--OverTheWorld.50 訪れる再会 -
「さぁ!イクシフォスラーを改造するわよ〜!」
なぜか戻ってみると意気揚々のハロルド。
イクシフォスラーを孤児院の裏庭に移して工具を振り上げていた。
「…何事だ?」
「神のたまごが出たら突入できるようにするんだってよ」
「飛行高度を上げるのかな?」
「備えあればロケットランチャー。
改造が終わるまでには、ちょっと時間がかかるからま、適当に時間潰しててよ」
「「「…」」」
誰もが違う、と思いながらも久方ぶりにあの独特な音程の歌を披露しながら去って行く才色兼備天才様の後ろ姿を見送ってしまった。
「時間を潰せと言われても…」
「そういや、ハロルドの計算ではそれが出るまで中2日って言ってたぜ」
「結構長いね。…ってことはそれまで自由行動か…」
だから自由行動といわれても。
ここまで来て、出鼻をくじかれそうな猶予の長さではある。
ジューダスはそちらはさておき尋ねた。
「カイルは戻ってきたのか」
「あぁ、さっきな」
「どうなんだ?」
「んん〜今一つってとこかなぁ、大分整理がついてきたみたいだけど…まだ悩んでる」
「大丈夫だよ。迷ってるっていうより悩んでるんでしょ?だったらもうすぐ答えが出せるよ」
「出なくても、猶予はないからな」
なんだかんだいっても本人の居ないところでは心配している気色のジューダスをロニは感心するように眺めやった。
その様子に気づいたジューダス。
「何だ」
「いや、お前も変わったな〜と」
「僕は変わってない」
「どっちもありだけど…多分、ロニが慣れただけだよね」
「…」
更に微妙な物言いに複雑そうな顔で沈黙するジューダス。それではまるで、難解な人間ではないか(まったくもってそのとおりだ)。
「じゃあ私、その辺ふらふらしてくるから」
「ふらふらってあのな」
「ロニは何か予定あるの?」
話を振られると呆れた表情から笑顔になってロニは孤児院の方を見た。
「俺は久々にルーティさんでも手伝うことにする。チビどもともまだロクに話してないしな」
「あ、あたしも中 見せてもらっていいかい?ホープタウンの子供たちにも何か出来ること無いかな、と思ってさ」
ナナリーは似たような境遇の子どもが多いせいか孤児院に興味津々といった様子。それでも取って付けたようにそういって予定を決める。
夕刻にはロニと同じく夕食の手伝いでもしているだろうと目に見えるようだった。
リアラも中に戻っているようだ。
窓の向こうにたどたどしく家事を手伝う姿が目に飛び込んでくる。
「それとも…私も手伝った方がいい?」
「絶対止めろ」
そういうジューダスの言葉はおそらく、ルーティとの遭遇を先送りにしているだけに過ぎない。
それともここに居る間中、見張っているつもりなのだろうか。
などとも思ったが幸い彼も1人ででかけていった。
いくら馴染んでも年中一緒に居る訳ではないのだ。
むしろお互い1人の時間が必要な人間だろう。
そして…つらつらとクレスタを一周して
が戻ってくる頃には、すっかり日が暮れていた。
ジューダスの姿は孤児院の中にあり、とても居辛そうなところを見るとカイルやロニに引っ張り込まれた可能性が大だろう。
ルーティも一緒なのに気づいてないところがちょっと笑える、などと暖かそうな灯かりの方を観察しているとカイルが窓越しに気づいて外に出てきた。
「
、どこ行ってたんだよもう〜」
「…どうしようかな、とは思ってたんだけどさ」
そもそも、さすがに1人じゃ入りづらいこともあってふと立ち止まったのが余計な観察を始めたきっかけでもあった。
「大丈夫だよ。オレ、もう1人仲間が居るって言っちゃったし」
皆がどうしようかさりげなく悩んでいる最中の母と子の会話。
その失言の様子が目に浮かんでしょうがない。
「…ジューダスの反応は」
「うーん、その話が出ると気まずそ〜にしてるけど、とりあえず1人だけ戻らないと母さんも気にするし」
開き直っているな。
にとっては都合がいい。
さて、ルーティがどんな反応を示すだろうと、感動の再会というよりは悪戯心がもたげるように
はほくそ笑んだ。
夕げの香り漂う孤児院は、夕闇の中にあっても暖かそうだ。
人工的な灯火ではなく炎の色であるせいもあるかもしれない。
カイルは明け放たれた扉をくぐって、開口一番。
「母さん、
が帰ってきたよ!」
ぶはっ!
