--OverTheWorld.31 救出作戦 -
ハロルドの宣言どおり揚陸艇は翌日の昼には完成されていた。
強襲着陸後はチームを二手に分けた上で、ベルクラント開発チームの救出と敵の撹乱にあたる。
その後は制御室を奪取してダイクロフトの機能を麻痺させ脱出する、というのが作戦の概要だ。
制御を奪うチームは当然にハロルドが。そして救出にはディムロス、イクティノス、カーレル、シャルティエが向かうことになった。
「おいおい…片道用って大丈夫なのかよ」
「でも帰りも使うことを想定すると、それを守る人間が必要になるんじゃない?」
「そう、少数精鋭で突入するこの作戦でこれ以上の兵力分散は愚考というものだからね」
作業場のはしごの下から揚陸艇を見上げて不安を零すロニに
が答えると、その後ろからカーレルがよくできましたとばかりに声を上げた。
こんな時でもやや笑みを浮かべているとは大物である。
ディムロスはといえば対照的に厳しい表情で、最終メンテが終わるのを見守っている。
「やれやれホント、ディムロスってば余裕ないみたいね」
少し離れてその様子をハロルドがそう批評する。
「えっでもディムロスさん、説明の時もすごく堂々としてたけど」
「いつもの言葉が出てないのよ。あいつは作戦前に部下に必ずこう言うのよ。「生きて返ってこい」って。でも今回は言わなかった。他人のことが目に入っ
てないなんてらしくないわ」
「あたしたちはそういうディムロスさん、見てないからいまいちわからないんだけどね」
小さく溜め息をつくベルセリオス兄妹。ほんとにか、と言うほど容姿、性格ともに双子には見えないのにこういうところは少し似て見える。
「まぁ無理も無い、か」
カーレルの言葉は、軍事行動状の不安、というよりも友人のそれに近い。
アトワイトはディムロスの恋人だ。だから私情の問題も大いに心配しているのだろう。確か、カーレルとディムロスは同僚であると同時に友人でもあったは
ずだから。
「さ、さっちゃちゃっと行ってちゃっちゃと助けてくるわよ〜」
反面ハロルドの切り換えはすばらしかった。
お世辞にも乗り心地が良いとは言いがたそうな狭い艇内に無理矢理全員を押し込んだ。
そして…
片道用である上にいかにも急ごしらえの地味な揚陸艇の飛びっぷりは、外見に反して派手だった。
あまりの突飛さゆえ悲鳴で満ち溢れた艦内からのレポートなどできる状態ではないので、詳細は割愛する。
外部から見ていたらまず、軌道の凄まじさに驚いたことだろう。
飛ぶと言うより打ち上がった揚陸艇は予想通りと言えば予想通り、まっすぐではなく回転しながら蛇行をしてダイクロフトの上空まで達すると…落ちた。
ダイクロフトからするとまさに「強襲」と言える。
落ちた揚陸艇はダイクロフトへの到着と共に半壊。片道を想定した造りは伊達ではない。
しかし、中の人間はとりあえず全員無事だったのが凄いところだ。
「イテテテ、もう、なんなんだよ、このマシン!飛び方も着陸もメチャクチャじゃないか!」
叫ぶ間のおかげで「あっという間」に辿り着いたダイクロフトで開口一番、カイルの本気の非難に対してハロルドもまた本気で反論の声をあげた。
「滅茶苦茶じゃないわよ!!ちゃ〜んと揺れ方も衝撃も計算して軌道を入力したもの」
「ちょっと待て。ってことはわざとこういうふうに飛んだのか?!
「このぐらいドッタンバッタンしないと飛んでるって感じがしないでしょ?」
「…」
そしてカイルが複雑な表情で沈黙すると、ご満悦な顔で1人頷くハロルド。
「うんうん、計算どおり格納庫に到着したわね」
「…ドッタンバッタンさせるのが計算なのか、それとも軌道を追尾させないようにすることが目的なのか微妙だよね」
「追尾?」
なんとなく節々が痛いような気分で
が溜め息を吐くとカイルはオウム返してくる。
「まっすぐ打ち上げたら拠点の場所がわかっちゃうでしょう?
