−15.第2の試練
予想通り、仕掛けを作動させると下方に見えていた足場は迫上がり、今いる場所の西に接岸された。
火の封印同様、魔法陣を抜けて祭壇に至る。
造りは殆ど同じに見えた。
そのせいか、リフィルは前ほど騒いでいない。
「じめじめしてんなー。早く帰りてぇ」
「お前、本当に飽きっぽいな」
全く何をしに来たのか、とばかりに先ほどまではしゃいでいたロイドを呆れたように見やるジューダス。
クラトスも何か言おうとしたが、ジューダスがおそらくそれに似たことを言ってくれたので黙っていた。
「…この感じ。マナが押し寄せる感じ…。火の封印と同じだよ」
マナというものは、世界を支える要素、そして魔術を構成する根源でもありエルフであるジーニアスは敏感だった。
人間には捕らえがたいものだがそれは神聖さとか自然の気配だとか、おそらくはそういうものだろう。
あるいは目に見えない溢れる力。
それらを感じられるか感じられないかは人間の中でも差があるものだ。
「また『封印を護るもの』っていうのがいるのかな?」
「なんだそれ?」
「火の封印であの炎のモンスターを倒した時、レミエルって天使『封印を護るものは倒され』って言ってた。
ということはやっぱりモンスターと言うより守護獣みたいなものなんだろうな…」
ロイドの問いに最後はひとりごちる形で
。
やはり精霊の一種なのだと自分の中で結論付ける。
それがモンスターと呼ばれる存在とどれほど違うのかと自身で疑問も抱きつつ。
「守護獣であってもモンスターであっても我々が戦わなければならないことには変わりあるまい」
「来るわよ!」
中央から炎の変わりに青い蒸気が吹き上げた。
以前の封印と同じように1体を頭にして従者のような存在で2体、
合計3体の青い体躯のモンスターがあわられた。
「少しは戦い方を考えてみたか?」
「見てろよ!いつまでも素人扱いさせないぜ!」
ジューダスとロイドはそれぞれ、両手で剣を引き抜いた。
2人とも扱うのは二刀だが、明らかに使い方は違う。
ジューダスの場合はメインの中剣が1本で、状況に応じてガード用と時折補助的に短剣を使う。
最も利き手の調子を取り戻してからは殆ど元通り片手剣のみで戦っていることも多い。
ロイドの場合は完全に「二刀流」だ。
同じ長さの剣を両手に持って戦う。クラトスに言わせると剣技としてはイレギュラーらしい。
そのリーチの長さを生かして迫った二対のモンスターそれぞれに切りつける。
ロイドは深追いせずに退いて間合いを取ったところに、コレットのチャクラムとジーニアスの魔法がヒットした。
「少しはマシになったな」
パルマコスタからこちら、ロイドはクラトスに剣術を指南してもらっていたようなのでがむしゃらに突っ込む癖は抜けてきたようだ。
敵がのけぞったところでジューダスとクラトスが入れ替わりに攻撃を繰り出す。
「光よ…!」
奥から出てこようとしたモンスターの前に、密度の濃い光が生まれ、弾けた。
リフィルの放ったフォトンだ。
耐性があるのかダメージとしては大きくはなかったが、一時隔離するには十分だった。
「ふふ、私も攻撃魔法くらい使えてよ」
今回は回復が必要ない分、覚えたばかりの攻撃魔法を披露する機会があるのだ。
いいリズムで戦闘が運んでいると感じられた。
「じゃあ私も…グレイブ!!」
ディスク「とがった石」使用のこと。
今回ばかりは水系の晶術を使っても仕方ないだろう。
水棲系であればお約束なら対処法は雷か炎か。
弱点と言えそうなら炎もだが半端な炎は逆にはじかれてしまうので今の時点では到底、「氷水に焼け石」状態になりそうだった。
地系の晶術はジューダスが使えるはずだが、このパーティに入ってから彼は術は使っていない。
役割的な問題と、
が使ったことによって「人間は使えない」と言われたことに対する予防線のようなものか。
必要があれば使うだろうが、つまり使わずに済んでいると言うことはまだ余裕と言うことだ。
の放ったグレイブがモンスターを貫き、その場に固定することに成功すると一気に攻め込み一体、また一体と今度は的確に捕らえていった。
「どうだ!」
「75点ってとこかな」
「結構、厳しくないか?」
素で採点してみた
は、そうかなとロイドを振り返るとその前方で光が生まれ、祭壇を照らした。
----再生の神子よ。よくぞここまでたどり着いた。さあ祭壇に祈りをささげよ
「…はい!」
次のスポットを知らせておきながら先回りしてるのか、天使。
なんとなく不条理さを感じながら
は火の封印でそうしたように、祈りをささげるコレットの背を眺めた。
「大地を護り育む大いなる女神マーテルよ。御身の力をここに!」
光の降り注ぐ中、コレットの背から無意識のように羽が現れ、彼女の体を宙に運ぶ。
降臨したレミエルと、少し下方にコレットが向き合った。
「よくぞ第二の封印を解放した。神子コレットよ!」
「はい、お父さま」
肉声で労ったレミエルを今度は躊躇することなくそう呼んだ。
父と呼ぶ者の期待に応えられたためか、コレットの声は明るい。
しかし、レミエルの声はふいに途絶え、元々表情に乏しいその顔がますます冷え切ったように変わったのをは見た。
「……クルシスから祝福だ。そなたにさらなる天使の力を授けよう」
「…は? はい…?」
声には更にそれが顕著に現れていた。
少なくとも、口の端に浮かんでいた高揚した笑みは消え、その抑揚のない声にコレットも違和感を覚えた様子。
レミエルは応える代わりに以前と同じ台詞を述べると待っていたように光が分かたれ、コレットに吸い込まれていった。
「次の封印はここよりはるか北。終焉を望む場所。かの地の祭壇で、祈りを捧げよ」
「お父さま。私、何か御不興を買うようなことをしましたか? 」
突然の変貌に──といってもレミエルとはそれほど話したわけでもないが──コレットがついぞ訊く。
姿を消そうとしていた彼が、ひんやりとした目で見下ろしながら放ったのは、コレットにとっては恩赦の、にとってはいかようにも意味を取れる一言だった。
「…別によい。
そなたが天使になればいいだけのことだ」
おそらくそれは、天使という存在への疑問が、疑念に変わった瞬間。
「また次の封印で待っている。我が娘…コレットよ」
レミエルは光になって去っていった。
「なんだあいつ。相変わらずエラソーな感じ」
コレットが光の去った空間に、音もなく降りてくる。
同時につかつかとジーニアスに歩み寄ったリフィルの振りかぶった手が激しい勢いで弟を叩いた音がした。
「コレットに謝りなさい」
「いいんです」
リフィルの怒りの制裁は一切の容赦を伴わない。
両手で頭を押さえるジーニアスに、コレットは苦笑を向けた。
「お父さま…レミエル様って本当に偉そうだし」
彼女は、彼を父と呼ぶことをやめていた。
無意識な行動かもしれないが、あれでは呼ぶなと言われたようなものであろう。
けれど、そう捉えるならばあれは蔑みの目。
まるで下賎の者でも見るかのような──
ふと思い浮かんだ言葉を
は喉で止める。
自分は疑いすぎなのかもしれない。
煮え切らないものはあったが、それらを信じて疑わないコレットたちに敬意を払うなら言うべきではないだろう。
個人的な信憑性は別として。
「さて、次の封印を探すとするか。
…あいっかわらずわかりづれーけどな 」
「ぼやくな。…行くぞ」
クラトスが闇に沈む祭壇に踵を返し、背を向けた。
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