--OverTheWorld.33 プロジェクト始動 -
さて、 が何かの分厚いマニュアルらしき書類を片手に「いってらっしゃい」とかいいつつ仲間たちを送り出してから1週間後。
寒風が珍しく吹きやんだその中、ジューダスたちは帰還した。
今回も例によって「行って帰ってくるだけ」だったのでそれほど難航していない。
むしろ大きな動きがあったのはラディスロウ内のようだった。
「ハロルド博士!!」
彼らの帰還をききつけ、駆けつけたのはグリーンの縁取りをした白衣の研究員だった。
その衣服と、剣を模した小さな胸章には見覚えがある。ベルクラント開発チームの着けていたものだ。
帰還をねぎらう挨拶もほどほどに待ちわびていたように研究員は用件のみを告げた。
「適応結果、4日前に出てますよ。オールグリーンです」
「そう!?ってことはいよいよね。すぐに行くわ」
よっしゃ!と言わんばかりに嬉々としてハロルドは研究員について行こうとして…思い出したようにくるりと振り返った。
「あんたたち、持ってきたものを作業場の責任者に渡してくれる?そしたらしばらく自由にしてていいわ」
今しがた間で雪中行軍で体力を費やしていたにもかかわらずあのパワーはどこから来るのか。声はフェードアウトしながら遠ざかっていく。
その慌しさについ、見送ってしまった一同。
「…ねぇ、 てどこにいるのかな」
「さぁ」
「それを届けたら探してみればいいだろ」
どうせお声がかかるまでは暇はありあまっている。
なかなかいいご身分である。
ため息をつきながらジューダスは使いをさっさとかたづけるために、再び今来た道へ踵を返した。
--OverTheWorld.33 プロジェクト始動 -
今回の仕事はハロルドの工兵隊としての締めくくりであったらしい。
そう、彼女はこれからソーディアンの作成に向けプロジェクトを進めなければならない。
工兵隊の部隊長(今までその仕事をしていたのかは謎だが)としての仕事を全て手放して、併行していた研究に全力投球するためにこちらを先にかたずけて
おきたかったのだとか。
…どう見ても自分の好きな材料も物色して持ち帰っていたようにしか見えない一面もあった。
ハロルドのリュックに直行された品の行方について語りながら再びラディスロウに帰ってきたカイルたち。
「みんな、おかえり!」
食堂の前を通りすがると探していた
の方から彼らの姿を見つけて声をかけてきた。
長らく離れることが無かったせいか妙に久しぶりと言うか違和感もある一方お互い無事であったことに胸をなで下ろす。
の笑顔は、おそらくそれまでにしていた心配の裏返しであるのだろう。いつもより明るい。
しかしそれも束の間だった。
ひとしきり挨拶を交わして今後の話を切り出した。
「それで…これからどうするの?」
「どうするって?」
「今日の予定とか、今後の予定」
どう違うのだろうか。一瞬微妙なニュアンスの違いにカイルは首をひねったが、それについてはジューダスが答えてくれる。
「今後についてはハロルドの指示待ちだ。今日の予定は…後は特に決まってないな。」
「そう、じゃあ…」
言いかけてから
は少し悩んだようだった。
言いよどんだ隙をぬってナナリーが笑顔で聞いた。
「
は?どうしてたんだい。良かったら話し聞かせとくれよ。」
言ってからすかさず「あ、それとも用事の途中かい?」と状況を気遣う。そして長いツインテールを左右に揺らして周りの様子を伺った。
彼女が出てきたのは食堂で、辺りに人気は多い。
残って「手伝い」をしていると聞いていたので他に連れがいないかとでも思ったのだろう。
「私は大丈夫だけど…出掛けで疲れてない?」
「平気平気!こいつら体力だけがとりえだからな」
「それはお前のことだろう」
揃ってタフな反応だった。気を抜けばどっと疲れるところだろうがそれも今はしていられない。
