「どうしたの?ジューダス」
廃坑の入り口で不意に足を止めたジューダスに気付いてカイルが声をかける。
声は高く薄暗いホールの天井に反響してわずかに残響を伴った。
「…いや、なんでもない」
ふっと視線を落としてからジューダスは再び、
暗闇に沈む18年前の名残の場所を見渡した。
--OverTheWorld.11 天からの贈り物 -
ノイシュタットの北西。オベロン社の廃坑。
ノイシュタットにたどり着いたは良いものの、船の修繕はまだ終わっていなかった。
とはいえ、ハイデルベルグには航路でしか行くことができない。
ひたすら待つしかないと決めた一行は、それを聞き留めたとある商人の依頼を受けてここまでやってきていた。
「廃坑なんていうから…もっと荒れ果てたものだと思っていたけれど、そうでもないのね」
「灯りとかよ…まだ使えるもんな」
「18年前の騒乱後、世界には五万とやることがあった。オベロン社の解体、犠牲者の慰霊、街の復興…そうしている内に、忘れ去られた場所のひとつだっ
たのだろう」
他に誰かがいるはずもなく
靴音と声だけが沈黙に落ちては消えていく。
この淡い暗闇のどこかに「宝」があるはずだった。
商人の依頼はこう。
『オベロン社支部に残された遺書に記されている宝を探し、持ち帰ること』
宝探しと言う魅惑の冒険に加え、腕の立つ英雄などとはやし立てられればカイルが舞い上がりと共に依頼を引き受けないはずはなかった。
「未来の英雄として、困っている人をほっておけないよ!」という一言でその後の行動は決定付けられたといって良い。
だが、ジューダスは乗り気でないようだった。
ただでさえ乗り気でないところ、宝のありかを示したのが遺書と聞くや自分より背の高い小太りの商人を吊るし上げそうな勢いでくってかかったほどだった
のだから。
「彼女の遺言状をどこから嗅ぎ付けた」と。
それは、イレーヌ=レンブラントの遺言だった。
「ねぇ、宝って何だろうね!どこにあるんだろ…」
「遺言されるくらいだから…やっぱ隠し部屋とか…そこら辺にはないんだろうなぁ」
きょろきょろと物珍しく辺りを見回すデュナミス兄弟に、ジューダスから小さな溜息が漏れる。
彼も持てるものをひけらかす方ではないから、できることならそっとしておきたかったのだろう。
まして、それを欲しているのが、自らの欲で人をはやし立てるような男では…
は商人の媚びへつらった、にやついた顔を思い浮かべて不愉快になった。
「全く…僕はこんなことに付き合っている場合じゃないんだ。とっとと探して戻るぞ」
「またまた〜そんなこと言って付き合いいいんだから…
は宝探しとか好きじゃないの?」
「好きだよ。でも…」
「でも?」
「ううん、なんでも。あっ、ほら そこの休憩所とか見てみない?ただ歩いていてもみつからないよ」
どうせ「宝探し」をするのであれば楽しむにこしたことはない。
最も
はそれが何かも知っているわけであるが。
寂れた休憩所には地図があったので、構造が自分の中の知識と一致することを確認する。
方や物珍しそうに、そこに残されていたレンズ製品を見るカイルたちは、ヒント探しと言うよりただ物色しているようにも見えた。
まぁそれも宝探しの楽しみ方の一環だろう。
「本格的に探すならもーちょい安定した明かりが欲しいね」
「レンズ型エンジンが左奥のフロアにあるはずだ。行ってみるか」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「「……」」
「さっきの地図に載ってたよ」
ジューダスは弁解する気がないのか余地もないのか、怪しいところで一呼吸置いて
が言うとロニが「そうか?」と腑に落ちないような顔をする。
反面カイルは未知の領域にわくわくした声で入り口から奥へとまっすぐにのびる水路を見て指差して首を傾げる。
「こんな鉱山の中に水路ってさ、なんでだろう?」
「それは採掘の際に生じる地下水をまとめて外に排出するためのものだ。船を使えば運搬にも利用できるからな。」
