--OverTheWorld.7 それぞれの目的 -
カイルは手加減なしに打って来るので体が痛い。
体で覚えるタイプなので上達も早く、これ以上は
の方が怪我を負いかねないので早々にジューダスへとバトンを渡すことにした。
やれやれ。
デビルズリーフの主と会う前に体を壊しそうなのでその日は大人しく休むことにしたその午後。
起きぬけで倦怠感を覚えつつ歩いていると上の方から声がする。
「
〜!」
見上げるとリアラが長いリボンをひらめかせながら展望台から手を振っていた。
手を振り返して、そこへと上がるための金属製のはしごへと手をかける。
階段ではなくそんなものであることを考えると、ここは展望台などではなく見張り台なのかもしれない。
それでもリアラのところまで上がると見張り台にしては小ぎれいなスペースがあった。
「見晴らしがいいね」
「うん!ここにいると海が遠くて空がすごく近く見えるの」
出会った頃の陰鬱さがウソのように消えている。
おまけにこんな所へ1人で上がると言うのは意外にアクティブだ。
「
もこういうところ大丈夫なのね」
「?なんで?」
「だって私がここにいると、気付いた人って物凄く驚いた顔するんですもの」
「そうだね、私はともかくリアラみたいに可愛らしい女の子がいたら驚くと思うよ」
知らない誰かが驚いている姿を思い出したらしく、くすくすとおかしそうに笑っているのでそう言うとリアラはちょっと驚いてから恥ずかしそうに視線を伏
せた。
…ここまで女の子らしい女の子ははっきり言って、
の世界でも希少だと思う。
遠くを見やりながらそんなことを考えているとリアラがその横顔に問いかける。
「ね、
はどうして旅をしているの?」
他愛もない話だ。
ただの好奇心なのだろう。彼女は小首を傾げて笑顔で訊いた。
「どうして…どうしてだろう?」
「え?」
「いや、そう言われると…理由なんかないよ」
ジューダスはともかく、そうしたいと思った結果ここにいるというだけで
にとって理由と言えそうなご大層なものはない。
「ただ、落ち着くような場所もないし〜故郷もないし家族もないし」
そう言ってしまうと相変わらずないない尽くしである。
それをどうとったのかリアラの表情が少し沈んだ。
聞いてはいけないことだとでも思ったのだろう。…わかりやすい。
「でも、一番楽しいことをしていると思うから別に困ってないよ。
それとも…目的がないと旅しちゃ変?」
「そ、そんなことないわ!」
「そういうリアラはどうして旅をしているの?」
戯れと言うか、当然の流れと言うか。
は訊き返す。
もちろん彼女の正体も英雄を探す理由も知っている。
しかし『知っている』からと言ってそれが全て正しいとも思えない。
それは単なる知識であってここでは、事実ではないわけであるから。
しかし問われてリアラは顔色を変えた。
「私は…」
「英雄を探してる、んだよね」
それは既に仲間として同行を決めた時に確認したことだ。
「フィリアのところへ行った時、フィリアは何か教えてくれた?」
それが追求ではなく、単なる回想を求められていると気づいてリアラはあの時起こったことを教えてくれた。
「えぇ。私には力があるけれど…自分を信じていない、って。
それが昔のフィリアさんと同じなんだって言ってくれたわ」
その手がきゅっと胸元のペンダントを抑える。
それでもまだわからない、といったふうだった。
「だから18年前のフィリアと同じように仲間が必要、ね。」
ぽつりと思い返したように呟く
を不思議そうに見ているリアラ。
「リアラにとって英雄って、何?」
「え…」
思いついたように問われたリアラは一瞬、何を言われたのか理解できないように大きな瞳を瞬いた。
それは何の意図も無い、純然たる疑問であることはわかる。
しかし、英雄を探していると言えば誰もがそれだけで納得するのものだ。
どうしてか、を聞くことはあってもそれが何か、を訊かれることはまずない。
皆、英雄が何であるか『それぞれに』解釈して、それが何であるかについては疑問をもたないからだ。
あえてぶつけられることのない質問である。
私は、英雄を探している。
歴史を変えられるほどの力をもった英雄を。
その根源が、力が欲しい。
けれど、英雄と呼ばれる人に会っても、
それは私にとっての英雄ではなかった。
じゃあ、私の探す、英雄は…?
