LastTension‐エピローグ
ミトスの姿が掻き消えたかと思うと時の呪縛は去り、輝石の光が玉座の前に浮遊した。
そこに実体のない空(から)の王国の主の幻が重なる。
金の髪の少年の姿が。
「ミトスが…!」
我に返ったようにジーニアスが叫んだ。
「クルシスの輝石がある限りミトスは生き続けるのよ」
リフィルの声は同情にも似た声だった。
—そして…いずれは輝石に支配される
幻となったミトスはゆっくりと瞳を閉じたまま音にならない言葉を紡いだ。
「それがわかっていながらどうして?」
の疑問にも彼はもう答えなかった。
小さくかぶりを振るとミトスの影はゆっくり瞳を伏せる。
—もうお前たちの正義ごっこに付き合うのはごめんだ
さっさと輝石を…壊せ
でないとデリスカーラーンは離れていく
「ミトス…お前」
—早くしろ。ボクも…ボクではなくなる
いつからだろう、彼はもう壊れていたのだ。
そしてミトスは、本当の彼の、奥底にある無数の気持ちの中の一つは終焉を望んでいた。
「ロイド…ミトスを助けて!ミトスのままで逝かせてあげて」
「わかった」
—さよならだ、ボクの影
ゆっくりとロイドが近づいていく。
—ボクが選ばなかった道の最果てに存在するもの
そしてまっすぐにミトスを見た。
—ボクはボクの世界が欲しかった。
双剣を引き抜き腰を落とす。
—だからボクは後悔しない
ボクは何度でもこの選択をする
この選択を…し続ける
シャ ー ン …
ロイドが腕を振り切ると輝石は光の粒子になって砕けた。
光はしばらく乱舞していたが、やがてロイドの輝石に集まるようにして消えた。
「ここに…俺たちの世界にいてもよかったのに」
呟きを妨げるものは何もなく…
「ばかやろう」
* * *
いつからだったのだろう。
ロイドの前に青い燐光が集うと一振りの剣が現れていた。
エターナルソードだ。
—古き契約の主は消えた
新たなる契約の主よ
この剣に何を願う
剣は厳かに新たな主へとそう告げた。
「二つの世界を…あるべき姿に!」
いつまでも感傷に浸ってはいられない。こうしている間にも惑星カーラーンは離れていく。
時は刻一刻を争うのだ。
ロイドは剣を手に、何かを吹っ切るように高く掲げ、声を高らかに宣言する。
エターナルソードが震えたかと思うと、光が、生まれた。
光は大いなる柱となって立ち上りやがて世界に広がっていく。
「もどってきたのか」
光が消えるとそこは崩れた救いの塔の前だった。
「な、何が起きたんだ」
とたんに起こるのは震動。
共鳴するかのように精霊たちがはじかれたように次々と現れた。
「どうしたんだい、あんたたち!」
—願いはかなえた。
しかし楔がない。楔がなければ大地は死滅する。
「どういうこと?」
そういうことは最初に言って欲しい。
更なる震撼が世界を揺らし、
は虚空に浮くエターナルソードを見上げた。
—もともと世界は滅亡を防ぐために二つに分けられたのだ
あるべき姿にもどれば世界を支えるマナは不足する。
大地は消滅しようとしている
「そんなごたくはどうでもいい!それよりどうしたら大地を守れるんだ!」
—ふたつの世界をささえるため、大樹を楔とする。
大地の滅びを防ぐには、それしかない。
「大樹カーラーンの再生…」
「そうか!」
「ロイドさん急いでください、デリスカーラーンのマナを大いなる実りに照射しないと世界は崩壊します」
「よし、頼む!エターナルソード!
