聞いてしまったら、退くに退けない
聞かれてしまったら、行くに行けない
--ACT.10 天上攻略
の、体ではなく、おそらくは別のものに刻まれた記憶によるものよりもずっと滑らかにラディスロウは空を抜ける。
まだ薄い外殻から漏れる光は、雲を透過して地上に降りそそいでいた。
少し傾きかけた淡い光が無数の「天使の梯子」を描く中、共に飛び立った白い鳥たちに送られるように上昇する巨大な船体は外から見たなら優美にさえ見え たろう。
だがその実、かなりの速度で浮上をしたラディスロウはまもなくして荒れた天空の大地に降り立った。
ハッチから一歩出れば、目前には荒地が広がっている。
出来たての外郭はただ薄く、互いをつなぎとめるのがようやくで、編み目のようになっていた。
とはいえ歩いていくには十分な広さだ。
遠くから眺めると世界はまるで二重構造になっているようだった。
「ここが天上…」
「1000年前、外郭は作られなかった。ディムロスたちにとっても初めてみる光景でしょう?」
『あぁ、たった一度の砲撃でこれほどの規模のものができてしまうとはな…』
『それに外郭の底には核がついておった。あんなものも見たことも聞いたこともないぞ』
どこか陰としたディムロスに続いてクレメンテ。
リオンと
も見上げたその時に気づいてはいた。
ラピスラズリにも似た鈍い青色の鉱石がまるで地上を監視する瞳のように外郭の底から見下ろしているのを。
あれは、天上の環境をより早く進化させるためにつけられた核だ。
地上のエネルギーを奪い取って代わりに空の大地を芽吹かせる。
外郭が完成すれば、空が閉ざされたことではなく礎となるために生気を搾取され、弱い者から死んでいくだろう。
本当に恐ろしいのは外郭の閉ざされた後にじわじわとやってくる滅びの気配なのかもしれない。
「そんなこと言ったってダイクロフトは堕ちないんだからさくさく進みましょ!」
深く取り沙汰せずにルーティはすぐ近くにそびえている建物へ向かって歩いていく。
外郭は平坦なのでどこに行くかは探すまでもなくみつかった。
そのずっと向こうにかすんでみえるのも都市群のひとつだろう。
…天地戦争時代に空に浮かんでいたのはダイクロフトだけだった。
天上人のいなくなったこの時代で、各方位に散らばる都市群がフル稼働するなどというのは皮肉な話だ。
イグナシーはほど近く、無人の天上都市はあっけないほど何事もなく彼らを迎え入れた。
「…本当に、誰もいないのね…」
無人特有の、沈黙の音がする。
たとえばそれは遠くから響く風の音だったり、自らの動く音の残響といったものだ。
「今、この天上にいるのは僕たちとヒューゴ、それからイレーヌ、バルックとレンブラントだけだな」
故意か、それとも敵として認識するものだけを挙げたのかこの天上のどこかにいるはずのマリアンの名前はリオンの口からは出なかった。
「なんだかそう考えると鬱葱とするよね。…この広い天上世界にたったそれだけなんて」
「でもそれならダイクロフトまで行けばいいだけだろ?」
「天上の警備システムも復旧しているはずだ。無人だからと言って敵がいないわけじゃない。気を抜くな」
人ではないものがいるのだと、リオンは暗に告げていた。
けれどイグナシーまではまだ整備の手が回らないのか静かなものである。
そうすると、思わずフィリアが学者の一面を見せるのだった。
「凄いですわ…ずっと海の底だったのに、全く劣化していないなんて…」
都市はそのまま機能していた。
廃墟特有の廃れた感じは微塵もない。
むしろ腐食もなく、まるで何年も前からそこにあったかのように堅牢な姿は入り口から大分歩いても変わらなかった。
「ゲートが使えそうなのは幸いだな」
「あぁ、リトラー殿の話ではダイクロフトは地続きにはなっていないようだから…」
ウッドロウが一番あとから背中を守るようについてくる。
彼の持つイクティノスは神の眼のオーバーロードの余波を食らって沈黙したままだ。となると、剣も使えるが彼の得手は弓であるから自然、後衛を務めるよ うになった。
それはリオンや