そしたらベルクラントで狙い撃ちだよ。普段は視界が悪くて見えなくても、発射位置がわかれば常日頃小うるさいハエを一毛打尽にするチャンス。
私が天上人だったら即、射出座標を割り出して攻撃するね」
辺りを伺いながら会話に耳を傾けていたディムロスとカーレルの瞳が、同じような意味を宿して
に向けられた。それは少し驚きと感心。
そう、軌道をめちゃくちゃにしたのはおそらくお遊びのためだけではない。
あれだけ蛇行して挙句、上から落ちれば少なくとも発射元の位置は容易には割り出せないだろう。
もちろん、折りからの厚い雲も味方している。ひょっとしたら雲の中に散った様々な分子が空からの分析には邪魔になるようなこともあるのかもしれない。
いずれにしても地上軍の拠点の位置が発覚するような事態はそれだけで勝敗を喫するようなものなのだ。
「だからって…もうちょっと飛び方があるだろうが」
「ごもっとも」
「乗り心地に不満なら帰りに期待しなさい。なんてったって天上側の脱出用ポッドを拝借するんだからね〜ほら、これよ。覚えておいてね」
なるほど、あれもこれもきちんと整備されていそうな乗り物が、その巨大なパイプのうねる灰色の合板でできたエリアの道順に設置されていた。
なんとなく全員の視線がそちらへ向いたその時、無人と思われた暗い格納庫の奥(正確には入り口)にバタバタと迫る足音が響いてきた。
「地上軍の強襲揚陸艇だ!Cブロックのガーディアンを向かわせろ!一人たりとも生きて返すな!」
男の声が僅かに遠くに告げて、赤色ランプが点灯し目まぐるしく緊急事態を告げ始めた。
「まずいな、思ったよりも早く気づかれてしまった」
「何、いつかはみつかるんだ。それが少しばかり早まっただけのことさ。作戦開始だ。ハロルド、撹乱はまかせたぞ」
他の者は私に続け!と指揮をとりディムロスは入り口に向かって駆け出す。
姿が消えた向こうで人間の悲鳴が聞えた。
そして、遠ざかる足音。
どうやらうまく切り抜けたらしい。
「撹乱、かぁ。ひっかきまわすだけひっかきまわせっていうのは…任務としては楽しい方かな」
捕まらなければの話。
は顎に指を絡めてからなんとはなしに人差し指だけを唇に触れさせる。
「派手にやっていいからね。注意をこっちにひきつけるのよ」
「おいおい早速おいでなさったぜ!」
と、そちらは人間ではなく機械タイプのモンスターだった。
先ほど天上兵の言っていたガーディアンなのだろう。
それほど苦も無く連携で片付けるとハロルドは瞳をすがめてその残骸をじっとみつめた。
「よっしゃ!さっさと行こうぜ!」
「ちょい待ち!」
片づけ様に駆け出そうとする全員を一喝して止めたハロルド。何事かと振り返ると残骸から視線を上げて問うてきた。
「あんたたち、このモンスターと戦ったことがあるの?」
「え?うん、あるけど…それがどうしたの」
あっさり倒せたのは既に接触経験があったからだ。
波に乗った戦闘を見ていればそれは彼女にも分かったのだろう。
しかしそれ以上の速度で彼女は頭を回しているらしく次に投げられたのは意外と言えば意外な言葉だった。
「なるほど…つまりあんたたちと同じように未来から来たやつがいるってワケね」
「!?」
「どういうこと!?」
「このモンスター、私、見たことないもの」
その会話の切り口はどこかで聞いたことがある気がしないでもない。
ハロルドは結論を述べてから理由を付加して簡潔に述べた。
「こいつと似たようなのは今も存在してるけど、それよりも異常なまでに進化してるわ。人為的に操作されたのでなければつまり…これは誰かが未来から連
れてきたってこと」
当然のように戦ったその物体はこの時代には本来はいないはずのモンスターであるらしい。
ハロルドはすぐにその因果に気づいて再び問う。
「心当たり、ある?」
「ありもあり、大有りさ。エルレインってヤツの仕業だよ」
「おそらく、やつの手下が天上軍に入り込んで支援しているのだろうな」
やはり、というようにカイルたちもつじつまを合わせそう答えた。
「ふむふむ…つまり、あんたたちの目的は歴史修正ってわけね。そのエルレインってヤツが天上軍に肩入れしてこの戦争を勝たせようとしている」
つまり正史上では地上軍は勝つ。