それでもなぜかどうしようかといった雰囲気が
にはあったが、すぐに決めたように一同の顔を見渡した。
「ハロルドは?」
「さっき研究服来た人に連れられていっちゃったよ」
「そっか…じゃ、着いてきてくれる? 」
「?うん」
一瞬妙に神妙な顔をしたように見えて、なんとなく疑問符を浮かべつつ後に歩き出すカイルたち。
向かった先はこの間まで倉庫として使われていたはずのエリアだった。
地上軍に身を寄せるものならフリーパスで、解放されたスペースは難民が休んだり子供たちがよく遊んでいたはずだが、行く手はなぜか何時もに比べて静け
さに沈んでいる。
地上軍の新兵と思しき兵士がつきあたりの扉の脇を陣取ってちらりと視線を流した。
けれどすでに
とは顔見知りなのか何も言わなかった。
シュン、と軽い音を立ててスライド式のドアが開いた。
「これって…!」
リアラが息を呑むように両手で口を覆う。
その部屋は広くも無かったが、りんご箱やら毛布やらが粗雑に置かれていたはずの床にはおそらくこの地上軍でありったけだろう細いケーブルがのた打ち回
り、事務的に配置された飾り気の無いテーブルの上にはファイルが雑然と置かれている。
いくつかの端末と、その周りを多いつくそうといわんばかりに溢れる粗末な用紙の山。
それらを片手に、見覚えのある研究服を着た者たちの何人かが入り口の方を振り返った。
「ベルクラント開発チーム、か?」
「君たちは…あの時、救出作戦に来てくれた子達だね。どうかしたのかい?」
すっかり「事務室」と化した部屋を前にジューダスが記憶と目の前の面子を照合させると、そう気さくに声をかけてきたのは他でもない主任のラディッツ
だった。
突然の来訪者に驚くことも無くそう口を開いたが、彼には訪問の理由を尋ねる義務もあるからなのだとジューダスたちは知る由も無い。
それに応じたのは
だった。
「とりあえず何も話してないので連れてきたんですが…ハロルドはまだ顔を出してないですか?」
「いや、来たよ。私室のラボに戻った。話をするならそちらのほうがいいんじゃないかな」
「…そうですね」
人の目も多いし、皆忙しそうだ。訪問者を確認すると再びせわしなく動き始めたその姿を横目に
は頷いた。
「ねぇ、今のひょっとして
が「手伝ってた」ってとこ?」
「うーん、それもあるんだけど…手伝ってたのはどっちかっていうとイクティノスとかシャルティエの雑事で…とにかくハロルドの部屋に行ってからまとめ
て話す」
仕事の一端と、聞き覚えのある名前にカイルたちの興味が釘付けになる。
なんとなくいやな予感を覚え始めていたジューダスもやや驚いたように顔を向けた。
その意味はカイルたちとは違うのだろうが。背中で小さく驚きの声が上がったのは聞こえなかったことにする。
とりとめもなく今度はその「雑事」を話しながらあっというまにハロルドの私室兼ラボにたどり着いた。
「ハロルド、いるー?」
「いるわよー…って何よ、皆、揃って」
先ほど解散したばかりの面子に思わず拍子の抜けたような顔で振り返るハロルド。
初めて入る部屋だ。どちらかというとそれぞれにあてがわれている部屋に比べたらはるかに広いだろう。
その半分から手前が研究用のスペースなのか、機械や模型、わけのわからない部品が雑多とおかれている。
ドラゴンをかたちどったミニチュアからフラスコに試験管、物々しいエンジンらしきものまで丸々置いてあるわけのわからなさだった。
その向こうが私用スペースなのか…ベッドの上に脱ぎ捨てられた少女趣味な服やら本やらが小物が散乱して見事にモザイク的な部屋模様を描き出している。
あまり男としては見たくない光景かもしれない。
それはさておき。
「皆揃ったから話しておこうかと思って」
「あぁ、そうね。」
なんとなく通じ合っている2人。いつからこうなのか、非常に疑問を感じるやりとりだった。
