信じがたいことにハロルドが熱病で倒れてしまった。
それもいわゆる「不治の病」。
戦争も大詰め。ソーディアンを造るのに忙しく保管所への往復と研究を繰り返しすぎたせいだろうか。
…なんて、憶測をたてても解決にはならず。
「知ってるわ、この病気。
不治って言われてるけどね、ユニコーン・ホーンがあれば治るのよ」
白と黒(前編)
「どこに行くんだい?」
「カーレルさん、オレたちがハロルドの薬、採って来ます!!」
出掛けに会ったカーレルにも、カイルは慌しく、だが頼もしく言い切って地上軍拠点を後にした。
しかしながら。
本人が自ら治す気満々なので緊張感のないまま彼女だけ拠点へ残して、他のメンバーは伝説のユニコーンの探索をすることとなった。
「っていうかさ。リアラは聖女なんだからペンダントの力で治せねぇのか?」
見事な素早さでユニコーンのいるらしい森を探り当てたハロルド。
そこは神気が漂う森。雪も塵の混じった灰色ではなく白雪だ。
霧の漂う不可思議な深い場所までたどり着いた直後にそんなうかつに発言したロニは、リアラの拳によって次の瞬間、茂みの向こうに消えていた。
「人にはできることとできないことがあるのよv」
「あぁ、さしずめ聖なる乙女は必需品だからね。この場合」
「「「誰がどう聖なる乙女なんだ」」」
誰に対して失礼なんだかさっぱりわからない発言が男性陣から繰り出される。
多分、リアラに対してなのだろうが、表面上発言した に対してのつっこみに見えるので事なきを得ている。
「大丈夫だよね、リアラ」
「えぇ、もちろんよv」
も全く気にかけておらず、ヒロインとしての役割をあっさり放棄する発言。右から左へ譲り渡されたリアラは自覚があるのだろう。やる気満々である。
ただ、一方で彼らの発言はナナリーのご不興を買っていた。
「失礼だね。じゃああんたたちが力づくで捕まえてみるかい?!」
ユニコーンは清らかな乙女しか近寄ることができないなんて結構、有名な話である。
「いやいや、ステキで清らかな乙女のナナリーさんにお任せしますって!」
「なんだかひっかかる言い方だねぇ」
「伝承が本当ならまず無理だろうな。ただの獣と言うよりの聖獣の類であるようだし」
「オレ、早く見てみたいな!」
ジューダスの呆れたような溜息に続いてカイルの能天気な声が飛ぶ。
リアラが微笑ましそうにその様子を見ている。
「…本当に大丈夫なのか不安だが」
「あら、ジューダス。誰を見て物を言っているのか教えてくれると嬉しいのだけれど」
にこやかに高速で振り返られて(怖っ)さっとジューダスは視線を逸らした。
確かに聖女とユニコーン、これほど似合う組み合わせがあるだろうか(言葉上)。
きっと激しく彼女の中ではそんな自覚があるに違いない。
ついでに言うと、「ホントは奇跡の力で治せちゃったりするんだけど、ここは清らかな聖女としての出番よねv」くらいに思っているのかもしれない。
「ユニコーンって角のある馬なんだよね、他にはどんな特徴があるの?」
「え〜と…『頭がよく非常に警戒心が強く滅多に人を寄せ付けない。』だって」
歩きながら がハンドブックを読み上げる。ハロルドから渡された古いもののようだが内容はモンスター図鑑に近いものがある。
「どうやって捕まえるの?」
「この本には『清らかな乙女を前にするとユニコーンはその膝枕で眠ってしまうため、それを利用して捕まえることができる』…って書いてある」
「ただのスケベな獣じゃないのか。」
「あんたと一緒にしない!!」
夢がなさそうなことを呟いたロニに一様にみんなの眉が寄りナナリーの肘鉄が飛ぶ。やはり美しく伝えられているものを俗っぽく言われると嫌なものだ。しかしそのハンドブックの書かれ方自体もちょっと俗っぽいものであるが。
「こんなことしなくても人語を解せる聖なる生き物なら普通に話せると思うんだけど…」
「あぁ。書かれ方一つで妙に知能の低い獣に思えるのが不思議だな」
「ねぇ?ユニコーンっていったら神聖と純潔の象徴なのに…私の中で高潔なユニコーンのイメージがロニみたいになってしまった」
「それは最悪ね」
「ちょっと待てや」
由縁の無いところで話題にしている本人たちはどこふく風といった感じで歩きつづけている。
まぁ、言い伝えの記述なんてあやふやなのだから目で見て確かめればいいことだ。
