--ACT.14 暗闇の世界で
妙に軽い声と、トーンを抑えたしかしよく通る声が意識の端で何事かを言い合っていた。
揺れる意識、波にもまれるように、漂うように。
が目を開けるとそこは見慣れない部屋だった。
まず見えたのは天井。
木目の、久しぶりに見た暖かい色だった。
どうりで揺れていると感じたはずだ。そこは船室だった。
「お、目が覚めたかい?」
先ほどまで何らかの言いあいをしていた一方、軽い調子の声が聞いてきた。
「ジョニー」
船室の丁度反対側にあるベッドの方からコツコツと木の床を靴底でたたいて部屋を横断する声の主の名前を
は呼んだ。
夜のような暗がりにともし火が揺れている。
小さな明かりだったがそれでも彼の金糸の髪は明るく映えた。
その奥にいるのはリオンだった。ベッドの上で体を起こして、ジョニーの肩越しにこちらを見ている。
ジョニーはさして広くもない部屋を数歩でやってきて
の顔を覗き込んだ。
「ん〜よしよし、大丈夫そうだな」
大丈夫と言われればそのとおりだ。
対して倦怠さもないし怪我などは何もない。
「他のみんなは?」
「それぞれ部屋で休んでるよ。なお、部屋の割り振りはこのジョニーさん。坊ちゃん、これならゆっくり休めるだろう?」
「お前がここで騒がなければな」
先ほどの静かなる悶着はきっとそんな問答を繰り返していたのだろう。リオンは皮肉たっぷり冷めた瞳で言い放った。
と言っても
「おやおや、二人きりで話したいことでもあるのかい?」
「…#」
逆に茶化されただけであったが。
ジョニーは相変わらずの調子で
が横たわったまま小さく微笑うと表情を和らげ、事の経緯を説明してくれた。
どうやらここは黒十字の艦隊らしい。
世界の危機的状況にアクアヴェイルからセインガルド宛の停戦書を持ってダリルシェイドに向かう途中、波間に漂う彼らをみつけ救出したという。
ベルクラントが切り離される際、
はヒューゴの元へ戻った。一人にしておくわけにはいかないのと、彼ならば緊急用の避難方法を知っているかもしれないと思ったからだ
案の定、ベルクラントには緊急避難エリアがあり落下に対しては無事だったという次第で、ここに繋がる。
は、闇にすっかり侵食された窓の外を見てから体を起こした。
ベッドに腰をかける形で足を床に下ろす。
「ジョニー、紫電なんだけど…」
「おぉ、我が家の家宝は元気かい?」
馬鹿だろ、お前。
という視線が背中から突き刺さっていることには気づいていないジョニー=シデン。
「うん、それでね。ダイクロフトに行った時に新しい武器をみつけたから…ありがとう。無事に返せそうだ」
「へぇ?新しい武器ってそのソーディアンみたいなやつか」
ジョニーはベッドサイドに立てかけてあった水月を見て興味深そうだった。
が覆っている布をといてジョニーに差し出すと ジョニーは嬉しそうに剣を手にとって眺めすかしてみる。
新しいおもちゃをもらった子供のように目が輝いていた。
「誰かさんはシャルティエを見せてくれないからなぁ」
「誰が気安く見せるか」
『ジョニーみたいな人だとなお更触らせませんね、坊ちゃん』
聞こえてないことを確信してか珍しくシャルティエが第三者のいる前で普通にしゃべっている。
「紫電はダリルシェイドに着いたら返すね」
「あぁ、紫電と言えば」
持ち歩くわけにも行かなかったので無重力エレベータを使ってそれはヒューゴ邸に置いてある。
改めて言われてジョニーはなぜか真顔にそう返してきた。
「「?」」
こういう顔をする時は本当に真剣な話か、ろくでもないことに決まっている。
だが、どちらなのかここでは見当がつかず大人しく先を待つ二人。
「夢を見たんだ。縁起の悪い話だが二人ともダイクロフトが復活した直後に帰らぬ人になっちまってな。で、紫電もそのままなんだけどなんと20年近く未