同時に再び言い知れない胸騒ぎに駆られるジューダス。
そもそもこの1週間、ラディスロウに残った彼女の動向は自分たちには一向にわからない。その事実が不安をあおっているのかもしれない。
なんとか不安の原因をつきつめようとしてもそれは徒労に終わった。
「あのね新型レンズリアクターの被験者を
にやってもらうことになったから」
部屋の奥に招きいれ、思い思いの場所に座らせるとハロルドは、不ぞろいのカップに落としたコーヒーを入れてそう言った。
聞きなれない言葉に仲間内のいくつかの瞳が大きく瞬かれた。
その動きを止めたままようやく口だけを開く。
「新型レンズ…何?」
「ユニット、って言ったらわかるかしら」
「!」
その言葉に即座に反応を示したのはジューダスだけだった。
それは史実上ではベルクラント開発チームのもたらした技術とされる。
高密度の結晶体で文字通りレンズの高レベル集積物質だ。
それからできるものがこの時代における近い将来、更に「コアクリスタル」と名前を変えるのである。
ハロルドはカイルたちの様子を自分の問いに対してはのきなみ答えが「NO」であると察して続けた。
「あんたたちも知ってるんでしょ?これからソーディアンができるんだってこと。
そのコアクリスタルの元になる物質よ。ソーディアンマスターとしてチームとして組まれる候補者はいまのところ6人。だけどいきなり作成!ってわけには
いかないのよね〜まずは実証データをとらないと。…だから、そのサンプル」
ソーディアン、と言う言葉に凍りつく一同。
あまりにもあっさり発言で「何を言われたのかわからない」様子であるともいえる。
眉をしかめる者ただ疑問符を浮かべる者、瞳を瞬かせる者と反応は様々だが、幸いカップはまだ誰も口元まで運んでいなかったので無駄に噴出されるといっ
た惨劇は免れていた。
「サンプルって…」
かろうじて復唱するナナリー。
ハロルドの放つ言葉は抽象的でやはり理解しかねる。となれば聞いてみるしかない。
「言うなればソーディアン第一号よ」
ぶっつけ本番で失敗したらしゃれにならない。
とばかりにハロルドはさらりと言い除ける。もちろん失敗する気などさらさらない様子でもある。
「そ、そそソーディアンてハロルド…」
ようやく意味がわかったのか舌をもつれさせながらカイル。
ソーディアンが1本余計にできる。
今の言い方ではそういうことになる。
カイルの中ではそこまで思考は飛躍して無いかもしれないが。
声を荒げたのはいち早くその可能性にたどり着いたジューダスだった。
「何を考えている!そんなことできるわけないだろう!」
「どうしてよ。可能だから作ろうっていってんじゃない」
「ッ!そういうことじゃない!!」
無論、歴史が歪むからである。
史実に残るべきソーディアンは6本。
それ以外のものが残るなど…「残す」などすべきことではない。
ハロルドがそんなことを知る由は無いのだから首をかしげるのも無理は無い。それでもジューダスはそう言わずにはいられなかった。
ハロルドではなく
に向かって顔を向けるともう一度、確かめるように繰り返す。
「忘れたのか、史実ではソーディアンは6本しか存在しない」
「知ってる。でも成功した暁には未来に「持ち帰れ」ば問題ないし、私は史実なんてどうでもいい」
「な…」
「それに史実に影響与えるほどのことでもないよ」
前身であるにしてもソーディアンを作ることが影響を与えないなどと言うことがあるのだろうか。
理解しがたく、ロニやナナリーも口を開けたまま言葉すら見当たらない様子だ。
は小さく肩をすくめるとやはり小さく溜息をついた。
「史実は大局的なものの見方に基づくものであって、多分「それ」は本来的には通って正解の道のはず。実験にはいずれ誰かがデータを提供しなければなら
ないんだから」
確かに実際、試作品なんてあってもおかしくない。
