暖かな部屋と、
温かな食事と───
--OverTheWorld.13 雪路の街灯 -
結局のところ、いつも通りその後はロニがジューダスにしてやられる形で騒動は丸く収まった。(※スクチャ6参照)
スノーフリアには翌朝到着して、朝一番の降碇ゆえカイルを引っ張り出すことに難儀したものの、朝食を食べ終わることにはすっかり雪国風情を満喫してい
た。
街道に出ると正に一面の銀世界。
町を出ても、雪に親しみの薄かったカイルたちは浮かれた雰囲気だ。
木々の葉はのきなみ落ちて、視界をさえぎるものは無くひたすらに広い様、心躍らせる光景では無理も無い。
初めに始めたのは誰だったのだろう。
既に眼前ではお約束の雪合戦が展開されている。
「そんなことをしている場合じゃないだろう」
というジューダスは近々自分がそれに巻き込まれるなどとは思っていまい。
その発言は集中攻撃を招くとも知らずに。
それとも当然の予測の範囲内だったのかそれでもカイルの初弾はひょいと避けた。
続くロニとリアラの連投もさりげにかわすジューダス。
「僕はそんなガキくさい遊びはとっくの昔に卒業…」
ビシリ。
「…。」
まったく警戒していなかった背後からのその攻撃は見事にヒットした。
「…
…#」
びしっびししっ
先ほどまで隣で傍観していたはずの(だがいつのまにか距離を置いて離れている)
へ注意が逸れたところで、ここぞとばかりに前方からの集中攻撃に見舞われるジューダス。
最後に雪にあらざる音が混じってついにジューダスは剣を抜いた。
「誰だっ!雪に石を入れたのは!!貴様らそこへなおれっ!」
「ジューダスが剣を抜いたーー!!」
「逃っげろ〜!!」
きゃあきゃあと散っていく。
少し離れたところで
は腹を抱えんばかりに笑っている。
白銀の中での騒動はしばらく収まりそうに無かった。
* * *
ハイデルベルグの宿に駆け込んだのはそれから5日も後のことだ。
「ひゃ〜!!寒いよ!!」
「うぅ…凍え死ぬ」
初めの勢いはどこへやら。かなりなめてかかっていたカイルたちは思い切り雪国の厳しさを思い知る。
その分、暖炉は暖かかった。
「今日は謁見は無理だな。もう外をうろついても仕方あるまい」
この時間では城門も閉まっているだろう。
肩の雪を払いながらジューダスが言う傍で、夕方からの切るような風に冷えた肩を抱きながらカイルたちは暖炉の前に陣取った。
「夜になる前に着いて良かったわね」
「あぁ、もう野営はもうこりごりだぜ」
スノーフリアからハイデルベルグまでは徒歩の旅人のことも考慮して、休憩できる場所も設置されている。
けれどやはり人家のぬくもりは段違いで安堵するものだ。
帰りのことは一切考えずに発言を飛ばすロニにジューダスは呆れたような溜息をついた。
それには気付かず早くもくつろぎモードのカイルとロニ。
部屋をとり夕食時にもう一度食堂で会おうということに決めてひとまず解散することにした。
「こっちは新街区、かな?」
「あぁ、あれが英雄門だろう?だとしたらその手前は新街区で奥が旧ハイデルベルグ市街だな」
寒さ厳しい雪国は冬のさなかでも1日中暖房が絶えず、むしろ屋内は快適だ。
廊下で街灯の灯る町並みを見ていると、一足先に部屋から出てきたジューダスと会う。
ジューダスは右手の奥に見える高台の門を見ながらそう言った。
門からこちらは騒乱後にサイリルや国境の町ジェノスからの難民を受け入れてできた新しい街だ。街並みもまだ新しく整然としていた。
英雄門は18年前のハイデルベルグの外門ということになる。その奥に行けば見覚えのある街並みが広がっていることだろう。
「それ、明日カイルたちにもう一度レクチャーすることになるんじゃない?」
「…あいつらは本当に何も考えずに旅をしているな」
「既に私たちの方がよっぽどこの時代に詳しいかもね」
ここにはいない人間に対して呆れた溜息と、苦笑を交わす2人。
「それより…前に来たときはこんなにゆっくりしなかったから、こうやって平和な街の灯りを見るのもオツなものじゃない?」
