全てを捧げることが
与えられるための資格
--OverTheWorld.17 砂礫の聖地 -
そんなふうに未来の日々は表面上、穏やかに過ぎていった。
の怪我ももう大分良くなった頃だった。
アイグレッテへ薬を仕入れにでかけていたナナリーがその土産にカイルとリアラを連れてきた。
「おぉ〜カイル!俺の可愛いカイル!!」
「うわぁ!やめろってば…ロニ!!気持ち悪い〜〜〜!!!」
「…あの光景ってはっきりいって退くよね」
「あぁ」
子供たちの攻撃に晒されている最中へ差し伸べられた救いの手であったからか、それとも兄貴分として単に大袈裟なだけなのかホープタウンの広場へ入って
来たカイルはロニに思い切り抱きしめられて本気で暴れている。
それを呆れ果てた顔で見下ろす
とジューダス。
もっぱら子供たちとの戦闘訓練(子守りとはジューダス談)場と化していたちょっとした高台を降りて合流となった。
「良かった!皆、心配してたんだよ!」
「それはこっちのセリフだ。ジューダスなんか寝言でお前の名前を…」
「言ってない」
むしろリアラと一緒なのだから心配はあまりしていないようだった。
ここが10年後と言うのであれば、自分たちの方がどうしようもないことも彼は知っている。
そんな再会の戯れの後はナナリーの家に行ってお互いの情報を交換することになった。
カイルがまず話してくれたのはこの時代の「常識」だ。
アイグレッテのすぐ近くに放り出されたカイルはそこで信じられない光景を見たと言う。
まず、アイグレッテの人々は名前を持っていない。
与えられた番号で住民管理は元より互いの呼称も済ませるらしい。
そんな両親から生まれた子供は、3年間、専門のスタッフによって「問題の無い」人間に育てられる。
生まれ方も神父の前に行って「授かる」…つまりは母体からでなく中空に現れる奇跡によって文字通り「手に入れる」のである。
そして、子を授かった両親はさして喜びもせずに再び日常へと帰っていく。
彼らの知るところによれば常軌を逸したそれらの流れはすべて、降臨した神『フォルトゥナ』の御技によるとのことだった。
訴えるようにカイルが話し終わると一様に仲間たちの顔には嫌疑とも戸惑いともつかない表情が浮かんでいた。
「このホープタウンを見る限りでは…信じられんな」
「ここは、そういう人間の集まりだからさ。チェリクの方はフォルトゥナ神団の甘言に乗って移住した連中もたくさんいるよ」
「そういえば…港で神官のカッコした人が「今までの全てを捨てれば全てが与えられる」とか言ってたよね」
布教活動はこのカルバレイスまで及んでいるらしい。
さすがにファンダリアがどうなったかまではわからないが、もしウッドロウがいなくなっているとすればさぞかし国は乱れていることだろう。
「あたしは…あぁいうのは理解できないよ。街の人間だって無気力でさ。生きてる、って感じしないよね」
ナナリーはこの村でルーという弟を亡くしている。
不治の病で、人の手ではどうしようもなかった。
ただ一つフォルトゥナ神団に帰依する以外の方法では。
神団を頼れば助かった。けれど彼女もルーもそれを選ばなかった。
彼らは例え短い時間でも人間らしく生きることを選んだのだ。
もしも一度(ひとたび)、帰属してしまえば一生あの街から出られなくなる。
雑菌のないひたすら白壁の無菌室のようなあの街で。
リアラが少しだけ微笑んでそんなアイグレッテの在り方を評価したのはその時だった。
「でも…あぁしているのは母体に一番安心だからよ。産後の心配も、痛みも無い。安全で、母親のためになることだから」
「じゃあ子供の為には?」
「えっ?」
「生まれてくる子供が温もりに触れないなんて、自分が楽ならいいっていうエゴじゃないの」
「それは…でも…子供にとっても病気をしないで済むから…」
ふいの
の疑問に言いよどむリアラ。
彼女にしてみれば、意志薄弱な赤ん坊のことなど範疇に無いのだろう。
あくまで「清潔」とか「安全」とか物欲的な基準である。考えてみればお粗末な幸福システムだ。
最もそうやって育てた子供はさぞかし立派なアイグレッテ市民になることだろう。
