--OverTheWorld.29 破壊の爪痕 -
雑多とした建物や時折行きかう兵士の間を抜けて、奥へ奥へと進んでいく。
拠点の中は、なんとはなしに1000年後に見た記憶と重なる建物も多くあった。
しかし、これほど頑丈そうなものがあったろうか?
ハロルドが中に招き入れたのはその最奥にあるひときわ大きな建物だ。
さびた鉄色にホワイトを入れて表面を撫でたような壁面は雪間に埋もれるもかなり向こうまで続いて見えた。
この雪と氷に閉ざされた時代で、それが大地と海の境界にあるのだと、誰もが気づく由はない。
分厚い扉を抜けて見上げる内装も、イクシフォスラーの封印を解く際に目にした時代の痕跡から想像できる貧相さとは相反するものだ。
色こそ赤銅色と地味であるものの、曲線と直線をうまく調和させたデザインはむしろ1000年後には無い技術力が感じられる。
それは間に合わせの建物ではなく明らかに何年も前に着工されて完成されたものであった。
「ハロルド…ここは?」
「地上軍拠点ラディスロウよ。中枢っていえばいいかしら。元は輸送船なんだけどね?」
なるほど、それでラディスロウには砲台などがないわけか。
ジューダスは辺りを見渡しながら納得する。
地上軍拠点の中核は、あのハイデルベルグの「跡地」ではなく1000年先にはすでに別の場所に移されて久しいラディスロウであると、歴史を思い返して
みれば理解するのは容易だった。
「それにしては子供とか…イロイロいるよな」
「避難民も身を寄せているからね。キョロキョロしてはぐれても回収しないわよ〜?」
服も年齢も雰囲気も統一性の無い人々に違和感を覚えるとそう教えてくれる。
言われて慌てて、すたすたと振り返りもしないで迷い無い足取りのハロルドを追った。
幹部がいるというから厳格な場所かと思いきや意外に活気のある場所だ。
けれどそれがある区域に入ると物々しさに包まれる。
「ここが作戦会議室よ、ちょうど全員揃ってるみたいね」
ノックすること無くスライドする扉をくぐってハロルドはそこへ踏み入った。
いきなりの来訪者に、何事かとそそがれる様々な色の視線。
「一番偉そうなのがリトラー、あと順番にディムロス、シャルティエ、イクティノス、兄貴のカーレルよ」
偉そうってあんた。
作戦司令の座に座っているだけだろうに。
奥まった地図の前の一段高くなった場所から敵意も無く見下ろす「リトラー総司令」の視線になんとなく申し訳なさを感じてみる。
一方自分たちはといえばどうやら会議中の部屋に堂々ふみ入った模様だ。
初めは様子を見る視線だったその内のいくつかが、秒が刻まれるとともに容赦なく非難がましいものになっていた。
「なんだ、ハロルド?会議中だぞ、用があるなら後にしろ」
棘のある声を上げたのは蒼い長髪を背中に流した白い服の長身…紹介された順からするとディムロス中将に違いない。
この時代では熱血漢で突撃兵の異名を持っていたはずの彼は、妙に威圧的で神経質そうな男に見えた。
しかし全くひるまずにハロルド。
「すぐ済むからちょっと待って。私の新しい部下よ。みんな、よろしくね」
仲間全員を並べ立てるとあっさり言い切った。
「新しい部下…?誰の許可を得たんだ」
「しかも一般人の子供を…?何を考えているのです、ハロルド」
とげとげしい態度を崩さないディムロスに続いたのはイクティノスだ。細く肩まで伸びた栗色の髪の奥から改めて非難じみた眼差しが投げてよこされる。
彼はディムロスとは対照的な冷静さで、しかし神経質そうな印象は一緒だった。
こちらはやや細めの外見から行って生来の性格、といった感じがする。
無論、これでもハロルドがへこたれることはなかった。
「私のHRX-2型を倒した、といえば納得してくれるでしょ」
「あれをですか!?それはすごい…!」
「しかし一般人は一般人、子供は子供だ。認めるわけにはいかないな」
素直に感嘆の声を上げたシャルティエ───金髪に比較的小柄な見た目。見栄え的にも一番年下だ───は、やはり一歩も退かないディムロスの言葉に押し
黙った。
既にかなりの力関係が築かれている様子だ。
大人社会独特の緊張感の中で
は黙って彼らの言動を見渡している。
ソーディアンオリジナルのメンバーはスタンたちと旅をした時よりも大分、人となりが違って見えた。