来にオレの手元に帰ってくる」
ちょっと待って。それ、どこかで聞いた話じゃないか。
閉口した
のちょうど正面では同じようにリオンが複雑そうな顔で何か言いたそうにしている姿が目に入った。
「それも、差出人不明で桜の花びらにくるまれて送り返されてきたんだ。夢の中でオレはそれでノイシュタットから送られてきたんじゃないかって思ったん
だけどな」
ジョニーの口上は続いている。
「もういないはずの人から、届く思い出の品。なんていうか、我ながら粋な演出をする夢をみるもんだ〜と思ったもんよ」
「そう……」
「お前が粋なわけじゃないだろうが」
乾いた笑いを浮かべた
の前で同じような空気をまとってぽつりと呟いたリオンの声は、ジョニーの音楽家ゆえ鋭いはずの耳には聞こえてはいないようだった。
「でな」
天気のようにコロコロ変わる表情。
彼の心の中はいつも同じ調子であるだろうのに。
けれど、再び真顔になったジョニーが、次に吐くのが本心であろうとリオンと
は思った。
「…オレは、夢の中で思ってたんだ。お前さんたちのために歌うことになるのは勘弁してほしかったって。
だから…本当に良かった」
「…」
まったくの他人であるはずのジョニーが自分の生還を喜んでいる。
思えば、ジョニーの予感はアクアヴェイルの船の上で3人で会った時から彼の中にあったものなのだろう。
それは確かに、的確だった。
リオンは瞳を伏せてわずかな回顧に思考を沈めた。
「…ありがとう。確かに歌ってもらわなくて良かった」
「…どういう意味かな」
「そのままだろ」
夜の帳に落ちる、変わらぬ声。
あの夜のように、けれどあの時とは違う静けさで
三人の語らいはまだ続きそうだった。
* * *
朝が来ても太陽は昇らなかった。
書状を携えたフェイト=モリュウの率いる黒十字戦が昼下がりにダリルシェイドの港に入っても、暗い港は沈黙したまま…
外殻が完成し、空の閉ざされてしまった今、進んで外に出ようという者はいない。
空は時折、生き物のようにうごめくものを抱えたまま重苦しそうに闇を垂れ込めていた。
衰弱しているヒューゴを黒十字船へ残し、ソーディアンマスターたちが城に戻ると城内はうってかわって騒然としていた。
もともときらびやかな場所だけあってここは闇というより夜に近い。
時間はまだ昼だが、煌々と照らされたシャンデリアを見ていると晩餐会でもはじまりそうな雰囲気でもある。
だが、兵士のかもす雰囲気はそんなものではなかった。
異常事態。
行き交う兵士の動きに鋭く察したリオンは謁見の間へとまっすぐに向かう。
案の定七将軍が揃っていて難しい顔で何事か論議を交わしている最中だった。
ダリルシェイドの状況を確認するより先に、事の顛末を求められ報告し終えるとヒューゴの身柄は城に移すことになった。
無論、七将軍の何人かは保護という形になったその処遇に複雑な顔だ。
だが、今は一身上の裁きに云々言っている場合ではない。
「何が起こっているんです」
さすがに切羽詰った雰囲気を察してスタンが王へ尋ねるとセインガルド王は玉座の上で渋面した。
「外殻が完成するとモンスターが街を襲い始めたのだ」
「獣風情が徒党を組んで襲うなどありえない。何か、統括する者がいるのではないかと踏んでいたところだ」
ヒューゴがそうしているのだと彼等は推測していたに違いない。
それが古の天上の王だと知って動揺を隠せない若き将軍たち。
ドライデンやルウェインは年の功であるのか大きく構えて王の説明を継いだ。
「いずれにしても、アルメイダ、ハーメンツ、クレスタへは兵を向かわせねばならないだろう」
「!!クレスタにも!?」
ルーティが跳ねるように顔を上げた。
クレスタは彼女の故郷のようなものだ。
頷くのを見て落ち着きなく彼女は視線をうろつかせる。
