ツインコンチェルト 9
町の外に出れば、ソルたちは追ってはこなかった。いかに腕が立とうが、数でも劣っている。野外での戦いは容赦せずに晶術なども使えることから不利と判断したのだろう。リエットが息を切らして草の上に膝をついてしまったので、
たちもその場で一呼吸置くことにした。
「なんか、私たちこの間から逃げてばっかりな気が」
「まともに取り合うだけが能じゃないわ。いいんじゃない?」
意外と体力があるのかアーネストがけろりとして言う。風がさわさわと草原を渡っていく。世界に錯綜する思惑とは別に、のどかだった。
「でもアルディラスが……」
「いいのよ。あなたがちゃんと持ってきてくれてるから」
「は?」
思わず素っ頓狂な声で聞いてしまう。そんな声を上げたのはイーヴと同時だった。アーネストの顔は
に向いている。ウィスがなぜか顔をしかめた。
「あなた、適格者だったみたいね。剣はちゃんとあなたの身の内に収められているわ」
「適格者って……私の中に?」
「そ。訓練すれば呼び出すことができるわよ~」
「訓練って言われても。そんな時間もないし、どうしていいのかわからないよ」
「ウィス君にでも教わりなさい」
ウィスに? 今度は視線がウィスに集まった。
「ウィスはウェリタスの適格者だから……今も持ってるはずだわ。ねぇ」
「……」
ウィスは無言で視線をそらせていたが、諦めたようにため息をつくと右手を胸の前に上げた。光がゆらりとたゆたったかと思うと形になる。『剣』の形に。
その剣は淡い碧の光をまとって凛とした白刃を陽光にきらめかせていた。
「これが、ウェリタスですか?」
「あーなんだか宝剣って感じね。ちょっと空賊の血がうずいちゃうわ」
イーヴの趣味にハマっているのか、いつもより目が輝いている。フィンは剣を覗き込んで首をかしげた。
「剣の形をしているのに、適格者っていうのでないと使えないのか?」
「適格者以外にとってはただの剣よ。やっぱり双子だから資質が似通っていたのかしら~あとでデータ採取させてくれる?」
「やめろ」
ウィスは言いながらウェリタスを再び消した。
「とにかく、アルディラスはこれから活躍してもらわなくちゃならないんだからしっかり教えといてね」
アーネストなら使い方も知っていそうなものだが、丸投げされてウィスは複雑そうな顔をした。
「で、これからどうするの?」
イーヴが腰に手を当てて問う。順当に行くならアオスブルフかテールディの大晶石を砕きに行かなければなるまい。
果たして、二つの国は大晶石の破壊を受諾するだろうか。しなくても破壊はしなければなるまい。穏便に行くことを願うばかりだ。
「一度エクエスに戻らないか。元々、真相をつきつめるのがオレたちの任務だったろう? 王に報告しておく必要がある」
「そうだね、協力を得られれば少しは楽に動けるかもしれないし」
決を取って、歩き出す。それからオルディネの塔を再起動し、セレスタイトに戻ってきた
。
「ここがセレスタイトね。……なんだか、あんまりアースタリアと変わらないみたいだけど生き物の体系が違うのかしら。とりあえず、植物採集から始めてみようかしら」
「何しに来たんだ、お前は」
ウィスに呆れられながらもアーネストは至る所に興味津々のようだ。
も間があったらゆっくりアースタリアをまわりたい、と思う。
ホワイトノアは静かにアオスブルフを離れると、エクエスの南側から回り込みブルーフォレストの上空を通って、シャインヴィントに到着した。
シャインヴィント王城では、フィンと
が王に経緯を申し述べる。
「世界にそのような危機が迫っているとは……いずれにしても我が国の大晶石は破壊された。他国にも注意を促し、協力してもらうしかないだろうな」
にわかには信じがたい話であったろう。しかしテールディ王女のリエットがいることや、ウェリタス、アルディラスの存在が現実味を持たせてくれた。王は理解をしてくれたようだった。
「しかし、困ったのはアオスブルフだ」
「アオスブルフに何か?」
「アオスブルフは風の大晶石を我が国がなくしたことで、火の大晶石を狙っているのではないかと警戒しているようだ。ホワイトノアの姿も見られていてな」