「ちょ、ちょっと待ってください!子供子供って…」
「君は黙っていたまえ!」
「とにかくそういうことだから。この子達は工兵隊に所属させるわ。工兵隊の人事権は、部隊長である私にあるはずよね」
部隊長…あまり彼女が人をまとめているところは想像できない。
合間にそんなことを考えるその前ではやはり頑として譲らないディムロス。
「認められん。全兵士の人事権は中将である私が握っている」
この状態では下らない組織の覇権主張にも見えかねる。
カリカリして融通の利かないその様は何度も会話を交わした「ディムロス」とは共通点が見出せなかった。
もっともその点ではシャルティエや他のメンバーだってそうなのかもしれないが、今はよくわからない。
戦争の重要な詰めの時期であるなら神経質になるのも仕方のないことなのかもしれない。
さて、2人の言い合いはと言えば、結果を見るまでもなくハロルドの方がうわてだった。
「あっそ、ならこれから私たちは勝手にやらせてもらうわ。ダイクロフト突入作戦も勝手にやってもらうことになるけどそれでもいいのね?」
「おい、ハロルド…」
「そこまでだ」
さすがに軍の一大事を持ち出されて止めようとカーレル、そしてリトラーの鶴の一声。
「彼らを地上軍の正式な兵士として認める」
「リトラー総司令!」
「ディムロス中将。我が軍の採取決定権は私にあるはずだが?」
一番上が融通が利く人間であることは大切だ。
ハロルドのわがままにまで付き合えるとはさすが天地戦争を勝利に導いた人である。
変なところで納得してみる。
彼は部下の人柄も的確に理解しているようだった。
「それにハロルドくんのことだ。一度言い出したら聞かないだろうしな」
「さっすが!話がわかる!」
ここで再びハロルドの口のきき方をたしなめる声にもリトラーは「まぁまぁ」と受け流して、見知らぬ少年たちに自己紹介を促すほどだった。
一通り名前を聞くと他の面子とはある種対照的な、余裕のある口調で、だが毅然と彼は壇上から声を発した。
「君たちは、ハロルド君の部下として候兵隊に配属される。頑張りたまえ」
* * *
「さて、ディムロス。作戦を説明してたんでしょ?もう一回最初からしてくれる?」
早々に処遇が言い渡されるとハロルドは早速、会議の進行を促した。
「こいつらも連れて行くつもりか?」
「私の護衛だからね?文句ある?あるなら…」
「わかったわかった」
一瞬渋い顔をしたものの、先ほどよりもあっさりと一歩譲って説明を始めるディムロス。
視線は広い作戦テーブルの上に広げられた地図へといったん落ちた。
どうやらダイクロフトの見取り図の一部らしい。
「近々展開される作戦の目的は二つある。
ひとつは、我が軍に投降の意を示したベルクラント開発チームの救出だ。
そしてもう一つは、すでにその任に当たり敵将ミクトランの策に落ちた同志二人の救出にある。
すなわち、クレメンテ殿とアトワイトだ」
それはソーディアンオリジナルメンバーになるだろう2人。
ジューダスの瞳が仮面の奥ですっと細くなる。
これは史実上の出来事なのだろうか。
それ自体が正史であったことだったとしても、救出に失敗すればその時点で歴史のベクトルが変わることになる。
それとも「この流れ」は既にエルレインが介入して変わったベクトル上であるのか。
考えながらも、今とれる選択肢は多くない。
「なるほど。それで、僕たちの任務は」
「ダイクロフトまでの移動手段の確保よ。もう目星はついてるから後は人手と、材料ね」
「人手って…あたしたちは機械なんかいじれないよ?」
「あぁ、大丈夫。ただのゴミあさりだから」
ハロルドはひらひらと手を振った。
「ゴミ、あさり…?」
「あぁ、パーツの収集だね」
「そ、わかってるんじゃない。材料をとってくるの。だから護衛も兼ねてよろしく」
思わず顔を見合わせたナナリーとリアラの横で
が聞くと、それなら!と納得したカイルは快諾を笑顔で示した。
どれほど降り続いているのか雪の厚みは定かではなかった。
寒さが厳しいことは幸か不幸か積もる端から雪を固めるので、パウダースノーでないのがまだ救いだ。
それこそ腿まで埋まるようなら数キロ進むだけでも何日かかるかわからないだろう。
それでも手間取屡事には変わり無く、雪を掻き分けるようにして東へ向かう。