けれど歴史書では触れられてもいない。
それと同じことであると言う見解だ。
「どうしてお前である必要がある」
「私である必要はないわけだけど…」
歴史はともかくとして、カイルであったら…いや、おそらくそうでないとしても今このタイミングでなかったら誰もが一度は諸手を挙げて喜ぶ事態であろ
う。
自分のソーディアンができるなどまさに夢。
しかしそんなことを浮かれて発言する雰囲気でないことは誰の目にも明らかだった。
もそういうつもりで手を挙げたのでないことはわかる。
だからこそ言われてしまえば
の言い分も一理あり、そうなると今度は、それでも険しい表情で咎めようとしているジューダスの側にも回れない。
口を挟むこともできず困り果てているとハロルドが大げさに溜息をついて張り詰めた空気をいつもの口調で塗り替えた。
「ソーディアン、って言ってもプロトタイプ──試作品よ。
の言うとおり私は資質さえあれば誰でもかまわないわ。でも資質のある人間が少ないのも事実ね」
「あ」
リアラがふと思いついたように声を上げた。
「保管所に出発する前に言ってた実験台、って…」
「そうよ。だから言ったじゃない。あんたが第一候補」
ハロルドの視線は他でもないジューダスに流れる。
とっさにジューダスはその意味を悟った。
「あんたはすでにソーディアンマスターとしての資質が実証されてる。限りある時間内でソーディアンの完成度を高めるためにはそれなりの人材を使った
データが必要なのよ。誰でもいいけど誰でもなれるものじゃないところがポイントかしら」
にはシャルティエの声が聞こえている。
ソーディアンを用いた晶術を使用している実績も有る。
確かに適性と言う点では少なからず証明されているようなものだ。
適性未知数の人間からランダムに選んで検査検査の繰り返しより、彼女を採用するのは遥かに利があることだろう。
ハロルド的に言わせると「手間が省ける」、とも言う。
「もちろん
にも適用検査を受けてもらったわ。本人の同意も含めて全部パスしちゃったんだから誰から見ても候補者としては申し分ないわけよ。もうラディッツも承諾し
てるしね」
「…」
「それに部下がソーディアンもってたら何かと便利そうじゃない」
「それが本音かよ」
必要以上に語尾のイントネーションをつり上げたハロルドの浮かれた声に、つい呆れた本音を呟いたロニ。
すると自分はこきつかわれるのか…?とやや遠慮してみたくなる
。
ホントのホントはそういう意図でないことを願いたい。
試作品、と聞いて「なんだそれなら」となんとなくとりまく雰囲気が綻んだ…というより一瞬にして砕けた感じもしたがジューダスだけはその言葉には騙さ
れなかった。
いや、むしろ試作であるなら別の問題も生じてくるその事実。
「お前は知らないのか?試作段階では廃人も出ているんだぞ。」
その言葉に顔をこわばらせたのは他の仲間たちだった。
それは大衆的な伝承ではあまり語られることのないエピソードだ。
英雄譚は美しく壮大であればいい。
だが、記録はそれが暗い記憶であろうともありのままに残される。
ジューダスは伝承ではないその記述をかつて目にしていた。
ソーディアンも量産が計画されていたことがある。
おそらく先ほどの「6人の候補」という発言を鑑みるにユニットがもたらされる以前のことだろう。
だが、その多くは失敗だった。
ある者は人格投射に失敗し、ある者は投射後人格崩壊を起こし。
適応できたとしてもそれは後の世に呼ばれる「ソーディアン」と言える代物ではなく、多少戦闘能力の高い兵器を扱っていたと言う程度のものだ。
無論、開発が一朝一夕にできるはずはない。
ハロルドは長らくそちらにも携わっていたことだろう。
そして、世紀の発明の前には多大な労力と犠牲。
それらが着実なデータとして積み重なり、後にようやくソーディアンの形をとったのが…
