夢ヲ見ルヨウニ、生キテイコウ―――――

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STEP3 フィッツガルド


 決めた、死なせない。
 目指す場所はハッピーエンド、だ。

 チェリクへ戻ると武装船団の報せが入っていた。
 フィッツガルドのオベロン支社へのレンズ運搬船が相次いで襲われているらしい。
 神の眼の追跡に手がかりを失っていたリオンたちは救援に向かうことになった。
「神の眼より、海賊騒ぎの方が大事なの?」
「オベロン社の損害はそのままダリルシェイドの損害だ。それに無関係とも思えない」
 ルーティに答えながら先に港へ向かうリオン。最後にバルックの家を出たのは だった。
「しかし、我々も初めてのことだしテストも大してしていないので不安もあるのだが」
「大丈夫ですよ、天下のオベロン社の技術だし。これだけできれば上出来、っと」
「どうしたんだ? 出発するよ~」
 戸口で話しているとスタンに呼ばれる。
  はバルックへ礼を述べると、手を振って駆け去った。
 チェリクまでの航行は城の帆船によって行なわれていたが港へ行くと待っていたのは大型のクルーザーだった。
 ……ここにもこんなものがあるんだね、と密かに感心する
「オベロン社のレンズ動力船だって。フィッツガルドに直行するヤツを特別に手配できたみたい」
「へぇ、じゃあむこうに着くのも早いかな」
「三日あれば十分だ」
 行きののんきな船旅がウソのようだ。
 クルーザーは滑るように更に北へと進路をとった。
「なぁ、この船が襲われるってことはないのか?」
『その可能性もなくはないだろうな』
「ないんじゃない? これ、客用高速船で運搬船じゃないし」
 気合いを入れてやろうと言うディムロスの示唆にかるく突っ込みを入れてから、まだスタンが不安そうにしているので は彼の尻をたたいてやることにした。
「っていうかそもそもその海賊を倒しに行くんだからそんな心配してもしょうがない。
いや、むしろ行く途中に出てくれて一気に片付けた方が手っ取り早いと言うか」
「心の準備ってものがあるだろ? それにフィッツガルド大陸にはオレの故郷もあるし…」
「あぁ、そっか。ごめんね」
 でも大丈夫、田舎だから。
 きっと海賊もそんな方まで襲うほど物好きではありません。
 傷口に塩を塗りこんでも仕方が無いので黙っていた。
 三日なんてあっという間だ。
 デッキへ出てじっと波を見ていると二、三時間は平気で過ぎてしまう。
 のんびりとした雰囲気の帆船とは比べ物にならないスピード感のせいもあるかもしれない。
「あんた、よく飽きないわね」
 黄昏るには強すぎる風の中に、珍しくルーティが出てきた。
 うっかり進行方向から振り返ると髪が鬱陶しいほどなびく。というか暴れる。
 それを片手で押さえつけて はもう一度前を見た。
「船室の中から見てるよりおもしろいしね」
「うーんどっちから見ても同じ海だと思うけど」
は風景だけでなくて風や流れを見ているんでしょう? あなたと違って感性が強いのよ』
 珍しくアトワイトが話し掛けてくる。それからルーティへのダメ出しも忘れずに。
  限定で例外としてシャルティエ以外のソーディアンたちはマスター以外に進んで話し掛けることがない。
 無駄口叩かず。正にそんなところだろうか。
(最もそうそうソーディアンから話し掛けていたら皆まとめて変な人になってしまう)
 ルーティの腰のあたりに視線を落として は笑いかけるとスタンとリオンも甲板にやってきた。
「珍しいね、二人一緒に出てくるなんて」
「どこを見て物を言ってるんだ、到着するぞ」
 左手奥に弧を描くように続いていた陸棚が眼前で途切れている。
 大陸の南端。
 あの岬を東に回りこめばフィッツガルドはすぐそこだ。
 どこか懐かしそうにスタンが故郷へ続く道を眺めていた。
 フィッツガルドの港へ到着すると桟橋から右手に淡い群集が連なって見えた。
 桜だ。
 階段の上には港を望める公園があって、整然と立ち並ぶ。