ユーベルトが報告したのだろうか。国家間の火種は生まれてしまったようだった。
「宣戦布告も辞さないかまえであると警告が来た。商船の入港も拒否され、今は国交が断絶している状態なのだ」
「じゃあ、私たちで乗り込んでいって大晶石を破壊するしかないわね~。先立つものは国の危機より、世界の危機だもの」
アーネストの言い分はわかりやすい。だが、理解が得られるわけはない、王の眉間に深いしわが寄った。
「王様、ホワイトノアは空賊のものであるとお切り捨てください。私たちはアオスブルフではエクエスの使者ではなく、個々として動きます」
「うむ……テールディには使者を派遣し、協力が仰げると思うが、いた仕方あるまい」
「空賊のものっていうからには、リンドブルムを解放してくれるのかしら」
また新たな厄介な提案に王は顔をしかめた。
「もしアオスブルフで何かあった時、エクエスの人間がクルーとして乗っていることがわかったら確かに問題ですね」
「承知した。リンドブルムを解放しよう。だが条件がある」
「条件?」
「この一連の事態を収束させるために手を尽くすということだ。もしやりきったなら晴れて放免としよう」
「太っ腹ね~でも、そんな約束しなくてもリンドブルムは世界を裏切ったりしないわよ」
イーヴにあるのは、誇りだ。空賊は義賊であるという誇りが今は彼を突き動かしているようだった。
「して、フィン。お前はどうするのだ」
「は?」
問われていることが分からず、思わず訊き返してしまうフィン。
「お前はこのエクエスの騎士だ。今の話を鑑みれば、騎士としてアオスブルフへ赴くことは許されまい。別の方法で関わるか、本来の騎士の任務に戻ることも無論、問題のないことであるが……」
王の意志としては、微妙なところだろう。把握のために一人くらいは付けておきたい。だが有事の際は戦争の原因になるかもしれない。決めかねている。フィンはそれをくみ取って視線を床に落とし、じっと考えた。
「騎士として行くことが許されないのであれば、私から騎士の身分を剥奪してください」
彼の決断は、大きかった。
「私は彼らについていこうと思います。今更、降りるわけにはいきません」
「……うむ、そなたの決断。痛みいる」
王は、敬意を表し、だがしかし言った。
「では今からフィン=サクセサーの騎士の身分を解除する。だが、ことが終わった際にはいつでも戻ってくるがいい。エクエスはそなたを歓迎する」
「はっ」
深々と頭を下げる彼はまぎれもなく騎士に違いはなかった。
* * *
どんよりと空は曇っていた。ミラージュは当然見ることはできない。嫌な天気だ。いましも雨が降りそうだった。
「熱いわね~地熱かしら」
「火山帯だから……火の結晶石も関係あるのかなぁ」
しかも湿度が高く、蒸している。この前来た時はそれほど苦にはならなかったが、言われると自覚してしまうのが人間だ。アーネストがぱたぱたと手を振りながら暑さにうんざりのようだ。
「あー、まずいわよ。フィン。あんたの弟君がまたいるわ」
「!」
大晶石が近くなって、慎重に進んでいるとそのふもとで一度は見かけた姿をみつける。
兵士の数は多くない。無理にでも蹴散らせばなんとかなる人数である。が、強行突破していいものかとまずは誰もが思う。
「話し合ってみる?」
がフィンの顔を伺った。
「そう、だな。理解してもらえばナイトフレイにも話が通るかもしれない」
決断したようにひそめていた岩から姿を見せた。武器は手にせずに歩を寄せる。あちらの兵士も気づいたが、ユーベルトに制止されて剣は抜かなかった。
「のこのことやってきたんですか、兄上」
「ユーベルト、聞いてくれ。今はお前と争っている場合じゃないんだ」
ユーベルトは眼鏡を抑えると少し自分より高い位置にあるフィンの顔を見た。
「今度は何をしでかすつもりです? 今のあなたの国との緊張を理解しているんですか」
「残念だけど、オレは今はエクエスの騎士じゃない。ここにいるみんなもだ。オレたちはそれぞれの意志でここにいる」
「……何をするためにですか」
