「
、ちょっと私と勝負しなさい」
ハロルドの言うことは、いつもと同じく唐突だった。
ハロルドの言うことは、いつもと同じく唐突だった。
-天才様三本勝負-
天才の考えていることは分からない。
いきなりの宣戦布告に仲間がざわりとしたところ、 の返答たるや……
「嫌だ」
割と冷静な判断だった。
「なんでよ」
「ハロルドこそ、なんで勝負とか? 私と勝負したってしょうがないでしょう?」
時は天地戦争時代。ラディスロウの中での出来事だ。
暇つぶしとしか思いようもなかったが、違ったらしい。ハロルドは厚い唇を尖らせて不満な顔を示す。
論理的思考は得意だが、感情の表現も相当豊かだ。
「私の勝負が受けられないっての?」
「なんの勝負か知らないけど、勝算のない勝負などしません」
「私、あんたのそういうところ嫌いよ」
随分とはっきり言う。カイルたちは何事かとハラハラしだしたところだが、 本人はどこ吹く風だった。
「そういうところってどういうところだよ…」
特に不穏なことが前もってあったわけでもなさそうなので、ロニが理解不能という渋い呟きを落とす。
と、ハロルドはくるりとリボンを翻し、ロニに指先を突きつけた。
「張り合い甲斐のないところよ! 随分とあっさり退きすぎるじゃない。ちょっとは負けたくないとかむきになるとかするのが普通ってもんなのよ!」
「ハロルドに『普通』を語られるとはな」
ジューダスがこれ以上ないほどの絶妙な指摘を明後日な方向に向かってため息とともに吐き出した。
「天才相手にむきになるほど、身の程知らずじゃない」
「何してるんだい?」
そこへカーレル=ベルセリオスが現れる。
通りすがって、妹の憤慨ぶりが気になったらしい。
「兄貴、聞いてよ。 が私の勝負を受けてくれないのよ」
「勝負ってなんの?」
話がスタート近辺に戻った。
「そうだねぇ…ハロルドが珍しくなんだか本気で言ってるんだから、内容くらい聞いてみたらどうだい?」
ナナリーが間を取り持つ。
「……」
男性陣、数人から沈黙が流れた。どうせろくでもないことだからやめておけという空気を感じる。
その通り、余計な同情である。
「なんでもいいのよ。勝負方法は」
「えー」
余計ややこしいことになる予感がする。
「ハロルド、どうしたんだい? お前から勝負を挑むなんて珍しいじゃないか」
「別に。あんまりにも我関せずな様に意味もなく腹立たしくなってきただけよ」
何もしていないのに、ハロルド=ベルセリオスを憤慨させた女───…
ある意味、ハロルドをぞっとさせた男として名を残すであろうリトラーにも匹敵する。
「だって、真性の天才に勝てるわけないじゃない。負けず嫌いゆえに、負ける勝負は受けないって言えばいいの?」
「「「………………………」」」
到底、負けず嫌いという感情が伴っているようには見えないが。
ジューダスにはちょっとわかってきた。
この「相手にしてない感」がハロルドには気に食わないのではないだろうか。
「そう、そういうつもり」
ハロルドはうつむいてふふふふと笑う。 とカーレルを除いた全員の背筋に悪寒が走った。
「じゃあ、条件つきってのはどう?」
「条件?」
興味を示す 。これは生来なら妥協やハンデであり、 を有利にするというものでもある、はずだ。普通の交渉であれば。
「あんたが私に勝ったら、当面、男どもをデータ採取や実験に使うのはやめるわ」
なぜ、男性陣の保身のために危険と思われる勝負を受けなければならないのか。
口を開こうとした をさえぎってロニが叫ぶ。
「なんだとぉ!!!?」
「そ、それは大変な問題だ…!?」
なぜ疑問系なのだ、カイル。
「 が負けたら?」
「全員まとめて、実験行きよ」
「ハロルド、それはないよ!」
「 、勝負を受けろ! 全員の命がかかってる!」
「……」
が応じないなら、周りを煽る。手段としては利口だが、割と卑怯だ。
しかも、勝っても負けても本当の意味でのメリットがないことにほぼ全員、気付いていない。
「受けなかったら?」
「不戦勝よ」
「受ける!受けます!!」
「喜んで!」
腹話術でもないのに、カイルとロニにより、勝手に手を持ち上げられている。
の表情が仕方ないというものになったのを見て、カーレルがほほえましそうに笑った。
ジューダスからは「僕は知らん」という声が聞こえてきそうだった。
勝負方法を指定してきたのはハロルドだ。