「へぇ〜ジューダス物知り〜!」
世辞にもならんと、顔色を変えないジューダスにますますおもしろくなさそうなロニ。
…単に嫉妬なのだろうが今から火種を抱えるのは勘弁して欲しい。
もっともそんなロニの嫉妬心は長くは続かない。
「なんかさ…荒れてはいないけど…お化けは出そ…」
「カイル。そんなものはいないんだ。いるはずがないんだ!!」
「ロニ…お化け怖いの?」
「こ、ここここ怖くなんか無いぞ?だから出たら真っ先に教えてくれよ?」
「追い払ってくれるの?」
「いや。逃げる。わき目も降らずにまっさきに逃げる。」
「…それじゃ1人ではぐれて余計怖い目に遭遇するような…」
リアラからの頼もしそうな眼差しに真顔で応えるロニ。
よほど切実であるらしい。
「きゃっ今、人影が…!」
「何ぃ!?どこ!どこだ!!?お化けなのか!?出たら言ってくれ!!いや…やっぱり言うな!!」
「うるさいぞ、お前ら…
リアラ、お前が見たのは自分の影だ。そんなものいるわけないだろうが」
なんてどこかで聞いたような会話を繰り出しながら賑やかに目的のエンジンの前までたどり着いた。
「これ…何?これで灯りがつくの?」
「この坑道内の施設へのエネルギー供給源だ。これが動けば他の設備も使えるはずだが…生きているな」
ジューダスは設備のパネルへ触れて作動を確認する。
仮面の下からその視線が眼前の巨大な透明なタンクへと注がれた。
「動力のレンズが空、か。探索の時間も考えて200は必要だな」
「200ー!?どこからそんなに持って来るんだよ」
「とにかくモンスターを倒してレンズハント!!」
「馬鹿か。そんなことしている時間があったら暗闇の中でも探索した方が早い。ここは鉱山だ。その辺りを探せば未集積のレンズがあるはずだ」
こんなところで母の血が騒いだのか、嬉々として提案したカイルの意見は軽く却下。
結局、二手に分かれて探すことになった。
「とりあえず、ここに100あるから私たちのノルマは達成で良いかな」
「…どこから持ってきた」
「さっき休憩所で」
ということで一方はそのまま待機したりしているのだが。
せっかく2人になったのだから
は気になっていることを聞いてみることにした。
「ジューダスは…その…イレーヌさんの遺言の内容、知ってるの?」
「いや、彼女が遺言状を残したことは知っていたが…」
あの時は、おそらくそこまで踏み入らなかったのだろう。
リオンにしてもイレーヌにしても目的とするところは別に有り、それぞれ自分の想いに完結しているところがあったから。
それでも今のジューダスにとってあの頃のイレーヌの想いは、無関心とは一線を駕したところにあるものには違いなかった。
「じゃあこの坑道の中のことは…もちろん知らないよね?」
「そうだな。視察の護衛で来た事があるくらいだ。宝の在り処など見当も付かない」
すると、いつまでもさまよっている場合じゃないので
が引っ張っていくのが一番早いと言うことになる。
せめて知っていてくれたら話は早かったのだが…
機械に背中を預けて腰をかけ、どうしたものかと考え込んでいるとやがてカイルたちが戻ってきた。
「あっジューダスたち、早かったね」
「あぁ、既に100入ってるぞ。」
「じゃあこれで200、っと」
ロニが投入口にレンズを流し込むと蛍光緑の淡光がタンクを支える金属の上を走る。
パネルの上にも同じようにエネルギーが供給された証の微光が点り、それが全てに行き渡ったことを確認してジューダスはそれらを操作した。
ふっと坑道全体がほの明るくなる。
「うわぁ…」
「こうなると廃坑って感じしねーな」
なんだかほっと胸をなでおろしてロニ。
各所に設置されたランプに宿った光ははっきりとした明るさではなかったが、探索するには十分なものだった。
やはりカンテラなどで地道に壁や通路を当たるよりずっと効率的と言うものだ。
「じゃあ…ここからどうするの?カイル」