ハロルドにもそれがわかったに違いない。けれどそれには触れようとしなかった。
少なくともハロルドは今、表面上「謎解き」に的を絞っているように見える。
無駄に楽しそうなので。
「で、それを阻止するためにあんたたちはこの時代に来た。と」
「えぇ、その通りよ。私たちはエルレインの歴史介入を防ぐためにここにきたの」
「歴史をいじるなんて、随分と面白そうなことやってるじゃない。そいつ神様気取りね」
さすがにいつまでもここに留まっている訳にはいかず、内部に向かう通路を踏み出しながらハロルドは足取りも軽く口調も軽い。
彼女にしてみれば、やや皮肉った感を込めた表現だったのだろう。けれど、冗談では済まされないその事実にリアラは表情を沈ませながら呟くように伝え
る。
「いえ、神の名を語ってるんじゃないわ。本当に神を光臨させてその力を使っているの」
「本物の神の力!?ってことはあんたたち、神様にケンカ売ってるわけ!?」
ハロルドの大きな瞳がことさら大きく見開かれる。その足もつい止まってもの凄い勢いで全員を振り返った。
「ま、まぁそうなるかな」
「フ…フフフ…っははははは!」
「ハロルド!?」
「面白くなってきたじゃない!神様とケンカなんて最高だわ!」
はばかりの無い喜びの声は通路に思い切り反響する。
当然、初めに通ったディムロスたちを探していたであろう兵士やガーディアンの耳に止まってばたばたと慌ただしい音がやにわに迫ってきた。
無論、そんなことにはおかまいなしなハロルド。
「相手が神であろうが悪魔であろうが、邪魔立てするなら斬るまでだ」
あまりの節操のない笑い声に、ちょっとどーでもよさそうにそう言ったジューダスの声にもひるまない。
「よーし!私の頭脳が神をも凌駕すること、証明して見せるわっ」
俄然張り切って杖を振り上げるその先には
「地上軍の進入者め!生きて帰れると思うな!!」
と言った瞬間に晶術でぶっとばされた天上軍兵士の姿があった。
「お前な…真面目に戦えば強ぇーんじゃないか…」
* * *
護衛と言っても、囮になっている間はハロルドも調子に乗って戦っている。
ここへ来て早々に発覚した「神と喧嘩」の構図に俄然やる気が出たらしい。思えばこの時、この発言に彼女が後々現代まで着いてくる暗示が込められていた
のかもしれない。
なぜって、歴史を修正しただけではこの喧嘩は終わるはずもないのだから。
「無事か、ハロルド。欠員は出てないか」
「御覧の通り、全員無事よ」
沈黙した他に人気の無い通路。とある部屋の前で突破の作業中らしい。
ハロルドが事もなさそうに言うと珍しく感心したようにディムロスは一同を見渡し精悍な笑みを浮かべた。
「ほぅ、初めての実戦にしてはよくがんばっているな」
「そっちこそ、平気なの?」
「見ての通りだ。だが扉にロックがかかっていてな。これから破壊をするところだ」
「やれやれ、こんなところで手間取っているとはね。扉の向こうにみんないるんでしょ」
破壊、と言うことはロックの解除を諦めたところに違いない。
先に行ったはずなのに、追いついてしまった時間だけ手間取っていたことを察してハロルドは呆れた溜め息を吐いた。
「さっさと助けて帰るわよ」
「むちゃをいうなハロルド。扉のロックはおそらく最上機密の…」
ハロルドの手元でピッピッとパネルへタッチする音が軽快に響き、電磁ロックがジジッとぶれるような音を立ててはずれたことが振動とともに伝わる。
「何か言った?兄貴」
「お前の妹に常識は通用しないらしいな、カーレル」
振り返ったハロルドに溜め息と苦笑が向けられたのは言うまでもない。
その前で扉がスライドし、ディムロスは再び表情を引き締めて中へと早足に歩を運ぶ。
元々ディムロスにしろカーレルにしろ長身なので早足と言うよりそれが普通なのかもしれない。
ディムロスは部屋の中をさっと視線だけで確認すると同時に敬礼し、声高に告げた。
「地上軍ユンカース隊所属ディムロス=ティンバー中将。ただいま、お迎えに上がりました!」
「ディムロス…!中将閣下…」
「おおディムロス、よくきてくれたな」
「クレメンテ殿、よくぞご無事で」
