−16.早すぎる出現
2つ目のポイントをクリアして意気揚々と行き返そうとする一行。
しかし、
は足を止めたまま。
「どうした?」
祭壇を見上げるまでもなく思考に沈んでいるとは声をかけてきたジューダスを振り返り、他のメンバーも彼を中心に足を止めた。
彼女の中で、興味は既に別のことに思い至っていた。
「火のときも思ったんだけど…封印て何?」
幾度となく思ってきたその疑問に答えられるものはいない。
「何って…天使になるためのものでしょう?」
ジーニアスが1歩2歩と戻ってきて首をかしげた。
相変らず手振りのついた少しオーバーなリアクションだ。
は体ごとそちらに向き直る。
コレットが「本当の」天使になるための試練。
しかし、何を開放しているのか、それによって何が起こるのかは知らぬままに再生の旅は続いている。
最初に天使は「イフリートは目覚める」と言ったのだから精霊たちを起こす行程には違いないのだろう。
が、そんな大事なことが神子の旅には一文として語られていない。
彼女ら自身も精霊開放と言う言葉は己の所業として意識していないのだ。
それは何故だか、何かとても危険なことのように思えた。
結果ではなく、知らぬことを当然とするその行為そのものが、だ。
もっとも結果よければ全てよしになるのだろうけれど。
「最初の封印であの天使は「イフリートは目覚める」って言ってたよね。でもそれってどういう意味があるの」
「そう…」
はじめて具体的に訊いてみるとリフィルがあごに右手を絡めてジーニアスの斜め後ろに並ぶ。
その右肘を左手で支えながら少しだけ考え込んだ。
「精霊の目覚めは再生の旅に語られない。私たちは神子の天使化を辿る旅の副産物程度に過ぎないと思っていたけれど、あなたはそうではないというのね?」
その通りだ。
確かにここにそのための力が眠っているのであり天使化への段階としてそれ自体の封印を解いているともとれる。
けれど、
が覚えている印象は逆だった。
「あの天使は「クルシスは祝福し、天使の力を授ける」って言ってた。
それを考えると「封印を解く」の封印は天使としての力や儀式ではなくて、暗に別の何かを解放すること目的にこなしている気がする」
「…そう言われると天使にいいように使われているようにも聞こえるな」
「ジューダス!」
彼の軽い嘲笑に近い痛烈な皮肉はコレットが本気で怒ったように彼の名を呼ぶことでやれやれとかぶりを振る程度で、表面上は収まることになる。
しかし、知らないで回らされているのだとすればあながちはずれでもないだろう。
決定的なのはこのシルヴァラントの住民である彼らと自分らの価値観の差くらいなもので。
それはもう十分承知なのでジューダスも大人しく口を閉ざしたのだ。
最後尾を歩いていたクラトスは他の仲間が祭壇のほうへ引き返したことで今はやはり一番後ろにいる。
暗がりの中で朱暗の前髪の奥の瞳が細められたが彼は何も言わなかった。
「再生の旅が成功すれば、世界が救われるのは本当なんだよ?