それがわからないから手当たり次第なのである。
それこそリアラの方が教えて欲しいくらいだが、愕然としたのは…それに対する答えが、自分の中に微塵も用意されていない事実であった。
黙り込んでしまったリアラに苦笑を浮かべて先に口を開いたのは
の方だった。
「ごめん、そんなのわかったら苦労はないよね」
リアラは黙って首を振る。
「英雄、か…早く見つかるといいね。次に会うのはファンダリア王…」
「ウッドロウ王は賢王としても有名なのよね」
「…でも放蕩グセがあった」
「え?ウソっ」
「英雄像って言うのは、必ずしも人間性を伝えてるものじゃない、ってことかな」
どれほどの高名な噂を耳にしていたのか、少し沈みがちだったリアラは口元を抑えて本気で驚いていたようだった。
のその表現も、なんなのだが。
物は言い様という言葉が浮かぶ。
ルーティは悪名高いレンズハンターだった。
スタンは英雄どころか兵士を夢見る田舎者だった。
そう言ってしまうと更に肩を落としてしまいそうなので黙っていることにする。
人となりは、傍で感じた者にしかわからないということだ。
「そう言う意味ではカイルも英雄候補としてはいい線行くかもね」
「だといいんだけど」
どんなふうにその言葉をとったのか、心の枷がはずれたようにリアラはころころと笑っていた。
沈むのも早いなら浮上するのも素晴しく早い。
「あっ噂をすれば…」
リアラの視線を追って下の通路を見ればカイルがいる。
ロニは船上のロマンを追うのに忙しそうだし、相変わらずジューダスも馴れ合うそぶりは見せないので彼はやや手持ち無沙汰のようだった。
もっともそのおかげでリアラと仲良くなれたようだから幸か不幸かは微妙なところだ。
「カイルー!」
しばらく2人して観察していたが、全く気付くそぶりの無いその様子に顔を見合わせて笑うとリアラは大きく手を振りながら彼を呼んだ。
降ってきた声の主を探して左右にうろついていた頭が上を向くと、やはり驚いた顔になる。
「リ、リアラ!?そんな高いところで…危ないよ!!」
縁に膝をついて身を乗り出す姿にあわてふためくカイル。
「うふふっ平気平気。もし落っこちてもカイルが助けてくれるもの。
だって未来の大英雄なんでしょ、あなた!」
旅は人の心を開放的にする、と言ったロニの言葉をふと思い出す
。
リアラは最初に会ったときよりもずっと人間らしくてずっとお転婆な少女のようだった。
きっとカイルは、健気にも思いつめた彼女が、あるいは機械の様に冷たい表情であった『レンズから現れた少女』のこうした姿は想像もつかなかったに違い
ない。
「ねぇカイルも上がってくれば?潮の香りがとっても気持ちいいわよ!」
だがしかし、カイルはそういわれて慌てて頷いた。
はしごに手をかけて上ってくる。そしてたどり着いた時には満面の笑顔になっていた。
「凄い!海も空の一色で風の中にいるみたいだ」
「でしょう?」
「こんないいところがあったなんて…2人に先を越されちゃうなんてちょっと悔しいかも」
言いながらも顔は笑っている。
下界は遠くて確かにちょっとした秘密の隠れ場所のようだった。
「じゃあ堪能するといいよ」
「えっ?
、行っちゃうの?」
「うん、用事を思い出した」
「用事?」
船の旅も中盤へと差し掛かっている。
船の中の探検もすっかり終えた頃合で、退屈しているならともかく今から用事とは何だろう?
