-11.再会
サブノックの捜索とともに、アクアラビリンスの封印の場所の探索が続いていた。
その間は、特にできることもなくリオンと
はアクアヴェイルでの滞在を続けている。
「リオン、お土産何がいい?」
「悠長だな。誰に買って帰るんだ」
「いや、リオンに頼まれてたのに、何も持って帰らなかったからさぁ……」
律儀と言えば律儀である。
「一緒に来ている人間に土産をやるつもりか。意味わからん」
「うん、私もわからない。あ、甘味処発見」
二人は、いかにもアクアヴェイルらしい店に入って、あんみつなど食す。
さすがにこれはダリルシェイドにはない甘味だ。
「おいしい?」
「まずくはない」
相変わらずである。
「平和だねぇ」
「あの向こうの嵐の結界が見えなければな」
その後は、町はずれまで足を延ばしてみた。
「シデン領も区画整理とかしてるんだ」
町の北では、森を少しずつ切り開こうとしているようだった。
「モリュウとトウケイの移民もいるようだしな。街は確かに拡張したな」
といっても、3つの領民の生き残りがひとつの場所に集まっただけなので、総人口的には増えてはいまい。
はそうしてフェイトの姿を見つけ、声をかける。
「ここ、なにかできるんですか?」
そう聞いたのはフェイトが何もない森の向こうを眺めていたからだ。
「あぁ、ここは私とリアーナの住まいができる予定なんですよ。モリュウは壊滅しましたが、モリュウの民もいないわけではないですし……いつまでもアルツール侯の厄介になっているわけにはいきませんから」
それでピンと来てしまう。
の記憶と、この世界の事実が一致するとすれば、この周辺にアクアラビリンスへの入り口がある。
「灯台下暗しだなぁ……」
「? なんだ」
「いや、なんでも」
それから
はリオンと一旦、ジョニーの屋敷に戻ってから再び森へとやってきた。
奥へ行けばいくほど、人の手は入っていないようだ。
その先は崖になっていて、登れそうにはない。
だが、逆にそれが怪しくて、
は崖のふもとを探索していく。
すると案の定だった。崖の一部に崩れた(あるいは崩された?)跡があって、人ひとりがやっと入れるくらいの隙間が空いていた。
入り口をくぐると中はそんなに狭くはない。
灯りが必要だが、それは用意してある。ただ、一人で探索するのは危険かもしれない。
は街へ戻ろうとして
「あっ」
返した踵を取られた。
後ろに重心が傾いたかと思うと足をすべせて落下してしまう。
そういえば、封印の場所は地下深かった気がする。
そんなことを思いつくかつかないかで、背中をしたたか地面に打ってしまう。
「痛った……」
背中をさすりながら体を起こす。思ったより深くなかった。
横穴は暗く、更に急に下方へ向かって続いている。よく転がり落ちずに止まったものだ。
上を見上げる。
頑張れば登れないほどではないだろう。
は、復興拠点から拝借してきた今は貴重になってきたレンズ製品で灯りを確保する。
水月のコアクリスタルも灯りとしては機能するが、それなりに精神力を消耗するのであれは切り札として取っておくことにする。
ほぼ垂直になっている土壁に手をかけた。ぼろぼろと崩れる。高さ的には大したことはないが、これは見た目より難しいことかもしれない。
かといって、声を張り上げて助けを求めても誰か来るだろうか。
冷静なのはいいことなのか悪いことなのか……
は黙して上ることに専念することにする。水月を足場に使えば、すぐ出られる。
悩んだ末に
は、水月の鞘についた紐を切るとそれを水月に巻きつける。片手でそれを持って足場にして元の通路に上がり、回収するという算段だ。
「よし」
紐がしっかり結ばれたことを確認して、土壁に水月を立て掛ける。
じゃり。
その時、背後に唐突にその気配は現れた。
ばっと振り返って、
はでかかった叫びをなんとか飲み込んだ。
暗闇に獅子の顔が浮かび上がって見える。
サブノックだ。
「またお前か」
「それはこっちのセリフだよ……その兜、暗闇で見ると驚くから」
はぁ、とため息をついて
。
ともあれ、探していた彼が見つかったのは幸いだ。ここで出会ったのは偶然ではないだろうが。
「サブノック、探してたよ」
「俺をか?」
「うん、とにかく一緒に来てよ」
「……」
断りたいのだろう。だが、断らない。
は、話の矛先を少し、変える。
「こんなところで会った、ってことはサブノックはアクアラビリンスのこと、知ってるんだよね?」
「!」
考えてみれば、彼がクロシスの側でないという保証はない。
だが、
はここで来てくれればその証明にもなるのではないかと考える。
「教えて欲しいことがあるんだ。もし、できないのなら断ってくれても構わない」