倉庫のような飾りも家具も無い蒼いのっぺりしたプレートの壁のその部屋には、同じデザインの服を着た研究員と思しき数名と老骨の男性、それから長い髪
の女性がいた。
ただでさえ男の多い中、白をベースとした大きな帽子に服、そしてその容貌は嫌が応にも目を引く。
彼女がアトワイト=エックス大佐であることは誰もが理解できた。
クレメンテは老骨とはいえ、まだまだ現役と言った風情がある。体格も背筋が伸びてがっしりとした感じで、強力な晶術を主力としていたソーディアンのク
レメンテからは少し想像ができない精悍さだ。
「こんなところでくたばるわけにもいかんて。老兵は死なずじゃ」
その口調と声だけは確かに聞き覚えがあった。
ディムロスは僅かに安堵の表情でアトワイトとクレメンテの無事を確認すると、研究者──ベルクラント開発チームの面々に再びびしりと軍人らしい口調に
変えて告げる。
「地上軍総司令リトラーの命により参上しました。我々はあなた方を歓迎します」
「ベルクラント開発陣を代表して礼を言う。私はラディッツだ。ありがとう、ディムロス君」
臆すること無く進み出た壮年の男はチームを指揮するリーダーなのだろう。
差し伸べられた手をディムロスがしっかり握り返すと、広い部屋の思い思いの場所にいた研究者たちがおもむろに集まってきてラディッツと名乗った研究者
の周りに揃った。
「急ぐぞ、ディムロス中将。ここにもじきに追っ手が来る」
「うむ、わかった」
「これより格納庫を目指して敵中を強行突破します。我々から決して離れないで下さい」
紹介はほどほどに、今度は脱出へ向けて動き出す。非戦闘要員である研究員たちの顔にも並々ならぬ緊張感が走る。
先行チームにとってはここが折り返しだ。
しかし、ハロルドたちのチームにはまだやるべきことが残されていた。
廊下に出て、見送る形で横に並ぶ撹乱チーム。
「当初の予定通り制御室をのっとってダイクロフトの機能を一時的に停止させてくれ」
「まかせときなさいって!」
「制御室を落とされたとわかった時点で敵の注意は全てそちらに向く。十分気をつけるんだ」
ハロルドからするとちょっと過保護的な発言に聞えたのか、あっさり流して逆にハロルドは撤退を促した。
「わかってるってば。それより急ぎなさいな」
「カイル君!ハロルドのことよろしく頼むぞ。格納庫で待っている!」
とこれはカーレルではなくディムロスだ。
散々、子供扱いしていた彼が自分たちに向けて「頼む」といった発言に対してカイルたちは一瞬目を丸くして、駆け去った彼らの後ろ姿を見送った。
「ちっとは認められたってところかな」
「あぁそうだね!」
小さな信頼を得たことでロニやナナリーも嬉しそうだ。
けれどのんびりはしていられない。
「私たちは、ここからが本場よ。
さすがに地上軍の精鋭でも非戦闘要員の研究チームを引き連れての強行突破は危険だからね。囲まれる前に制御室までいかないと…!」
「遠いのか」
「すぐそこよ」
そんなことをいわれると途端に拍子抜けする気もするが、ハロルドはかまわず先導して走り出す。
「全機能を停止できるほどの制御装置がそんな近くにあるの?」
「いい質問ね。無いわ」
通路を駆け抜けながら
が聞いてみるとあっさりとおかしな返事が返ってくる。
ここはダイクロフトの中でも外郭にあたる部位だ。
全機能を掌握する中央制御装置など、あるわけがない。あるとすれば「神の眼」と同様の価値でそれこそ奥の奥に配置されるであろう。普通に考えてこんな
近くにあるはずはない。
なぜそんなことを聞いたのかもわからないようなカイルとロニの顔がそれを聞いて疑問半分不安半分になると同時に、一瞬複雑な表情を浮かべた
がぽつりと可能性を呟いてみる。
考えながらと言ったふうに。
「…ハッキング…?」
「見てのお楽しみよ!」
そんな言葉自体知らないであろうカイルたちからは疑問符が浮かぶばかり。
すぐに通路の奥、ホールのように大きく口を開いた部屋に踏み入ると、扉がしまり振動が襲った。
「おわっ」
それはささいなものであったが、予期していない動きに思わず動揺の声が漏れる。
「軌道エレベータか」
30人はゆうに入りそうな空間が上昇を開始していた。ジューダスがその正体を言い当ててから間もなく、途端に明るくなって視界が開ける。