カイルたちの疑問を背に
は再び下界へと戻った。
ふと気がかりなことがあった。
これが『あのタイミング』だとすればデビルズリーフはもう目前だ。
不意に気がついてしまった
は早足で操舵室へと向かう。
客の退屈を紛らすためか操舵室には一般客の立ち入りも許可されており、幸い船長と話すことは難しくない。
「おや、こんにちは」
顔を覗かせると声をかけてきたのは水平だった。
既に何度か出入りしているので顔見知りではある。
「航行は順調ですか?」
「えぇ、波も風も丁度いい…問題ないですね」
「デビルズリーフにはまだ着きませんか」
デビルズリーフと聞いた水平の顔が一瞬強張った。
船乗りの間で、海の魔物の名前を船上で呼ぶのはご法度だ。
そのものを呼んでしまうから、と言われている。
しかし、彼らもプロだった。
話題を逸らせるかのように水兵は巧みに会話を繋いでいく。
「大丈夫ですよ。それよりも…甲板には出ましたか?今日は天気も良くてもうフィッツガルド大陸が見えますよ」
はぐらかしたと言うことはもうすぐそこと言うこと。
何気に見渡せば操舵室はいつもとは違う緊張感に包まれていた。
それだけ確認して
は「そうします」と今度はロビーへと向かった。
「ごめんなさい、わたくしこれから恋人に会いに行きますの」
言葉とは裏腹にぴしりと言い放ってつれない調子で淡いドレスを着た女性が顔をそむける。
その前で溜息と共に肩を落とすロニ。
ナンパ連敗記録を更に更新中の現場に
は現れた。
「ロニ!」
「
?」
「遊んでる場合じゃないよ、早く来て」
「!?誰が遊んでるんだよ、オレにとっては死活問だ…ひっぱるなって!」
本気で反論しているところ何だが、腕をひいてロビーから連れ出す。
何だかわからないような顔をしながらもロニの足はきちんと着いてきてくれた。
「ジューダスは?」
「オレが知るか。どうしたって言うんだ」
「もうすぐデビルズリーフなんだよ。できれば皆、一緒にいたほうがいいって…」
「あぁ 魔の海域の主、ってやつか?はは、
、お前結構怖がりなんだ。安心しろ、そんなヤツ出てもこのロニ様が……!?」
「!!」
なにやら勘違いはなはだしい発想の元にロニが和んだところで衝撃が船体を揺るがした。
「な、なんだ?」
「ロニ、カイルは後部デッキの見張り台にいるから先に行ってて!」
「どこに行くんだ!?」
「ジューダスを呼んでくる!」
掴んでいた腕を放して身を翻す。
何だかわからないが、切迫した状況であることだけは理解してロニはすぐに後部へと駆け出した。
* * *
幸い、ジューダスとは部屋の前で合流できた。
そのまま別のルートで甲板に出ると丁度ロニが見張り台に腰を下ろしていた2人に声をかけているところだった。
「おいお二人さん!そんなところでいつまでもいちゃついてる場合じゃないぜ!」
他に声のかけ方があるだろうに…
カイルはその言葉に思い切り動揺して立ち上が後ずさり───
「ち、違うんだリアラ、オレ、そんなつもりじゃ………っうわぁあっ!!」
ロープにけつまずいて見事に落ちてきた。
「カイル、大丈夫?」
「心配いらん、バカは頑丈と昔から決まっている。」
「なんだよバカバカ言うなよなっ」
途端に諸手を挙げて抗議するカイル。
かなり高い場所から落ちたのに…大丈夫そうだ。
合流するなり放ったジューダスの一言に納得していいものやら心配するべきなのか微妙。
「はいはい、ケンカはあと!何が起こったのか確かめるのが先だ。へさきへ行ってみようぜ!」
そう、和んでいる場合ではない。
なんとか面子が揃ってほっとしたのも束の間、先頭の甲板へ行ってみると予想通りモンスターが船の進路を塞いでいた。
触手のような4体のモンスターはすでに甲板にとりついていてたまたま居合わせた乗客と、水平との間で混乱が巻き起こっている。
「な、なんだ?あいつは」
「デビルズリーフの主…フォルネウスか」
「主だか何だか知らないけどやるしかないだろ!」
フォルネウスに遭遇して、海の藻屑と消えた船は数知れない。
つまり船員ではどうしようもないということだ。
考えなしのカイルの発言はこの場合、的確だ。
「ジューダス!」
「なんだ」
「あれは囮。別の場所に本体がいるはず…」
「囮だと?!」
赤褐色の分厚そうな表皮にうねる蛇のような体躯。
その先にはそれぞれ鋭い牙を持った口や目もついており各々が独立して見える。
しかしそれは間違いなく触手であるはずだった。
「本体はどこにいる」
前衛をロニとカイルに任せて晶術を放ちながら自問するようにジューダス。
しかし、これには答えられない。
本体がいる場所は、もちろん…
「船底か…?」
海の底へと流れた
の視線を追ってジューダスは舌打ちした。
だとすれば、姿を見せないことにはこちらからはどうすることもできない。
触手の残りが1本になったところでジューダスはそれを確認するために身を翻した。
「カイル、任せたぞ!!」
「えっ?!ジューダス!?」
「船倉だ!!」
これが囮である以上、本体が現れるのは死角である後部デッキか船倉か。
いずれにせよ捕食するなら船を沈めるのが一番早い。
少しでも知恵があるモンスターならそうするはずだ。
否、フォルネウスに襲われた船は全て「沈められている」のだからそうするのに間違いはなかった。
あとがき(10.24UP)**
リプレイ大活躍です。
ロニがふられてるとことか…(そこか)。
ようやくシナリオにのってまいりました。