仲間の内の何人かが、食前のお茶を吹き零しそうになった。
ロニはもちろん、手後れなまでにむせこんでテーブルの片隅にある布巾を手をうろつかせて捜していた。
やってくれたよ、この人は。
既に他の仲間が食堂に揃って久しいせいか、彼は紹介した気にでもなっていたのだろうか。
それとも、他に言いようがないからか…「仲間が帰ってきたよ」とか「さっき話した人が帰ってきたよ」とかいう表現は確かに彼らにとって不自然ではあ
る。
ともあれお待ちかねの夕食を前にしてテンションが無駄に上がっているのは間違いなさそうだ。
ぼろぼろと問題の原因が生まれ出ずる傍ら、
はやや呆れた。
これにはジューダスもさすがに同じ様子だった。
そして丁度、奥から大皿を運んでいたルーティ…
「は?」
と言って顔を上げ、そこで更に
の姿を見て凍り付く。
カイルもさすがに自分の言ったことに気づいたのか「あっ」と小さく声を漏らして仲間たちの気まずそうな視線を一身に浴びていた。
「…」
「ル、ルーティさん、これは…!」
どんなフォローをするつもりだロニ=デュナミス。
と思ったところで、彼は言葉に詰まっただけだった。
実はカイルが外に出たのを見て、緊急案として「とりあえずそっくりさんな偽名案」が彼らの中で最終手段として出来上がっていたばかりであった。
「えーと、その…」
口篭もるロニをよそにルーティの視線が泳ぐ。
迷っている。
は思った。
「こんばんは。お邪魔します」
「えっ?えぇ…いらっしゃい」
が言うとルーティは彼女を、自分の知っている人間と良く似ている誰か、と判断したようだった。
いるはずがない。
そう思い込むように。
「さ、中に入って?話はカイルから聞いてるわ。散らかってるとこだけど…今日はゆっくりしていってね」
呆気に取られたのがジューダスたちだった。
の態度が予想外であったこともとにかく、散々懸念していた事態がそれだけで済んでしまったのだから。
だが、普通の人間はそんなものだ。
18年経ってそのままの姿で見知った人間が現れるなど…有り得ない。
まして、いるはずのない人間が。
そして、違うのだと判断する。
それはお互いに寂しいことであるけれど、それが現実と言うものだ。
──無論、
がそんな現実で終わるとは思っていない訳だが。
「さ、今日はあんたの好物、マーボカレーよ。ロニも好きだったでしょ」
「え?えぇ、ルーティさんの手料理久し振りだし…頂きます!」
が大人しく食卓につくと何事も無かったかのように食事が始まる。
子供たちはもう食べ終わったのか姿が無く2階で騒いでいる気配がする。客人は食堂の一角を占拠して、久々の家庭料理に匙を進めた。
その間に出るのは、他愛も無い話だ。
これだけ人数が多いと必ずしも全員同じ話ではなく誰が誰と話しているのかわからないこともあるが、そんな中、時折ルーティの視線が流れてくるのも
は感じていた。
「マーボカレーってさ、一遍食べてみたかったんだよね」
「…何度か野営で出なかったか?」
「きちんと家で食べるのじゃ全然違うでしょ」
出るのは主にカイルが主当番の時だから、味も見た目も大分違う。
「───料理の腕、上がったよね」
「…………」
ぽつり、と呟くとジューダスからは微妙〜な沈黙が流れてくる。
確信犯だ。
ジューダスはふっと落とされた笑みを見て察した。
彼がちらりとルーティを見ると、先ほどまでロニとカイルと談笑していたはずのルーティは「え」という顔をして、何事もなさそうに麦茶の入ったカップを
傾ける
をみつめている。
それでますますジューダスの表情は小難しくなった。
「美味しい!私もこんなふうに作れたらな」
「大丈夫よ、何度も作っていると自然と上手くなるものよ」
「野営より多少落ち着いた場所の方ができるようになるかもね」
家事など縁の無いリアラが女の子よろしく言うとルーティは励ますように言って、同意するナナリーとの声の合間に
がやはり呟くように挿し込んだ。
会話に進んで参加する、というよりもこの独特の間合いが何とも…
無論これは「レンズハンターとして旅するより戦い終わって孤児院で上げたスキルだろう」くらいに訳すといいものと思われる。
一度はリアラに向かって気を取り直したルーティ。
それで再び何かひっかかりを覚えることになる。
その横でジューダス。さもやめろとばかりに諌める小声に加えて肘が出た。
そんなこんなで今度は自分に注視の視線が注がれているとは気づかずに。