「うわっ…凄い…」
「空が見られるなんて滅多にない経験ねぇ」
見えるのはダイクロフトを形成する地表と蒼空。それも高度が高いために密度が妙に高い色。
地表もぐんぐん遠くなってやがて雲海が遠くに見え始めた。
空を見ることが当然であったカイルたちにとってもその空の近さは感銘だ。
感銘を受ける余裕もある、ともとれる。
一枚ガラスを等間隔に支える鉄柱ごしのストライプの影をいくつか通り過ぎるとチン、というチープな音が目的の階への到着を告げた。
エレベータの到着音は異世界共通なのか、とどうでもいいことに気づいてみる。
そこから目的の場所は本当に「すぐそこ」だった。
「おい、侵入者が現れたらしいぞ。地上軍のヤツらが妙なマシンで乗り込んできたって話だ」
「なーにオレたちは持ち場を守ってりゃいいのさ。まさかここに攻めてくるわけないしな」
「はい、そのまさかv」
不用心に開け放たれていたドアの両端で中の様子をうかがい、配置されている人間の力量が知れる発言に踏み入って背後から剣を突き付ければあっけないほ
ど占拠は完了だった。
ひぃっと情けない声を出した直後、天上軍の制服をまとった男はジューダスの手刀によりお休みの時間となる。
もう1人もそのままにしておくと鬱陶しいので気絶させて部屋の端にくくりつけておくことにした。
改めてみると物々しい制御室。
まるで竜の牙のようなするどい突起状の装飾が部屋の両脇を囲っている。
部屋はうす暗がりで天上付近の壁には蛍光色の文字が、モニターを走るように黒い光の帯の上を流れている。
システム管理ための部屋と言うよりも、資料やプロジャクタの映像が占拠するような細かい情報が雑多と散らばった感じだ。それでいて部屋を形作る装丁は
ごつごつと、どこか自然のものを模したようであるのだから独特である。
奥にメインコンピュータらしきモニターが青い光を発しているが、それはまるで自然石の結晶柱に挟まれて護られるような光景だった。
見回すカイルたちをよそにハロルドはモニターの下へと走る。
その端末の上方には巨大な球体のレンズ。
あれもここの動力のひとつなのだろう。
「しかし、ダイクロフトの制御を奪うなんてことが本当にできるのか?」
「私の辞書に、不可能の文字はないわ!」
どこかで聞いたセリフを吐きながらせわしなく視線を操作パネルに巡らせるハロルド。
「ここをいじりはじめたらすぐに警備が飛んでくるはずよ。いい?5分間だけ時間を稼いで。それだけあればメインコンピュータをハッキングできるわ」
やはりここは末端の部屋の一つであるらしい。
ハロルドはネットワークへ侵入してメインのシステムを遠隔操作するつもりだ。
もちろんその間にはいくつもの目には見えない防御壁があるのだろうが天才様にはそれも通用しない模様だった。
その言葉自体を理解できるはずも無いカイルは何か聞こうと口を開きかけるが、それも騒がしい気配に断念させられた。
「5分ね!任せなよ」
護衛となれば自分たちの仕事。ナナリーは気合いを入れて部屋の外へ出る。
すぐ近くにもうガードロボットが迫っている。
「5分っていっても結構長いよね」
「待てといわれる分にはな」
妙なところで短気な意見を述べている
とジューダス。
しかし、敵は迫っているのでやることはあるしあっという間であろう。欲を言えばあまり波状攻撃はかけないで欲しい。
などと言うのが甘かった。
「うっわこれ…やばくないか?」
調子にのってバンバン倒してわらわら現れたガーディアンを前に渋い顔をするロニ。
ガーディアンは倒せば倒すほど群がって現れる。お互い応援用のシグナルでも発しているのだろう。
使い捨ての資源を糸目なく投入されると言うのは厄介なものだ。
ここがもっと狭い通路や部屋の入り口なら倒さないで目の前にいる機体だけを「壁」にしておけばいいのだが、一度外に出てしまったためにそうもいかな
かった。
その後ろでハロルド。
「ふんふふーん〜ふんふん♪」
「のん気に鼻歌なんて歌ってる場合じゃないってば!!」
「…ていうか先に隔壁なり扉なりロックしてくれたらそれで時間稼ぎには十分だけどね…」
「早く言えーーー!!!」
