ツインコンチェルト 13
ソルが関わっている以上、アイザックも絡んでいるのは間違いなかった。翌日、アーネストを加え王城へ向かえば案の定だ。「王の盾」と呼ばれた騎士団の一個小隊は、アイザックとともに消えていた。消えた騎士たちは彼を支持する一派だろう。ウィスは言った。
「アイザックってどういう人だったの?」
「人望は厚かったな。だが、オレは信用できない人間だと思っている」
「どうして?」
何か因縁があるのかウィスは険しい顔で歯噛みした。答えは返ってこなかった。だが、代わりに「想定してしかるべきだった」と付け加えた。
「あいつは大神官ヴァレリーともつながっているはずだ。神殿に行ってみよう」
この国では、星の意思(イニシオ)はエルブレスとともに神として讃えられているらしい。エルブレスはすべての物質を構成し、星の意思(イニシオ)から生まれ、星の意思(イニシオ)へ還る。アーネストにも聞きかじったことが神殿のタペストリーにも描かれていた。科学は世界の衰退とともにいつしか信仰に姿を変えた。だから今もそれらは表裏である。不思議なことにそんな気がしてならなかった。
「ヴァレリー大神官は、おでかけになられましたよ。しばらく戻る予定はありません」
神官の一人を捕まえるとそんな返答があった。
「どこへ行ったです?」
「辺境の地へ布教に行く、とおっしゃられていましたが……」
詳しくは知らないようだった。
「辺境の地って……なんだか嫌な予感がするわね」
「ひとつ聞くけど、ヴァレリーはセレスタイト滅亡計画についてどんな意見を持っていたの?」
「ヴァレリー様は穏健派ですから、滅亡をさせることについては反対していたはずですが……」
「穏健派? 過激派の間違いだろう」
答えたのはウィスだ。
「ヴァレリーは、滅亡させる前にセレスタイトの星の意思(イニシオ)を掌握しろ、と言っていた」
仮にも大神官を呼び捨てにされて慌てふためきながら答えた神官を追いやって、彼らはその場で円を描くように向き合った。
「オレに下っていたのは勅命だったが、ヴァレリーは滅亡よりも制圧をまず支持していた。アイザックは立場上は中立だったはずだが……一緒にいるのを何度も見かけたな」
「制圧をして……どうするんです?」
「世界が滅亡するまでエルブレスを搾取する。アクアフォールの阻止ではなく、侵略が目的だ。王はあくまでアクアフォールと両世界の滅亡を防ぐために勅命を出したわけだが……」
「そんなの、さすがに無理だろう?」
フィンが、緊張からか苦笑を浮かべながら言うがウィスは首を振った。
「ウェリタスがあれば可能だ」
全員の顔に緊張が走る。セレスタイトの星の意思(イニシオ)の鍵はアルディラスだ。が、ウェリタスは大晶石を砕き、エルブレスをアースタリアの星の意思(イニシオ)に送ることも可能だったはずだ。だとすれば、星の意思(イニシオ)を止めることはできなくとも、時間をかければ吸い尽くすことは可能だったろう。すべてを搾取されればどうなるか。エルブレスは……星の意思(イニシオ)が生み出すのは命の源。世界は破滅する。
「早く止めなくちゃ……!」
「と言っても、どこへ行って何をすればいいの? 皆目見当つかないわ」
セレスタイトの星の意思(イニシオ)を守る必要がある。その為にできることは何か……
はふと、思い当たって聞いてみた。
「アーネスト、本来の星の意思(イニシオ)が活動し始めた、って言ったよね? それってセレスタイトも同じ?」
「えぇ、次元は元々分かたれて成立しているのよ、同位の存在だからセレスタイトでも言えるわね」
「仮にそのヴァレリーの狙ってる星の意思(イニシオ)を停止させたらどうなるの?」
あぁ! とアーネストは拳を手のひらに打ちつけた。
「なるほど、先に停止させてしまおうというわけね。行けるわ、それ」
「どういうこと……?」
フリージアが首をかしげる。イーヴやリエットも同じ表情で次の言葉を待っている。
「人工的に作られた星の意思(イニシオ)は、大晶石を破壊したことで当分アクアスクリーンを維持するだけのエルブレスを胎内に溜め込んでいるはずよ。停止してもまず当面問題はないわ。その分は本来の星の意思(イニシオ)がカバーしてくれるはずだし。アースタリアの星の意思(イニシオ)は上書きしちゃったからどうしようもないけど、セレスタイトは確か本来の星の意思(イニシオ)とは別に設定されたシステムだから、それさえ先に抑えればやつらは手を出せなくなる、ってことね」