スピリチュアル様みたいに成功させた神子だっているんだから」
「そうだぜ。神子が世界再生させるために必要なもんなんだから俺たちにとっても必要だってことだろ?大体天使にだってそんなことして何のメリットがあるっていうんだよ」
「あーはいはい、あんまり熱くならないで。
ジューダスはそういうつもりで言ったんじゃないんだよ。
それに私が言ったのも
ただ、神子の旅と封印解放、それから精霊にどんな関係があるんだろうってことだけ」
「確かに、私たちには知らないことが多すぎるのかもしれないわね」
リフィルが改めて祭壇を見渡した。
『天使様は人間のために導いてくださる』。
その先には、世界再生が約束される。
だから、それを疑うようなことはしないがここに何が眠るのか知らないままであるのも事実。
解放しているは、天使の力なのか
精霊自身なのか
それとも別の何かなのか
彼女の中で、道徳とは別の意味で個人的嗜好における好奇心がむくりと頭をもたげた瞬間のようだった。
「それに火の封印、水の封印っていうくらいだから封印が解けたから何か関係することでも起こるのかと思ったけど…そうでもないみたいだし」
それはそれで短絡的なのだが、ちょっと物足りないような気はしていた。
何が起こっているのかと言う疑問とはまた別の問題である。
「確かにそれで天使化したことでコレットに何らかの属性がついたというわけではないようだな」
「属性?」
伝承に対する誹謗でないと知るや素直にコレットたちは首を傾げてなりゆきを見守る体制に戻る。
コレットの天使化が封印の解放に直接関係あるなら何らかの形で影響があってもいいようなものだが、そういったことはない。
だから
の言った「天使化の力はクルシスが与えている」説は間違っていないのだろう。
「ファンタジーテイストに言うと、火の加護とか水の加護とか」
「…確かにそう言われるとそういうことはなんにもねーな」
「見えないところで何かが起こっているかもしれんだろう」
溜息のような吐息とともに、ようやく口を開いたのはクラトスだった。
「なんにしても祭壇には神子が世界再生の旅を完了するのに必要なものが封じられ、解放と同時に精霊も目覚める。
それではいけないのか」
そして至極シンプルに現状をまとめてくれた。
「いけなくないです」
「では他に何か問題が?」
まとめてくれたので、特に論議を続ける気はなくなってしまったはせっかくなので他の疑問を口にしてみる。
「精霊」
「?」
「やっぱりここにも精霊がいて、召喚とかできるんですかね?」
「あぁ、それは興味深い考察だな」
神子の旅の話題となると使命感が邪魔するのか通常モードなのに、少し離れた話題になると遺跡モードのスイッチが入るらしい。
どうして召喚の話題で遺跡モードになるのかなぞだが、きっと精霊にまつわる話は遺跡にまつわる話とほぼイコールになることが多いせいだろう。
リフィルは途端に口調を変えて目を輝かせ、今は前にいるクラトスを押しのけ最前列に拳を握りながら出てきた。
「召喚と言えば古に失われた技術。だとすればこの祭壇もそういった用途に使われると考えられないこともない。
そもそもイフリートの神殿だとて、封印ではなく神殿として作られたのだ。
現にここの封印を守っていたのは水の精霊に見えないこともなかったし…
だとすれば、それにまつわる紋様などももう少し探せばみつかるかもしれぬっ!!」
いつもなら長口上をぽかーんと見送ってしまう一同だがいい加減なれてきたのか今回に限ってはみんなきちんと聞いていた。
ロイドはそれよりも聞き覚えのない言葉に好奇心をくすぐられたらしい。
「召喚ってなんだ?」
「精霊と契約して呼び出したりして力を貸してもらうんだよ。
ここは水の封印だし…第1の封印がイフリートならウンディーネがいるかもね」
「へぇ…水の精霊かぁ…『出でよウンディーネ!!!!』なんつって」
「ロイド…」
バカだなぁ、とジーニアスが苦笑しかけたその時だった。
封印の祭壇が下方から輝きを増し、
青い肌を持った美しい精霊が
現れた───────
--私の名を呼ぶのは何者ですか?
「って、精霊がーーーー!!?」
「おぉぉ!!