* * *
雪が積もっているのにこの森は寒くない。どうも白銀の光景は幻のようだった。
もしかしたらユニコーンによる視覚的なカモフラージュなのかもしれない。
きっと元は緑豊かな森なのだろうがこの時代に常緑の森が広がっていたらおかしなものだろうから。
雪が積もって見える足元の感覚は草地に近い。
しばらく進んでそんなことに気づいた後にナナリーが声を上げた。
「で、どうやってユニコーンをみつけるんだい?」
「歩いていればむこうから来るんじゃないのかしら。あ、でも男どもがいたらダメよね、きっとv」
さりげにリアラが口の悪いことをいっている。かわいらしく言っても毒が抜けきっていないことには気づいていないのか。
「じゃあ別れるか。」
「この場合、役立たずなんだから待っててくれればいいわよ」
「「………」」
思いやりがあるんだかないんだかわからない発言。
事実なのだから、いや相手がリアラなのだからというべきか何とも反論しようがないのだが。
かなり奥まで進んだところでみつけた湖に役立たず(リアラ談)たちは残ることになった。
「じゃあ行きましょ」
改めて誘われてやや考え込む様子の
。
「…私も残る」
それからそう言った。
「へ?」
「いいでしょ。ナナリーとリアラで行ってきなよ。」
「「「「………………」」」」
何か憶測の飛び交う間が本当に一瞬だけ流れた。
「お前!!まさかキヨラカナ乙女じゃな…」
「品の無い詮索はしない!!」
「ぐはっ!!」
なにやら動揺するロニがふっとんだところで何も考えていないカイルが爽やかにポジティブな予測を投げかけてくれた。
「そっか!男に近寄らないって言うなら万が一のことも考えてこっちに誰か残ってくれたほうがいいよね!!」
こいつ。何もわかってないな。
そんな視線が複数流れたが事なき展開は続いていた。
「リアラがいれば大丈夫だよね、任せていい?」
「えぇ、じゃあ待っててねv」
にこやかに言えばにこやかに返ってくる。
こうしてみるとけっこう彼女もわかりやすい。
「じゃ、私たちは大人しく待ってよう」
「うん、オレすっごい楽しみだな!ここに連れてきてくれるといいなぁ〜」
リアラとナナリーを見送ってからカイルと2人で待ち時間を水辺で潰し始める
。
冷たさは幻影であって、全く寒くないらしくその意外さに面白がって遊んでいる。
『坊ちゃん』
「…なんだ」
『気になりますか?』
どこかからかうような口調に聞こえたのか、声無き声に言われてジューダスの顔が嫌と言うほどしかめられる。
ロニも近くにいることだし無視をすることに決めた。
それがまずかったのかもしれない。
「しっかし残るなんて意外だよなぁ」
せっつくように何度か呼びかけてきたシャルティエを無視していると今度はロニが信じられないといったふうに話し掛けてきた。
正直、勘弁して欲しいと思いつつジューダス。
「何の話だ」
「
ってあぁいうやつ好きそうだろ?絶対喜んでついていくと思っていたのによ」
今現在、「雪中の水なのに冷たくない」未知の現象に好奇心満々で臨んでいる様を見ればそんなことは明らかだ。
しかし、先ほどはむしろ、気乗りしない雰囲気であった。
だからかえって妙な憶測がとんだわけだが。
「だから何が言いたいんだ?」
「いや、別に何ってわけでも」
ジューダスがいつものごとく取合う気がないと察したのか、元々何気ない会話のつもりであったこともありロニはあっさりひいた。
「ま、ナナリーたちに任せるならすることはないよな。オレたちも休ませてもらうとしようぜ」
そう言ってロニはカイルたちのところへ歩みを寄せる。水際へ行ったとたんに水を浴びせられると言う容赦ない歓迎を受けたロニはむきになってカイルと水遊びを始めてしまった。
はっきりいって幻覚とは言え雪の中で水浴びとは寒々しい光景である。
「端から見ると寒いね」
「色んな意味でな」
交代に戻ってきた
の方は見ないで溜息だけつくジューダス。
その背中でシャルティエが…
『ねぇ、
。前に恋人でもいたの?』
いきなり爆弾発言をした。
いや、別にさしあたって問題発言でもないのだろうが…
が相手で無いならば。
あるいは(よりにもよって?)ジューダスの前で無いならば。
一瞬間があって、先に口を開いたのはジューダスだった。
「シャル!!!!#」
