そして、世界再生の旅は再開される。
次はスピリチュアの像をハコネシアに届けなければならない。
しかし気になるのは未だ健在の人間牧場。
そちらを潰すことが目的ではないとはいえ
どうか、これが大陸縦断二往復めの往路にならないことを祈ります。
11.旅路で
さて、今回の道のりについては幸いなことがあった。
それはパルマコスタを発ってまもなく…
街道脇に彼らは見慣れないものをみつけて寄り道をすることになった。
「ふわ〜でっかい乗物だな」
昨日パルマコスタに着いたときにはなかった「それ」。
この世界にしてみれば人の目から見ると驚異的な大きさに分類されるのかもしれない。
ジューダスの世界だとてお目にかかることはない類のものだろう。
その「乗物」には人の背丈ほどもあるタイヤがついていた。
そう、タイヤという表現は的確だ。
馬車の「車輪」というよりタイヤ。
ただ、タイヤが大きいからといって上に乗っている荷台が大きいというわけではなく、比率としては小さい四角い箱が載っていた。
その姿から
にとっては「モンスタートラック」を髣髴させる。
「これは竜車のようだな」
「竜車?」
「そのままね。竜にひかせているのよ。これだけの大きさだと居住も含めて旅も支障なく出来そうだけれど」
竜と聞いてぴくりと
が反応したのはご愛嬌。
そんな気配に勘付いたのはいい加減付き合いが長くなってきたジューダスくらいのものだ。
彼女は爬虫類タイプの生き物もなんのその。
モンスターにおいてはドラゴンと猛獣系に興味を惹かれてやまないらしい。
こちらはその後方に位置しているようで、朱色に塗られた車体には扉が一枚ついていて今は、はしごがかけられていた。
竜車自体が柱として利用されるように、タープが森の木との間に張られている。
その天幕の下には木箱や毛布、加えてギターのような楽器も置いてあった。
「誰?」
興味津々に眺めていると竜車の陰から少年が現れる。
年は12,3歳といったところだろうか。
あどけない顔は少しだけの不安という名の警戒心とそれを上回る素朴さが浮かんでいる。
その後ろに張り付くように、小さな子供。
「だぁれ?」
こちらはただ好奇の眼で兄と思しき少年の影から、復唱するように聞いてきたのだった。
「おや、お客さんとは珍しい。何か用かな?」
声を聞きつけてやってきたのは壮年の男だった。
頭にはターバンを巻いて細い顎にひげを生やしている。
白い作業用のアンダーウェアにベスト、頑丈そうなトレッキングブーツ。
いかにもアウトドア派の学者風情といった男の顔には子供のような人懐こい笑顔が浮かんでいた。
「いや、ただ通りがかっただけだよ。おじさんたちは旅業の最中?」
「私たちは世界の動物を見ながら旅をしているんだ。動物学者なんだよ」
「へぇー!」
そしてその一言で人一倍の興味を示す人間が一人。
ジューダスは隣で生き生き瞳を輝かせた
をなんとも言えない表情で見返している。
「この物騒なご時世に変わってるなぁ」
パァン!!
