--OverTheWorld.1 邂逅 -
怪しいヤツ!
街中で行き合わせた神団騎士の2人組にいきなり追われ、そうして逃げ込んだのがヒューゴ邸だった。
今のダリルシェイドは街の復興が遅々としているせいか見るからに治安が悪いので、盗人など茶飯事なのだろう。不審がられるのもわからないでもない。
「よそ者は疑わしき」様を見ているとなんだかカルバレイスが髣髴(ほうふつ)され、かつての栄華を知っているだけに妙なところで哀しくなった。
反面、原因はそれだけじゃないのではないかと、思う。
どうみてもその仮面が。
「…リオンが悪い」
「何もしてないのに逃げる方もどうかと思うぞ」
呼び止められても無視。挙句腕を取ろうとした神団騎士の手を払いのけ、いらぬ怒りを買った自分のことは棚に上げて飄々と言い切るリオン。
「まぁいいだろう。どうせ雨の中いつまでも動いていても仕方ない」
あぁ、今日はここで休もうという意味か。
今はストレイライズに接収されている旧ヒューゴ邸。
神団騎士もまさか自分たちの管理下に入り込まれているとは思わないのかここまで追ってはこなかった。
リオンの足は人目を避けるように奥へと運ばれる。
勝手知ったるなんとやら。逃げ込んだのにも躊躇無ければ中を進むペースも躊躇ない。
ある意味、見事な動じないっぷりだ。
そんなこんなでやってきたのは地下だった。
…こういうことか。
「で、寝床って…なぜ地下を選ぶかな。」
「誰にも邪魔されないだろ」
いや、すぐに邪魔が入るはず。
久々に先行きの見通せる展開に、しょうがないなぁと漏らしつつ天井付近に吊り下げられた幅広のハンモックまで上る
。
意外にもホコリは積もっていなかった。
最近まで誰かが使っていたのだろうか。
………………。
それこそここがどういう場所かを思うと考えたくない(物凄く)。
倉庫できれいな毛布をくすねたのでまだマシだった。
その上にうずくまる様に包まった。
それから、ふと、隣に落ち着いたリオンが手のひらで何か転がしていることに気づいた。
「それ、何?」
「ソーサラーリングだ。そこのゴミ山にまぎれていた。」
「レンズを使うと熱線が出るんだっけ?」
「よく知っているな。…価値を知らんというのは愚かなことだ」
少々薄汚れてホコリっぽい。長いこと他のガラクタと一緒に放置されていたのだろう。
もう少し置いておかれたらどこぞへ処分されていたかもしれない。
毛布の端でこするとリングにはめられた赤い宝石が透明な輝きを静かに放つ。
「もう休め。濡れたからな。冷え切る前に眠っておけ」
落ち着いた場所に来て安心したのか、すこし眠そうな
の様子に気づいてリオンが言った。
なんだか、色々自分の目で見てどっと疲れた気がする。
きっとリオンにとっても同じなのだろう。
それにこの場所。
部屋は違えど、古巣と言えないことも無い。
かつて自分のいた場所にどう思っているのかはわからないが、野営続きの2人がしばしの安眠に引き込まれるまで大した時間はかからなかった。
* * *
怒号。反抗。それから乱暴に階段を下りてくる足音。
騒がしい気配が近づいて2人は目を覚ました。
ガチャガチャと乱暴に重たい音がして分厚い扉が開かれた。
「ここで大人しくしていろ!」
「痛った〜…!!」
ドサリ。
人が放り込まれて再びドアが閉められる。ついでに外から鍵をかけられる音がした。
「…閉められちゃったよ」
「シッ…」
せっかく体も温まって安眠していたのに邪魔されて
はやる気がなさそうに、横になったまま下方へ視線を落とした。
そこに放り込まれたのがカイルたちだということはわかっていた。
ジューダスはひじで上体を支える形で
の後ろから彼らの正体を伺っている。
気を失っていたもう1人…カイルがすぐに目を覚ましてロニと話を始めた。
高い天井にわだかまる闇の中、こちらには全く気づいていない。
まぁ、私もジューダスがフテ寝してたことなんてこれっぽっちも気づかなかったさ。
「えっと巨大レンズを見つけたんだけど割れちゃって、アタモニ神団に捕まって…あれ?それからどうしたんだっけ?」
「のんきだねぇ お前は。見てのとおり牢にぶち込まれたんだよ。たぶんダリルシェイドの地下だろう」
よほど乱暴に扱われたのか、飛んだ記憶を手繰り寄せているカイル。
肝心なことは忘れているらしい。
しかし、ロニの言葉にきょとんとまたたいてから彼は、いきなり笑い出した。
────────頭、大丈夫か?