ベルクラント開発チームが加わり、戦況が大詰めに来たとき───
つまりは今、初めて世に言う「ソーディアン作成プロジェクト」として表舞台に浮上したと言うだけのことだ。
さらに完成したはずの、文字通り天と地を覆すほどの兵器。
それもまた完全ではなかった。
「確かにね。でも初めから完璧に、簡単に出来るものなんて大したものにはなんないわよ」
ハロルドはここに至るまでの経緯としてジューダスの発言を否定をしなかった。
事の重大さを悟ったのか、この部屋へ来たときよりも不安そうな顔でカイルたちは
とハロルド、そしてジューダスの間を視線を往復させている。
ジューダスはそのどちらにとりあうこともなく
を見据えて、話を止める様子は無い。
知っているのかどうかはわからないが彼女はその可能性を理解している。ジューダスはその静かな瞳からそう判断した。
最後に残る問題は。
「僕らの時代のソーディアンとマスターの関係とは違うんだ」
『そうだよ。うまくいったとしても、全力で戦える内はいいけど…力を発揮できる場所がないと大変なことになるよ』
遂にシャルティエも不安そうな声を上げた。
彼自身は「成功後」の姿で、廃人になるという可能性については、ジューダスほど危機感を抱いていない。
ユニットがもたらされた今、着実にプロジェクトは完遂に向かっているのだから。
けれど、彼の今のマスターが言うもうひとつの問題については譲れない結末を迎えたのも確かだった。
それはソーディアンが凍結された理由。
終戦直後、オリジナルのマスターたちはことごとく精神に異常を来たし始め、結果、ソーディアンは封印された。
これは史上でもそれなりに語られていることだ。
波長が合う別人、ではなく「自分自身」が強力な力を抱えたまま2人いるということになる。
同じ空間に存在する自己の多重人格、それによる相互的な過干渉。
普通に考えて気が狂わない方がおかしい。
「ちょっとストーーっプ!!!」
シャルティエが心配そうに囁く声が聞こえたらしく、いきなりハロルドが割って入ってきた。
文字通り視界をさえぎられる唐突さにさすがにジューダスも一瞬呆気にとられてつい今しがた間で仮面の下で鋭く細められていた瞳を一度だけ大きく瞬く。
「そういう論争はよそでやりなさい。私の前で言わないで!!!」
本気で憤慨している。
握った拳がいましも振り上げられそうだった。
「まぁ…確かに今の話を進めたらハロルドがソーディアンの出来栄えを悟ってつまらないことになるよねぇ?」
「そうよ。やる気無くすわ。完璧じゃないの?それってどういうことよ!」
自問自答。
今の時点ではむしろ課題発見で逆にやる気になったようだが。
自分の発言自体がうかつであったことを察してジューダスは閉口した。
「大丈夫だよ。あくまでデータ採取用の試作品だからね」
その隙をついて
は再度繰り返す。
だとてそれくらいのことは考えていただろう。
ひとしきり言わんとすることは伝わっている。
そうジューダスは悟るが、リスクを回避できる可能性と行動に踏み切る根拠は彼女の中ではおそらく別だ。
それが大きな危惧でもあった。
今度は続く言葉を待つことにすると答えたのはハロルドだった。
「研究自体はもう最終段階だからあとは結果をごろうじろう、ってとこよ。それに表向き人格は投射しない形で、ってことにしてあるし」
「人格を投射しない?」
「それってソーディアン、っていうのか?」
だからデータ用だって言ってんでしょうが。
という返事が鏡に跳ね返されたように返され、ようやく会話に加わろうとした仲間たちを再び大人しい沈黙に陥れた。
「使い手とソーディアンの相互干渉が難関なんてことはわかりきっているのよ。それはマスター候補…あ、ディムロスたちのことね。の、それぞれのパーソ
ナリティで検証しないとなんともいえないから…今回は二の次よ。
の希望もいれた形だけど」