アシュレイが努めて冷静な声で続けた。
「現在は斥候隊が出ているが状況はどこも深刻だ。こちらも戦力を分けなければならない」
「………」
沈黙が降りた。
スタンたちは一刻も早くダイクロフトへ向かわなければならない。
けれど捨て置ける状況でもなさそうだ。
躊躇の意味を悟ったのかドライデンが声をひそめるように言った。
「ラディスロウも制圧された。それは知っているか?」
「!!」
外殻に残されたラディスロウ。
それは、外殻の完成に伴い巻き込まれる形で身動きが取れなくなったらしい。
暗い空の遥かにその姿を見たものもいることはうわさ話の領域を出ない。
助手とクルーの何人かは命からがら逃げおおせてこの城内にいるという。
地上とを結ぶ無重力エレベータも封鎖され、ラディスロウがどうなっているのかすら確認する術はなかった。
「万事手詰まりか…」
閉ざされた地上。届かない空。
ラディスロウが天と地を繋ぐゲートになり得るならまだ望みはあった。
けれど、向こう側からルートを閉鎖されしまっては奪還さえままならない。
文字通り閉じ込められてしまった現状に、リオンの呟く声が重く沈黙した広間に落ちる。
「でも…だったら俺たちにできることをしなきゃ…!」
スタンはいつでも前向きで、ひたむきだ。
あまり先を見通すことに長けていないからこそできる楽観さだが、それが今は救いでもある。
明らかに予想通りの反応であったからかリオンはちらと視線を横に流しただけで小さく溜息をついた。
王はまだ老けてもいない精悍な頬に小さく笑みを浮かべてから厳粛に言の葉を繋ぐ。
「ソーディアンマスターたちよ。力を貸してもらえぬか。
今は、地上に溢れる脅威から少しでも人々を遠ざけなければならんのだ」
誰もそれを否定しようとはしなかった。
スタンとウッドロウが強く頷き協力の意を示す。フィリアは腰に下げるには大きすぎるクレメンテをいつものように両腕で抱きしめる。
「七将軍にも出てもらわねばなるまい。この状況で王都を手薄にはしたくないが…」
「お待ち下さい」
苦悩を浮かべる王の言葉を止めたのはリオンだった。
は王の両脇に居並ぶ将軍たちがわずかに目を見張る中、アスクス将軍だけがすぐさま険しく顔を顰めるのを見た。
「王、私に一部隊をお貸し下さい」
「!?」
彼の進言はあまりにも唐突だった。
「この状況で七将軍を散らしては民の不安を煽るだけです。一部隊お貸しいただければアルメイダ、ハーメンツの内一つは守って見せましょう」
「クレスタはどうするのだ」
「私以外のソーディアンマスターに任せます。…ルーティ、行けるな?」
そこで彼のいわんとしていることが理解できて、ルーティは強い瞳で頷き返す。
リオンは元々セインガルドの王国軍に属していた。
本来はこういった仕事こそが彼のいた場所だった。心配はないだろう。
マスターたちの意志は、それで早くもまとまっているようだった。
セインガルド王はその様子にしばし、悩む間こそあったものの鷹揚に頷いて承諾を示す。
「…よかろう」
しかし、七将軍はそうはいかなかった。
リオン=マグナスは未だその処遇を保留中の身。
勅命で指揮官を任すなど、もってのほかだ。
セインガルド王もまた、それは理解の上であるから反論の声が飛ぶより先に矢継ぎ早に続けた。
「今こそお前の真意を知らしめてみよ。しかし、それは容易なことではないぞ?」
「仰せの通りに」
既に度重なる報告により王の中にあった疑念は、晴れるとはいかないまでも任せるに足るものにはなっている。
しかし、ひとたび失われた信頼を取り戻すには…「裏切り者」の汚名を消すには難しい。
混乱を避けるための情報操作か、城下にまでは広まっていないものの彼の部下として配置されていた者たちの耳に届いていないわけはない。その上での評価