「ちょっと待って。でも本来の星の意思(イニシオ)がみつかっちゃったらやばくない?」
「セレスタイトの本来の星の意思(イニシオ)がある場所は誰も知らないし、星の胎内だもの、おいそれといける場所じゃないわ。大丈夫でしょう」
「じゃあアルディラスを使えば……!」
アーネストがふふ、と笑った。つまりは是。アルディラスが本来の意味で役に立つ。
は握った拳に力を込めた。
「でも、星の意思(イニシオ)はどこに? ウィスは知ってるのか」
「あぁ、水の大晶石から行けるはず。ウィンクルム……そちらの世界で嵐の結界と呼ばれる海の向こうだ」
「あ、嵐の結界ですか? でもあそこは誰も行けなくて……」
「それだったら私が何とかするわ~。ホワイトノア、って言ったわよね。あの船。改造し甲斐がありそうだと思っていたのよねぇ」
「ちょっと……空賊の誇りを変な風に改造しないでよね」
うっとりと手を組んだアーネストの後ろからイーヴが呆れたため息をついた。
神殿を出ると、ラウルが待っていた。王からの伝令役を言い遣ったらしい。
「すまないが、くれぐれも頼む」。そんな言葉とともに差し入れられたのはバハムート・ラグーン王国に所蔵されていた武器だった。剣はフィンに、弓はイーヴに、杖はリエットに与えられた。
「何かのお役に立つかもしれません。僕も一緒に参りますね」
ラウルも加わって、八名となった仲間たちはそしてセレスタイトに再び降りる。
さすがに改造に日数はかかったが、あわててもしょうがない。その間、
はウィスにアルディラスと剣の扱いを教わり、時間を無駄にはしなかった。フィンとフリージアも甲板で組み手をし、切磋琢磨している。時折、ラウルが入れてくれるお茶はおいしくて充実した日々が過ぎた。
いよいよ、嵐の結界を越える。そんな日がやってきた。
ウィンクルムと呼ばれた海域に入ると、途端に海は荒れ、豪雨とともに強風が吹きつけた。
「一気に突っ切るわよ!」
ホワイトノアは推進力を上げ、嵐の中に突っ込んでいく。船内が気圧に逆らうように激しく振動した。雨を伴う分厚い暗雲はいつまでも去らないかと思われた。が、視界がふいに一変する。唐突に雲は切れ、空が、ミラージュが見えた。見たことがないくらいはっきりと空に虚像が……いや、いまや現実と知ったそれが浮かんで見える。そしてアクアスクリーンもより顕著に、たゆたい日の光を拡散させて広がっていた。風もやんでいた。
眼下には巨大な蒼い牙が見える。水の大晶石だ。
「ここが、嵐の結界の中……」
そこは小さな島だった。見渡せば外界に繋がる空には相変わらず分厚い雲が垂れ込め嵐の予感があったがこちらは別世界だ。小鳥のさえずる穏やかな空間に彼らは降り立った。
「きれい……」
大晶石は淡い光を放って空に向けてエルブレスの光をゆっくりと放っている。リエットは見とれてそれを見上げた。
「アーネスト、ウィス。どうしたら星の意思(イニシオ)のところへいけるの?」
聞いて振り返る。その時だった。風を巻き上げホワイトノアにも似た飛行艇が現れ、影を落とした。
「こっちの世界にホワイトノア以外の飛行艇なんて聞いたことないわよ!? まさか!」
「そのまさかみたいね。早く星の意思(イニシオ)に行きましょう」
アーネストが駆け出す。先導されるように全員がそれについて駆けた。
星の意思(イニシオ)への道は、アルディラスかウェリタスを用いれば開く仕掛けになっているらしい。大晶石の麓から大晶石の内部を通り、ひたすら地下へと向かう。そこは古代の超科学をふんだんに用いられた空間だった。エルブレスが光の粒子になってのぼっていく。アクアスクリーンを維持するためのエルブレスはすべてここに集積されるのだ。それはすさまじい量だった。
しかし、今は美しいこの光景にも構っている場合ではない。八人はひたすら駆け、遂に最下層にたどり着いた。
「ここが、星の意思(イニシオ)の間……!」
いつしか大晶石の根はなりを潜め、静寂の空間が取って変わっていた。その膨大な空間の中央に、巨大な水晶を思わせる星晶石がそそり立っている。