明らかに、こちらに気づいていないロニとリオン・
が同じ気持ちを共有したような間が流れた。
次の瞬間、慌てふためいてロニはカイルに詰め寄っている。
「お、おいカイル?どうした!?頭でも打ったか?ちょっと、見せてみろ!!」
まったくもって同意である。
「違うよロニ、オレさ、今すっごく幸せなんだ!だってさ。冒険がはじまったんだよ!」
「冒険?」
「あの子が現れた瞬間、オレ思ったんだ。冒険が始ったんだって!だってさレンズの中から出てきて『英雄を探しているの』だよ!」
リアラのことだ。
は自分の実体験ではない記憶とその会話を照合させて、ここまで彼らに起こっただろう事を反復した。
巨大レンズを求めてラグナ遺跡を訪れたカイルとロニ。
2人はその奥で、レンズが砕け散った時に現れたリアラに会っているはずだ。
ここへ放り込まれたのはその直後に、神団騎士にレンズを破壊した盗人として連行されたから、だろう。
「そうだ、ロニ。オレ、クレスタへ戻ったら旅に出るよ!」
「旅?」
まくしたてるようにカイルは熱弁を続けている。
「そう、英雄になるための冒険の旅!あの子が探しているのは俺なんだ。
今は違うかもしれないけど…そう!未来のオレだ!!それをあの子に教えに…いや、わからせに行く!」
…。
改めて聞くと…リオンじゃないけど、確かにおめでたい。
そのあまりにもな会話に耐えられなくなったのか、リオンがついに背後で小さく笑い声を上げた。
「お前、自分が英雄になれるなどと本気で思っているのか?
…だとしたらおめでたいヤツだ。」
不意に降ってきた声に驚くカイルたちの前に、身を躍らせるリオン。
唖然とする次の瞬間に、カイルは不満たっぷりの声で彼の正体より先に、今言われた意味を問いかけた。
問いと言うより抗議に近い調子だ。
「ねぇ何でオレが英雄になれないの?」
「フッ簡単なことだ。英雄とは過去の功績に対して人々から贈られる称号、自らなろうとするものではないし、ましてやなりたいと思ってなれるものでもな
い。」
「随分解ったような口を利くじゃないか。まるで、自分が英雄だとでもいいたげだな」
突然現れ、冷然と言い切ったその様子に鼻持ちならないようにロニが噛み付く。
自分が英雄?そんなつもりがあるはずはない。
図らずしも傷に触れるような物言いに
も少し胸を衝かれるものがあった。
リオンにもほんの少しだけ、考える間があった。
「…僕自身は英雄じゃない。だが、そう呼ばれる人物を少なくとも4人、知っている」
「4人?ははぁーん…」
ロニとリオンの言う『4人』が合致する。ロニはピンときてにやりと笑みを浮かべた。
「俺たちなんざ知っているだけじゃない。そのうち2人と知り合いだぜ!なにせ、こいつの両親がそうだからな」
「両親が…英雄?」
……!
そうか、あいつらの…
俯いた仮面の下で小さく唇が動いた。
からは見えないがわかる。
カイルはスタンとルーティの子供だ。
それをどうとったのか、それで勝ち誇るロニ。当のカイルはどーでもよさそうだ。
「へっへぇ〜!驚いて声も出ないって感じだな」
「そんなことよりロニ、早くクレスタに戻ろうよ。そうじゃないと、冒険に…」
「ここを出たいのだろう?なら、僕にいい考えがある」
2人の子と悟って興味を惹かれたらしいリオン。
の意見は求めずに、ここから脱出を決めたようだ。
確かに鍵をかけられた時点でリオンと
にとってもここから出ないことにはどうにもならない。
「ホント!?何いい考えって!?」
「おいおいカイル。こいつの言うことなんか信用すんなよ。
仮面で顔を隠しているような輩だぜ?何考えてるかわかったもんじゃないぞ?」
第一印象が悪かったせいか警戒心一杯のロニ。
…仮面について言われると反論のしようもないのが連れとして哀しいところだ(遠い目)
しかし、結局はカイルの早く出たいという訴えで折れて「好きにしろ」ということになる。
しょうがないというふうなロニの承諾に、カイルはぱっと笑顔を浮かべた。
「へへ〜決まり!それじゃ教えてよ!え〜っと…」
「名前か?…名前など、僕にとっては無意味なものだ。お前たちの好きなように呼べばいい」
「じゃあ…ジューダス!」
「ジューダス…。まぁそれで我慢してやろう」
何かものすっごいなげやりそうな口調。
改めて居合わせるとカイルも決めるのが驚きのスピードだ。
もちろんその名前の示す意味など知るはずもないのだろう。ロニもカイルも。
さっそくその名前で皮肉たらたらロニが呼んだ。
「で、ジューダスさんよ。こっからどうやって脱出するつもりだ」
「簡単なことだ。出口から出ればいい。…おい」
ジューダスは視線を水平に保ったまま後方へ呼びかけた。