「えっ?どうするのって…」
お宝探しと言うのは案外地道なものだ。
というか、ヒントもない広大な洞窟を探すような宝探しは途方にくれても仕方がない。
「とにかく探す!!」
「半日で飽きそうな勢いだな」
竜頭蛇尾という感じで。
「じゃあジューダスには何かいいアイデアがあるの?」
「そんなこと知らん。お前が引き受けたのだからもう少し自分で何とか考えてみろ」
ジューダスがやる気になってくれると進みも早かろうけれど、この分ではやる気を引き起こすこと自体難問そうだ。
「気になるところがあるんだけど…アテがないなら行ってみる?」
「えっどこ!?」
「入り口の右手に…土砂で埋まった通路があったんだよね」
「おっ、それは怪しいな。」
「…あの崩れ方は人為的なものではないだろう。短絡的だ」
まるで自分が短絡的だと言われた様でやや複雑な
。
もちろん、それはロニの思考回路のことである。
「その上の階がね、地図上で不自然に狭いなぁと」
「そうなの?」
地図は壁に掲げられた重そうなオブジェと化していたので持って来ていない。
これ幸いとそれらしいことを言ってみると仲間たちは顔を見合わせた。
「でも、気になるだけだから1階部分を全部当たってからでも良いよ」
この時点で坑道の半分は見て回ってしまったのでなげやりな
。
ここまできたら全部探そうが直行しようが大して変わるまい。
しかし、仲間たちはむしろその発言で気が向いたようだった。
「さっきレンズ探しながら見たけどそれらしいのはなかったよな?」
「うん、じゃあ入り口に戻ろう!」
「待て。あの土砂をどかすなら爆弾を使って吹き飛ばすしかないぞ。先にそちらを探すんだな」
シャルが使えれば一発なのに、不便さを感じて止まない発言だ。
「爆弾!?おいおい、そんなものどうやって…」
「昔、坑道の発破に使っていた。
探せば見つかるはずだ。着火は…そうだな、ソーサラーリングを使えばいい。」
バーンストライクでは危ない、というのは既に共通の見解である(制御できないから)。
だからと言ってリアラに他の晶術で任せるのもなんだか危険そうなので地道に爆弾を探して入り口に戻るカイルたち。
「爆弾かぁ…モンスターが出ても火気厳禁だからね」
「わかってるよ」
「ニトロとかの類だと、転んだりしても危険そうだよねぇ…」
「カイル、お前は持つな」
誰もそんなものは持ちたくないのが実情だ。
けれど爆発はさせてみたいというのが人情であり。
「よし!オレが着火する!!!」
ソーサラーリングを使えと言われたことも忘れて晶術をかまそうとしたカイルはジューダスとロニに殴られて頭を抱えながら沈黙した。
その隙にリアラに遊び半分で爆破させようとしている
。
「なかなか当たらないわ…」
「遊んでいる場合か」
離れた場所から狙うことに真剣になってきたリアラを制して結局ジューダスが(いろんな意味で)活路を開くことになった。
爆破でふっとんだ土砂を踏み超え2階へあがる。
そこは本当に小さなスペースだった。
「何もない…わね」
「だが確かに不自然だ。」
「え?どこが?」
ジューダスはそれに気付いて左手を指し示した。
そちらには一階から続く吹き抜けを挟んで爆弾の格納場所があり、クレーンでこちらにも運べるようになっている。
先ほど使った爆弾もそこから持ってきたものだ。
「あちら側から下に降りればすぐここからも合流できる場所だろう?爆薬を地階に運ぶだけならわざわざこちらに渡す必要はない。」
「じゃあこの部屋、何のためにあるの?」
「強いて言えば、爆薬の貯蔵スペースか…だが…」
言いながら視線は部屋の奥へと向いた。
いい勘をしている。
「直接こちらへ運ぶ理由、だったらその奥を発掘する為というのも考えられるな」
「じゃあ発破かけてみようか」
「へ?」
正解が出たところで
がすかさず予備にとっておいた爆薬を壁にセットした。
止めたい所だが、残念ながらソーサラーリングは彼女の管理下である。
ドカ──ン!!!
