかわるがわる前進しながら結構な勢いで帰ってきました。
「ネズミさん凄いね」
やがてトトとライオンも目を覚まし、みんなは野ネズミの女王にお礼を言いました。
「些事に足労かけてすまなかったな」
いろんな意味が含まれているようです。
「いえいえ助けてもらったのは私ですから」
そういって野ネズミの女王はたくさんの野ネズミたちと一緒に去っていきました。
つづく