『だって坊ちゃん全然話し聞いてくれないからっっっ!!』
うひゃぁ!という悲鳴に続いてそんな反論があった。瞬間、ジューダスは先ほど無視していたことを後悔した。
…口止めくらい し て 置 け ば よ か っ た …
「いないけど?」
訳もなく目の前が暗くなりそうな気分を味わうその隣で、それが何か?とばかりにあっさり答えた
。
「というか何でそんなこと今更聞くわけ」
苦笑。
これにはシャルティエも沈黙した。
ますます意味がわからなくなった瞬間だった。
「あ、何か来る」
「『え?』」
思考回路が停止しかけたところへ
が耳を済ませて音の方向を振り返る。
確かに蹄の音が近づいたと思った瞬間、真っ白な生き物が猛スピードで目の前を横切っていった。
「「…」」
「今のって…」
「あぁ。ユニコーンだな」
はっきりと確認していない割に妙な確信をもってジューダスが言う。その発言が正しいことはすぐに証明された。
「あっ!リアラ!!」
「あ、カイル?」
後を追って2人のオトメが猛然と走ってきたからである。
仲間たちの姿をみつけるとさすがに彼女らも足をとめた。
「さっきのところに戻ってきちゃったんだ」
「今のユニコーンはどうした?」
「どうもこうもないわ!顔を合わせたとたん逃げやがって…どういうことよ!!!」
どういうことさ。
一体顔を合わせた瞬間に何が起こったのか。
こっちがユニコーンに聞いてみたいものだ。
「足が速くてなかなかね…一発でしとめないと難しいよ」
「ちょっと待て。ナナリー、仕留めるんじゃなくて捕まえるのが先なんだろ?」
「だって逃げられたの3度目なんだよ!話し掛けても無視だしさ。ホントに人の言葉がわかる聖なる獣なのかい?!」
目的が「ユニコーンに会う」から「ユニコーンを仕留める」に変わっているらしい2人。
聖なる獣をその弓で射止めちゃったりした日には、角は確実に手に入ってもかなり寝覚めが悪いと思う。
「3度目って…随分遭遇率がいいんだね」
「いや、けっこう わらわらいるみたいだよ」
「ありがたみが無いな…」
ユニコーンの住まう森、というよりも生息地、みたいな。
それでナナリーの中でも価値観が落ちているのかもしれない。高級な宝石もたくさんあると安く見えるとの一緒だろう。あるいはプライドの問題なのかもしれないが。
言ってる間にがさり。と茂みが揺れて真っ白な長い鼻面が覗いた。
「「「「「…………………」」」」」
脱兎!!!!
「まただよ!!!!」
「えーいアクアスパイク!…逃がさない!!フ リーズハンター———!!」
ロニとジューダスは見た。
ユニコーンがリアラと目が合った、その瞬間に逃げ出したのを。
も気づいたであろうがあえて彼女はそこには触れなかった。代わりに
「ねぇ、仮にも神聖な生き物に向かっていきなり殺生はどうなのかな?」
「無駄だ。もう聞こえてない」
凄まじい勢いで二人と一頭は駆け去っていった。
「こりゃあ血の雨が降りそうだぜ…」
「嫌だなぁ、ついていかなくて正解と言うか」
「正解以前にあれではいつまでたっても接触すら難しいんじゃないのか」
「今のがユニコーン!?凄い!伝説上の生き物なんて!!!」
1人で違う方向で騒いでいるカイルに総員から溜息が漏れる。
何をもって「凄い」のかも不明である。
「でもさ、目が合っただけで逃げるなんて…ある意味やっぱり神聖な生き物なのかな〜なんて思ったり」
「そうだな。物事の本質を理解しているのかもしれん」
「…お前ら、それリアラの前で絶対言うなよ」
「「言われなくても」」
書物のイメージを超えて、聖なる獣としての希望が垣間見出だされた出来事でもある。
なんていうか、皮肉的に。
「あっ!」
「?」
「また来たよ」
カイルの声に振り返ると20mほど離れた場所にひときわ白い大きなユニコーンが現われていた。
「ここ、水飲み場なんじゃない?」
「そうかもな」
遠くから見守っているとどうということはない。
霞むような景色の中、なんだか絵になる光景だ。
心洗われるような─────
「見つけたよ!!」
「舞い降りし疾風の巫女よ、我らに仇なす意思を切りさかん!シルフィスティア!!」
誰が誰に仇なしてるって?
沈黙をもって目の前で起こった喧騒に疑問を抱いた瞬間には既に彼女らは跡形もなく消えていた。
…ユニコーンの無事を祈りたい。