素晴しい集中力で一発で点火に成功すると、爆風を巻き上げつつ壁は大破した。
その奥にはぽっかりと、暗い穴。
「あ…こんなところに…隠し通路…?」
「や、やったーーー!!!凄いよ、
!!」
「いや、今のジューダスの案だから」
「僕は爆薬をセットしろなどとは言っていない」
思わず感極まって
に抱きついて喜んでいるカイル。
当の本人、まるで動じず。
暗い壁の向こうを覗き込むとそこは岩一色の洞穴だった。
明かりはなく冷たい風が奥から吹き抜けてくる。
空気が絶えず動いている証拠だろう。
手前の削れた岩肌は採掘された跡であることが手に取れた。
その蒼暗い道の片隅にそれは置かれていた。
「これ?なんだろ」
半透明のスモークケースに入っていて厳重に鍵がかけられている。
その装丁を見れば宝箱のように見えないこともない。
しかし中身は暗く青い色をした彼らの描いていた煌びやかさとは縁遠い、物体だった。
「これが宝?」
「それは…」
カイルが片手で持ち上げた小箱をジューダスが覗き込む。
仮面の奥で、すっと瞳が細まった。
「この鉱山だけで採掘できる特殊な鉱石だ。状態を安定させるため、それに入ってる」
「特殊な鉱石?それじゃ、ただの石っころなの?」
そう言われるとどう見てもただの石だ。
ケースに入っていなければ足元に転がっていても見向きもしないだろう。
ジューダスは何事か考えていたが、その正体を語って聞かせた。
「…お前たち、ベルクラントは知っているな?」
「あぁ、知っているさ。天空都市ダイクロフトにあったって言う兵器のことだろ?
地殻にエネルギーをぶち込んで破壊するって言う、とんでもねぇシロモノだ。
でも、それがどうかしたのか」
「その石は、ベルクラントに使われていたレンズの力を増幅させる石だ」
「え!?それじゃあこれさえあれば…」
「そうだ、理論的にはそれを集積すればもう一度ベルクラントが作れるということになる。
街一つ軽く吹き飛ばせるほどの兵器がまた作れてしまうんだ」
18年前の惨劇、それに一役買った兵器の一部だと知ってカイルは危うくケースを取り落としそうになる。
ジューダスは小さく溜息をついて表情を緩めた。
「…とは言え、現実には無理だがな。この石をどうやって使えばいいかそれが誰にもわからんのだ。
本来ならばオベロン社が解析を進めるはずだったが、無くなってしまったからな」
「うへ〜お宝ってこんな物騒なもんかよ。
まったくオベロン社ってヤツもろくなことしやがらねぇなぁ」
「オベロン社…」
ロニの物言いに
の表情にわずかな翳りがさす。
その呟きを聞きとめたリアラが首をかしげて
の顔を覗きこんだ。
「
?」
「でも、オベロン社にいる全員がそんなことわかっててそうしていたわけじゃないでしょう?」
「そりゃ…そうだがよ…オベロン社があの騒乱に加担してたのも事実だろ」
「この石だって、レンズの力を増幅させるだけなら他に使い道があるじゃない」
「けどベルクラントなんか作る石だろ?他にどんな用途で採掘されてたって言うんだよ」
「…」
「
、もういいだろう?どの道オベロン社はもうないんだ。僕らはそれを持って帰ればいい。それだけだ」
見過ごせない性格が時々災いする。
理解されなければ自分が傷つくだけだと言うのに…
ロニにとって、世界にとってオベロン社もヒューゴもリオンも悪役であることに変わりない。
今、結果論でしか応えないロニの価値観の壁は崩せないであろう。
先行きを察して閉口した