しかし返ってきたのは無情な答えだった。
—すでにデリスカーラーンは大地の引力圏を離れようとしている
これを引き止めることはかつてのユグドラシル…
ミトスですらできなかったことだ。
それでもやるのか
「ああ」
—エクスフィアで強化していても体が持たないだろう。
それでも本当にやるのか
「やるったらやるんだよ。やんなきゃどうしようもないだろーが!」
—承知した
エターナルソードが…消えた
その役割を果たすために消えたのだろう。
あたりが霧に巻かれたように暗くなる。
「どうしてだ…マナがはじき返されちまう!」
「大いなる実りが…死んでしまっているんだわ」
その時だった。
ふいにミトスの宿ったロイドの輝石が輝きだした。
あたかもそれは今ここにある、唯一の光であるかのように。
「待て、いかないでくれ!たのむから、目覚めてくれ!!」
輝石の光が満ち、消えるとロイドの背に翼が生まれている。
それはコレットの羽と同じく光色でありながらも確かに翼だった。
ロイドが空に舞い、コレットがそれを追う。
残された仲間は待つ他にすべは無かったが、
はアスカを呼んでその背に飛び乗った。
「
!」
ジューダスを引き上げてロイドたちを追う。
その先に「大いなる実り」と呼ばれたものがある。
それは花開く直前の巨大なつぼみだった。
「デリスカーラーンは…とまったみたいだね」
「あぁ…どうしたんだろう。エターナルソードも消えちまったのに」
困惑したようなロイドの前に、再びエターナルソードが現れたのはその時だった。
「エターナルソードが…」
「これが最後の願いだ、エターナルソード」
ロイドはしっかりとその柄を握り締め、振り上げた。
「大いなる実りを…目覚めさせて!」
コレットが寄り添うように手を添える。
「たのむ、たのむから目覚めてくれよ」
「お願い」
「目覚めろ!大樹カーラーン!!」
* * *
タバサと呼ばれる少女は空を見上げていた。
空から光とともに訪れる大いなる実り
少女はかいなを伸ばしてそれを受け入れる。
ほどけたつぼみの花びらが、光の本流が、少女を取り巻き、そして、消えた。
瓦礫の中を杖を手にした女性が歩いていく。
陽光が春の日差しのように優しく辺りを満たしていた。
女性は滅びの中にある再生の象徴を手にとってなでる。
それは小さな苗木だった。
「私はマーテル。そして大いなる実りそのもの」
その背後に人の気配がせまると女性はゆっくりと立ち上がって振り返る。
長い緑の髪が風に揺れた。
「人々の希望が、そしてロイド、貴方の希望が私をよみがえらせた」
「あなたが…ミトスの姉さん?」
「いえ、ミトスの姉であったマーテルは、私の中の一人に過ぎません。
私はマナそのものであり、大樹そのもの」
マーテルは優しく微笑む。
それは誰もがどこかで見た覚えのある、けれど記憶の奥底に眠っている、そんな笑顔だった。
「大いなる実りに吸い込まれたたくさんの少女の象徴。
大樹と寄り添うために誕生した、新たな精霊。
そして種子は今、私とともに新たな目覚めを迎える」
苗木が急速に成長する。
目の前にそびえた大樹にロイドは思わず一歩下がって見上げた。
「これが…大樹カーラーン」
「すごい…とても大きくて…きれい」
「これが大樹の未来の姿。でも今はまだ小さな芽。
このままではすぐに枯れてしまうでしょう」
「どうしたら大樹を守れるんだ」
不安そうに聞いたロイドにマーテルは微笑みかけると静かに答える。
とジューダスは、彼女の微笑みを静かに見守った。
「この大樹をいつくしみ、愛すること。
その約束が果たされる限り、私はこの樹を守りましょう」
「約束する。もしも樹が枯れそうになっても必ず俺が…俺たちが食い止める!」
「ではロイド、代表としてあなたにお願いします」
ざわっ
滅びの地に風が吹いて大樹が大きく揺れた。
「契約の証として、この大樹に、新たな名前を」
「名前…?」
「大樹カーラーンは、かつてエルフがこの地にやってきたとき彼らを守るものとしてここに植えられた樹。
新たによみがえったこの樹は、エルフと、人と、その狭間のものすべての命を守る存在。
だからこそこの樹には、新しい名前が必要です」
「ロイド、名前を決めてよ。わたしたち、みんなの樹に」
「この樹は、世界を繋ぐ楔なんだよな。
よし、決めた。この樹の名前は──…」
* * *
「ただいま、おばあさま!」
金の髪の少女は故郷の村に戻っていた。
「おおお…神子様!」
「ううん、おばあさま。私、もう神子じゃないよ」
「そうじゃのう、コレットよくやったのう」
少女の帰還を知って村人たちも集ってくる。
その中には彼女の良く知った姿もあった。
「おかえり、コレット」
「ただいま!お父さま!」
そうして少女は少女らしい笑顔で父に抱きついたのだった。
銀の髪のハーフエルフの姉弟はアルテスタの家にいた。
「そうか、クラトス様はデリス・カーラーンとともに最果ての旅へ出るか」
感慨深そうにかのドワーフは言う。
「お前たちはどうするね。イセリアとやらへ帰るのか」
銀髪の女性はかぶりをふる。
いいえ、という彼女には強い未来への期待が込められていた。