 丁度見頃なのか、風に流れて散った花びらがちらほらと佇む の足元にも落ちていた。
、どこへ行くんだ?」
 ついふらふらとそちらに向かいそうになる姿をマリーが呼び止めた。
「うーん、桜がきれいだな、と思って」
「サクラか。私は……初めてだな! 最も記憶を無くす前はみたことがあったかもしれないが」
「ほぉ? お前はアレが『桜だ』ということを知っているのか」
「……」
 二人で港壁ごしに桜を見上げていると背後からつっこまれた。
 思わず顰めてしまった顔を振り返る時には笑顔に変えて言ってやった。
「そうだね、ついでに言うと大好きだよ」
 そう言うと今度はリオンが僅かに眉を寄せる。
「えっ?  、記憶戻ったの?」
「スタン、記憶は無くても不思議と必要最低限なことは覚えてるものだよ。例えば名前とか。マリーだってそうでしょう?」
「あぁ、そういわれれば名前は覚えていたな」
 明らかに怪しい理論の広げ方だが、そう言われるともうリオンは引き下がるしかなかった。
 というより興味が続かないのか。
 スタンが興味津々話始めるとそれに反比例するかのようについ、と踵を返して、街へと足取りを向ける。
「フィッツガルド支社へ行くぞ」
「はいはい」
 例の海賊船の話を聞く為にイレーヌと会う予定である。温かな港風の中、一行は海に背を向けて歩き出した。
「とてもキレイな街ですわね」
 フィリアがダリルシェイドともまた違った整然とした美しい町並みに感嘆の声をあげる。
「でも、なんだか不自然な感じ」
「それは孤児がいるからだろう?」
 リオンの孤児、という言葉にルーティが反応したのを は見逃さなかった。
 確かに。
 港から広場にかけては庶民的な雰囲気がないのにそれに似つかわしくない格好の子供たちが街の南側に向けてちらほらと道端にうずくまっている。
 ここから見る限りその数は少なかったがあまりにも場違いなので余計に違和感が感じられた。
「……まぁ……いざとなったらあーいう子達の方が強いんだろうけど」
「! ……あんた……本当にそう思うの?」
「人にもよるけどね。生きる力を持たない人間は富んでいても弱いと思うよ?」
 逆に自分の力で成功を収めた人間も強いと思うけど。
 そういう人がいるならば、こんなに利己欲が具現化したりはしなかったろう。
 この街に漂うギャップそのものが、その証拠だ。
 ダリルシェイドより美しい街だが、ダリルシェイドよりもよほど腐れている。
 最も自分たちのような旅人にとってはにぎやかで居心地の良い場所にしか過ぎないだろうが。
「詭弁だな」
「誰も金持ちが揃って腐れてるとは言ってないでしょ。むしろその中にそういう人がいたらこんなふうにはなってないだろ、ってことだよ」
 前を向いたまま歩を進めるリオンがそれを聞いてちらりと視線を流してくる。
 いつでも彼女の言うことはどちらも包括していて「中立」だ。
「なんでも大枠でくくればいいってものじゃない」
「今の話をイレーヌにしてみろ。喜ぶぞ」
「イレーヌさんってこれから会う人だよね」
「そうだ、イレーヌ=レンブラント。若いがやり手の支社長だ」
「へぇ、あんたがそんな風に言うなんて……どんな人なんだか」
 一度かすめた翳りを消したいつもの調子でそういったルーティの頭の中ではどのようなイレーヌ像が描かれたんだろう。
 リオンはふん、と相手にする様子もなくやがてたどり着いたフィッツガルド支社の扉を押した。

「久しぶりね、リオン君!」
「リオン、君~?」
 イレーヌは一行を笑顔で迎えてくれた。
 想像どおりの嫌味の無い美人だった。
 スタンはその笑顔にテレテレと自己紹介をし、ルーティは聞きなれないリオンの敬称の付けられ方を笑いとばしてしまったため、電撃を受ける危機に瀕している。
 ルーティが気付かないので教えようかと悩んでいると、フィリアとマリーの紹介も終りイレーヌが奥の部屋へ場を移すことを薦めてくれた。
「思ったより早く連絡が届いたみたいで安心したわ」
 皆がソファに座るのを待ってイレーヌは早速本題を切り出した。
「レンズ運搬船の被害、どうにかなりそうかしら」
「イレーヌ、単刀直入に言う。船を一隻貸してくれ」