「…まぁシステムの矛盾をリアラに言っても仕方ないよね。ごめん」
感情論と言うより単なる疑問故に引き際もあっさりだ。
しかし、リアラは深く理解しようとなんだか沈痛な面持ちになっている。
「人の価値観は様々だ。現にアイグレッテに住まう人間が増えているならば与えられることも幸福なのだろう。───短絡的だがな」
ジューダスの発言は一見理解を示すようで、明らかに冷ややかだった。
フォルトゥナ神団は「人類平等の幸福」を唱えているようだから、あの街の形は幸福を追求した結果ということだ。
珍しく難しい顔をしたまま考え込んでいるカイルにロニが声をかけた。
「どうした、カイル?」
「わからないんだ」
「わからないって何が?」
「だって神様ってなんでも出来てお見通しなんだろ?それなのに、どうしてあんなことするんだろうって…」
「それはその方が皆幸せになるから…」
すかさず応えたリアラの声は、控えめながらも諭すような優しさがあった。
今の仲間たちの中では、何か違和感のある反応だ。
が、彼女にとっては当然、というようだった。
「そうかなぁ…でもオレは嫌だな。あんなふうに暮らすならここでナナリーみたいに暮らす方がずっといい。神様なんていらないよ。」
「神様が…いらない…!?」
さりげないカイルの言葉はリアラにひどく衝撃を与えたようだった。
当然と思っていた価値観が、大きく揺らいだ瞬間だったろう。
それはそうだ。
彼女は元々この時代の人間で、厳密に言えばエルレインと対を成す「聖女」なのだから。
この時代こそが彼女のベースであり、根幹でもある。
ジューダスが何故彼女のことを知っていたのかは知らないが
の知るところによれば、彼女は降臨したフォルトゥナの代理者、2人の聖女の片割れであり人々の幸せをもたらす方法を模索している。それらの存在理由はも
う少し、進めば明らかになるだろう。いずれにせよ今、カイルたちがそれを知る由は無い。
「うん、いなくても同じだよ。だってこの村の人はみんな楽しそうじゃん!」
「そうだね、あたしもルーも最期まで笑顔で暮らせたよ。だからこの村はあたしにとっても誇りなんだ」
「…」
屈託無く笑ったカイルと誇らしげに胸を張るナナリーを前にリアラは沈黙した。
「この時代の話はそれくらいでいいだろう。いずれにしても僕らは過去…つまり僕たちのいた時代に戻らなくてはならない。リアラ、なにか方策はあるの
か?」
「あ、うん…」
浮かない顔でリアラは俯く。その手がペンダントを握り締めていた。
「行ける、と思う。でもこのままじゃ、無理。…力が足りないわ。皆と一緒に過去に行くには大きなレンズの力がないと…」
「あ、そういえば初めて会ったときも巨大レンズのところだったね!」
何が嬉しいのかにこやかに言ったカイルにリアラは作ったような笑顔を浮かべる。
ナナリーがそれを聞いて何かを思い出したようだった。
「だったら心当たりがあるよ。この先にあるカルビオラって街に、巨大なレンズがあるって話を聞いたことがあるんだ」
「カルビオラっていやぁ確か、アタモニ神団の神殿があったはずだ」
「けど、あんたたちの知っているカルビオラとは違ってるかも知れないよ。
あんたが言うのは10年前だろ?昔はそれなりに栄えていたらしいけど、今じゃ神様を守る神官たちがいるだけさ」
チェリクから北に通っていた街道も、今は神官や許可のある者しか通れないよう封鎖されている。
神の光臨と共に崇拝する神の名はアタモニからフォルトゥナへと変わりその信仰は鉄壁になった。
いずれ、南へ戻った上で関門と砂漠を越えてチェリクに入るよりここから東のトラッシュマウンテンを越えた方が得策と、明日にはナナリーが案内してくれ
ることになった。
「神様、かぁ…。未だに信じられねぇよな、この世界に本物の神様がいるなんてよ」
「本物、って何だろうね?」
「は?」
「だから本物の神様って何。」
「…う………?」
とりあえずの予定が決まり、ナナリーの用意してくれた食事を前に緊張感をほどいた面々。
パンを頬張りながらこぼしたロニをフリーズさせて
は口元に手をあてがってなにやら考え込んでいる。
何を根拠に神なのだろうか。
やはりこの場合は「自称」なのか?
