世界に空が戻った─────
--エピローグ
しかし、全てが円満に収まったわけではなかった。
降り注いだ外殻は世界に、町々に降り注ぎリオンと
の知るとおりダリルシェイドもまた、壊滅した。
大多数が広大な地下水路へと逃れたため人的被害はおそらく最小限だったであろう。一方で、自ら城に残った王も将軍も遺された災厄の犠牲となってしま う。
世界の枢軸。
そのよりどころを失った人々が失望する中、復興は困難を極めるかと思われた。
が。
3年後───
は広場の植え込み、花壇の縁に腰をかけ行き交う人を眺めている。
青空の下、子供たちはきゃあきゃあと戯れあい、きれいに整備されたレンガの上には人々の笑顔が落ちている。
風が吹けば仄かに花の香りを運んでくるし、噴水の水は涼やかな音を立ててまるで歌っているようだ。
旧王都ダリルシェイド。
街は見事なまでの復興を遂げていた。
「
」
振り返ると見知った青年がいつのまにか傍で顔を覗き込んでいた。
「ここにいたのか。評議会のカレットが探していたぞ」
「…カレット…ということは用は私じゃなくてリオンでも済むはずだけど」
頬杖をはずして見上げると困ったような笑みを浮かべる。
この3年で随分とリオンも穏やかになったような気がする。
街の復興と共に、だ。
凄惨なまでに瓦礫の山と化したダリルシェイド。
その様は筆舌に耐え難いほどだったが、生き残った城の識者と街の人々、
それからリオンと
、比較的被害の少なかったファンダリア王…ウッドロウの助力もあって復興へ向けた動きがはじまるのは遠くはない話だった。
王も七将軍ももういない。
当時、ダリルシェイドのもっとも頼れる人々が消え去った事実を目の当たりにダリルシェイドの人々には絶望にも近い気配が充満していた。
とリオンの知るところによれば18年後には街は見る影もなく廃都として遺棄されたままだったのだから想像はできる事態ではあった。
誰もがこれからどうすべきかすら決めあぐねていたその時、すかさず識者を集めたのは
だった。
何が出来るかを…わからないなら考えればいい。
出来ることから始めなければ。
立ち止まってるヒマはない。
残された彼らは危機の中の生活能力はなかったが、一度やるべきことを示唆すればそれに向かって考え出す。
希望を見出してしまえば、先へ進む力が動き出すのも必然だった。
一足早く復興の目途のついたファンダリアやストレイライズからも手が差し伸べられる。
アクアヴェイルとも和平の協定を結び、奇しくも崩壊を経て初めて世界は手を取り合う道を選んだことになる。
そんな中、リオンがカリスマを発揮するのにも時間はかからなかった。
歯牙に衣をかけぬ物言いと、大局を見極める力。
そして、事実を的確に受け入れる物事の捉え方は誰にでも公平で、態度とは裏腹の誠実性を如実にしている。
失意の最中にあっても揺らぎない様は不安と言う名の崩壊の時代に多くの人々に活力を与えることとなった。
最も本人にそこまでの自覚はないのだが。
ともども元々目立ちすぎることは嫌いなタチもあって復興の方向性が定まって久しい今はあくまで助言役として影ながら支える立場に収まっている。
はと言えば、王政の崩壊した直後に身分不問の評議会を提唱し「でも議会は放っておくと腐るから無関係な人間から構成される査問部も必要」と発言して旧貴 族の度肝を抜いていた。
作る前から腐るとか言ってどーする。
その後は権力には関わらず、様々な識者のグループに顔を出してはそれぞれ計画を見直す手伝いをする日々だ。
軌道にさえ乗ってしまえば識者たちは惜しみなくその力を発揮し、時折は楽しそうですらあった。
身分も年齢も、家柄もなく誰もが前しか見据えないようになった頃…
街は1年と経たず、かつての面影を取り戻すための奔走を始めていた。
「済ませておいた。それから明日、クレスタに向かうことも確認してある」
「ありがとう。これから休暇だっていうのに…無粋だね」
今はもう、穏やかな陽だまりにいれば眠気さえ催す程ののどやかさだ。
リオンは休暇前に持ち込まれた用件を処理したことを伝えると、苦笑にも似た笑みを薄く浮かべた。
明日はルーティやスタンたちに会いに行くことになっている。
いつのまにやら孤児院に出入りして纏まるところに纏まっていた二人…
いよいよ子供が生まれるらしい。
リオンと
は請われてダリルシェイドの枢機機関にとどまっていたが、復興も軌道に乗ったのでしばらく旅にでも出ようかという話が出たところ。
計画というよりできたらいいね、の段階だったがそんな話が舞い込んできたのでその前にルーティたちの様子見も兼ねてしばらくは休暇をとってクレスタで のんびりしようと言うわけだ。
「それで、ルーティから手紙が届いたぞ」
「え?今日?」
あぁ、とリオンは左手に薄い萌黄色の封筒をひらめかせた。
「これから行こうって時になんで今頃…」
「生まれたらしい」
何かあったのだろうかと顔を曇らせた
にリオンは短く言った。
それから、一瞬何だわからない顔で見上げた
から目を逸らさずに続ける。
「名前は『カイル』だそうだ」
「…」
無言で
の口元に笑みが浮かぶ。
悦びというよりそれはまるで…
「お前、このことも知ってたんじゃないだろうな?」
にんまりと、してやったり、だ。
思わず眉を寄せたリオンの横で立ち上がって大きく伸びをしてから笑う
。
「これは運命っていうヤツかな」
「運命なんて信じるのか?」
「思うに運命は、切り開こうとする者によって作られるんだよ」
流されるわけでなく。決まっている訳でもなく。
意志の強さによって初めて形作られる久遠の理。
「それともこっちの方がいい?『当たり前の奇跡』とか。」
新しい理論に
はご満悦だった。
春の風が優しく頬をなでる。
空はどこまでも青く、
限りない慈しみを込めて地上を見下ろしていた。
人々はダリルシェイドを捨てなかった。
見えない未来に不安を抱き、何かにすがることよりも自ら立ち上がることを選んだのだ。
そして世界の枢軸が復興する様に、他の街々も失望を希望へ変えた。
祈りの町──アイグレッテは作られない。
フォルトゥナが、誕生することはないだろう。
− Tales Of Destiny 完 −