もはや、どちらにハンデがあるのかわからない事態である。
せめて決めさせて欲しいと思う一方で、どんな勝負でも結果も経緯も似たようなものであろうと、悟りの境地の 。
「それでは最初の勝負はー?」
最初って、何本勝負するつもりなんだ一体。
「このパーティの仲間たちを和やかに楽しませること☆ よ」
「なんだそれ…」
おもわずがくりとなる一同。
ハロルドは先ほどまでの不機嫌さはどこへやら。ノリノリである。
しかし、 の瞳が一瞬細められたのをジューダスは見逃さなかった。
勝機を見出したのには間違いない。というか、ハロルドが良かれと思ってやることでも大抵、みんな酷い目にあうので、むしろ勝敗条件は悪くない。
「どうせならみんなが楽しく幸せになる勝負をする! 素晴らしい上官よね」
「まぁ、それなら方法は問われないだろうから…」
が承諾したので、カーレル立会い(というか見学)の下、双方、やる気が向き合わないまま勝負が始まった。
「そうと決まれば早速!」
ハロルドはみんなが集まっている部屋を出て行った。何をしでかすつもりだろうか。
わくわくとは質の異なるドキドキした妙な緊張が部屋に漂っている。
「 、頑張れよ!」
変な期待。
「じゃあ私も材料調達に行ってくるわ…」
ため息とともに は出て行った。
数分後。
「みんなー! できたわよー!!!」
「な、なんだそれは!」
持ってきたものを見て、ロニが一歩引く。
「室内用擬似雪合戦ロボット、スノー投げルン!!」
なるほど、寒い外に出るよりあたたかい室内で雪合戦ができれば楽しかろう。
しかし、相変わらずネーミングセンスが微妙なロボットが動き出し、 が一歩遅れて部屋に入ると、予想通り凄惨な状況が待ち受けていた。
「ぎゃああ!!!」
「痛い痛い痛い!!」
投げられているのは溶けない雪のようなものだが、速度は180km/sに達しているであろうか。
ロボットは複数射出口のあるピッチングマシーンのようなもので、あきらかに攻撃用であるように見える。
案の定、まっさきに餌食になっているのはカイルとロニだった。
「ハロルド…雪合戦って言うのは、複数対複数が楽しいんじゃないかな?」
にこやかにカーレル。兄の心中は計り知れない。
「そう? じゃあもう一機増やしてこようかしら」
「やめろ」
そこで、一旦ロボットを止めたため、視線は に向いた。
「あぁ、 ーー!!」
もはや救いを求めているカイル。
「って、なんだよ、それ、材料?」
の手には廃材のビニールパイプとビニールひもしかもたれていない。
は、部屋に備え付けの事務用品の棚のところへ行って、ビニールひもを裂き始めている。
「?」
何をしているのかと視線が集まる。
の手の中で1本の平たく薄いビニールひもは2本、4本とどんどん細くなって、もとの形がなくなる頃に は中心を一箇所縛った。
「ウィッグ」
「…………」
手元を覗きに来たカイルの頭に乗せる。無表情なので、本気でもシャレのつもりでもないだろう。
単に、カイルの頭を置き場所に選んだに過ぎない。その程度だ。
証拠に、 はすでにパイプの方に視線を向けている。
ティッシュを何枚かとると、あらかじめ汚れを落としてきたのだろう、廃材にしては表面がきれいになっているパイプをこすりだす。
「「「?」」」
謎の行動だ。
が、その時点でハロルドはピンときたらしい。顔が不穏にゆがめられる。
はカイルの頭に乗ったままの白いもとはテープであったものを手に取って、空に放る。
「!!!!!」
パイプを下から近づけるとそれは大きく広がって、生き物のようにふわふわと空間を上下した。
「何それ!!!」
「なんで? なんで!?」
パイプの動きに合わせて中空を上下する様はさながらくらげである。
ほい、とパイプをカイルに渡すと彼はおおはしゃぎで、リアラ、ロニ、ナナリーと盛り上がりだした。
「……考えたな」
ただの静電気ではあるが、おもちゃとしては十分な代物である。
無論、温度が格段に低く乾雪が降る天地戦争時代ならではの現象でもある。
この時代にはパイプがせいぜいだが風船でやるとなお、子供にはウケるであろう。
「やるわね」
大したことはしていない。
「野郎どもは単純すぎて問題にならないわ。次は対象を絞るわよ」
「待て、僕を一括りにするな」
ジューダスの非難を無視してハロルド。
和やかになった一行を見て、次の勝利条件を指定する。