がいない間にくせになったことらしい。
…大きな体で背後に立たれるのは正直、苦手だ。
なんとなく慣れない気配を背中に感じつつ1時間も歩いただろうか。
うっかりすると迷路のような広大な建物の中を歩きながら彼等はようやく目的の場所にたどり着いた。
その部屋は、そのためだけに造られている。
ゆえに広くはない。
だが天井が異様に高く、開放感のある正方形の部屋の中央にひし形を描くようにして4枚のプレートが配置されていた。
その更に真ん中をオレンジ色のガラス片のようなものが巨石が砕け散ったかのように散乱して埋めていた。
『こ、これは…!』
それを認めた瞬間、ディムロスのひきつったような声が脳裏に響いた。
「どうしたんだよ、ディムロス」
彼の一言だけで現状を察したのがリオンと
。
表情がくもる。
『ゲートが破壊されている』
「えっ?ゲートってそっちに立ってるやつじゃないの?」
『あれは行き先を決める装置みたいなものよ。ゲート自体はこの真ん中にあって、この壊れているのが転送装置なのよ…』
アトワイトの声にフィリアとルーティの表情が曇り、リオンが小さく舌打ちした。
「ヒューゴのヤツが破壊したな」
「じ、じゃあ他のゲートを探して…!」
『残念ながら直通しているものはこれ一本だ』
「経由してはいけないの?」
「ダイクロフトには各都市への直通のゲートしかない。経由という言葉自体無意味だな」
「だから他の都市へいったん行って、そこから飛ぶって言うのは…」
リオンはダイクロフトに幾分か明るい。
ヒューゴの最後の計画を知る数少ない人間の1人だったのだから当然でもある。
スタンの当たり前とも言える発言に彼は表情を険しくしただけだった。
「お前がヒューゴだったらここのゲートだけ壊してあとは放置しておくか?僕だったら全て破壊するな」
「あ…」
予想されてしかるべきことだった。
ヒューゴの方が一枚上手だったということだ。それならば…
「ゲートが駄目なら他の方法を考えればいいでしょう?」
「だがどうやって…」
だから考えろとゆーに。
ウッドロウの復唱に小さなため息をついて
はその方法を示した。
「ミックハイルに浮遊クルーザーがあるはず。あれなら元々天上所属のものだし小型艇だからダイクロフトに侵入できるかもね」
『そうか…ベルクラントの発射口から入ればあるいは…』
「はっ、発射口!!?」
『上から乗り込めばまちがいなく迎撃される。気づかれないように入るにはそこしかない』
「…」
なんだか凄いことになってきた。
発射口から入ると言うことはつまり気づかれなくてもヒューゴがきまぐれに一発ベルクラントを打ったら大変なことになるだろう。
…メンテナンス要員用の緊急防護壁などがあればいいのだがなどと今から余計な心配をしてしまう。
「いずれ方法はないんだ。行くしかないだろう」
「じゃ、決まりね。えーと…ミックハイル、だっけ?」
「…」
「……
?」
「ちょっと待って」
ルーティの問いかけに返事が無いので疑問の声が飛ぶと
は何か考え込んでいるようだった。
先の情報を整理する。
それから、知っていることがおかしいと抵触しないように言葉を選ぶ。
「確か、サイズ的にラディスロウはすぐにみつかるから駄目だって言ったけど…それをクリアすればそんなにすんなり入れるもの?」
「どういう意味ですか?」
そもそもラディスロウがダイクロフトから離れた場所に停止するしかなかったのもガードシステムを警戒してのことだ。
長らくメンテナンスの危惧もあったがそれはこの際置いておく。
「例えば…」
さらに考える。
「ダイクロフトってそもそも、地上天上に別れて戦うためのものじゃないでしょう?」
ここはおさらいだ。
天上に「人類全員が」移り住むためのものだった。
何度も反復した基本的な歴史でもある。
「むしろ地上からの攻撃の方にこそ想定外なはず。だったら天上においての対侵略者用の装置が無い方がおかしくない?ってこと」
出来上がった天上世界はつまり、地上をそっくりそのまま移したようなものだ。
勢力があれば、必ず戦争も起こる。
テロリストもいるかもしれない。