「
の?」
「私だって人格崩壊なんて起こすのはごめんだよ。
さっきジューダスの言ったことが一番危険だし、未来へ持ち帰った後のことも考えてできるだけ干渉しない形を考えたらそうなった」
「でもだったらやっぱり
じゃなくても…」
ようやく会話に参加するようにリアラが少し困ったように言う。
歴史書でも英雄物語でもない現実に直面してしまえば手放しには喜べない。
言うなれば人柱なのだから。
ソーディアンプロトタイプなどといえば聞こえはいいが「実験台」であることに変わりはないのだ。
は小さく溜息をついて仕方がないというように彼女に聞き返した。
「リアラ、力なき正義は無力、って言葉知ってる?」
「え…?」
「正義なんてどこにあるんだかわからないけどね…相手は「神様」でしょ。だから少しでも力はあった方がいい」
「…」
誰もが彼女を無力だ、などと思ったことはおそらくない。
それでも危険と引き換えにしてもそれを必要としていることは明白だった。
ここから先は、たとえハロルドに銃を直してもらったとしても太刀打ちなどできないだろう。
剣は使えるがあくまで「剣」として、だけ。
にとっては決め手にかけるのだ。
適応できる人材を探しているハロルド、先へ進むための手段を求める
。
利害の一致先がたまたまソーディアンの実験だったと言うだけだ。
「大丈夫。仮に人格があったとしてもきっと、私が手放すようなことがあってもその剣がなつくような人はそうそういない。故に悪用されることはない」
「何に自信をもっとるんだ、お前は」
「あはは、わっかりやすいわねぇ」
波長が合うだけでなく、ディムロスがスタンを、クレメンテがフィリアを選んだように「剣が使い手を選ぶ」なら多分、彼女の人格を投射された剣は他の人
間から見てただの剣で終わるだろう。
…本音を言えばリオンのような人間がいたら使わせるかもしれないけれど。
いずれにしても、そうそうはいまい。
「大丈夫よ、シミュレーションも綿密に行われるわ。どの道、投射実験は複数行う予定なのよ。その内のひとつがたまたま
だっていうことに何か問題が?」
「わかった…仕方ないな…しかし確認しておきたいことがある」
「何よ」
「先ほど「表向き」人格は投射しない、といったろう。結局は反映されるということじゃないのか?」
「それって、しゃべらないだけで実は同じ、ってこと!?」
「それじゃ、やっぱり危険なんじゃ…」
「あのねぇ…あんたたち、私を何だと思ってるのよ!」
今度こそこぶしを振り上げ、度重なる愚弄発言にカイルとロニの間に突撃したハロルド。
2人のごめんなさーい、という声が情けなく散らかった部屋の天井に反響した。
「ふざけている場合か。ハロルドの実験云々以前に、技術としての危険性だぞ」
「あんたもかなり失礼ね」
振り上げられた拳を宙に止めて、眉をひそめて首だけで振り返る。
ハロルドはまったく釈然としない様子で大きく息をついた。
「まかせておきなさい。伊達に天才科学者と呼ばれてないんだから。その結果は…あんたたちが一番良く知ってるんでしょう?」
「…」
いまさらながらハロルドという人を知ってしまったからこそ不安になるとは死んでも言ってはいけないと自重する。発言の頼もしさとあいまって複雑な空気
があたりを席巻している。
「でも実験とか言われると、ほんとに実験体みたいで微妙だよね」
「…そういう意味じゃない」
何のことはない
の口調に答えるジューダスの声には、諦めのような韻があった。
プロジェクトは動き始めている。
おそらく…もう、止めようとしても遅いのだ。
「史実通り」である以上、断固、止めなければならない理由もなくなってしまった。
「危険だから」は踏みとどまる理由にならないことを知っている。
こうなると、やはり目の届かない場所になど置くべきではないと今更思いつつも受諾するしかなかった。
