夢ヲ見ルヨウニ、生キテイコウ―――――

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INTERVAL マリー=エージェント


私と同じく記憶喪失と言う
 私も緊張感が無いのは大概おかしい、とよくルーティに言われたものだが、 は私と同じだった。
 記憶があってもなくても
 私は私。
 それ以上のものでもそれ以下の、ものでもない、と──……

 見るもの聞くものが新鮮で、毎日が楽しい。
 そう言うとルーティは、苦笑してそういうものの見方もあるかもね、と言っていた。
 相棒の目に私はどんな風に見えているのだろう。
 気にはなっても自分の姿が自分に見えるわけはなく。
 こんこんと湧き出る水は砂漠のものとは思えないほど冷たくて。
 行きがけには味わえなかった砂漠の旅を はとことん堪能していた。
「元気ねぇ」
「本当に……元気ですわね…」
 既に行きの旅で堪能しきったルーティたちとは全く立場が逆転している。
 ある意味、過酷な旅の中に良い思い出が後発の印象として残せるので幸せである。
『でも元気になってよかったですね』
 すっかり調子を取り戻したその様子にシャルティエ。
「まさか がダウンするとは思わなかったからなぁ」
「真に瞬発力に長ける人間は持久力には乏しいものなんだよ!」
 またそーいうわけの判らないことを。
 特に他意があって言ったわけではないのだがスタンの言葉に失礼な意味を感じて は反論した。
 第一それではまるで の体力がムンムンのようではないか。
「だって、 って全然平気そうな顔してたからさ」
「倒れる前に、辛いって言ってくれれば良かったのに」
「いや、それが……」
 スタンとルーティの抗議のような声に の表情はやや曇る。
「どこまで我慢したらいいのかわからなくて」
「『「「……は?」」』」
 正直、大人数ハモリ過ぎていて誰がそういったのか聞き分けは出来なかった。
「……だから、我慢って……すればどこまでもできるものでしょ。できなくなった時=限界=気を失う、っていうか」
「お前は馬鹿か」
 言われると思った。
 聞かれたことがないのでいままで誰にも話したことが無かったが「それはどこまですべきもの?」とは素直な疑問であった。
 思えば風邪を引いたときなど三十八度熱があっても誰にも気付かれずに一日が過ぎたものだ。
 でも、我慢できちゃうんだから。
 正直、どこで音を上げたらいいのかわからない。
……それってものすごーく危険だと思うよ……?』
「意思が強すぎるんじゃないでしょうか」
『考えすぎじゃのう』
「呆れたわ」
我慢強いことは普通、誉められたことかもしれないが集中攻撃を受けてさすがにへこんだ。
自分自身、まだ大丈夫と思って顔に出ないのでまたタチが悪い。
「お前、自分が気がつかない内に死ぬタイプだな」
「酷っ!」
「幸せなことだろう」
「遠くを見ないでくれるかな?」

 セインガルドからの長い船旅。
 カルビオラの砂漠渡り。
 ルーティたちが最後には「飽き飽き」してしまうそれらを始終楽しんでいる の姿をみてなんとなくわかった気がした。
 新鮮なんだ、 にとっては「この世界」は。
 それはこの先もいつまでも醒めそうに無い。
 それを見たら記憶喪失も悪くは無いな、と改めて思った。
 ──でも、もう少し「我慢」はしない方がいいと思う……

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