「それでどうするつもり?」
「僕たちがおとりになって海賊どもをおびき出す。そこを一網打尽にするんだ」
 もっと練りこんだ作戦を予想していたのだろう。
 らしくない実直さに苦笑しながらイレーヌは首をかしげた
「ずいぶん簡単に言うわね。相手はかなりの腕利きよ。たった一ヶ月の間に何隻やられたと思ってるの。」
 被害総額はざっと見積もっただけでも数十万ガルド。
 話はすでに耳に届いている。
「敵の親玉だけを捕らえる。いなければ場所を聞き出すだけでも構わない。僕たちの追っているヤツと黒幕が同じなら、いずれ小細工は効かないだろう」
「でもリスクが大きすぎるわ」
「僕が信用できないのか?」
 そうはいってないけれど。
 イレーヌは苦笑で意思を表示するが首を縦には振ろうとしない。
「心配しないで下さい。俺たちも一緒ですから!」
 僅かな沈黙を打ち破るようにスタンがまっすぐにイレーヌを見る。
 リオンと違い根拠の無い言い分だがスタンの笑顔はどこか人を安心させる。毒気を抜かれたようにイレーヌの顔も自然とほころんだ。
「しかたないわね。背に腹は変えられないもの。でも無茶はしないでよ。ヒューゴ様に怒られるのは私なんだから。」
 そういいながらもリオンに優しい苦笑を向けるイレーヌから掛け値なしでリオンを心配する気持ちを は感じていた。
 イレーヌに案内されて館へと場所を移すことになり、リオンたちはオベロン支社を出た。
 海の方へと向かう道すがら、イレーヌの屋敷を場所を確認して がリオンを呼び止める。
「ちょっと抜けるね」
「どこに行くんだ?」
 スタンが全身で疑問符を表してきくと返事を待たずに先へ歩き出した は顔だけ振り返りながら答えた。
「公園!」
 一人で去っていく姿はどこか上機嫌な足取りだった。
は桜がすきなのだな」
 見送るマリーがにこにこと言うがリオンだけが無言のままどこか浮かない顔でその後姿を見送っていた。

 一人で花見を堪能し、イレーヌの館へ行くとフィリア達の姿はなかった。
 部屋では、スタンとリオンの二人が軽食をとっている。
 この二人きり、というシチュエーションはやはり の目には不思議な光景に見えていた。
 ……一体、何話してんだろ?
(っていうか間、持つの?)
 といらない心配を招く光景だった。
 実際はシャルティエとディムロスがいるので会話に事欠かないのだともすぐに気付くのだが。
『あ、おかえり。
 概ねリオンが無口な分、シャルティエがしゃべるのでバランスがとれているな、などとどーでもいいことを時々考える。
「ただいま。はい、お土産」
「?」
 食べる手を止め、 を見ていた二人の前に小さな箱が置かれた。
「デザートにどーぞ。プリンタルトだから」
 と思わず、リオンを見て必要以上に笑ってしまう。
 スタンは素直に礼を言った。リオンからの礼は期待していないが少し驚いたような反応がおもしろかったので満足である。
「へぇ、ありがとう
「うん、色々お店があって面白いね」
 貧富の格差。綺麗すぎる街。
 旅人として訪れたからこそ居心地は悪くない。港に近い町並みとシャレた店々は の好きだった街並みにどこか似ていて。
「フィリアたちは?」
「風呂に入ってるよ」
 レアと呼ばれるあのイベント中か。
「じゃあ私も後で借りよう。なんだかこんなにのんびりするのは久々だよね?」
 ソファに体を預けて自分も買ってきたタルトを手に取る。
 メイドが来て紅茶も極上のものを入れてくれた。
「はしゃいでいる場合じゃないだろう。明日は略奪船と衝突するかもしれないんだぞ」
「あ、そうだ。リオン、もしもそんなことになったら海賊たちを倒すんだろう?」
「当たり前だ。もしもでなくてそのために囮になるんだからな」
 と二人はまじめな顔してプリンタルトを食べているので は笑い禁じ得ない。
 自分に話題が及ぶとも思わずに。
は連れていくの?」
「……」
 気を引き締めろというのだから当然頭数には入っていたんだろう。
 だが、スタンに言われて気付いていたようだった。
 わざわざ危険の中に連れて行くのか?