とロニの間に立ってジューダスは止めた。
「そう…そうだね」
しかし、口では同意を示したのに
はふいっと踵を返してしまう。
無論、驚くカイル以下3名。
「
!?」
スタスタと奥へ向かって歩いていく、その背後でリアラが気付いた。
「ねぇ…あっち、明るくない?」
「確かに…まだなにかあるのか?」
その背を追って緩やかなカーブを曲がると途端に、視界は開けた。
「きれい…」
眼前に広がった思わぬ光景に、足を止めて息を呑む一同。
リアラの呟くその声はずっと上方まで響いて消えた。
そこは自然の岩がむき出しになったまま幾重にも重なり、そのはるか上方から天然のドームに光が降り注がれていた。
「なるほど道理で明るいわけだ」
足元にはやわらかな緑のオアシスが広がって、花さえ咲き誇っている。
そこだけが、喧騒や争いごとから切り離された場所のようで、神気にさえ満ちているようだ。
今までの薄暗い坑道からは考えもつかないような優しい生命感に満ち溢れていた。
「
…?」
その数歩先にいる
に声をかけると振り返った顔が微笑う。
陽だまりは柔らかく、あまりにも穏やかな空間だった。
「こんな場所があったなんて…」
彼女が案内人を務めただけと解した皆がひとしきりあたりを見回していると、ジューダスは無言で奥へと足を運んだ。
思わず見送った彼の視線の先…最奥には大きな一枚岩がある。
「ジューダス?」
呼びかけにも応じないと思われたその瞬間、珍しく彼の口元から笑い声が漏れ、カイルたちは何事かとその周りに集う。
「これは…!なんて皮肉な…こんなものが、あるとはな…」
「一体なんだってんだよ?」
おそらく自分に向けて、なのだろう。
視線を岩の上に落としたまま呟いたジューダスは、尋ねてきたロニに場所を譲った。
ロニは後方でそれを覗くカイルたちに聞こえるように岩に刻まれた文字を読み上げる。
「どれどれ…
『この鉱山にある鉱石を使えば
レンズの力を大いに高めることが出来るようになります。
そうすれば生産力は増大しすべての人々が
豊かな暮らしを送れるようになるでしょう。
鉱石は、ノイシュタットの貧富の格差をなくせる
奇跡の石となるのです。
この奇跡の石は光との化学反応によってのみ作られるもののようです。
偶然、光が差し込むよう岩が連なっていて、
偶然、この場所に石があった。
これはきっと、この世界からの贈り物なのでしょう。
ですから、この場所を壊さぬよう、大切に守っていってください。
この場所を守ることがそのまま、ノイシュタットの人たちを守ることになるのですから。
これを読む、未来の誰かへ
オベロン社 ノイシュタット支部長
イレーヌ=レンブラントより 』」
静寂の空間にメッセージの残響してこだまする。
それは、18年の時を経て彼女の気持ちがようやく未来の人間に伝わった瞬間だった。
「なるほどねぇ…
確かに鉱石は兵器だけじゃない。工場や船にもつかえるもんな」
「だから、さっきからそう言っているのに…」
ぽつりと呟かれて、今更ながらに先ほどの
の言った意味を悟ったロニは誤魔化すように乾いた笑みを浮かべ頬を掻いた。
「私たちはそのことに頭が回らなかった。これじゃ、兵器を作った人たちと、同じね…」
「オベロン社も同じさ。そして…イレーヌもな…」
結局は、知りながらその道を選んでしまったのだから、それは否定できないことだった。
「彼女たちは道を誤った。
理想の実現を急ぐあまり即効性を求めて、劇薬を選んだんだ」
「神の眼の騒乱の話か?