指摘されると無駄に労力を使っているようでどっと疲れに襲われる。罪の無い呟きが非難の標的にされて
は少々顔を顰める。
その後、増援派遣は止まっても、ここに残ったもの凄い数の敵を倒さなければ脱出できない事には変わりない。
あっという間どころか5秒が果てしなく長く感じるようになってしまった。
「リアラ…スプラッシュ連発できる?」
「え?えぇ…それならすぐに」
「じゃあちょっとここから先を水浸しにしてくれないかな」
また何か始めようとしている。
とリアラの会話を小耳に挟んだジューダスは、その予感に密かに嘆息を漏らした。
敵が現れる方向は同じなので先ほど来たエレベータを背中に回す形で後衛に位置してリアラは詠晶を始めている。
カイル、ロニと並んでとにかく怒涛のように貯まり出した敵を退けていたジューダスは、ふいに呼ばれて目の前にいたガーディアンを双剣で切り上げつつ
バックステップを踏んで振り返った。
「何だ!」
「ちょっと来て」
動きを止めたところを見計らってマントを思い切りひっぱる
。
バランスを崩してそのまま無理矢理後退させられ非難のために口を開きかけたジューダスを前に、
「シャル貸して」
なぜか笑顔の
。
カイルもロニもナナリーも前方でそれどころではない。
訝しむように眉を寄せると
は小さなディスクを取り出した。
ソーディアンに装着して使うための機能拡張のディスクである。
用途や効果はつけるディスクによって異なり…
「何のディスクだ」
「サンダーソード」
それを聞いて何をしようとしているのかはわかった。
スプラッシュで水浸しにしておいて漏電させる気だろう。
しかし、あからさまにシャルティエを使うことははばかられる。それは正体を知られた今でも同じ気持ちだ。
ジューダスは渋い顔のまま躊躇した。
その隙をついて
の手が背中に伸びる。
「大丈夫だよ、後ろにはリアラしかいない。別に振りかざそうってわけじゃないから…私がやるよ」
許可を下さないせいか
はジューダスの背中かは降ろそうとせずにそのまま「彼」を覆う布の一部を解いてディスクを装着させたらしい。
触れられた直後に反射的に拒否を示したものの黙っているとすぐに落ち着いた。背後をいじられて妙な気分だったが今はシャルティエに手を添えていること
だけがわかる。
「シャル、力、貸してね」
『まかせて』
小さくささやくように返事が戻る。久々の出番にやる気は十分のようだ。
すぐに晶力の高まりが
の手の内に感じられた。
はじめに晶術を使い出したのはアイグレッテ。
それから随分と晶力の引き出し方にコツを得たようである。
「雷帝よ、迅く来たれ…」
晶術を使うには詠唱が必要だ。それは決まったフレーズであることもあれば晶術を放つ時に身の内から湧くものでもある。
上級になるほど時間を要するが、ソーディアンはそれを至極短縮して直感的にマスターに晶術を使用させることができる。
ソーディアンを使用しない場合は詠唱者の純粋な手腕が物を言う。
のそれは早からず遅からず成就した。
「サンダーソード!!」
ズドン!と短い音がして直線状にいかずちが帯を描く。
その名のとおり剣を振り下ろされたような雷撃は辺りの水を巻き上げて瞬間的に凄まじいスパークを散らした。
突然の爆音に驚いたカイルとロニの悲鳴を巻き込んで。
閃光に眼を庇った腕を下ろすと、そこには鉄屑と化したガーディアンたちの姿があった。
「な、何…したんだい…?」
「何って水流に電撃をお見舞いした」
大量の水に急激な電流付加。
まぁ大抵の機械にしてみればこうなるのは自明の理でもある。
「電撃って…そんな晶術、あったっけ?」
なぜかさっと視線を明後日へ向けるジューダスとにこやかに笑って誤魔化す
。
リアラも詠唱に集中していたため一部始終は見ていなかったようだ。大きな瞳を何があったのかというようにぱちくりとさせている。
もう正体も判明しているのでシャルティエを使ったことはばれても大した事ではないが、彼らが気づかない限り隠し続けるジューダスの路線を尊重すること
にする。
タイミングのいいことにハロルドの方も終わったようだ。
「何したのよ、あんたたち」
振り返ったら誰もいなかったので出てきた彼女はその凄惨な状況を呆れたように眺めやった。