「正体はともかくとして…神と呼ばれているものがいるのは間違いないんだ。今の僕らには過去に戻ることの方が重要だがな」
「うん」
「あんたたちが来たの…確か10年くらい前だったよね。
ちょうどそのぐらいの時に神様が光臨したって話なんだけどねぇ」
そんな話は噂にも出ていなかった。それはきっとあの時代よりもほんの少し後の話なのだろう。
それが正史上の出来事なのか、それとも既にエルレインの目論み通りに歪められた「あの後」なのかは定かでないが、思えばあの時代のアイグレッテの在り
方そのものが既に予兆だったのかもしれない。
「カルビオラ…」
「どうしたリアラ?何かまずいことでもあるのか」
「なんでもないわ…そうね、過去に戻るためにもカルビオラに向かうのがいいと思うわ」
そう言ったリアラの言葉は、妙に不自然に聞こえた。
* * *
トラッシュマウンテンはカルバレイス大陸の北東部を縦断する山脈だ。
ただし山、という名称は純粋に山並が由来ではなく「ゴミ山」から来ているのだろう。
そこは天地戦争時代に、天上軍のあらゆるものが廃棄された場所だった。
天上側の人間は敗戦後、自ら投棄して汚した大陸に押し込められたという訳だ。
見渡せば、廃棄場の名残らしき建物から飛行竜の残骸まで様々なものが文字どおり山積みになってあふれている。
探索をしたらさぞかし変わったものが出るだろうと思いつつもいたる所から吹き出す毒ガスのため長居はできそうにない。
思わずマントや服で口を覆いつつもカイルたちはナナリーを先頭に早々に抜けることにした。
かつての首都カルビオラはその殆どが砂の海に沈んでいた。
その中で、18年前にはアタモニ神の神殿だったあの塔だけは劣化する事なく──むしろ威光を放つ勢いで青い空にそびえ立っている。
あまりに綺麗すぎるその外観は何か違和感さえ覚えるようだ。
カツ、と無人のエントランスに踏み入れると妙に乾いた靴音が響いた。
「…なんだか…ここだけ別の空間みたい」
その不自然さに気づいたのか全員が足を止める。
ただよっていた熱波が不自然に消えたので見えないシールドの中にでも入ったような感覚だ。
「空気の匂いが違う。急に「清浄な空気」になったみたいな。」
「うん、何か違うね」
「…どこらへんが?」
「なんとなく!!!」
敏感に空気の変化を感じ取った続いた
に続いて声を上げたカイルにロニが問うとそれはもうカイルらしい返事が返ってきた。
呆れ顔でひそやかに溜め息をついているジューダスを横に、足元を見ると砂一つ落ちていない。
現在地を述べると外の大階段だ。風も吹いているのだから通常だったら考えられない事である。
「まぁ聖地、っていうくらいだからね。神様の力でも働いてるんじゃないのかい?…あたしも初めてだからよくわからないけど」
「とにかく後には引き返せないんだ。早いところレンズまで辿り着かないと… !隠れろ!」
建物の深い場所に居るかのような不自然な静寂を破り、正面の扉の向こうからたくさんの気配が近づいてくることに気付く。
その声を聞きつけて思い思いに身を隠しまもなく、どこにいたんだというくらいの神官たちが通りすがっていった。
「…ちょうど礼拝が終わったところのようだな」
「チャンスじゃない?」
「よし、行こう!」
カイルに続いて扉へと駆け入るとジューダスの言う通り、神殿内は閑散として神官たちの姿はなかった。
かつての神殿とは異なり、居住空間などは完全に切り離されているようだ。
今のカルビオラの街自体が神官たちの居所でしかなく、街道のチェックの厳しさもあってかここは既にノーガードのようだった。
神官たちも務めの時だけ集うのかもしれない。
美しく整えられたどこか無機的な神殿の中は深い静寂に沈んでいた。
一度エントランスから長い階段を上がったので、再び大きく湾曲する幅広の階段を降りて地階へと向かう。
シンメトリーを意識して作られた構造の中心には青い球体を抱いた2本の羽が螺旋状に空へと伸びる巨大なオブジェがあった。
「これって…確かアタモニ神団のマークじゃなかったっけ?」
「あぁ、使い回しとはなんちゅー神団なんだか」
こういった世俗的なことにはこだわらない方なのだろうか。
もしかしなくてもアタモニ神団をそのまま継承した形で形成されているに違いない。
「…この奥、だと思うんだけどねぇ…」
大きな外観に反して中で行けるところは限られており、一周して辿り着いたのはやはり中心部だ。