「まぁこれだけの都市でこれほど雪景色ならオツと言えばオツだな」
「そうだぞ、この街は観光客には辛い気候かも知れないがいい街だ。」
「!!」
パタム、と背後で音がして振り返ると片手でトレーを載せて後ろ手に扉を閉める赤毛の女性の姿があった。
その年と風貌に似合わぬ語り口調、1つに高く結い上げた髪。それが誰かを髣髴させる前に、にこやかに上げたその顔は、
を見て固まった。
呆けたようにみつめる、みつめられるその隣で「それ」に気付いたジューダスは仮面の奥で気まずそうに舌打ちでもしそうな気概を見せ
を肘で突いた。
マリー=エージェントだった。
が、何事かを促された
はジューダスに顔を向けるものの動じている様子は無い。
それが良かったのかマリーの方から沈黙を解いて改めて微笑みかけてきた。
「すまない。昔の知り合いに良く似ていたから」
本人です。
「これから夕食だろう?用意ができたところだから食堂へどうぞ。お客様♪」
相変わらずな調子で彼女は屈託無く笑って去っていった。
「…。」
「驚いた?」
「あぁ」
驚かないほうがおかしい。と言いたそうだ。
明らかな不意打ちなのだから。
「あ、ジューダス、
」
かつての仲間の背を見送っていると背後からカイルたちがやってきた。
「でさぁ、マリーさんてどこにいるのかなぁ」
「マリーならこの宿にいるよ」
「えっ?」
「さっき会った」
食事を運んできてくれた若い女性従業員に、すかさず声をかけているロニをよそに、暖かなスープを口に運びながら
が答える。
たしなめるようなジューダスの視線があった。
もう少し言い方があるだろう、とでも訳すといいだろう。
マリーとルーティは時々手紙でやりとりをしているらしく、カイルたちも名前と人となりは知っていた。
ハイデルベルグで宿をやっているというのもここへ来るまでに彼らから聞いている。
母の親友であり、英雄の仲間であった彼女には街に着いたら会いたいとは言っていたものの、あまりの寒さと宿の名前までカイルが覚えていなかったことも
あって、取り急ぎ駆け込んだのがこの宿。まさかその先に彼女がいるとは思っていなかっただろう。
そういう意味ではあの登場は、確かに
にとっても不意打ちには違いなかった。
「じゃあ食事が終わったら会えるかな!!」
「食後と言わずに、今、会えるぞ」
「!!?」
マリーがシチューのおかわりを持って現れた。再びさりげに顔を伏せるジューダス。…忙しい。
「カイル、だろう?一目でわかったぞ。そのつんつん頭。」
スタンにそっくりだな!
…て、目の付け所が微妙に違うマリーさん。
それがわからないほど慌てた様子でカイルは立ち上がった。
「マ、マリーさん!?は、はじめまして!カイル=デュナミスです」
「あぁ、よろしくな。実はルーティからお前が旅に出たから訪ねることがあったらくれぐれもよろしくと手紙が着いていて…宿帳を見てもしやと思ったん
だ」
チェックインはロニの名前だ。孤児院の名前でもあるデュナミス姓を見てきたのだろう。
懐かしそうな顔でマリーはカイルを見て瞳を細めた。
カイルはその調子で仲間を1人ずつ自己紹介していく。
「こっちはロニで、リアラです。後はジューダスと
」
「
?」
「えぇ、途中で出会って…今は皆一緒に旅をしているんです!」
ふと目を留めたマリーだったがカイルが屈託ない元気のよさで話を続けると再び笑顔に戻った。
「そうか…仲間はいいものだな。もっと話をしたいが今は仕事中だ。もし良かったら後で私の部屋に来るといい」
「行きます!必ず!!」
マリーは、口元に笑みを湛えたまま、にぎわう食堂の奥へと再び姿を消した。
「マリー=エージェント…いや、今はマリー=ヴィンセントさん、だっけか。ルーティさんの知り合いは美人が多いんだなぁ…」
「また、それか。」
口を開いたかと思えばそんな感想を述べるロニに、ジューダスはこの宿へ来て何度目かの溜息を仮面の奥で小さくもらした。