その最後部でジューダスが声をひそめた。
おそらくは先頭のハロルドには聞こえないように。
「どう思う?」
「うん?…改変のこと?」
「あぁ、アトワイトたちが捉えられたのは史実どおりだと思うか?」
「…どうだろ。でももしそんなことがあれば歴史書にあったんじゃないかなぁ…ベルクラント開発チームの投降自体はきっちり書かれてたんだから」
それを迎えにいったのがソーディアンマスターであったのなら、確かにその足跡が記されていてもおかしくない。
これが名も無き兵士だったら省略に留まるだろうところ、英雄と呼ばれる人の軌跡であれば特筆されるのが世の常と言うものだ。
「すると僕らはまた後手に回ってしまったということか」
「いずれ事前に防げるものじゃないでしょ。目指す方向性は決まってるんだから…」
「あぁ、阻止すればいいことだな」
残念ながら当初期待していた「ハロルドなら何か掴んでいるのでは」はまったく期待できそうに無い。
何も知らない彼女は何も知らないまま、他でもない未来定まらぬ「今」の時代を歩んでいる。
そして、それはこの時代へやってきたカイルたちにとっても変わらないことだった。
この先どう転ぶかは、誰にもわからない。
「しかし、ハロルド博士がアレとは…」
まとう空気を僅かに緩ませてから先入観とのギャップに、ジューダスは改めて深い溜息をついた。
* * *
ハロルドは強力な晶術使いだった。
天才の名は伊達ではない。
そして比例するように、わがままの程度も伊達ではなかった。
まず保管所までの道のり。
戦闘には全く参加しない。
「お前な…前に出ろとは言わないが、ちょっとは手伝えよ!」
「あんたたちは私の護衛。大切な作戦の前にこの天才的逸材に何かあったらそれこそ地上軍はおしまいよ」
「…」
ロニたちにとってはシャレにもならない展開なので黙って言うことを聞くしかない。
ラディスロウではその作戦をぶちこわすくらいのことを言っていたことについては誰も指摘しなかった。
それなりに地位もあるだけに軍の規範にはすんなり従うとも思えないし、わがままぶりを見た今は「体よく地上軍すら持て余す人材を押し付けられたのでは
ないか」とすら思えてくる。
事実、そのとおりなのだろう。
あえて追求する者も居なかったところ、それは物資保管所に着くまで…いや、着いても変わらなかった。
「はい、じゃあこの中のどこかにある材料、探してきてね!」
「どこかってどこ」
「さぁ?管理してた前任者、行方不明でわからないわ」
私、ここで待ってるから。
あっさりといいのけて瓦解した入り口脇の、元は守衛の詰め所だったのかもしれない。こじんまりした建物の残骸に入ってさっさと自分の居場所を確保しよ
うとするハロルド。
「ちょっと…なんか嫌な匂いがしないかい?」
ナナリーが鼻をひくつかせて顔をしかめた。
匂いはその背後の扉から流れてきている。
…匂いと言うか…よく見れば怪しい色の煙がその隙間から漏れ出ていることに気づく。
「…化学薬品の匂いがする」
ツン、とくる独特な刺激臭だ。
扉を開けるのがなんとなく恐い。
そこを押して、ロニが恐る恐る開けてみるとそこには凄惨たる状況が待ち受けていた。
外から見てもそこら中にひびが入り壁も崩れかける崩壊ぶりだったが、中はその暗さと、どこからか漂う紫色の霧があいまってもっとすごいことになってい
る。
2階部分が崩落し、あちこちに巨岩のようなコンクリートの塊が落ちて通路を塞いでいるかと思えば、地震でも来た後かのように棚の物は床に散乱し、その
まま放棄されていた。
「…ハ、ハロルド。これ、大丈夫なの?!」
さすがにカイルも顔を引き攣らせながら振り返った。
何より不安なのがその空気の悪さ。
一言で言えば毒ガスの充満した廃墟である。
ハロルドは、しょうがなしに扉の方へと戻ってきて中を覗き込んだ
「あらら、化学物質が漏れてるのね。…まぁこの程度だったら、15分くらいは大丈夫っしょ」
「…くらいってあんた…」
緻密な計算をしている天才とは思えないほど恐ろしいおおざっぱっぷりである。
きっと天才だけにその緻密な計算も「勘」で行っているに違いない。などとどうでもいいことを思ってみる。
