深夜、ラディスロウに眠りの檻が訪れ静けさが訪れる。
「遠い未来で会うこともあるかもしれないな。
機会があったら伝えておいてくれ。その時はよろしく頼むと」
ディムロスは、離れた部屋にいる未来の仲間に向かって、そう呟きを落とした───
「…ところでディムロスさんは何でオレたちが未来から来たって気づいたんだろ?」
「気づいた、って言うか…教えたんだろ?」
カイルの最もな疑問にそう言ったロニの視線はハロルド=ベルセリオスへと注がれる。
つられるようにカイル、リアラ、ナナリー、そしてジューダスと
の視線も同じ場所に集った。
「私?教えてないわよ」
それが一波乱の幕開けだった。
--Interval.シャルティエ─想いのきざはし
その開けっぴろげな解答に、総員「え?」となった視線の次の行く先は
。
はしばらくラディスロウに待機して別行動をしていたし、その間に個人的に接触する機会が多かったという点ではまぁ順当だ。
だが、当然に彼女は否定した。
「「…」」
じゃあ誰が?と複雑な顔を見合わせながら首をひねるロニたちはさて置き、唐突に思い当たる節があったのか意味深げな沈黙を落としはじめたのが約2名。
僕は妙にどぎまぎながらその様子を気配だけでひしひしと感じていた。
「…シャル」
『は、はひっ』
首をひねりながらもとりあえず時間移動は人気の無い場所で行おうとラディスロウの通路を外へ向かうカイルたちの後方で少し遅れながら坊ちゃんが呼ぶ。
僕は素知らぬ振りをすればいいのについ、動揺しておかしな返事をしてしまった。
1000年生きて気づく事実。
どうやら僕は隠し事には向いてないらしい。
ともかくそれで、坊ちゃんと、同じようにわざと歩を遅らせていた
は「ディムロスに真相を教えた犯人」をつきとめてしまったようだ。
「…」
沈黙が痛い。
「シャルが話したの?」
いっそ何か言って欲しいと針の筵にいる心地の僕を救い上げてくれたのは
だった。
「まさか。ずっと僕と居たろう、一体いつ話したというんだ」
犯人として断定しながらもその素振りがなかったことに疑わしげな坊ちゃん。
それはそうでしょうとも。
これを皮切りにしてうやむやにしてみようとしたけれど、
の素晴らしい推察力によりそれはかなわなかった。
「レンズは共鳴できるくらいなんだから本来、ソーディアン同士は通信機能があるとか」
『う…』
「しかし、そんな素振りを見せたことはないぞ。18年前にしても」
「オリジナルと揃った時にできる芸当っぽくない?」
「そうよ!そもそもレンズは精神を増幅させてエネルギーとして取り出せる鉱物なんだから、正しい使い方としては…」
『あぁ!はいはい僕がばらしました!ごめんなさい!』
「「…」」
突然の前方からの乱入者に一も二もなく謝るとさすがの坊ちゃんからも呆れた溜め息しか返ってこない。
当のソーディアン製作者は見様によっては開き直りともとれる僕の発言につまらなそうな顔をした。
何がやりたいんだ一体。
「ソーディアンの仕様はともかく…余計なことをしてくれたな」
『すみません、つい…』
「でも、無理も無いよね。ただでさえだんまりなのに、昔の仲間が目の前にいたらっていうのは…
ほら、ジューダスだってこれから18年前に行ってスタンたちに会うようなことがあったら…一言くらい話したくなる気持ちはわかるでしょう?」
「わからん。むしろ何を話せと言うんだ、今更」
明らかに、考えることを放棄した答えを即答する坊ちゃんはジューダスと言うよりリオン坊ちゃんの口調である、などとどうでもいいことを感じてみる。
そういうものだったんだろうか。
一方で僕は
の言葉に自分を掘り下げてみる。
ソーディアンが完成して、ディムロスたちの気配を感じられるようになったら少しでも坊ちゃんたちに不利なことがないように話そうと思っただけだ。
けど、そう言われればソーディアンディムロスとのひそひそ話は楽しくなかった訳ではない。
久方ぶりにソーディアンとして遠慮無く話すということ以上に、
彼の中将殿を驚かせるという意味にしても。
良く考えたら、優位に物を進めることも、僕の方が余裕であることも、
…それから、仲間として同等に話すことすらもこの時代では為し得なかった偉業だ。
それもタメ口で。
「で、何を話したの?」
これはハロルド博士だった。
僕は…彼女とカーレル軍師だけは昔のまま呼ぶクセがぬけない。騒乱の時代に会うことがなかったせいだろう。
彼らとの想い出は生身の自分の記憶と共にある。
お世辞にもこの頃の僕は───
いや、止めておこう。
なんだか、ディムロスと接触したら昔のことをよく思い出すようになってしまった。
『何って…ディムロスも言ってたじゃないか。ただ未来から来た、ってことだけだよ』
「ふーん?」
「ディムロス、何て言ってた?」
『特にこれとは…驚いてたけど、意外にあっさり認めたね。あ、それから』
「?」
『未来で会うこともあるかもしれない、機会があったらその時はよろしくと伝えてくれって』
それは予感、なのだろうか。
少なくとも言えるのは僕自身、多分にそういったものを抱えているということだった。
彼らとは未来でもう一度会う。
坊ちゃんと
は見方によっては既に「会っている」とも言える。
けれどそういうことではなくて…
これから向かう先、
18年前の神の眼の前。
ミクトランの王座の間。
それは、僕にとっても因縁のある場所…
オリジナルメンバーとしても、
ソーディアンシャルティエとしても。
そこで、何かが起きる気がしてならない。
僕は、もしも彼らに会ったら一体何を言うんだろうか。
「よろしくって言われてもねぇ…」
「まぁカイルたちがソーディアンをどうこうするわけではないからな」
「あ、じゃあ僕が言われたんですかね?」
「「まさか」」
珍しく坊ちゃんとハロルド博士がハモったが、
だけは驚いたように一瞬瞳を大きく開いた。
それがすぐにどこか哀しそうになった気がして…
『?
?』
「…………何でもない…」
は、一度は止めすらした足を再びラディスロウの外へと向けた。
「まぁとにかくこの時代とはもうこれきりだ。話してしまったものは仕方あるまい」
『そうそう済んだことをあれこれ言っても駄目ですよぅ』
「…お前のことだ#」
前にカイルたちがいるだけに大声をだすわけにも振り返るわけにも行かず、静かに斜めに睨む気配だけが伝わってくる。
カイルたちは外へと抜ける扉の前で待っていたためそれが僕と坊ちゃんが交わしたこの時代で最後の言葉となった。
扉が開くと涼冷な風が舞う雪と共に吹き込んでくる。
冷たい風に頬を撫でられ坊ちゃんは空を見上げた。
灰色の空。
僕の生きた、天地戦争時代の空。
この時代に本当の意味での春が来る前に僕たちはここを去る。
嫌になるほど見上げたはずの、この空ももう見納めかと思うと無性に名残惜しい気がした。