 戦えない人間を。
「いや、ここで待機だな」
「そんなわけないでしょうが」
 もちろん行くに決まっている。
  も譲る気は無い。
「『学者』が行って何をする? 自分の守備範囲をわきまえろ」
「う……」
 初めて自称でそんなものを使ってしまったことを悔やんでみる。
 リオンの言葉には明らかにそれをわかっているのではないかという韻が含まれているようでタチが悪い。
「それでも行く。行きます。絶対に」
 足手まといであることを極端に嫌っている の言葉とは思えなかった。
 リオンは我侭を言いだした に意外そうな顔をして返す言葉を一瞬失った。
 ここは反論されないうちに畳み込むべし。
「学者としての本能が言ってるの! それに何か思い出すかもしれないし!」
 また学者としての設定を手玉に取り返す。
 言ってることがさっぱりわからないがこういうときは勢いが大事である。
「海賊船だって一隻二隻とは限らないでしょ。どうしてもダメだって言うなら……こっそり乗り込むから。」
、こっそり乗り込むつもりなら明言しちゃ意味ないだろ……?」
「何を~? そもそもスタンが余計なことを言うから悪い。それとも何か? スタンは私に記憶を取り戻して欲しくないわけか?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「なぜそんなについてきたがる?」
 むしろ怪しい。
 リオンはスタンへ矛先を変えた を引き戻すように冷静なトーンで問うた。まぁそうだろう。手のひら返したようなこの我侭っぷりは何なのか。
 そこまで危険に同行したい何かがあるのか?
 残念ながらそんな複雑な事情は今回に限って全く無かったりする。
「残っているのが嫌だから」
 何ら解決にならない の答えは単純明快だった。
 だが、それは何よりも理解が容易なもので。
「ごめん、リオン。聞いといてなんだけど連れて行ってやれない?」
「馬鹿者が、そんなことを頼むなら初めから話を振るな」
 溜息をつきながら、窓の外へと視線を流す。
 その態度は「肯定」。
「但し、オベロン社の船までだ。海賊船と接触したら外には出るな」

 絶好の海賊退治日和である。
「出るかな」
「出るよ、きっと。五千ガルド賭けてもいい」
「なんですってぇえ!  、今の本当っ?」
 甲板に出てのんきにスタンと一緒に風に当たっているといきなりルーティが現われた。
 どこから聞いていたのだろうか?
『ルーティ、賭けなのよ? 負けたらあなたが五千ガルド払うのよ?』
「う……」
 アトワイトが真面目にやめておきなさいと諭している。
 自分が払うとなると途端に躊躇するルーティだった。
「相変わらず腐れたヤツだな」
「な、何よっじゃああんたなら今の賭けどうでるっての!?」
「くだらんな」
 歯牙にもかけぬ様子でリオンは眼前の海へと視線を向ける。
 既にノイシュタットの港は遠くに離れて見えなくなっていた。
 セインガルドまでの航路沿いなので、大陸の南東に位置する島々の間を縫うように船は進んでいる。
 もう少し進むと大洋に出てしまう。
 根城にするならその島のいずれかだろう。海賊が出るならそろそろ最終ポイントのはずだ。
「リオン様っ」
 マストの上の見張り台から声が降ってきた。
 見上げると陸地の方を指差して、船員が声を張り上げていた。
「来ました! 四隻です!」
「ちょっと多くないか?」
「かといって今更退くわけにはいくまい?」
「当たり前だ!」
 やる気満々である。でもどーするんだ、四隻も、実際問題として。
 船にも護衛がいるからそっちは任せるとして……四隻同時に相手するのか? と今更、行き当たり場当たりな疑問を浮かべると指示がとんだ。
「頭を抑える。雑魚は相手にするな!」
「でも四隻いるのにどれが頭なんだか…」
「こういう時は一番奥って相場は決まってんのよ!」
「なぜか装丁が派手だったりするんだな」
 にぎやかというか緊張感がないというか。
 本人たちは至極真面目なのだが、一歩下がって聞いていた はその真面目さに苦笑がもれそうにすらなる。