普通、城には強固な門があるものだ。
「そういえば…」
話を継いでくれたのはリオンだった。
「鏡面バリアの話を聞いたことがあるな」
「鏡面バリア?」
「天地戦争時代には機能していなかったもののひとつだ。ダイクロフト全体を覆う防御シールドのようなもので、本来は天空の放電や自然現象から保護する ためのものだった。つまり、起動していれば弾かれる」
「一難去ってまた一難…だな」
話が一区切りすると、再び
に視線が集った。
「もしものときのために鏡面バリアの、対外的な制御装置は他の都市の…えーと…」
この辺りになると記憶もあいまいになってくる。
ひたすらダンジョン探索で覚えようとかいう気すらなかった辺りである。
「…ロディオン?」
「いや、俺に聞かれても」
「ていうかそれ、さっき言ったわよ」
『リトラー司令に聞いたほうがいいかもな』
「ちょっと待って、思い出すから」
と
は床にわずかに積もった床の埃の上に都市の名前を書き連ねた。
イグナシー
ロディオン・ミックハイル
シュサイア・
アンスズーン・クラウディス
「…」
「なんで並んでいるのとひとつだけなのがあるわけ?」
「たしかこんな感じでつながってたはず…もうひとつ、都市名何だっけ」
「だからオレに聞かれても」
「『ヘルレイオス』だろう」
「あ、そうそう」
はシュサイアの隣にその名前を書きとめた。
「イグナシーからこの下の3つの都市につながってる。で左側から右側の都市に。ここがイグナシー、浮遊クルーザーがあるのがミックハイル」
そう説明しながらも自分で整理しているようだった。
「クラウディスは除外。左側は経由だけだから除外。そうすると、多分ヘルレイオスにその鏡面バリアを解除できる何らかの鍵があるはず」
「待て。どうしてクラウディスは除外なんだ」
いい点をついてくる。
単にクラウディスは
の好きそうな場所なのでどういう場所であるか記憶に残っているだけなのだが、そんな理由がまかり通るわけは無い。
「あそこには守護竜のコントロールルームがあるはずだから」
「なぜそこまで知っている」
「だから「はず」って言ったでしょう?確証は無いよ。多分、昔見たものによるとそんな感じ」
はその可能性を素直に述べた。
さすがに見てきたかのように知りすぎていることに違和感を覚えたようだが、それでむしろリオンの問いは意図もなく流されてしまう。
確かに
はいつも推察を多用している。
自分の知識を頼り過ぎない発言は、間接的に見聞きしたものとして確証の無さを踏まえている。実体験によるものではないと証明しているようなものだ。
だからリオンもそれ以上は何も言わなかった。
「でも守護竜って?」
『それならわしも知っておる。ダイクロフトを守護する飛行竜のようなものじゃ』
「鏡面バリアに守護竜、浮遊クルーザーの確保…問題は山積みだな」
「とりあえず、全部いっぺんには無理だけど…」
ウッドロウの深いため息に
が顔を上げた。
「二手に分かれるくらいならなんとかできないかな」
「…」
誰もが危険と効率とを天秤にかける。
その時…
大地が震えた。
「な、何!?」
『ベルクラントか!!』
その気配をいち早く察したのはソーディアンたちだった。低い非常警報音のような独特な 起動音。そして爆音の後、しばらくして空中都市が激しく揺れ動きだす。
「まさか…!!」
ゲートを使うことも出来ず、仕方なしに一行は入り口へと駆け戻った。
眼前に広がる荒涼とした大地は…その数分の間に更に触手を広げ、天空に領土を拡大していた。
「そんな…」
「躊躇している時間はない、ということか」
愕然とするフィリアの横で、舌打ちをしてリオンがうめく。
もう決は採られているようなものだった。
「ミックハイルとヘルレイオスに分かれる」
「!」
「仕方ないわね。で、どうやって分けるの」
「それは行き先のことを理解していないと難しい選択だな。シャル、お前たちは何か知っているのか?」
沈黙があった。
『すみません、僕はあまり…』
天地戦争時代には無かった都市なのだから、それに彼は戦闘員だったのだから責められはしないだろう。