は酷と言うものだろう。
性格にあいまり元より若すぎる「天才」。
それだけで妬んでいた者も皆無だったとはいえないのだから。
彼自身の性格が仇になって敵も少なくはないだろう。けれど、目の前の少年がそれら不利な状況を考えられるくらいの聡さであることは既に知っている。
覚悟の上での進言。
王はそれを汲んでいた。
「王!」
他の七将軍が動揺を抑える中、真っ向進み出たのはアスクスだった。
「私には承服しかねます。いくら七将軍をダリルシェイドに残すべきとて全ての指揮権をゆだねるなど…!」
「ならばエリオット。お前も着いていくがいい」
「!」
「いずれ小隊では足りんだろう。」
アスクスにしてみれば見極めのための任を押し頂いた形になる。
元よりセインガルドに剣を捧げた身。彼は彼なりに「危惧」を排除する必要がある。
国と個を廻り思惑は様々だ。
そしてリオン自身はと言えば全てを受諾し、決めている。
彼を見る目は様々だが、彼の中での真実は一つなのだからそれ以上はどうしようもないことだった。
鋭い…というより険しい視線でリオンを睨むようにしてから、アスクスは恭しく頭を下げた。
「御意に」
「ミライナとリーンはハーメンツへ、アスクスとリオンはアルメイダへ向かえ。残った将軍は城を守護せよ」
「はっ」
いくつかの声が重なり将軍たちは持ち場へ散ることになる。
セインガルドを守るために。
* * *
一旦、広間を離れたスタンたちはその足でシエーネの元を訪れることにした。
ラディスロウの件についても、当事者から聞くのが良いだろう。
襲撃されたのであれば本人の様子も気にかかる。
一人、軍部の準備に取り掛かろうとしたリオンも呼び止めて彼にあてがわれた部屋へとやってきた。
ノックをすると返事があって部屋に入るとそこは簡素で清潔そうな客間だった。
窓辺に備え付けられたテーブルに着いて何かをいじっていたらしい彼は扉が開いてからようやく振り返る。
机の上には細かい部品とレンズらしきものが散乱していた。
「シエーネさん!」
「良かった、無事だったんだね」
「あぁ、そっちもか!」
初対面が初対面だからに気さくな口調で
。
対してスタンは自分より年上らしい彼に丁寧な口調を使っている。
第一印象の違いでもあるのかもしれない。
頬に大きな白い医療テープを貼られているものの他に怪我はなさそうだ。
けれどイスから立ち上がって近づく彼の表情はすぐに沈んだ。
「ラディスロウが占拠されたらしいな」
「あぁ、モンスターが押し寄せてきてよ。俺は無事だが、リトラー司令が…」
口調の違いにスタンたちがぱちくりと瞬いたものの、何のことはなく
とリオン、シエーネはそのまま会話を続けている。
「リトラーさんは?」
「わからない。一応連絡用の品は持たされてるんだが、向こうから話しかけてこないと使えないみたいで…軌道エレベータを閉鎖してからはさっぱりだ」
ただ、とシエーネは難しそうに顰めていた眉を緩めた。
「リトラーさんから図面を預かった。これがあれば外殻を破壊できるはず」
「外殻を!!?」
手詰まりと思えていた天上への活路。意外なところで道の開かれる気配にスタンたちがシエーネとの距離を詰める。
「あ、あぁ。ここに来てからぼちぼちいじってる」
「ぼちぼちじゃないだろう。城のヤツらに話しはしたのか」
「いや、それはもう少し図面の方も解読しないことには〜…」
「だから一人でやらずに城の研究者を使え」
そういわれても彼はジャンクハンターだ。
おそらく誰かに頼るより自分でコツコツとやる方が性にあってるし、城の中でいきなり人を動かせというのも無理な注文に違いない。
同じ研究筋でも結果にたどり着くプロセスも違うだろうしエリート学者が相手ではかえってやりづらいと感じたのだろうか。