構造上その向こうにもうひとつ部屋があってもおかしくない場所だった。
「ここに、プレートがあるけど」
「何々?『神は光、光は熱、熱と光を神に捧げよ』」
「…教義かな」
レンズ重視な教団だからそれも教義といえば教義の一説なのだろう。
「教義 兼 ヒント?」
さすがに小細工的なしかけまで覚えてないのでこういうのは助かる。
はそれでソーサラーリングを使用した。
小さなレンズを模したオブジェに充てると、正面に隠れていた扉が音もなく開く。
その向こうに広がっていたのは中庭のようなスペースだった。
天が開いていて空が円筒状の壁の上に見える。
その中央には、神の眼よりは小ぶりながらも、他では見たことのないほど巨大なレンズが地より空に近い場所で光を放っていた。
「凄い!ラグナ遺跡で見たやつと同じくらい大きいや!!」
「どう?これでなんとかなりそう?」
はしゃいで駆け寄るカイルの横でナナリーが辿り着けた安堵からか笑みを浮かべながら訊く。
トラッシュマウンテンからこちら、終始憂鬱そうな表情だったリアラはそのままで小さく頷いた。
「えぇ。それよりも…いるのでしょう?応えて、フォルトゥナ」
それからリアラが覚悟を決めたように毅然と声を上げるとレンズの前に白光が収束し、中空にローブをまとった女性が現れていた。
「よく来ましたね、我が聖女よ」
「な、なんだこいつ?」
女性は、慈愛の篭った声でリアラに向かって穏やかに呼びかける。
突然の出現に戸惑ったのはカイルたちの方で、彼女自身はそんな侵入者すら意にも介さぬというようだった。
「リアラ…今、フォルトゥナって言ったよね?」
信じがたいのかナナリーの声は微かに上ずっている。
「それじゃこれが…」
「フォルトゥナだ…現存する、神」
ジューダスの口ぶりだけは、僅かにでも知っているのか全く知らないのか微妙なものだった。
どうみてもその形は人間であるのに、穏やかな雰囲気をまとって空をただようその姿は、理屈ではなく確かに人知を超えた者のようにも感じさせる。
その本質が善い者であれそうでないものであれ。
「本物、なのか…本物の…神様…!」
「ここに来た理由はわかっています。私の力であなたの願いを叶えましょう。ですが、その前にひとつ」
リアラが求めたのは自分が使うためのレンズの力ではなく、フォルトゥナの力だったのだろうか。フォルトゥナはそう言ってから優しい表情を崩さず、だが
諭すような口調でリアラに問いかけた。
「聞いておかなければなりません」
「はい」
「エルレインは既に己がすべきことを見定めています。
そして、そのために動き多くの人々の信頼を得ています。」
いつになく真摯に、従順に彼女を見上げるリアラと、フォルトゥナから出た「エルレイン」という名前にカイルとロニの顔に訳がわからないと言った表情が
浮かんだ。
事の真相を見極めるべくジューダスの瞳が仮面の奥で細められる。
ナナリーはリアラが同じ時代に生まれた聖女、と言うことだけは知っていた。けれどそれを口止めされていた立場なので困惑したように彼女を見るしかな
かった。
そんな仲間をよそにリアラは道を探るようにフォルトゥナとの対話を続けている。
「それは…そうかもしれません。でも…」
「わかっています。あなたがエルレインとは異なる道を選んでいるということは。
2人の聖女、2つの道。それはあなたとエルレインに私が与えた運命です。」
だとしたら今現在の彼女自身はどちらにも賛同せずに力を振るうことは最低限に控えていると言うことだ。
全てを察しているかのようにフォルトゥナは笑みを絶やさずにやんわりと言い聞かせた。
「ですが、道は違えど想いは同じのはず。リアラ、私たちの目的ゆめゆめ忘れぬように」
「はい」
「ま、待ってよリアラ。2人の聖女だの、人々を導けだの。いったい、なんのこと!?」
「それは…」
フォルトゥナとの話が終わり、カイルの声に仲間たちへと注意の戻ったリアラはそのまま口ごもった。
代わるようにフォルトゥナが、むしろ客人にでも接するような穏やかさで何はばかることなくそれに応える。彼女にとっては全てが必然といったように。
「2人の聖女は私の代理者、人々を救いへと導く存在です」
「神の…代理!?」
求められるままに事実を伝え、与えた。
「人々の救いを求める想いが私を、そして2人の聖女を生み出したのです。
ひとりは、エルレイン。そしてもうひとりはそこにいる、リアラ。