「女子を感心させた方が勝ち!」
とんでもない条件だった。
いきなりの宣戦布告に仲間がざわりとしたところ、 の返答たるや……
「嫌だ」
割と冷静な判断だった。
「なんでよ」
「ハロルドこそ、なんで勝負とか? 私と勝負したってしょうがないでしょう?」
時は天地戦争時代。ラディスロウの中での出来事だ。
暇つぶしとしか思いようもなかったが、違ったらしい。ハロルドは厚い唇を尖らせて不満な顔を示す。
論理的思考は得意だが、感情の表現も相当豊かだ。
「私の勝負が受けられないっての?」
「なんの勝負か知らないけど、勝算のない勝負などしません」
「私、あんたのそういうところ嫌いよ」
随分とはっきり言う。カイルたちは何事かとハラハラしだしたところだが、 本人はどこ吹く風だった。
「そういうところってどういうところだよ…」
特に不穏なことが前もってあったわけでもなさそうなので、ロニが理解不能という渋い呟きを落とす。
と、ハロルドはくるりとリボンを翻し、ロニに指先を突きつけた。
「張り合い甲斐のないところよ! 随分とあっさり退きすぎるじゃない。ちょっとは負けたくないとかむきになるとかするのが普通ってもんなのよ!」
「ハロルドに『普通』を語られるとはな」
ジューダスがこれ以上ないほどの絶妙な指摘を明後日な方向に向かってため息とともに吐き出した。
「天才相手にむきになるほど、身の程知らずじゃない」
「何してるんだい?」
そこへカーレル=ベルセリオスが現れる。
通りすがって、妹の憤慨ぶりが気になったらしい。
「兄貴、聞いてよ。 が私の勝負を受けてくれないのよ」
「勝負ってなんの?」
話がスタート近辺に戻った。
「そうだねぇ…ハロルドが珍しくなんだか本気で言ってるんだから、内容くらい聞いてみたらどうだい?」
ナナリーが間を取り持つ。
「……」
男性陣、数人から沈黙が流れた。どうせろくでもないことだからやめておけという空気を感じる。
その通り、余計な同情である。
「なんでもいいのよ。勝負方法は」
「えー」
余計ややこしいことになる予感がする。
「ハロルド、どうしたんだい? お前から勝負を挑むなんて珍しいじゃないか」
「別に。あんまりにも我関せずな様に意味もなく腹立たしくなってきただけよ」
何もしていないのに、ハロルド=ベルセリオスを憤慨させた女───…
ある意味、ハロルドをぞっとさせた男として名を残すであろうリトラーにも匹敵する。
「だって、真性の天才に勝てるわけないじゃない。負けず嫌いゆえに、負ける勝負は受けないって言えばいいの?」
「「「………………………」」」
到底、負けず嫌いという感情が伴っているようには見えないが。
ジューダスにはちょっとわかってきた。
この「相手にしてない感」がハロルドには気に食わないのではないだろうか。
「そう、そういうつもり」
ハロルドはうつむいてふふふふと笑う。 とカーレルを除いた全員の背筋に悪寒が走った。
「じゃあ、条件つきってのはどう?」
「条件?」
興味を示す 。これは生来なら妥協やハンデであり、 を有利にするというものでもある、はずだ。普通の交渉であれば。
「あんたが私に勝ったら、当面、男どもをデータ採取や実験に使うのはやめるわ」
なぜ、男性陣の保身のために危険と思われる勝負を受けなければならないのか。
口を開こうとした をさえぎってロニが叫ぶ。
「なんだとぉ!!!?」
「そ、それは大変な問題だ…!?」
なぜ疑問系なのだ、カイル。
「 が負けたら?」
「全員まとめて、実験行きよ」
「ハロルド、それはないよ!」
「 、勝負を受けろ! 全員の命がかかってる!」
「……」
が応じないなら、周りを煽る。手段としては利口だが、割と卑怯だ。
しかも、勝っても負けても本当の意味でのメリットがないことにほぼ全員、気付いていない。
「受けなかったら?」
「不戦勝よ」
「受ける!受けます!!」
「喜んで!」
腹話術でもないのに、カイルとロニにより、勝手に手を持ち上げられている。
の表情が仕方ないというものになったのを見て、カーレルがほほえましそうに笑った。
ジューダスからは「僕は知らん」という声が聞こえてきそうだった。
勝負方法を指定してきたのはハロルドだ。
もはや、どちらにハンデがあるのかわからない事態である。
せめて決めさせて欲しいと思う一方で、どんな勝負でも結果も経緯も似たようなものであろうと、悟りの境地の 。