「……」
「あの嵐の結界と、ここは何か関係があるんでしょう? もし、あなたがそれを何とかしたいというのであれば、私たちの利害は一致している」
「逆であるなら、どうするのだ」
「それは……困るけど」
兜の下の瞳がすっと細められた。が、次の瞬間、彼はふっと笑った。
「わかった、共に行こう」
サブノックを連れて、アルツール邸に戻る。
とサブノックの姿を見て、リオンが駆け寄ってきた。
「何があった」
サブノックの姿にも驚くも、
の服が土埃で汚れていることに目ざとく気づいてリオンは険しい顔で聞いてくる。
「ちょっと足を滑らせて」
雑ぱくすぎて納得できなかったらしい。厳しい沈黙が刹那、流れた。
そこへジョニーもやってくる。
「着替えるかい?」
「そうだね、ソファとか汚したら困るし」
それぞれが違う意味であろうが、
はとりあえずコートを脱いだ。
ジョニーたちは着替えに行った
の背を見送って、応接室へと落ち着く。
ほどなくして、
は戻ってきて改めて一同は会する。
「
と言ったな。俺に聞きたいこととはなんだ」
「ひとつは、アクアラビリンスについて。場所とか知ってることがあれば教えて欲しかったんだけど……」
「けど?」
ジョニーが含みを感じたのか復唱した。
「うーん、封印らしき場所はみつけちゃったよ」
「なんだと……?」
なんとなく機嫌の悪そうだったリオンが、低音で唸るように聞き返してくる。
たぶん、純粋に場所を聞き返しているのではあるまい。
いつのまにかいなくなって、いつのまにか土埃まみれで帰ってきて、いつのまにか危険そうな場所に足を突っ込んできたことに対して何か言いたいのであろう。
「どこで」
「今度北に区画整理する予定の森があるでしょ? その近くの崖」
「そんな近くに!?」
なんてこったい!とばかりにジョニーは帽子を掴んで下ろす。
「あそこだよね? 封印の場所は」
「そうだ」
「で、そこでサブノックと会ったんだけど……あそこにいたってことは何か知ってることがあるんでしょう?」
「……」
サブノックは黙っていたが、やがて、何かを決めたように瞳を伏せ、話し出した。
明るいところでよく見ると、金色の瞳だ。物珍しさに
は気づいて、それを見た。
「アクアラビリンスの奥には、冥府の神がいる。マグナ・ディウエスという名の神だ」
「それって昔、トウケイで見た本に書かれてたことか?」
「そんなこともあったかもしれんな。トウケイには口伝もあった。まさか事実だとは思わなかったが」
「それと、あの嵐の壁は何か関係があるのか」
聞きたいことは、リオンが聞いてくれた。
「『冥府の神、七度生まれたその時に世界は冥府に沈む』。口伝の中にはそんな言葉が残っている」
風が強くなってきたのか、窓が少し揺れている。
「俺は嵐の壁が現れたのを見て、封印を確かめたが何者かが封印を解こうとしているようだな。すでに半数以上の不吉の証が、封印にはおさめられていた。無関係であるとは思えない」
「封印が解かれるのが何度目かは知らないけど、つまり現実に影響が現れた結果があの嵐の結界だってこと?」
「そうなのだろうな。誰が何のために封印を解こうとしているのかわからない以上、どうしようもないが……できることといったら……」
「不吉の証を先に集めようと思った。かな」
これ以上は何が起こるかわからない。阻止、という意味だろう。
はブラックコーラルを取り出してテーブルに置くと、サブノックの側に押しやった。
「これはトウケイ領にあったもの。言わばあなたのものだよ。この先どうやって使うべきかわからないけど……持ってる?」
「……いや、俺はもう一つ同じものを持っている。分散しておいた方がいいだろう」
そっか、と
は納得してコーラルを元の通りしまう。
「封印の開放に必要な不吉の証はあといくつなんだ?」
ジョニーがいつになく真剣な顔で身を乗り出す。
サブノックは、一度体を起こすと、ソファの背に身を預け、天井を仰ぐようにして、思い出しているようだ。
「3…いや4つだ」
「ここにある2つを除いてか」
「場所はわかっている。だが、俺にはアクアヴェイルを出る手立てがない」
頷いて、サブノック。
ならばいっしょにイクシフォスラーで一時離脱を図るべきだろう。
リオンと
も顔を見合わせ頷き合う。
「なぁ、リオン」
次に声を上げたのはジョニーだった。
「オレも一緒に連れて行っちゃくれないか?」
「いいのか。アクアヴェイルの方は」
先日は、残ることを選んだジョニー。
彼の言い分はこうだった。
「親父もフェイトもいるからな。何をすべきかわかったなら、オレはそうしたいのさ」