2人は違う道を歩み、それぞれ人々の救いの姿を捜し求める旅に出たのです」
「じゃあ…じゃあよ!エルレインがやろうとしていることは…人々を救おうって事なのか!?」
「そんな…嘘だ!」
「嘘?」
ここへ来てようやく知らされた事実に、混乱する頭でロニが、カイルが叫ぶ。
まるで子供に語りかけるように、優しい微笑みで尋ね返すフォルトゥナ。
「だってあいつはウッドロウさんをバルバトスに襲わせたり、レンズを奪ったりしてたじゃないか!!」
「エルレインは結果としてそれが人々の救いに繋がると思ったのでしょう」
それは、当然、とばかりの口調だった。あるいは限りなく「力を提供する者」として公平で客観的なのかもしれない。
「そんなの…間違ってる!だって、現にウッドロウさんは傷ついてるじゃないか!」
「間違っている?…なぜ、そう思うのですか?」
その言葉に、初めて「わからない」と言う韻を踏む声。
ただしそれは答えを知るための疑問ではなくて「本当に理解できない」調子でしかない。
「アイグレッテを見たのでしょう?人々は安全で快適な街の中で幸福に暮らしています。」
「確かに、なんにもしらなければあれでも幸福かもしれないね。けどさ…親から子を奪うのが、幸福だってのかい?生きてるって実感をなくしちまってるの
に、本当に幸福なのかい?」
リアラに気遣ってかやりとりを黙って見守っていたナナリーがとうとう耐え切れないように前に出る。
彼女は、この10年間の世界を見てきている。
神団に帰依する生活とホープタウンの生活を天秤にかけた。
だから尚更、強く感じるものがあるのだろう。
フォルトゥナの問いとは違い、そうじゃないだろ、という気持ちは痛いほどに伝わった。肝心の、フォルトゥナには理解できない話であるが。
「そうだ!やっぱり間違ってる!エルレインもフォルトゥナもおかしいよ!リアラだってそう思うだろ!?」
カイルが不条理さを込めて訴える。
しかし、リアラはただ沈黙を返すだけ。
その様子にカイルの顔にも不安がよぎる。それでも、彼は退くことはしなかった。
「言ってやれよ!あんなのは全然幸せじゃないって!」
「……」
「…どうしちゃったんだよ、リアラ。何で黙ってるんだよ!」
「私だって…私だってエルレインは間違っていると思うわ!
でもエルレインには力がある!あの人のおかげで幸せだと感じている人たちもいる!
けど、私には何の力も無い!英雄だっていない!
誰ひとり幸せにしていないし、どうやれば幸せに出来るのかもわからないもの!!」
彼女の抱えていたものはここへ来て、爆発してしまった。
自分への自信の無さ、不安、そして焦り。
それだけで様々な負の感情が渦巻いて聞こえる。
フィリアの言った「仲間が必要」だと言う意味を、彼女は忘れていた。
「そんな…そんなことない!だってリアラは凄い力を…!」
「やめて!なにもわからないくせに、無責任なこと言わないでよ!」
「わからないって…俺は!」
「あなたには何もわからないわ!使命を負うことの重さも、本当の力がどんなものかも!」
「そんなことない!」
「わからないわ!!」
それらを実際背負って無くても、わかないはずはない。
いや、わからないからこそその人の立場に立って考えようとするものだ。
本当にそれができないのはリアラの方で…
はただ自分を貶めるリアラの言葉に不愉快な感情がじわりと湧き上がってくるのを感じていた。
だが、リアラにそれをとどめる術は無い。そして、それはとめども無く彼女自身の口からはっきりと放たれてしまった。
「だってカイルは…聖女でも…英雄でもないじゃない!!」
「…っ!」
同じ聖女であろうと理解できない者もいることすら忘れているリアラ。
自分の言ったことに耐えられず、絶句したカイルから目をそむけるようにリアラはフォルトゥナへと願った。
「…フォルトゥナ…私たちを10年前の時代に送って!」
「いいでしょう、お行きなさい。私の聖女よ。あなたに幸運があらんことを…」
すべてが終わった後、また会いましょう──
今まで見たどんな「奇跡」よりも強烈なレンズの光が視界一杯を覆い尽くした。
光に呑まれる瞬間、フォルトゥナの声を聞いた気がした。
あとがき**
書きながら気付いたのですが、フォルトゥナと遭遇した時、本当にリアラが聖女で何が何だかわからないのってカイルとロニだけなんですね。
ナナリーも知ってたんだから感じ方は全く違うのだろうなぁと思いつつ