「大体、外はそんなに壊れて見えないのになんなんだよこの崩れっぷりは。ベルクラントの攻撃でも受けたのか?」
「馬鹿ねぇ、ベルクラントの直撃を受けたらチリも残ってないわよ。ちょっと待って…」
ひょいとロニとカイルの間を抜けて毒ガスの中に入ったハロルド。
入り口のほど近くにある柱に打たれたプレートのようなものを見ている。
そこには殴り書きのような文字でメモが残されていた。
「ふむふむ。前任者のメッセージね。『ベルクラントの射程距離に入ったので撤退する。重要物資については奥のケージに格納しておく』…良かったわね、
目的のブツの場所、わかったわよ」
安易な持ち出しを禁ずるためにキーが必要だどうのという肝心のポイントはすっとばしてにこやかに振り返ったハロルド。
ケージを開けるために結局「かぎ探し」をしなければならないようだ。
複雑そうに顔を見合うカイルたち。
結局ハロルドも材料を見繕うことに興味が湧いたのか来てくれることになった。
ただし、高レベルプロテクトを解除できる段階になったら、の話しだ。
…どこまでもマイペースである。
「まず低レベルプロテクト解除に必要なのは「セルチップ」「ジーンチップ」「バイオチップ」…んでマスターキーをゲットする、と。前の3つは温度変化
に弱いから気を付けてね。」
「…ってどういうこと?」
リアラが小首をかしげて尋ねる。ハロルドは人差し指を立てて言った。
「外気に触れると寒さにやられて崩れるのよ。持ち出し禁止、ってわけね」
「「「…」」」
つまり15分以内に全てみつけろと言うことだ。毒ガスが無いならともかく、前任者も想定外であっただろうこの状況下では結構厳しい。
「マスターキーは大丈夫だから、一度みつけたら戻ってきてよ」
「…別れて探索するのが妥当だな」
危険もありそうだが、迅速さが物を言うだろうこの探索。
ジューダスのしかたない、というような提案に反論するものは居なかった。
「どう別れる?また拠点跡地と同じでいいか?」
「いや、体力のある者とない者が組んだ方がいい。いざと言う時は抱えてでも出られるように」
「命あってのものだねだな」
ひぇ〜とロニは辟易しながら肩を竦める。
幸い、建物自体はそう広くはなさそうだ。探す場所は限られてくるだろう。
「じゃあオレはリアラと…!」
「…お前、…うらやましい性格だな」
シュタリと挙手したカイルにロニの呆れた視線がとんだ。
確かに君ら、体力のあるなしコンビではあろうが、ロニとしては別の方向性でまず物を考えてしまうらしい。
何にしてもカイルはリアラ「だけ」の英雄であるし。
「決まりだな。ロニ、そっちにまわれ」
「なんでだよ?」
「カイルとリアラ、有事の際は2人まとめて連れてこい」
「有事ってリアラはともかくカイルは…とばしすぎでバテるとか、あちこち散乱してるものにつまづいて転ぶとか?」
「「ありそう」」
「な、なんだよ皆!!!」
ある意味一番危険な2人なので一番体力があって体格のいいロニに任せることにした。
すると必然的にナナリー、ジューダス、
の3人がもう一方になることになる。
は運動能力は高いが持久力に乏しい面が有るので見ているに限る。
あくまでこの面子の中では、の話しであるが。我慢されても困る。
変化に敏感なので感覚的なストレスも大きいだろう。
さて、では残ったナナリーはというと…
「おいナナリー。ジューダスと
が倒れたら、ちゃんと連れて来いよ!」
「なっ、なんでそうなるんだい!レディに対して失礼な!!」
「レディって柄か!」
確かにレディはレディでもワイルドが装飾語として付きそうなレディと言える。
故に「まぁ大丈夫そう」と判断されたことには間違いなかった。
ジューダスもまた自尊心に触れるところがあったのか小さく「そんなことがあるか」とこぼしたがすでにナナリーに関節技で締められているロニには聞えて
いないようだ。
「あんたたち…面白いわねぇやっぱり一緒に着いてこうかしら」
「二手に分かれたらお前の相手に手を割く人員はない。…待ってろ」
ごもっともなことを言い残してジューダスは保管所の中へと足を踏み入れた。
一階部分を途中まで全員で進み、そこから地下と2階に別れることでなんなく目的のものは手に入った。
チップでプロテクトを解除してマスターキーを手にいったん外へ出る。
「あら、早かったのね」