「私たちはまた新しい土地を目指します」
「少しでもハーフエルフたちが受け入れられるように世界を回るんだ」
「苦しい旅になるのう」
「疲れたらイセリアという故郷に帰ることができます」
「あそこはボクらを受け入れてくれたから」
少年の言葉にもまた、希望が宿っていた。
「ただいま、みんな!」
漆黒の髪のくの一は笑顔とともに里へ帰還した。
「しいな、無事で何よりだ」
「おめでとう、しいな」
口々に投げられるその視線に照れたように、だがしかし彼女は空を見上げる。
「めでたくなんかないよ。
あたしたちの目の前には新世界が広がってるんだ」
見上げた空は限りなく青かった。
「頭領の起こしたイガグリ流をみんなに知らしめないとね」
「ほら見ろ、教皇なんかがでしゃばって俺を追放したりするから世界が大変なことになったじゃないか」
メルトキオの王城で、ゼロス=ワイルダーは毒づいている。
「では神子よ、どうするというのだ」
困惑にしたように王。
ここぞとばかりに彼は口の端を吊り上げて笑った。
「元シルヴァラント領のイセリアに和平の使者を送るんだよ」
「使者?誰がいいと言うのだ?」
「ミズホの里のしいながいいんじゃないのか?因縁があるんだから」
「死の使者から平和の使者か…」
「嫌とは言わせねーぞ」
瞳が細くなる。
「マーテル教会がどーにかするまでは俺様まだ神子の権力を持ってるんだぜ」
世界が統合されても神子は神子のままだった。
少女は石碑の前に佇んでいた。
「アリシア、私、やっと自分を取り戻したわ」
誰にともなく語りかける。
そこは彼女の妹が眠る、墓碑…
「やっと時間が動き出したの。16年前のあの夜から」
風が渡っていった。
「ねぇ信じられる?私28歳になったのよ。おかしいね」
「アリシアと…話していたのか?」
現れたのは青い髪をした青年だった。
「…はい…」
「先ほど鉱山の一部を破壊した。これで…新たなエクスフィアが採掘されることは無いだろう」
「良かった…リーガルさんは、これからどうするのですか?」
少女が聞く。
青年は恋人の面影を残すその顔に瞳を細めてから微笑んだ。
「我が社の総力を持って復興に協力する。新たな…世界作りのために」
「私も…協力します」
そうして世界復興への歯車がまたひとつ、動き出す。
「アリシアもパパも…きっとそれを望んでいると思うから」
「本当にデリス・カーラーンへ行くのか」
「クルシスのハーフエルフがいては他のハーフエルフが住む場所を失う」
クラトス=アウリオンは瓦解した救いの塔にいた。
「この騒ぎの責任はクルシスの生き残りとして私が負うべきだ」
長い長い戦いだった。
それでもまだするべきことは残っている。
それは彼一人で負うには重責だった。
「俺はこの大地に残されたエクスフィアを回収する」
「そして私が…クルシスの所有していたエクスフィアたちを宇宙に流す。
結局…最後までお前を巻き込んでしまったな」
「そんなのは…いいけど」
「…そろそろ行くぞ。その剣で我らをデリス・カーラーンへ運んでくれ」
ロイドはエターナルソードを強く握りしめた。
それはまるで彼の心の象徴のようだった。
「さよなら…っ父さん」
光がデリス・カーラーンへ向かって上昇していく。
その光を見送りながら、赤い髪の少年は確かに父の言葉を聞いた。
「…おまえは私より先に死ぬな。ロイド…私の息子よ…」
リオンと
はダイクの家にいた。
今日は新しい旅立ちの日だ。
二人は元の世界に帰ることを決めていた。
どちらに?
そんなことは決めていない。
けれど見えない未来は、煌々として感じられた。
「これで、お別れだな」
どこか寂しそうにロイドは笑う。
森は相変わらず静かに、そよぐ風に吹かれている。
彼と一緒に新たな旅に出ることも考えたが、見えない未来を選択するための魔法の言葉はもうみつけている。
それぞれが行く道だ。
ロイドたちにも新たな道を歩んで欲しいと思う。
「ロイドも元気でね」
「あぁ」
言葉短く彼は手をかざすとエターナルソードを呼び出した。
契約の指輪は
の指にはめられている。
もう、エターナルソードを使うことの無いように、封印の意味も込めて二つの世界に分かつことにしたのだ。
ジューダスの顔を見ると彼もうなづいた。
一緒に中空へ浮かんだ剣に手をかざす。
「エターナルソードよ」
「僕たちの世界へ!」
光の柱がイセリアの森を包む。
ロイドはあまりの眩しさに顔を腕で覆った。
光が収束し、ゆっくり目を開けると既にそこには見知ったものの姿は無かった。
少しだけわき起こる寂しさ。
けれど。
「…俺も、頑張るからな!」
ロイドは空を見上げて呟く。
二人がどこへ行ったのかは知らないままだ。
けれど、またどこかで新しい仲間でも見つけていることだろう。
自分たちの旅に、同行してきたときのように。
懐かしむには早すぎたが、少しだけ感傷に浸るには良い日だった。
風が、また一陣吹きぬけていった。
TALES OF SYMPHONIA 完
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