ディムロスとアトワイトも同様だった。
『まずラディスロウに戻ってみたほうが良い。ゲートのこともある、わしならひょっとしたらどこかの施設を動かせるやもしれんから一度確認をせんとの う』
「…クレメンテ様…!」
時々ただのすけべなじじいかと思われていたクレメンテがことのほか頼りになる発言をしたので意外そうな顔をする者も少なからずいたがそうして彼等は一 度ラディスロウに戻ることになった。
モニターの前に代行者のように控えるシエーネの姿にも大分見慣れた。
彼自身も、多少、使ったことのない言葉遣いに慣れたのか帰ってきたスタンたちを見てどうしましたかとごく自然に尋ねてきた。
経緯を話すとモニターの中のリトラーの顔に苦悩が浮かぶ。
天地戦争時代より、ある意味事態は複雑化していた。
『そうか…他の中継都市に通じるゲートなら他にある。そちらを使えば問題ないだろう。だが、内部の詳細データまでは把握していないからな…』
小さく唇がもらすのはカーレル軍師でも居れば…という呟きだった。
あるいは、次にもたらされる可能性は
『イクティノス少将なら当時のデータを持っているかもしれん。後はこの空中都市の端末からいくらか情報を得ることも出来るだろう』
「しかし、イクティノスは…」
ウッドロウは長身ならではの高い目線から自分の腰に視線を落とす。
「彼」はグレバムの手から奪還されて以後、何も応えはしなかった。
『神の眼のオーバーロードによってついた傷ならばヘルレイオスの施設を使えば直せるかもしれない』
「!」
「そのヘルレイオスの情報が欲しいのに、情報を得るために行かねばならんとは…本末転倒だな」
「だけどイクティノスが直れば戦力になるわよ」
『それに、彼なら間違いなくその施設を使って鏡面バリアを解除することも出来る』
やれやれと言ったリオンにルーティは楽観的だった。
戦力の増強。それは間違いないだろう。
そしてリトラーの一押しが今後の方向性を決めていた。
「ということは、ウッドロウとフィリアがヘルレイオス組か…」
イクティノスのマスターであるウッドロウ、そしてその施設を使うことの出来るクレメンテとマスター、という組み合わせだ。
「3・3で分かれるんでしょ?」
「そうだ、守護竜の方はどうなっている?起動しているようならそちらもなんとかしなければならんだろう」
さすがに三手に別れるのは危険だ。だから、二手に分かれて済むのならそれが良いが、いずれにしてもその先まで見通しを立てる必要はあった。
応えたのはリトラーではなくシエーネだった。
「守護竜の起動は確認されてます。残念ですが、ラディスロウではここから動くのも危険かと…」
『ラディスロウの出力機能自体が大分低下している。さすがにメンテナンスも不十分に千年のブランクはきつかったようでな。すまんが移動には浮遊クルー ザーとゲートを使ってくれ』
「ということはクラウディスにも行く必要があるか…」
「それはいったん合流してからでいいでしょ」
通気ファンの回る音を聞きながらリオンは腕を組んで天井を振り仰いだ。
さて、どう分けるか。
考えようとした時、
が声を上げた。
「じゃあスタンとルーティ、リオンはミックハイルでどう」
「え?」
自動的に
自身はヘルレイオスと宣言しているようなものだった。
リオンはその意味をたどろうとする。
その前に
の方が声を上げた。
「私もヘルレイオスで何か手伝えるかもしれないし…」
「駄目だ。戦力的に偏りがありすぎる」
リオンの言葉にルーティやウッドロウたちも考え出す。
確かにソーディアンを持たない2人と完全に後衛型のフィリアではやや不安だ。対してスタンとリオン、ルーティであれば戦力的にはなんら問題はない。
問題がなさ過ぎてもう一方の組と比べるとむしろ不自然だ。
「じゃあ聞くけど、リオン。こっちにスタンかルーティを入れたらどうなると思う?」
「…」
スタンの場合=前衛として戦闘力は高いが、リオンと違い多少、突撃傾向にあるので怪我をしたら使えない。
回復役のルーティと組ませるべきだ。