火を焚いて待っていたハロルドが振り向くと、何が有ったのか気絶したカイルを肩に担ぎ上げるロニの姿が目に留まった。
先に合流地点に戻ったジューダスたちの姿を2階の吹き抜けからみつけて、ならばショートカットにと崩れた階段から飛び降り、バランスを崩した際に打ち
所が悪かったらしい。
床に伸びた姿を見て、あまりのお約束に「いい意味でも悪い意味でも期待を裏切らない男だ」などとジューダスには呆れられていた。
阿呆な自業自得さに、ロニにまでも深い溜め息をつかれ炎の脇に転がされてたカイルの周りに全員が腰を下ろす。
一度、毒ガスを体内から排出するために休憩することになった。
その間に調べていたのかハロルドはその化学物質は蓄毒しないから安心なさい、と告げた。
「しかしよ、…その、次の作戦でアトワイトさんとクレメンテさんを助けるんだろ?後はベルクラント開発チームの投降、とか言ったっけか」
ベルクラント開発チームの投降については史実でも語られていることだ。
彼らの投降により戦況は急変したとも言われている。
「そうよ、本来ならアトワイトたちが連れてくるはずだったんだけどね」
それすら今は史実上なのか、怪しい。
とにもかくにも今、ロニが聞きたいのはそのことではないらしい。
なんとなく手元に置かれた廃材を炎に放り込むと一瞬青い火が上がった。
「地上軍はベルクラントの開発者、なんて受け入れられんのか?そのせいでたくさん人が死んだんだろ」
あんなものがなければ、戦争だってこんな結末にはならなかった。
そう言いたそうだった。
その威力は、この物資保管所の有り様を見てもわかる。
このあたりは射程範囲だったが標的ではなかった。
つまりは、ベルクラント発射の余波だけでこうなってしまったということだ。
外観が崩れてないところを見ると、余波と言うより余震の影響かもしれない。
「あんたね…そのベルクラントの情報がなければ地上軍にだって勝ち目がないのよ?
地上軍としては喉から手が出るほど欲しい情報だわ。
遺族の憎しみだとか私情や感情にかまっている場合じゃないの。私も個人的に見たいし。」
私情に構うなと言う発言に見事に矛盾する末尾の一言はまったくもって本心なのだろう。
比重的にはどちらが上なのか判断に窮する。
「ダイクロフトを攻略するには一時的にでも機能を占拠する必要がある。その為のデータ、というわけか。正に起死回生だな」
「それにさ…」
その次を継いだのは
だった。
「そもそもベルクラントは天上に土砂を巻き上げてもうひとつの「地上」を作るためのものだったんだよ。この状況から脱するための地殻粉砕装置だった。
ベルクラントを作ってる人たちだって、それが凶器に変えられたんだからたまったものじゃないでしょう」
パチリ、と火の爆ぜる音がする。
これほど科学の進んだ時代でも、今、暖を取るための方法は原始的だった。
「そう、天上に最初に上がった人間…ミクトランたちがクーデターを起こし、戦争になった途端にベルクラントは兵器に姿を変えた。ちゃんと理解してる
じゃない」
よくできました、とばかりに黙って聞いていたハロルドが頷く。
初めは人類全員がこの極寒の世界から移住する権利のあるユートピアになるはずだった。
しかし、クーデターに成功した者たちはみずからを天上人と称し、地上に残された人間に圧政を強いた。
それが発端。
「強い力は使い方を誤れば力は凶器になる。そんなことオベロン社の廃坑でもエルレインのやり方でも散々見てきたことだよ」
「そう…だな」
「でも、建設的に使えば人を殺す道具も人を生かすためのものになる。例えば、ソーディアン…とかね」
「ソーディアン…!」
単語に反応したのかカイルががばりと目を覚まして体をもたげた。
それが「睡眠」であったならまずありえなかった光景に、驚きの視線が集う。
「そうだよ、ハロルド。ソーディアンを作るためにも早く材料を手に入れないと!!」
「…ソーディアンを作る材料じゃなくてこれは揚陸艇の材料よ」
「まぁどっちにしても急ぐにこしたことはないんだろ?」
わくわくしているカイルに、振り切ったかのようにロニが笑顔でやる気を見せる。
今は、とにかく地上軍の力になるべきだ。
地上軍の勝利と共に歴史は、世界はあるべき姿を取り戻すのだから。