方や賞賛とは程遠い本音が駄々漏れのロイドはリフィルに思い切り殴られることになった。
…こんな時、彼女は平手で人を叩くのだが勢い的に打つというより「殴る」の表現がぴったりときている。
なかなか大きな予備動作もあって常日頃、どちらかといえば素行の良い彼女からは想像のつかないバイオレンスさだ。
ジーニアスは姉のビンタに対して「せっかん」という言葉を使うが、はじめて見たときはよりジューダスの方が驚いていたくらいである(もう慣れた)。
ともかく、彼女は弟にせよ出来の悪い生徒にせよ怒る時はなかなか本気モードだった。
「あいた!」
「素晴らしいわ。学業のために諸国を旅するなんて」
今日に限っては殴っただけで、にこやかに変わり身は素早かった。
「はっはっは、色々珍しい動物を見るのが好きなだけだがね」
よほど人が出来ているのか器がでかいのか動じない学者のおじさん。
神子の旅よりある意味、楽しそうだとか言ったらそれはそれで問題が巻き起こりそうなので黙っておく。
「そういうあなたたちはこんなご時世に旅なのかい?」
同じ学者とも見えないのだろう。彼はユーモアすら交えて同じ口調で訊いてきた。
「うん、ぼくたちは…探し物があって」
「導師スピリチュアルの旅の軌跡を追っているところです」
さすがセイジ姉弟。
誰彼にでも軽々しく世界再生の旅などとは公言しなかった。
これがロイドなら得意満面胸を張ったかもしれないが、ここは分別のある彼ららしい。
何せ目の前の学者の親子はマーテル教の信者というわけにも見えないのだからそこへ神子様を持ち出すのは無粋というものだろう。
「ほほぅ?導師スピリチュアルの…ということはこれから北の土地へ抜けるのかい」
「はい。とりあえずは救いの小屋まで戻るところです」
「戻る…?」
にこにことコレットがめげない笑顔で言うとその語彙に彼は気づいたようだった。
はぁ、と溜息をつきたい気分を抑えながら
。
「諸事情で一往復してきたところです。…考えてみれば旅業ツアーにでも乗った方が早かったかも…?」
後半は仲間たちに対する疑問である。
ショコラはあの後、また旅業に出ると行っていた。
護衛でも何でも引き受けて便乗した方が早く着いたかもしれない。
あっ!と今更声を上げた者も何人かいたが今となっては地道に戻るしかあるまい。
「そうか、北にな…」
「お父さん、あたしたちと一緒ね」
あごひげを撫でて何か考えていた彼は足元にやってきた小さな娘を抱き上げてロイドたちを見た。
「良かったら、一緒に行くかい?」
「えっ」
「急ぐわけじゃないから夜はゆっくりキャンプを張るけど歩くよりは早いと思うよ」
願っても無い申し出だった。
これだけ立派な竜車だったらモンスターにも襲われないだろう。
嬉しそうな年少組に、クラトスとリフィルはあまりにも都合が良いのではないかと悩んだが
「君たちも旅をしてるんだろう?色々聞けたら私たちもためになる」
どうやら掛け値ない善意であると察して同行をさせてもらうことに決めた。
学者の名前はノヴァといった。
* * *
竜車から少し離れたところには、飼い葉おけと水が用意されていた。
つまりはこれを食べているものに引かせているのだろう。
竜車…竜。
は無言で飼い葉を眺めてから竜車前方へと歩いていく。
「それにしても何故街がこんなに近いのに野営してるんだ?」
「宿に止まると夜間の観測が出来ないからだよ」
「学者ってのも大変なんだなぁ」
すっかりなじんでしまったロイドと、兄のアルドインの話す声をよそに大きなタイヤの影を抜けると森の側になる。
しかし、そこにドラゴンらしきものはいなかった。
「…」
「竜たちは今の時間は野放しだそうだ。残念だったな」
すっかりお見通しのように薄い笑いでそう教えてくれたのはジューダス。
まぁいい、どうせしばらく一緒なんだから。
切り替えて
はジューダスの方へ引き返した。
「珍しいものがあるよね。竜車なんて前の世界でも聞いたこと無い」
「ファンタジーだな」
ジューダスからそんな言葉が聞けるとはなんだか笑えるが、素直な感想なのだろう。
世界の趣が違うのは明らかだ。
彼にとっても違和感はあるのに違いない。
「これからもっとファンタジーなことが起こるかもよ?」
竜車後方へ一緒に歩を向けると大概にして欲しいといった様子で彼は首を振る。
そうはいいつつジューダスの適応力も結構なものであると思う。
なんだかんだいって理解することは惜しまないのだ。
しばらくして、竜たちが戻ってくると改めて出発となった。
ノヴァの竜車に乗っていたのは、4人。
ノヴァのほかは、彼の妻のサラと2人の子供たち…アルドインとメイだった。
竜車は平たく言ってしまえばこの世界のキャンピングカーのようなものでもある。
居住空間は、そこへロイドたちを乗せても移動には十分な広さだ。
御者の席に座るノヴァの横で彼らはさっそく珍しい動物たちの話を耳にしている。
目的地に着くまで、飽きそうにも無かった。
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