「これが、この星のエネルギーの中枢を担う場所よ。さ、アルディラスで封印を」
「うん」
アーネストが指示を出し、
は星晶石の前に立った。システムは悠久に向かって静かに動き続けている。それがまるで鼓動のように淡い光になって明滅を繰り返していた。
は抜剣して、正面の台座を見る。ここに剣を差し込み、アルディラスに星の意思(イニシオ)の機能を停止するよう命令を出せばいいという。アルディラスの適格者はアーネストではなく
だ。アーネストはそれ以上説明することはできず、
のインスピレーションに全てを委ね、そして待った。
はアルディラスを振りかざす。ひゅっと風を切る音がしてガツリ、とアルディラスは台座に収まった。星の意思(イニシオ)から生まれようとしているエルブレスが刹那、光の流星となってアルディラスに集積される。そのエルブレスをすべて星の意思(イニシオ)に押し戻すようにして、システムに停止を命じた。
……星の意思(イニシオ)は機能を停止した。
「これで、ひとまず安心ね」
「……本当にひとまずだね」
じっとりと嫌な空気を背後に感じながら
は振り返る。勘が間違っていなければ、すぐに出口はふさがれるだろう。それがアイザックかヴァレリーかはわからないが、やつらはやってくるはずだった。
「アルディラスは? まだ使える?」
「あなたが望めばね。星の意思(イニシオ)は停止したけど、そこに残っている力は使うことができるわ。剣そのものにもさっきの残滓が十分残っているはずだしね」
「よし」
は迷わずアルディラスを引き抜いた。地上へ続く階段を一同は固唾を呑んでみつめる。やがて降って来た足音は、闊達なものと言うよりも、ひそやかなものだった。
「……? 一人だけ?」
「待て。あいつは大神官ヴァレリーだ」
「あれが……?」
ヴァレリーは法衣の裾を静かに翻して階下に降りるとやがて足を止めた。
「ウィス=アルブムか。どうやら妹と感動の対面を叶えたようだな」
「よくもぬけぬけと……!」
ウィスは剣に手をかけた。だがしかし、構えたその瞳が大きく見開かれる。ヴァレリーの手にあるものを認めたからだ。それはウェリタスだった。
「どうかしたのか?」
「それはあなたが持ってても仕方ないものでしょ? 返しなさい!」
「ウェリタスを扱えるのが己だけだと思っているのか。矮小なものだ」
ヴァレリーは目を眇めると口の端をゆがめ、笑った。
「さぁ、そちらこそアルディラスをこちらに。アースタリアを唯一原初の世界としてはじまりの時を迎えるのだ」
「頭おかしいんじゃないの?」
毒づくイーヴ。だが、ヴァレリーは歯牙にもかけずに笑い続けた。
「セレスタイトは所詮、コピーだ。オリジナルのために、利用されるのは当然のことだろう?」
「何を言う! オレたちの世界はオレたちのものだ! お前のようなやつに好きにさせはしない!」
フィンも剣を抜いた。フリージア、ラウルが構えを取る。
その瞬間が、合図のようにフィンは駆け出した。続いてフリージアがヴァレリーに迫る。だが、光が瞬いたかと思うと、ヴァレリーは変化を遂げていた。
「すばらしいな! この力! これがウェリタスの力か!」
抜剣したのだ。まさか、と言った顔でウィスはヴァレリーを見る。目に見える白色のオーラを足元から激しく噴き上げながらヴァレリーは大きくウェリタスを薙いだ。その風圧でフィンとフリージアが吹き飛ばされる。ラウルがその隙間を縫ってナイフを投げたが見えないシールドでもあるように届かない。
「聖職者のくせに刃物を持つなんて、教義違反じゃないかしらね~」
アーネストが杖を振りかぶり、大きく息を吸うと詠唱を開始した。その隣ではリエットもまた、援助のために祈りをささげている。
立ち上がったフィンも果敢にヴァレリーに挑む。イーヴは弓矢を五本まとめて素早く放った。ヴァレリーはそれすらも甘んじて受けている。だが、傷つくことはなかった。
「ウィス、私、行くよ」
はウィスの返事を待たずに抜剣した。あれがウェリタスの力だとすれば、対抗できるのはアルディラスとフリージアくらいだろう。エルブレスの異常な噴出をしているところは気になるが、
はアルディラスを手に斬りかかった。シールドがスパークとともに裂ける。
アルディラスの刃は直接ウェリタスの刀身を捕らえた。