「あなた…」
──人間と言うのは不思議なもので、相手を忘れていても話している内に誰だか思い出すことがある。
つまり、記憶の誰かと目の前の人間を無意識に照合させているわけであるが、この場合はそんなはずないという思い込みがもしかしたらという疑問に変わ
り、一度抱かれた疑問は確信に向かってあら捜しを始めるきっかけになっていたようだった。
とうとう
ではなく自分に向けられたルーティの声にジューダスは小さくうめくようにして彼女の方を見た。
「ジューダス、って言ったわね。どこかで…会った事無い?」
「いや、気のせいだろう」
ジューダス、正体を偽りたいなら敬語にするとか話し言葉を変えるとかいう努力は必要だと思うな。
「そうですよ、ルーティさん!こんな変な仮面被った奴、会ったらそうそう忘れるわけないでしょう!?」
ロニは彼の意思を尊重してフォローだか何だか微妙な発言で乾いた笑い声で弁解する。
どうもウソや隠し事に向かないパーティだ。
の発言を発端に今やあからさまに怪しい空気が食堂を席捲していた。
そんな中、ハロルドは興味深そうに成り行きを観察し、
は黙々と食事を進めている。
バレるのは時間の問題だよ────────(滝汗)
誰もが、そんな先行きを予感して止まなかった。
* * *
この季節は夜になると涼やかな風が吹く。
少し、肌寒い気もするが目を覚ましてくれるような爽やかさで頬を撫でる。
結局はうやむやのまま団欒は終わってしまった。
過去のルーティなら容赦なく彼らの追求したに違いない。しかしそれをしなかったのは「もしかしたら」でも十分なほどに大人になったということ言うとこ
ろか。
子供たちを寝かせつけ、束の間、喧騒から解放されたルーティは庭のベンチに腰かけて空を見上げていた。
「今日も色々なことがあったわね…」
こどもたちが多いと言うだけで毎日が喧騒だ。
それこそ、色々なことが起こる。けれど今日は…それに輪をかけて大変なことを聞いてしまった気がする。それに加えてあの2人。
「…」
1人なら、やはり「そうであるはずがない」と思っただろう。
けれど2人揃われてしまっては…今度は信じようとする気持ちが疑いを上回ってしまう。
しかし、話していればそうと思ったこともこうして1人静かに考え直すとやはり違うのではないかと思う。
正直、何だかわからない。
しかし、不思議と気分は満ち足りてはいた。
ほうほうと遠くから夜鳥の鳴く声がする。
庭に灯かりはない。少し離れた街中も今の時間はひっそりと静まり返っている。
家から漏れる光は暖かく──…ふと、左手を向いたルーティは、そこに彼女の姿を見つけた。
白い衣に腰から下げたロングソード。
見覚えはないが立派な剣だ。
マントはしていないのにつけているところを見ると大事なものなのだろう。
それから、確かに見覚えのあるその顔。
闇の中に、窓越しの柔らかな光に照らし出され見えるその頬にルーティは18年の年月を溯ったような錯覚を受ける。
ほんの一瞬だけであるが。
何を話したらよいかわからない彼女の元に、
はやってきて緩やかに苦笑しながら名前を呼んだ。
「ルーティ」
「
…なの?」
「そうだよ」
「…ウソよ、あの子は、あの洞窟で…」
「死んだね。リオンも一緒」
折りからの薄闇が拍車をかけ、曖昧さを増す。
普段見慣れている場所が全く違う場所にも見えるから不思議なものだ。光の中で見えていたものが、見えなくなるからには違いないが…
彼女の姿はまるで、闇の中でしか見えないもののようにも思える。
例えば、それは幻だとか記憶だとか…
ルーティにとっては長らくスタンがそれだった。
しかし、皮肉にもリオンと言うもうひとつの失われた名前に、ルーティははじかれたように現実を思い出す。
「そう…そうよ、どうして?あのジューダスって子…」
「まぁ、色々あってさ」
は隣に腰を下ろす。彼女の姿が自分と同じく18年と言う歳月を伝えていたなら、喜んでここに在ることを認めたろう。
けれど残念ながら、記憶にあるままの変わらない姿にそれは出来なかった。
タイミングを逃してしまって色々、などと言われればそこに止むに止まれぬ事情を感じてしまう。
しかし…
「でも、ここにいるよ」
そう言ってくれたから、ルーティはそれだけで事実を受け入れることができた。
僅かに熱くなった目頭を抑えるようにした手の下で笑う。
それを見て
は前方の闇に視線を向けた。
懐かしい気配を隣に感じながら…