フィンは熱を持って事情を聞かせた。ミラージュの存在、世界の危機、その回避方法。しかしユーベルトは冷たくあごを上げて視線を下ろしただけだった。
「信じられません」
「どうしてだ! このままでは世界は滅んでしまうかもしれないんだぞ!」
「いずれ承諾はできないですね。兄さんたちは大晶石を砕くつもりなのでしょう? 僕は、アオスブルフの軍人だ。国の威信をかけて、大晶石を守る必要があります」
「あたまが固いわねぇ」
アーネストが呆れたように杖を持った手で伸びをして口を開いた。
「世界が滅びれば国も滅びる、って。わかりきったことじゃないかしら?」
「……あなたがたが信用できないと言っているんですよ」
「どこまでお固いのかしら。まぁいいわ。私たちは大晶石を砕けばそれでいいんだから」
「待ってくれ、アーネスト」
杖を眼前にかまえたアーネストを、フィンが制止した。
「オレがやる」
「侮られたものですね。僕はあなたと違って幼少の時から訓練されているんです。後悔しないで下さいよ」
ユーベルトは剣を抜いて、眼前に構える。先に地面を蹴ったのはユーベルトだった。フィンが一撃を流すと、次の一撃が即座に繰り出される。片手で扱っている分、一撃は軽いようだが、モーションが早かった。
「どうしたんです!? 遠慮しないでくださいよ」
「くっ」
フィンも負けじと剣をつきだす。剣でそれを受けてユーベルトは後退した。かと思えば、素早く腰につけていた二丁の銃に持ちかえ、それをフィンに向けて放つ。硝煙のにおいが辺りに立ち込めた。
「ずるいです!」
「これがアオスブルフの兵士の戦い方ですよ」
彼はその若さで、隊を統括しているのだろう。アオスブルフの側にも誰も手出しする者はいない。
「あぁ…まだるっこしいわ」
「アーネスト、抑えて」
意外と短期なのか、うずうずしているアーネストをなだめる
。
フィンも譲らない。一気に距離を詰めると切り結び、銃を封じた。
「このわからずやめっ!」
キィン! 甲高い音がして、渾身の一撃がユーベルトの銃を一丁はじいた。
「やったわ!」
力では勝っている。フィンは一気にたたみかけ、互いに剣を合わせると押し合いになった。
「うぉぉぉぉー!」
気迫を込めて、はじきとばす。反動でユーベルトは膝を折った。
「!」
「あんたの負けね」
再び剣を拾おうとしたユーベルトに、イーヴの弓が、アーネストの杖が、ウィスの剣が向けられ、チェックメイトだった。
ざわめく兵士たち。そこへパチパチと手をたたく乾いた音が響いた。
振り向けばいつのまにかソルがいた。
「敵の頭を押さえてくれて手間が省けたよ」
刹那。混乱が巻き起こった。兵士たちの背後に、魔獣が現れたのだ。二体の魔獣は容赦なく、兵士たちに食らいつくと悲鳴が上がった。
「いけません。優しき癒しの雨よ……ヒールレイン!」
すかさずリエットが治癒術をかける。各々命は助かったが、流れた血までは戻らない。しばらくは動けないだろう。
「ウェリタスとアルディラスは返してもらうよ」
魔獣は跳ねるようにウィスと
を狙ってきた。そこにフリージアも加わり場は一時混戦となる。
「見なさい! 黒幕はあいつらよ。納得したら手伝いなさい!!」
ユーベルトが立ちあがり、銃を手に取った。ソルはステップを踏むように射撃をよけてサーベルを抜く。
「大人しく死んでよね!」
容赦ない連撃がユーベルトを攻めた。フィンが加勢に入るがソル自身相当の手練れと見た。二人を相手にしても余裕の表情だった。
「おかしいわね、今日はあの子たち二人なの?」
アーネストが魔獣に向かって晶術を放ちながらひとりごちる。
「フリージア!」
それから呼んだ。
「これは誰の命令なの? あなた、知ってるでしょう!?」
「これは、騎士団長の命令」
手を止めて素直に答える。アーネストとフリージアはただならぬ関係のようだ。だが、ソルに一喝されるとフリージアは再び攻撃を始めた。
「アイザックですって……?」
「いつまで遊んでるのさ。さっさとウェリタス適格者を確保すればいいのに」
新手だ。緑色の髪の小柄な少年が現れた。その姿にアーネストが顔色を変えた。
「シスル……! なんであなたがここに!」