「そなたもアースタリアの人間だろう。なぜセレスタイトを守る!」
「どこの世界とか関係ない! 私はあなたたちのしていることが許容できないだけだ」
火花を散らして剣戟が繰り返された。ヴァレリーも刃など持ったことはないのだろう。動きが大振りだ。接近戦は
の方が有利だった。そこにフリージアが蹴りこんでくる。ヴァレリーはとっさに上半身をのけぞらせたがアルディラスがそこを狙う。まっすぐに剣を突き出すと、だがヴァレリーはにやりと笑い、次の瞬間噴出していたエルブレスが大きく爆ぜた。
「!!」
思わず顔をかばうとそこに一撃が打ち込まれる。間一髪横によけるとウィスがその影からヴァレリーの突き出したウェリタスをかいくぐって剣を薙いだ。
「ぐわっ」
効いている。アルディラスがシールドさえ断ち切れば、攻撃することも可能のようだ。
「落ちなさい! スプラッシュ!!」
そこへアーネストの放った晶術が水の柱となって落ちた。一旦引いた
は晶術が途切れるのを待ち再び攻撃を仕掛ける。
「くっこの私が……」
フィンとフリージアの協撃をくらってよろめくヴァレリー。ウェリタスを天に向けてかざした。
「星の意思(イニシオ)よ!」
ドォォンと衝撃が巻き起こった。立ち上がる光の柱。それはエルブレスの集積だ。アースタリアの星の意思(イニシオ)から力を引き出しているのだろう。強大な力を身にまとい、ヴァレリーは再び大きく剣を振るう。
「きゃあっ!」
「リエット!」
衝撃波は、前衛にいたフィンとフリージアを薙ぎ飛ばし、リエットさえも踏みとどまれない。かろうじて避けた
はウィスに支えられ、衝撃波が去ると速攻を開始する。
「無駄だ! 星の力は無限!!」
立ち上る光、光、光。
核にいるヴァレリーはだが、突如、顔をゆがめた。
「ぐがっ」
光は収まらない。
直前で踏みとどまった
は確かにそれを見ていた。ヴァレリーの肉体がふいに崩れたかと思うと、あっというまに光に呑まれ、消えた。
「
、離れろ!」
ウィスが
を引き離して、光の柱から遠ざける。刹那、爆発が起こった。
「!!」
眼前を覆わざるを得ないほどの光量が、地下を真昼のそれより明るく照らした。後にやってきたのは沈黙だった。
「一体何が……」
「やはり適格者でないと長持ちはしないな。制御もお粗末だ」
呆然とする一堂の前で何者かがウェリタスを拾い上げた。はねられたローブのフードからは、白灰の短い髪が覗いている。
「アイザック!」
アーネストが険しい顔で叫んだ。
「あなた、一体ウェリタスに何をしたの!」
「アーネスト博士か。博士の研究を引き継ぎ、応用したまでのこと」
「アーネストの研究?」
苦々しい顔でアーネストは吐き捨てるように言った。
「ウェリタスの汎用化よ。適格者でなくても使えるようにする研究」
「まぁ、まだ実験中ではあるが……使いようによっては、使えないわけではないことがわかった」
「人一人の命を使って、そんなことを証明したって言うのか!」
フィンの叫びも涼しい顔で受け止めるアイザック。くつくつと笑うと、後ろに控えたシスルにそれを手渡した。
「さて、今度は僕の番かな?」
「やめなさい! ヒューマノイドでもただでは済まないわよ!」
「おお怖い。博士がそういうならやっぱりやめておこうか」
シスルは肩をすくめてから、ウェリタスを右肩に背負った。そちらに首をかしげながら笑みを浮かべる。
「いずれアルディラスはまだ使えない。残念だが、この世界の星の意思(イニシオ)はここではどうしようもないようだ。……行くぞ」
「待てよ! 言われて逃がすと思うか!?」
「では戦うか? もう一度、ウェリタスを相手にできると言うのか」
先ほどと同じようにシールドを展開されれば、アルディラスは必要になるだろう。だが今しがたの抜剣で
は疲弊している。退けられるかは微妙だった。
アイザックは、閉口した一同を前にふっと笑みを落とし、シスルを伴うと悠然と去って行った。
「意外とあっさり退いたわね」
「ということはつまり次の手があるってことだよね。……アーネスト、何か思い当たる節はない?」
は、少ない発言からより多くの可能性を洗い出そうと会話を辿る。
「ここではどうしようもない」そう言ってなかったか。ではどこならどうかしようがあるのか。