繋ぎ役がいないので結果、一人で地味に格闘していたらしい。
ベッドの上に広げられた図面らしき紙片を
は改めて見た。
「コアが出来れば後はやってもらわなきゃとは思ってるけどよ…
まだ時間がかかりそうだ」
「僕たちもやることができた。戻ってくるまでに出来るよう急げ」
「わかった。そっちも頑張れよ」
城の学者たちを巻き込むのはもう少し後にする。
執行猶予が出来てシエーネはほっと息をついた。
けれど問題もまた山積みだった。
外殻を飛ばせたところで、おそらくミクトランは倒せない。
ラディスロウももう動けない。
更なる予感に駆られながら、それでも今できることをするしかなかった。
それは、きっと今に限ったことではなく…
* * *
シエーネの無事を確認するとソーディアンマスターたちはクレスタへ向けて出発した。
はといえばリオンに着いて行くことになっている。
元より「お目付け役」だ。
動くのが軍ともなれば着いていくと強くは言えなかったが、リオン自身も含めて誰も異議を唱えるものはいなかった。
一足先に出発したスタンたちを見送り、それから
は物資保管倉庫へと移動した。
そこでは兵士たちが管理台帳を片手にどこか慌しく出立の準備を進めていた。
リオンも紛れるようにして指示を飛ばしている。
アスクスの姿はなく、そうして出立に向けて準備に勤しむ彼の姿を見ているといつかハイデルベルグから飛行竜が飛び立つ前に同じように眺めたことを思い
出した。
手伝えることがあるならいい。
が、城の中のことはリオンや兵士の方が明るいのが当然で「そこにいろ」と言われたまま邪魔をしないのが得策に思えた。
準備と言っても多くが雑用だから、一通り指示を与えればリオンも息をつく間くらいはある。
その隙をぬうように現れたのはドライデンだった。
彼はリオンを呼び、
も連れて隣の控え室に入る。
扉を閉めるとうそのように喧騒が遠くなる。
部屋は作業スペース脇の詰め所なので飾り気も無いものだ。
整った目の岩を切り出して作られた壁はひんやりと冷たく部屋の温度も下がって感じられた。
「何かご用ですか、ドライデン将軍」
はじめに口を開いたのはリオンだった。
「忙しそうだからな。手短に話そう」
そういって無骨な手が何かを差し出す。
それは、小さな徽章だった。
はそれが何なのか知らない。だが、ドライデンのマントに同じものがついていることに気付く。
セインガルドの王国において地位を、あるいは栄誉を示すものなのだろう。
「なぜ僕に…」
戸惑いを見せたするリオンを前にドライデンは笑いもせずに瞳を遠くする。
何かを懐古しているようでもあった。
「年をとると人を疑うにも信じるにも勇気のいることだ。責任があればなおさらな。
だが、同時に人を見る目は培われてくる。
そういうことだ」
年と言うほど彼は老いてはいない。
だが、それ以上に落ち着いて見えるのは将軍としてこなしてきた月日の証なのだろう。
はっきりとは言わず、けれどそうすることがリオンのような人間には一番だったのかもしれな。彼は素直に無骨な掌に乗る銀のプレートを拾い上げた。
「それから、老兵は城に残らねばならん。アスクスは熱くなりすぎるきらいもあるからくれぐれもよろしく頼むぞ」
僅かに目を見張ったリオンの口元がふっと綻んだ。
今のアスクスが聞いたらそれこそ冗談ではすまないだろう。
それを僕に言うのか、といわんばかりの表情だがどこかリオンの瞳には大人しさがあった。
この自称老兵は重ねた年月に比例した「成長」を彼に示し、今は数少ない支援者なのだと知る。
ドライデンはリオンの反応に満足そうな笑顔で答えると踵を返して扉へ向かった。
去り際に残したのは
「片足を失っても王は武人だ。何よりも自分が出陣したいだろう。…吉報を待ってる」
という言葉だった。