食後、しばらくしてカイル、ロニ、リアラの3人はマリーに会いに行った。
もちろん不要な混乱は避けるためジューダスと
は部屋で待つことにした。
それから小一時間ほど経った頃だろうか。
なぜかマリーが部屋へとやってきた。
「カイルたちはお前の部屋へ行ったのではなかったのか」
正体をばらすような行動は慎めと言いながら口調などは、はばかる気配も無いジューダス。
しかし、そういったことにおおらかなマリーは全く気にかけない様子だった。
「あぁ、今来ている。ルーティの…カイルの母親から来た手紙などを見せてやろうと思ってな、そこの物置で色々あさってきたところだ。」
「…」
じゃあなぜこの部屋へ寄る、と言いたくてもいえないジューダス。
それではまるで来るなと言わんばかりだ。
「2人は来ないのか?」
「…行ってもいいんですけどジューダスがうるさ…」
「こいつは風邪をひいて具合が良くないんだ。少し静かにしてやってくれ」
いざ風邪をひいたらそれほど気の利く言葉など言ってはくれないくせに、そんなふうにすかさず制するジューダス。
「そうなのか、それはすまない」
マリーは目を丸くして素直に信じたようだった。
「実はな」
それでもすぐに出て行く気はないらしい。ジューダスが仮面の下で複雑そうな顔をする。
「お前は私の昔の知り合いにそっくりなんだ。」
「それ、さっきも言ってたね」
「そうか。それでな、私はその仲間たちにこのハイデルベルグで助けられて…礼も言えずに別れてしまったままだったんだ」
マリーはマイペースに話を続けている。
そういえば、マリーと最後に言葉を交わしたのは、彼女がハイデルベルグ城でダリスに斬られ意識を失う前だった。ルーティとはまた今度会いに行こうなど
と話しながらもヒューゴが神の眼を盗み出したのはその直後で、当然
はその後、マリーとは会っていない。
しかし、なぜそんな話をここで披露するのか。
その相変わらずなマイペースぶりは意図が不明でジューダスは少し眉を寄せた。
「今でも、会えたなら礼を言いたいと思っている」
「なぜ僕らに話す?」
「さぁ?なぜだろう」
彼女自身もわかっていないらしい。
天然に加えて勘のよさは何も変わっていないようだった。
「なんとなく、だな。こういうのを本当に懐かしいと言うのだろう。…お前たちはよく似ている」
「…」
今、お前「たち」と言ったことにジューダスは気付いたろうか。
彼女にしてみればかつての仲間にそっくりな
が──おそらく、部屋を訪ねなかったことでむしろ──気になって気になってしようがなかったのだろう。
その話の過程でいつのまにかその対象が複数形になっていることに危機感を抱いたのかジューダスは押し黙った。
「休んでいるところすまないな。暖かくしてゆっくり養生してくれ。」
彼らの姿を見て、言葉を交わしたことに満足したのか穏やかな表情で彼女は出て行った。
扉の閉まる音と共に一瞬沈黙が落ちる。
彼女にとってカイルと、かつての仲間にそっくりな人間が同行しているのは「偶然」で、ここを訪れたのも「偶然」に過ぎない。
つまりは、気付かれなかった。
そのことに確信を持ったジューダスは大きく息をついた。
「ジューダス…」
顔をあげると暖炉の炎に明々と照らされている
の姿がある。
「私、いつから風邪ひいてた?」
「そ、それは…物のはずみだろうが」
しかしその物のはずみの発言が後々、ちょっとした混乱を巻き起こすことになった。
例えばマリーの部屋に戻ってきたカイルたちが開口一番発した言葉は
「
、具合悪いなら早く言ってくれなきゃ!!」だとか「黙って無理してちゃダメよ」だとか。
…なぜ自分が怒られなければならないのか、仲間想いな渋顔のカイルたちを前に、そして目をあわそうとしないジューダスに不条理さを感じる一夜だった。
あとがき**
マリーの登場は思いつきで、だけど流れの中で自然に生まれました。
こんなふうになんとなくすれ違うのも良いのではないかと。