アーネストもしばらく唸っていたが、その可能性に絞ったらしい。
「アースタリアの星の意思(イニシオ)を用いればあるいは。……こちらの世界に干渉することが可能かもしれないわ」
「どうやって?」
「それがわかったら苦労しないのよね~だけど、向こうは私たちより情報を得ているようだし……ウェリタスの研究を進めている可能性もあるわね。ヴァレリーの様子を見るとまだ不完全のようだけど、いつ何を起こされてもおかしくないわ」
もうひとつの星の意思(イニシオ)とウェリタス。それについて引き起こされる異変の可能性。ここで考えていても埒が明かないだろう。沈黙した古代のシステムを前に、暗くなった空間を出ることにする。
「もうひとつの星の意思(イニシオ)に行ってみるって言うのはなしですか?」
「進展がある可能性もなくはないけど、ない根拠の方が揃ってるわね」
「うー」
「行き詰まっていてもしょうがないわ。一旦、ホワイトノアに戻りましょ」
ホワイトノアに戻るとアーネストはすぐにいなくなってしまった。こんな時だからこそ、とラウルが紅茶をいれてくれたので頂くことにする。気分転換が出来ればアイデアが出るだろうか。一様に、みんな深刻な顔をしていた。
「そもそも、星の意思(イニシオ)ってどんなふうに繋がり合っているんだろう」
「それを知るには、情報を見なおさなければならないだろうな。……それでもわからない情報は、古代の遺跡に行ってみるくらいしか」
「古代の遺跡?」
ウィスに視線が集まった。
「あぁ、アースタリア西の大陸に沈んだ塔と呼ばれる場所がある。王国は何度も研究者を派遣したが、モンスターが多い上に封鎖されている箇所も多いらしく、大した成果は得られていないという話を聞いたことがある」
「それなら僕も聞きました。セレスタイト創世期に作られた施設には違いないようですね」
「それだ!」
が喜々として声を上げた。
「絶対何かあるよ! 行ってみよう」
「……ちょっと、何活き活きしてんのよ」
「言うと思ったけど、やっぱりか……」
ウィスが、乾いた笑いを落としている。興味はともかく、行ってみるべきだろう。アーネストを連れて行けば、新しいことが分かるかもしれない。
「危険な場所と聞いていますよ?」
「今さらだね。一緒に行ってくれる人は挙手!」
強引に展開すると、手は誰も上げてくれなかった。だが、一瞬遅れて笑みを浮かべたフィンは意志を表明してくれる。
「オレも行くよ。何かがわかるなら、行ってみる価値はあるはずだ」
「私もです」
リエットが立ちあがった。
「しょうがないわねぇ……最後まで面倒みるわ」
「僕もお手伝いしますよ」
そう言ってくれたのはイーヴとラウルだ。最後に残ったウィスを見ると彼は苦笑した。
「お前は見てないと、無茶するからな。一緒に行くよ」
決まりだ。となれば残るはアーネストだが……善は急げと
はさきほどより軽い足取りで船内を廻った
アーネストは機関室にいた。
「どうしたのー?」
「アーネストこそ、こんなところで何してるの?」
近くには工具が散乱している。青、赤、黄色。機関部からシステムの回線であろうコードが引き出されていた。
「ふふふ、何だと思う?」
「また改造」
「……悔しいけど、当たりだわ」
見たままを言っただけだが。アーネストは子供のように眉を寄せる。
「今度はどんなふうに改造してるの?」
「アクアスクリーンを突破して、アースタリアに行けるようにしてるのよ」
「そんなことができるの!?」
アーネストは得意げにくるくるとスパナを回しながら胸をそらせた。
「できるわよ~そもそもこの船って、こっちの創世暦以前にアースタリアで作られたものらしいのよね。機能はもともとあったみたいだから、ちょっと復帰させれば……」
シュー。
ふいに音がして、煙が上がった。
「あらら」
慌ててアーネストは開いた機関部の作業用の小さな扉の中に上半身をつっこんだ。
「ん~この回線がここで、これは……こう」
忙しそうだ。だが、アースタリアへ行こうとしているということはアーネストもいずれ、あちらで情報を洗い出すつもりなのだろう。
は、そっとその場を離れた。
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