「それでは最初の勝負はー?」
最初って、何本勝負するつもりなんだ一体。
「このパーティの仲間たちを和やかに楽しませること☆ よ」
「なんだそれ…」
おもわずがくりとなる一同。
ハロルドは先ほどまでの不機嫌さはどこへやら。ノリノリである。
しかし、 の瞳が一瞬細められたのをジューダスは見逃さなかった。
勝機を見出したのには間違いない。というか、ハロルドが良かれと思ってやることでも大抵、みんな酷い目にあうので、むしろ勝敗条件は悪くない。
「どうせならみんなが楽しく幸せになる勝負をする! 素晴らしい上官よね」
「まぁ、それなら方法は問われないだろうから…」
が承諾したので、カーレル立会い(というか見学)の下、双方、やる気が向き合わないまま勝負が始まった。
「そうと決まれば早速!」
ハロルドはみんなが集まっている部屋を出て行った。何をしでかすつもりだろうか。
わくわくとは質の異なるドキドキした妙な緊張が部屋に漂っている。
「 、頑張れよ!」
変な期待。
「じゃあ私も材料調達に行ってくるわ…」
ため息とともに は出て行った。
数分後。
「みんなー! できたわよー!!!」
「な、なんだそれは!」
持ってきたものを見て、ロニが一歩引く。
「室内用擬似雪合戦ロボット、スノー投げルン!!」
なるほど、寒い外に出るよりあたたかい室内で雪合戦ができれば楽しかろう。
しかし、相変わらずネーミングセンスが微妙なロボットが動き出し、 が一歩遅れて部屋に入ると、予想通り凄惨な状況が待ち受けていた。
「ぎゃああ!!!」
「痛い痛い痛い!!」
投げられているのは溶けない雪のようなものだが、速度は180km/sに達しているであろうか。
ロボットは複数射出口のあるピッチングマシーンのようなもので、あきらかに攻撃用であるように見える。
案の定、まっさきに餌食になっているのはカイルとロニだった。
「ハロルド…雪合戦って言うのは、複数対複数が楽しいんじゃないかな?」
にこやかにカーレル。兄の心中は計り知れない。
「そう? じゃあもう一機増やしてこようかしら」
「やめろ」
そこで、一旦ロボットを止めたため、視線は に向いた。
「あぁ、 ーー!!」
もはや救いを求めているカイル。
「って、なんだよ、それ、材料?」
の手には廃材のビニールパイプとビニールひもしかもたれていない。
は、部屋に備え付けの事務用品の棚のところへ行って、ビニールひもを裂き始めている。
「?」
何をしているのかと視線が集まる。
の手の中で1本の平たく薄いビニールひもは2本、4本とどんどん細くなって、もとの形がなくなる頃に は中心を一箇所縛った。
「ウィッグ」
「…………」
手元を覗きに来たカイルの頭に乗せる。無表情なので、本気でもシャレのつもりでもないだろう。
単に、カイルの頭を置き場所に選んだに過ぎない。その程度だ。
証拠に、 はすでにパイプの方に視線を向けている。
ティッシュを何枚かとると、あらかじめ汚れを落としてきたのだろう、廃材にしては表面がきれいになっているパイプをこすりだす。
「「「?」」」
謎の行動だ。
が、その時点でハロルドはピンときたらしい。顔が不穏にゆがめられる。
はカイルの頭に乗ったままの白いもとはテープであったものを手に取って、空に放る。
「!!!!!」
パイプを下から近づけるとそれは大きく広がって、生き物のようにふわふわと空間を上下した。
「何それ!!!」
「なんで? なんで!?」
パイプの動きに合わせて中空を上下する様はさながらくらげである。
ほい、とパイプをカイルに渡すと彼はおおはしゃぎで、リアラ、ロニ、ナナリーと盛り上がりだした。
「……考えたな」
ただの静電気ではあるが、おもちゃとしては十分な代物である。
無論、温度が格段に低く乾雪が降る天地戦争時代ならではの現象でもある。
この時代にはパイプがせいぜいだが風船でやるとなお、子供にはウケるであろう。
「やるわね」
大したことはしていない。
「野郎どもは単純すぎて問題にならないわ。次は対象を絞るわよ」
「待て、僕を一括りにするな」
ジューダスの非難を無視してハロルド。
和やかになった一行を見て、次の勝利条件を指定する。
「女子を感心させた方が勝ち!」
とんでもない条件だった。
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