「リオン」
「何だ」
「私も行く」
「……。海賊船と接触するまで、という約束を忘れたか?」
 接近する略奪船の包囲網を見やるその後方で話していると、ルーティたちも驚いたように振り返る。
 驚きの色を浮かべる者、心配の視線を向けるもの、訝しげに見るもの様々だ。
「忘れた」
「……」
「ウソ。ごめんなさい」
あっさり言い切ると危うくシャルティエを向けられて、降参とばかりに手を挙げる。
「じゃあこうしよう。私があの内一隻沈めてみせたら連れて行ってよ?」
「一隻!?」
「無茶いわないで。どうやって沈めるってのよ。あの距離じゃ上級晶術だってムリよ!」
 次々と制止の声があがる。
 リオンだけはこの無謀ともいえる申し出になぜか黙して をみつめていた。
 それも一瞬であったが。
「勝算があるのか?」
「八割の確率で好転するね。同行許可が条件で」
「よし、やってみろ」
 返答にぱっと顔を明るくして頷く。
  が船首へ歩を進めるとあ然として二人のやりとりを見守っていたスタンたちが慌てて道を開けた。
 そうしている間にも海賊船はスピードを上げて迫っている。
  は懐に忍ばせておいた透明な緑の輝石を取り出すと、両手で包むようにして目を閉じた。
「自然の理を司りし者よ…我が呼び声に応じよ――」
場違いなほどの朗々たる声音に輝石を包み込む両手から光が漏れる。見えない力が横切るように大気が揺れた。
「そは風を司り、悠久と共に歌う者。刹那の盟約の元に、ここに汝を召喚す!シルフ!」
「!」
 あふれた光を虚空に放つように両手を捧げる。光の爆ぜると同時にスタン達はあまりのまぶしさに腕で顔を覆った。
 一瞬にして光が収束し、果たしてそこに見たのは中空に浮かぶ幼い少年の姿であった。
「ぼくを呼んだのは君?」
「そう、はじめまして。私は 。早速で悪いけど……アレ、沈められるかな」
 にっこりと悠長に自己紹介などしてみる。
 時間があるなら、少し話をしてみたいところだがそうもいってられない。
  は輝石から召喚した風の精霊シルフに向かってくる船を指し示した。
「全部はムリだよ。普通に攻撃してもムリっぽいね」
「船倉に穴を開けることは?」
「それなら問題ないね」
「じゃあ、あの真ん中のヤツにお願い。」
「オッケ~まかせてよ!」
 やはりあ然とそのやりとりを傍観するだけのスタンとルーティ。
 フィリアは興奮した様子でその様子に見入っている。
 リオンは冷静を装っているが、恐らく精霊を見るのは初めてのことだろう。
 ……私もまさか精霊を召喚する日が来るとは思ってもいませんでした。
「気をつけて」
 姿を消そうとする直前に言うとシルフは驚いたように振り返る。その顔が、次の瞬間には満面の笑みへと変わっていた。
「?」
「へへっ、面白いマスターだね。そんなこといわれたの初めてだよ」
 一回きりなのが勿体無い気分だね。そう上機嫌にシルフは姿を消した。
 次の瞬間だった。
 轟音と共に今まで平穏な海が波立ち、水を巻き上げた巨大な竜巻が海賊船を襲う。
 シルフってこんなに強力だったっけ?
 嵐のような光景にスタンたちに背を向けたまま、 は冷や汗混じりの笑みを漏らす。
 その凄まじい威力は船倉に穴を空けるどころではなく。
 ……気付けば二隻目も沈みかかっているところだった。
「……なんか……がんばってくれたみたい」
「す、すごいですわ!  さん。召喚魔法を使えるなんて──っ!」
「ごめん、今の一回限りだから」
 興奮冷めやらぬフィリアに苦笑を送る。
 実はダリルシェイドの倉庫でくすねてきたアイテムである。
 あの威力はシルフと相性があっていたとでもいうことなんだろうか。
 自分のしたことに疑問符を掲げながらリオンを振返る。
「そんな訳で三隻はムリ。」
「上出来だ。おい、船を奥につけろ!」
 動揺する海賊船の隙間をぬって、頭がいると思われる船へと寄せる。
 先手をとってスタンを先頭に、 を含めた六人は海賊船へと乗り込んだ。


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