当然何だかわからないカイルとロニの頭上には?マークが数個飛ぶ。
「いつまで見物している気だ」
正に自分の状態を指摘されて
はくすくすと笑いながらようやく下へ飛び降りた。
突然現われた同行者の存在に当然カイルたちの驚いた顔。
「私は
。よろしく、カイル、ロニ」
「なんだ、ジューダス。仲間が居たんだ。よろしく
!」
大して疑問ももたずに嬉しそうに応えたカイル。
連れがいるなら名前はあるはずだろうとか、そういったことには全く気が回らないらしい。
これはもう適応力云々とかお気楽主義だとかそういう域を越えている。
全開な笑顔を前に思いついた自分の言葉に、
は思わず笑いを禁じえなかった。
訝しんできそうなロニはといえば、
「お嬢さん!私はロニ=デュナミスと申す者です。さぁ、一緒にここから脱出しましょう!!」
とかなんとか言いながら
の手をしっかと握ってきたので、やはり大して取り沙汰されずにすみそうだった。
「言っておくがお嬢さんなどというタマではないからな。」
そこはかとなく不愉快そうなジューダスがビシリとその手を払い落とす。
彼を不愉快にさせている原因は、ロニの変わり身の極端な気安さか別のものなのか定かではないが。
ロニは何かを反論しようとしたがそのままさっさと扉の方へ行ってしまった為タイミングがそがれた様だった。
ジューダスは扉に向かって左手で剣を抜き放つ。
シャルティエを。
…。
こんなところで見せていいものかと思いつつ丁度陰になっていて見辛いし、カイルたちが気がつくはずもないのであえて放っておいた。
私も最初は気づかなかったし。
ふいにそんなことを思い出したが、普通の剣ではあの分厚い扉は、簡単に切れないんだろう。
気合いと共に一閃するとまさに一刀両断の元に扉は音を立てて崩れ落ちる。
「すっげ〜!」
さすがにロニも感嘆の声を上げている。
は相変わらず冷静だった。
「あのさ…そんな大きな音立てていいわけ…?」
「誰も気付いていないようだぞ」
一応様子を伺ったジューダスから素っ気無い返事。
わかっていたけれど、ここの警備は一体何者なのだろうと思いつつ。
「自分たちの武器を回収して来い。僕は脱出路を探す」
「脱出路って…そっちの階段じゃなく?」
「あぁ、この奥にもうひとつあるはずだ。回収したら来い」
言うだけ言って踵を返す。
奥の暗がりは人気もなく静かなものだった。
その背中に、カイルは「うん!」と元気良く頷き、ロニはおもしろくなさそうに顔をしかめてから走っていく。
ジューダス、よくその態度で手助けしようと思ったものだ。
立ち会ってみると色々とおもしろい発見でいっぱいだった。
真っ直ぐに歩いていく背中を見ながら機嫌のよさそうな
。その気配を感じたのか、ジューダスが振り返った。
「…なんだ?」
「何が」
「…………いや、別に」
そんな短いやり取りをして、なんとなくすっきりしないような顔で奥の壁際にやってきた。
その先の通路が健在であることを確認してカイルたちを待つ。
一応階段の近くに見張りがいるらしく後ろを気にしながらロニが声をかけてきた。
「それで?どうするんだよ」
「ここから抜けられるはずだ。」
と、ジューダスが壁にかかった燭台辺りを探ると、ガタリと硬い音がして壁と思われていた部分の一部が揺れる。
「うわ…真っ暗」
開いた先に広がる闇を覗き込みながらカイルが呟いた。闇は大分深そうだった。
「みつかると面倒だ。さっさと入れ。」
灯りもない暗闇に躊躇なく踏み入れ、全員が続くのを確認してジューダスは通路を再び封鎖した。
視界が一瞬、黒一色に染められ、おちた沈黙の中で水の流れる音だけが聞こえている。
「水路…だね」
「
さん、足元に気をつけて。さ、オレの手を…」
「そこに燭台があるだろう。
、ソーサラーリングを使え」
うっすらながらも闇に目が慣れてくると、ジューダスがすぐ右手の壁際を指しているのがわかる。
そのつもりはないのだろうが素っ気無い口ぶりが無言でロニを制止しているようで他人事のように笑えた。
ロニの面白くなさそうな顔は見なくてもわかるようなものだ。
灯りがともると仄明るくなる水路。
水は思ったより透明度が高い。その水路に沿うように奥へと続く細い路が浮かび上がっていた。
そして、所々で燭台を灯しながら4人は水路沿いの細い通路を奥へと進みはじめた。
あとがき**05.09.18up
そんなわけでようやく本編へ合流。リプレイしてセリフを使おうと思ったら…難しいですね。オリジナルに変えていったほうがやはりノリが良いようで
す。
やはりここはロニとジューダスの微妙に険悪なムードが見もの?(笑)