首を傾げる当の本人にそのまま告げると多少不満顔で、さらにルーティはセットにするなとわめいたがリオンは全く聞く耳持たなかった。
「だったら僕がそっちにまわる」
「駄目」
一番無難と思われる配役を彼女は即答で切り捨てた。
「根拠は」
しかし、いつもの合理性に欠ける選択にリオンは納得いかないようだった。
問われて
は一瞬言葉を詰まらせたようだった。
何事かをちょっと考えて…何かを決めたように「来て」と
はリオンの腕をとって部屋の外へ連れ出す。
「一体、何だ」
「リオン、ミックハイルには多分…マリアンさんがいる」
「!」
声を潜めるように口早に告げられ、リオンの気色はさっと変わった。
がそれをみなの前で言わないのは、言えば逆にリオンがそちらに行きにくくなってしまうからだ。
私情で動くなど、彼の性格から言ってできないだろう。内面はどうあれお節介すぎるほどのスタンたちの反応が目に見えるだけに殊更。
「確かじゃないけど…それに、ヘルレイオスには私が手伝えることがあるかもしれないっていうのも本当。他にも理由はあるけど、ここで言えるのはそれだ け」
「…お前は…っ余計な気遣いを…」
そういいながらも歯切れが悪いのは、それを聞いてしまっては行けないとは言えないからだろう。
だが、そういうということは迷っているきらいもあるということ。
理論的には、リオンの言うとおり彼がヘルレイオスに回る方が間違いはない。
はこれ以上、言わせないために彼からの答えを待たないで部屋へと踵を返した。
戸惑った顔のスタンたちにしてみれば、どうしようというほど待つほどの時間でもなかった。
この僅かな合間に変化があったのはリオンだけだ。
どこか沈痛な面持ちで
から遅れて彼が戻って話が元の流れに向けられる。
「浮遊クルーザーも動かせそうなのもリオンくらいでしょう?」
ちらりと後ろを気にしながら
が改めて言うとあぁ、とスタンたちも互いに顔を見合わせた。
リオンはわずかに俯いたまま、反論の声はない。
リトラーはふむ、と顎に手を絡めるようにしてその発言を継いだ。
『浮遊クルーザーにはオートバランス機能が付加されているから多少知識のあるものなら問題ないだろう。長時間高度は上げられないからそれだけ注意して くれ』
「ダイクロフトと制御装置のあるクラウディスに近づくと守護竜に迎撃される恐れがありますのでご注意を」
それらの言葉はすべてリオンに向いたのでもはや下がることはできなかった。
1人深刻な面持ちの彼をどう思ったのかスタンたちは疑問に思ったようだが誰も何も聞かなかった。
「浮遊クルーザーについたら、迎えに来てよ?」
『ふむ、帰りはその方がよさそうじゃの』
リオンが答えるより先に口を開いたのはクレメンテ。
彼の口調は相変わらず、あるいは年の功と言うべきか緊張感のないものだ。
「だったら、はじめから別れない方がよくない?」
『万一、シールドが張られていて入れなければ本末転倒だ。先に内部から潜入するのは戦略的に支持できる』
「そうですね、他の都市にも認識システムはあるはずです。直接は乗り込めなくても内側から着陸許可を下ろせば問題ないでしょう」
「わかったよ…」
ダイクロフトへ来て本来の任務…軍人である気質を思い出したのかルーティの提案にディムロスがそう指摘するとスタンは少しだけ複雑そうな顔で頷いた。
話に一区切りつくと、正面のスクリーンにダイクロフトを取り巻く天上都市群の配置が投影され、北西と南東の印が光のマーキングを受けて輝いた。
『こちらがヘルレイオス、そしてこちらがミックハイルだ』
マーキングはそれぞれ光の強さを変えることで己の存在位置を主張する。
2つの都市はかなり離れている。
改めて別れる方が得策であると誰もが理解をした。
『ヘルレイオスには外部に直通するハッチがいくつかある。合流するときはそれを開けばいいだろう。ソーディアンの位置は互いが認識しあえば確認できる からな』
「わかりました。行ってきます」
そして、スタン、ルーティ、リオンの3人はミックハイルへ。
残る3人はヘルレイオスへと向かう──