「こんにちは、アーネスト博士。久しぶりですね」
シスルと呼ばれた少年は微笑んで、だがしかしフリージアのように構えを取った。
「そして、さよなら」
「!」
フリージアを上回る速度で詰め寄る。
が銃を手に割って入った。
「あ、あんたも標的だね。一緒に来てもらうよ」
あっさり矛先を変える。
シスルの手が銃弾を掻い潜って
に伸びた。
「
!」
ウィスがそれを止める。シスルは更なる敵に飛び退って一旦距離をとると「へぇ」と呟いた。
「僕たちに生身で太刀打ちするつもり? 無理でしょ」
「ぐわっ」
悲鳴に顔を向けるとフィンが背中から大地に打ちつけられていた。ユーベルトも腕に傷を負っている。フリージアもだが、この少年も異常な戦闘能力だ。リエットの回復が追いつかない。
「見せてよ。ウェリタスの力を」
「……!」
ウィスは歯噛みした。だが、何かを決したように顔を上げる。ウェリタスがその手に現れた。
「後悔するなよ」
その時だった、変化が訪れた。一瞬のことである。光が訪れるとそこには銀髪の青年が立っていた。
青年……ウィスその人は、地を蹴るとウェリタスを少年に向かって振り下ろす。少年は手甲でそれを真っ向受け、笑みを浮かべる。が、先ほどまでと違って余裕は消えていた。
「すごい力だね。でもまだまだなんだろ?」
連撃を繰り出す。受けることをやめ、シスルは後退しながらそれを避けた。フリージアが入れ替わるように前へ出て突きを繰り出すがウィスは難なくそれをよけ、間髪なしにウェリタスを振るう。
「!」
それがフリージアにヒットし、彼女は後ろへ吹っ飛んだ。が、体制を整え着地するとそのまま地を蹴る。シスルと再び斬り結ぶウィスにフリージアの拳が迫り、だがそちらを見ずにかわす。そのまま流れるように剣を薙ぎ、フリージアを遠ざけた。イーヴたちはレベルの違いに手を出せないでいる。
「彼らは何者なんです!」
ソルのサーベルを避けて距離をとったユーベルトが叫ぶ。フィンは答えられずにどこか呆然とウィスの姿を見つめた。
「これで終わりだ!」
ウィスが叫んで、剣を引くとウェリタスに宿る光が増した。ただならぬ気配にシスルは退いたが、フリージアは果敢に挑んでくる。
「うあっ!」
次の瞬間、ウェリタスはフリージアを完全に捉えていた。薙いだ剣は彼女の胸を切り裂き、返す刃がその胸を貫いた。
「ああぁぁぁぁ!!」
光が粒子のようにこぼれる。ウィスは静かにウェリタスを抜き取ると、フリージアは倒れ、動かなくなった。
「次はお前か?」
「プロト・ワンを簡単に貫くなんて……思ったより強力だね」
シスルはソルの元まで下がると彼の顔を見てから
「今日は退かしてもらうよ」
と言って踵を返し駆け去った。ソルはそれを見て悠然と髪をかきあげる。
「困ったね。本気で抜剣してくるなんて。命が惜しくないのかい?」
「……黙れ」
チャ、と剣を握り返す音がした。再び駆け出す。振り下ろしたウェリタスは、地面をえぐり避けたソルのネッククロスを切り落とす。
「怖いねぇ。さすがに風の大晶石を破壊しただけのことはある」
「!」
フィンの瞳が見開かれる。『ウェリタスで大晶石を破壊』。彼は気づいていなかったろう。だが、アーネストがそう言った時からもしやと思っていたことだ。エクエスの騎士団を壊滅させ、風の大晶石を破壊したのはウィスだ。銀の髪の悪魔とは、このことを言っていた。
「アルディラスの適格者も抜剣できるのかな。だとしたら僕一人じゃ無理か」
呟くように言って、ソルは指笛を吹いた。魔獣がウィスとソルの間に割って入る。ソルは入れ替わりに踵を返して去っていった。
その背を見送ってウィスはウェリタスを消し去る。姿も元に戻った。
「大丈夫か?」
そばにいたユーベルトとフィンに尋ねる。「あ、あぁ」と歯切れの悪い返事をしてフィンは瞳を伏せた。
「あの、この子。血が出てない……ウェリタスで斬られたからですか?」
リエットがフリージアをおそるおそる覗き込んで、それからウィスと
たちを見比べた。アーネストと
がそちらに歩み寄り見下ろす。フリージアは倒れたままぴくりともしない。普通ならば死んでいるだろう。傷からは血ではなく光の粒子のようなものが流れ続けていた。