そうだな…こんな風に考えられる人が一体、なんで…」
ロニはまじまじと碑文を読み返す。
残された遺志は、騒乱における彼女の選択とはまるでかけ離れて見えた。
それでもここに残っているのは紛れもない彼女の想いそのものにも違いない。
「本当に、この世界がなくなって欲しいと思うならこんなもの残さないよ。」
こんなメッセージがあるということは…劇薬を求める一方で、今の世界の存続を願っていた証拠ではないのだろうか。
あの後、交わることの無かった
とジューダスに今、それを確かめる術は無い。
「そう…ね。だから、ここはこうして残っていたのよ。きっと…」
「案外、こっちが本当の宝かもしれないな」
「そうだね!きっとそうだよ!」
遺言、というのも商人の見たものよりもこちらが正しいのだろう。
旧き世界を壊して、新しい世界を作ろうとしていた彼女の本当の願いがここにある。
「本当の、宝…か
ふっ…安っぽいセリフだな。」
「へっ!うるせぇよ…」
そう笑ったジューダスの声は優しかった。
ロニのぼやきもどこか嬉しそうで、怒りの気勢など微塵も無い。
「だが、安っぽいものもたまにはいい」
誰もが、密やかにみつけたこの場所に安らぎと充足感を与えられていた。
* * *
「それにしても馬鹿ですなぁ…ちょっと煽てたらコロリと危険な依頼を受けるとは…」
「ははは、あぁ言う輩がいると助かるものだ。まして野たれ死んでも我々は痛くもかゆくも無いのだからな…」
ノイシュタットの商人の家──皮肉にも旧オベロン支社──の前で、依頼をこなして帰ればそんなささやきが聞こえてきて一行は大変不愉快な気分になって
いた。
「本当の宝を見た後にあぁいうクズを見ると即効性の毒薬も試したくなる気分がわかる。」
「毒薬ではなく劇薬だ」
抑えて、
さん
普段は仲間に見せないような刺々しさを無表情でかもし出している
に、カイルたちが微妙に怯え気味の中、ジューダスは淡々とどーでも良いことを指摘している。
「まぁこれを渡したところでヤツらには扱えまい。今となっては文字通りただの石ころさ」
「お手並み拝見、ってとこだな」
嵐は一瞬にして去り、カイルたちは明るくドアを開けた。
「おぉっこれは皆さん…心配しておりましたぞ」
「白々しい…」
後方で再び放たれる殺気は一体誰のものなのか(実はリアラかも)。
「はいっ!約束のものだよ」
にこやかにケースごと渡された商人は、受け取ったそれを眺めすかして、薄い貧相な眉を寄せた。
「あの、これは一体なんなんでしょうか…」
「知らない!」
「俺たちはただ宝をもってこいと言われただけなんでねぇ」
「…………ふっ」
元気よく、とりとめもないほどきっぱりとカイル。
シラを切るロニに続いてジューダスの放ったのは、どこをどうしたらそれほど人を見下した笑い方ができるのかと言うくらいの嘲笑だった。
「それはそうですが…」
「さ、約束のものは持ってきたんだ。報酬を頂きたいんだが?」
「し、しかしなんなのかわからないものでは宝とは呼べないのではないのかと。」
「この期に及んでまだ何か持ってこいと言うのか?」
一転した鋭いジューダスの視線に小さな声を上げてひるんだ商人。
それまで黙っていた
がふっと笑みを浮かべてそれを制した。
「まぁまぁジューダス」
「…?」
「じゃあ、教えて差し上げましょう。それは月の夜に絹の布で磨き続けるととりとめもなく輝く黄金になると言う輝石です」
「へ」
唐突の展開に一瞬にして全員の時が止まった。
「…あぁ、そいつはそう見えても学者だ。信じるか信じないかはお前たちの好きだが…いらんというなら僕らが持ち帰ることにしよう」
「いえいえいえ!疑うなど滅相もございません!そうですか…そういうことでしたら報酬はこちらで」
ずしり、と重い皮袋が差し出される。
ざっと3千ガルドはあるだろうか。
押し付けられるように渡された袋をジューダスはそのままカイルに横へ流し渡した。
「やったぁ!!」
「んじゃそういうことで!」
商人に負けじと調子よく、あるいは脱兎のごとくロニは言い渡して屋敷を後にした。
「あはははっ!ねぇあの顔見た?!」
「業つく張りが。せいぜい金になるまで磨き続けるが良いさ」
と言う
は再びナチュラルに無表情だ。
よほどあの手の輩が嫌いなのだろう。
きっとその日は永遠に来ない。
しかしおかげですっかり仲間たちの気は晴れ晴れとしていた。
「これで…良かったのよね、ジューダス」
「お前たちにしては、上出来だ」
絶妙のタイミングで、コンボを決めたジューダスが何事も無かったかのようにそう寸評を下す。
「さて、これで暇もつぶせたことだし、一度船着場に行ってみるか」
天気は上々、ノイシュタットの街並みは
相変わらずのんびりと、豊かな暮らしぶりを訪れるものにご披露していた。
あとがき**
風邪をひいて休んだ日に、うっかり打ち始めたらそのまま数時間打ち続けてできた賜物です(また長いし)。
そのせいなのかは不明ですがいつにないヒロインの発言とジューダスの絶妙な反応ぶりが目をひきます(?)
この話って何だか短編の方に入れても良いような展開ですね。
