-7.黒き鉱石
ブラックダイヤ、と言ってもリオンには覚えはなかった。
の部屋が荒らされていたからには、 が持っていると踏まれたのだろう。
しかし、おそらく部屋にはなかった。
だから が攫われた。
だが、本人も持っていなかったので交換条件ということになる。
を攫った何者か──これも見当がつかない。よって、目的もわからぬままリオンは焦燥に駆られることになる。
しかし、じっとしていても何も変わらない。むしろ事態が暗転することも考えられる。常に最悪を考えて行動してきたリオンにはそれが何を示すのか、わかりきっていることだった。
ブラックダイヤは、言うまでもなく鉱石だ。だが、流通しているのはほとんど見たことがない。ここから推測されるのは、稀少であるか、逆に採掘されても工業用程度のものであるのか。
なんにせよ詳しい人間は、その道の人間と言うことになる。
ストレイライズへ行けばすぐに答えは出るだろう。あるいは、そのものがあるかもしれない。しかし、時間は惜しく、リオンはレイノルズを訪ねることになる。
「ブラックダイヤ……ですか? そうですね、価値は通常のダイヤより劣りますが、セインガルドではほとんど採掘されていなかったと思います」
「どこへ行けば手に入るものなんだ?」
「天地戦争時代は、工業用の研磨剤として多く使われていた記述を見たことはありますね。流通をあたるより、工業区だった天上都市の残骸を探すほうが見つかる可能性は高いかもしれません」
そしてふと、 の部屋にあった地図を思い出す。が、そんなものをかたっぱしからあたっている場合ではない。だとすれば──
「わかった。ところでレイノルズ、シエーネをみかけなかったか?」
「シエーネさんなら、さきほどまでこの部屋にいましたよ。何か、調べているようでしたが」
ジャンクランド……天地戦争時代に、天上人の廃棄場所として使われた土地……あのへき地を知っている人間は、この国ではジャンクハンターであったシエーネくらいしかいないだろう。
リオンは時計を見る。昼休みは終わろうとしている。
シエーネはここの要員ではないが、いままで作業をしていたのなら向かう先は知れていた。
リオンは食堂へと足を運んだ。
「シエーネ!」
口にスプーンをつっこんだまま彼は振り返った。
「?」
「シエーネ、ブラックダイヤを見たことはないか?」
「は? なんだよ、やぶからぼうに」
スプーンを離して、軽く振る。
が攫われたなどといきなり言う気にはなれず、逆に聞かれてリオンは言葉を詰まらせる。
「ブラックダイヤだったら、持ってるけど。何かあったのか?」
「何!?」
人気の少なくなってきた食堂で、リオンはシエーネの隣のいすを引いて、すばやく腰掛ける。
「どうしてお前が持ってる」
「いや、それを期待して聞いたんだろ?」
「 が持っていたはずじゃないのか」
「何をどこまで知ってるんだよ。話がめちゃくちゃだぞ?」
シエーネから見るとそうなのだろう。リオンも経緯がわからないので、それ以上は話しようがない。ため息をひとつつくと、リオンは静かに言った。
「 が攫われた」
「は?」
二度目の疑問符。いらっとしながらリオンは今度は口早に続ける。
「何者かは知らないがブラックダイヤと引き換えだと言っている。お前が持っているなら話が早い。僕にブラックダイヤを渡してくれ」
「マジか」
マジだ。目だけで答えるリオン。
それを見てシエーネは、顔を大きくしかめてため息をついた。
「おいおい……これってそんなにやばいものなのか?」
シエーネは食器を押しやると、片手で懐から小さな包みを2つ取り出し開いたスペースに置いた。
つまめるほどの大きさの包みだ。やはり、片手で包みを開く。
と、現れたのは黒い鉱石だった。ひとつは透明感のある黒で、もうひとつは不透明度の高い黒。
「これは……」
「こっちがブラックダイヤでこっちがコーラル。ブラックダイヤは前にオレがジャンクランドで見つけて、 にやったものだ」
ちなみに、堕ちた天上都市の遺跡マップと引き換えな。
シエーネは言う。ジャンクハンターにとって古代の遺物は、興味深いものであるらしい。
「 にやったものを、なぜお前が持っている?」
「こっちのコーラルはアクアヴェイルでみつけたものなんだってよ。まずなんの鉱石だか調べてほしいって言うのと、もしダイヤと共通点があれば洗ってほしいって頼まれてたんだ」
「共通点?」
ダイヤと珊瑚の共通点。調べてほしいと言うことは、 が自分で調べられない共通点があるのだろう。たとえば既存の文書からは見て取れない特別な理由。
「何か、共通点はあったのか」
「強いて言えば共振するみたいだな。ものには個別の振動数があるんだけど、どういうわけかそれが似通っていて、揃えておいた場合、共振反応が見られた。だから何ってわけでもないんだけど…」
「そもそも『それ』は何なんだ」
えもいわれぬ感覚にとらわれて、リオンは聞いた。
求めるものがいる。何より が手にして、なんらかの疑問を抱いている。それはただの鉱石とは言わないだろう。
「なんだといわれてもなぁ……」
シエーネも首をひねるばかりだ。それがわかっていたら苦労しないだろう。
ただ、リオンにとってはいずれ選ぶ道はひとつしかない。
「わかった。ダイヤだけよこしてくれ。コーラルはお前が持ってろ」
「大丈夫なのか?」
オレが、という意味であろう。シエーネは微妙な笑いを浮かべながら聞いてきた。
「そのコーラルにも何らかの意味があって、 が持っていたことを知っているなら を攫ったやつはコーラルも要求してきていいはずだ。とにかく、他言はするな。誰にも見せるな。僕はすぐに戻ってくるからそれまでだ」
声を潜めるようにリオン。
ブラックダイヤを受け取る。
目指す先はロックグレイブだ。
