夢。
現。
幻
現実
幻燈のように揺れる、
記憶。
Interval - 記憶 -
夢を見る。
見知らぬ出来事。よく知る世界。
なぜか妙にリアリティな夢のくせに目がさめると、そこにいたはずの人間の顔すらはっきりと覚えていない。
リオンはどこか物思いに沈んだまま、ベッドの上でぼんやりとしていた。
単に寝起きなので頭が醒めきっていないのかとも思われるが、そういったことはあまり…少なくとも、ついこの間まではなかったことだ。
寝起きが悪いなど。
「寝覚めが悪い…」
ぽつりと呟く。
寝起きと寝覚めとは微妙にニュアンスが違う。
単に寝起きが悪いのは、客観的に見てもぼんやりしているといった感があるが寝覚めが悪いというのは主観的な問題だ。
『何か悪い夢でも見たんですか』
「シャル」
マスターの声を聞きとめてシャルティエが気遣いように控えめな声を上げる。
彼が人の姿をとっていたら少し首を傾げたような姿が見られただろう。
「いや…」
ちらりとベッドサイドに立てかけたソーディアンに視線を流してからリオンは首を振った。
悪夢と言うわけでもない。
良い、悪いといったらついこの間までの方がよほど悪夢を見ていたというものだ。
そう、あの海底洞窟に行くまでは。
むしろ、最近は…マシになった方だろう。
現実にある悪夢のような出来事は終わっていないのだとも思いつつも、どこかはるかに楽観的で。
空には災厄が浮かび、こんなに緊急時であるはずなのにおそらくは、以前より睡眠の環境としては快適だ。
しかし、悪夢が減る代わりにその夢を見ることが増えた。
妙にリアリティのある…
けれど目がさめると忘れている、夢。
夢なんてそんなものなのかもしれない。
回数的に見てもほんの片手で数えるほどだ。
けれど一方で夢から醒めないような、まだその続きであるような曖昧さを覚える。
誰かと、旅をしている
夢。
* * *
『それが最近夢を見るんだって…』
「夢?」
「ただの夢だ」
「いいじゃない。どうせ海路の旅は長いんだから話してよ」
城を出て、海路をベルナルドで北上する中。
促されるままに、話し出す。ぽつり、ぽつりと。
は黙って少し首を傾げるようにして耳を傾けている。
何が楽しいのかほんの少しだけ口元を緩めながら。
「僕は旅をしている。
いや、僕じゃないのかもしれないな。よくあるだろう?別の誰かになっているような夢も」
『うーん、僕はあまり夢は見ない方だったんで何とも言えないですが…』
「毎日カラーで見るけど、確かに自分を外から見てることもあるよね」
…毎日。
それもまた見すぎなのではないかと関係のないところで感想を抱いてみるリオンとシャルティエ。
彼女は夢を頻繁に見るようだ。
それが楽しいものなのか、はたまた苦しいものなのかは彼女の顔からは推察できない。
「でもリオンなんでしょう?」
「おそらくな。ただ…黒衣を纏って仮面をつけている」
「…」
少し驚いたように
は目を丸くしたが、すぐに現実に戻ったようにふっと小さく噴出した。
「仮面って…」
「笑うな。夢の中の話だ」
むろん、
はそれで真顔になったりはしなかった。
けれど、笑みはからかっているような軽薄なものでもなかった。
「どんな仮面?」
むしろふと、思い当たったように聞いてきたときには興味深そうな顔をしていた。
「…マスカレードで使うような仮面とは違うな。竜の頭骨を模したようなものだ」
「…ますますおかしいよそれ」
と笑うものの、
はその正体を知っている。
だがそれとリオンの夢を照合させることは別の問題だ。
再び口元を歪めようとした
にうるさい、とリオンが顔を顰めるとシャルティエが聞いた。
『それで…一緒にいる仲間らしい人、わからないんですか?』
「さぁ、会ったこともない人間ばかりだ。顔はよく覚えてないが…少なくとも僕の記憶にはない」
『夢で見るだけですかぁ』
「妙に兄貴風をふかす男と、馬鹿丸だしの男がいた」
「スタンみたいだね」
「それから…」
テーブルの上を遠くなぞっていたリオンの視線がふいに上がって
を見据える。
ほんの一瞬だ。
何を考えているのか、一度は何か言いかけたもののリオンは小さくかぶりをふって溜息をついた。
「やめよう、夢の話だ」
「見るのが嫌な夢なの?」
「いや…そういうわけでもない。だから、このままでもいい」
まんざらでもないのか。
おそらく釈然としないのが嫌なのだろう。
「その内、見なくなるか、どうして見るのか解るようになるかどちらかだろ」
興味のないのを装ってリオンはそう、話をやめた。
『夢といえば──…』
そうしてシャルティエが話し出すとりとめもない話…昔の話だとか、ソーディアンになっても器用に見ているらしい夢の話に耳を傾けるのだった。
「それから…人形みたいな女の子に、ワイルドな女の人。あとは、世紀の天才科学者様、か」
『え、何?』
「なんでもない」
雨が降り続くベルナルドから見える外海。
暗い空。
けれど嵐の前のように静かな風。
外を見ながらぽつりと呟いた の声は、とりとめもなく語り続けるソーディアンとマスターの耳には届いていないようだった。