「違うわよ~この子は戦闘用ヒューマノイドなの」
「ヒューマノイド?」
「星の意思(イニシオ)から抽出したデータから人工的に生み出した存在よ。このままだと消失しちゃうわね……私の技術の結晶が」
「え」
「アーネストが作ったの?」
「そうよ~? こっちの星の意思(イニシオ)を消し去るためにね」
さらりととんでもないことを言う。つまりは、対セレスタイトの最終兵器ということか? イーヴも寄ってきて複雑そうな顔をした。
「どうするのよ」
「製作者としては、直してあげたいけど」
「また襲ってきたりしない?」
「んーきちんと言い聞かせれば大丈夫だと思うわ。この子、素直だから」
素直というのとは少し違う気もするが。
運んで運んでとアーネストはせがんで、イーヴはぶつぶつ言いながらフリージアを担ぎ上げた。といっても小柄な少女だ。それほど重そうでもない。
「ウィス、大丈夫?」
「あぁ、オレは大丈夫だ。それより」
ウィスの視線がちらと後ろに流れる。そこには沈痛な面持ちで押し黙るフィンの姿があった。
「フィン、どうしたんです?」
彼らの関係にまだ気づいていないのか、リエットが首をかしげた。
ウィスがエクエスで大晶石を砕いた「銀の髪の悪魔」だとすれば、フィンの父親は彼に殺されたことになろう。ウィスはそれが知られたことを理解しているようだ。
と視線を合わせ、どういう意味でか、それとも他にどうしていいのかわからないのかウィスは小さく苦笑した。
「ほらほら~ちゃっちゃとこの大晶石砕いちゃいましょ。
」
アーネストに言われて
は大晶石のふもとまで歩を進めた。ウィスも一緒についてくる。
「いいの? 弟君」
「……力でねじ伏せるのは、無理なようですから」
事態を把握したのかユーベルトもそれを見守った。
「教えたとおりにやれば大丈夫だから」
「わかった」
はまず、アルディラスを呼び出した。これは求めれば意外と簡単に応じてくれる。それから剣に集中する。そこから先は、なぜかウィスは理屈ばかりで実践はさせてくれなかった。だから事実上
がアルディラスとリンクするのは初めてなのだが、それもそんなに難しいことではなかった。
変化はすぐに訪れた。ウィスと同じだ。
の目からは光がふわりと視界によぎった程度に見える。次の瞬間、髪の色が銀に……純正のエルブレスの光と同じ色に染まっていた。
すると自然と力が湧いてくる。
は剣を掲げ、それを思い切り振り下ろした。
激しい音ともに大晶石が砕け散る。砕けた破片の一部はエルブレスの光になって消えた。
それを吸収するイメージでアルディラスに送り込む。破片に宿っていた薄赤い光は明滅をし、次第に消えていった。……うまくいったのだろう。
「あ」
アルディラスを手にしたままがくり、と膝が折れた。思ったより消耗が激しい。とっさにウィスに支えられたが、
は耐え切れずにそのままアルディラスを消す。意思を持って消した、というより消えてしまった。というべきか。髪の色も元の黒色に戻っていた。
「大丈夫か?」
「うん」
というものの足元がおぼつかない。訓練が必要と言うのは本当のようだ。今の
には過ぎた力だ。仮に
が剣士だったとしても、ウィスほどには扱えないだろう。
「ダメだね、精進しないと」
「いや、いいんだ。大晶石を砕く以外には使うな」
それはどういう意味か、聞こうとした時ユーベルトがやってきて彩を失った大晶石のかけらを見上げた。
「ついにやってしまったんですね……」
これでこの国の技術は大きく後退するだろう。国にとっては大きな損失である。が、過剰に利用すれば枯渇する資源である以上、遅かれ早かれこういう時はいずれ来る予定だったのかもしれない。
「で、あんたはどうするの? 帰って報告する? エクエスの仕業だ、とか」
「……ありのままにお話しますよ。世界のことも、異世界からの来訪者のことも」
イーヴがフリージアを背負いなおして、帰路を辿る。各々がそれぞれの歩む速さでその場を後にした。
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