!お前の推測は正しいようだぞ!!」
「姉さん、いつまで遺跡モード!?…早く戻ってよ!!」
さすがにこれには全員驚きである。
まさかこれほど簡単に呼び出せるとは。
彼女は確かに
のよく見知る「ウンディーネ」だった。
その姿は人魚のような尾びれを持った、マリンブルーの清廉の乙女として描かれる。
目の前の中空にとどまる彼女は、白い衣を足元に長く落とし、それをまるで尾のように微妙な角度で流していた。
ますますエスカレートしてしまったリフィルに少々哀れな声を出して懇願するジーニアスはおいといて、とりあえず…
「あ〜あ、呼び出したのはいいけど…ロイド、契約できるの?」
呆れてみた。
「え?何、契約って」
「契約は契約だよ。大体何か宝石とか媒体にして呼び出したりするんだよね?力試しの後にさ…」
「詳しいな」
「基本だよ?」
「ということは、
は精霊と交渉ができる?」
…なぜ私にお鉢が回ってくるのだ。
全員の視線がざっ!と集まった。
いやいやいや、交渉も何も…
「話せばいいんじゃないの…?」
「よし!がんばって!!」
誰もやるとは言ってない。
いつになく前面に押し出されてしまった。
およそ世界というものは3周近く(※改変現代含む)回ったけれど、こんなことはかつてない。
なんてマイペースな人々だろう。
それともみんな異例の事態に混乱しているのだろうか。
誰も精霊と面識がないならそれもしょうがないのかもしれない。
だって、テレビの画面越しに見ていたくらいなわけであるが。
「えーと…あなたは…ウンディーネですか?」
いかにも
「召喚の契約を…ここにいる誰かとできますか?」
「ここにいる誰かってお前!!」
「だって契約しても呼び出せなかったら意味ないし。」
聞くのが一番手っ取り早いのでは。
そんなわかりやすい問いに彼女は、親切に応じてくれた。
−契約は、資質のあるものなら可能です。
「資質って何?」
まずは、術の資質、ここには5人いますね。
「多いじゃないか…」
この時点でどう考えてもジューダスも入っているんだろう。
エルフであるセイジ姉弟、それから晶術を扱えるとジューダスが候補と思われる。
あとは、クラトスだろう。彼は人間であるはずだが、時々ファーストエイドなどを使っている。
−それから心の資質、姿無き者の声に耳を傾けることの出来るもの…3人。
誰が落ちたんだろう?
微妙だ。
−……既に私たち精霊と接触したことのある者がいますね?
…。
「だ、誰が!?先生か?!」
「私は知りません!」
衝撃の告白(?)に無駄な動揺が走る中、ワンテンポ遅れてジューダスの視線がに向いた。
私ですか…?
確かに神の眼を追っているときにシルフを召喚したことはあった。アイテム使って。
会話を交わしもしたし、接触といえば接触だ。
霊的な存在は時たま次元や時間を超越することもあるので異世界とはいえ何らかの影響もあるのかもしれない。
−ただし、いくら資質があったとしても私が認めなければ力は貸せません。
否定する前に、話は半端に続いてしまった。
それが契約の絶対条件とは言っていないのでまぁよしとする。
「それが試練で、つまり打ち負かせばいいわけだな?」
−いえ、それより先に…私は現在、契約主であるミトスとの契約中であるから他者と契約をすること自体、罷りなりません。
「ミトス!?ミトスって…あのミトスか!」
「『あのミトス』って、話してくれた伝承に出てくる英雄ミトス?」
「彼だったら確かに精霊と契約くらいはしていたかもしれないわね」
カーラーン大戦の英雄ミトス。
彼は剣士と聞いたが、召喚までできたと言うのだろうか。
「しかし、もう遥か昔の人間なのだろう?」
「あぁ、とっくに死んでいるはずだよな」
「ミトスの名前は男の子の名前としてはありがちだから勇者ミトスとは限らないわよ」
英雄や勇者の名前をもらうというのは確かによく聞く話。
すると、後世ではスタンとか言う名前がそんな理由でよくある名前になるのだろうか。
関係ないことを思いついて内心軽く笑ってみた。
「じゃあどうするんだよ」
「契約を破棄してもらって新しく契約するっていうのは?」
ジーニアスがそういうと精霊はあっさり破棄を肯定した。
─新たな契約者がそれを望み、新たな誓いを立てるなら試練へ臨むとしましょう
へぇ、試練のほかに誓いが必要なんだ。
少し斬新な方向性に感心してみる。
まとめてみると、召喚に必要なのは儀式は「前契約者の確認」「契約破棄の要請」、でうまくいくと「試練」「誓約」と言うところだろうか。
「それで、ここにいる誰と契約できるというのかしら?」
改めてリフィルが問うと、まるで見定めるような間があった。
ウンディーネの視線が無言で向く。
その先には丁度契約手順を反復して顔を上げたの姿が…
「はぁ!?」
「良かったな、予想どおりだぞ」
「何が予想か」
「精霊とコンタクトしたことがあるのはお前だけのようだからな」
「…」
こんな時ばかり危険に突き飛ばすような言動はやめていただきたいのだが。
ジューダスは容赦なく接触に関する事実を白日の下に晒した。
「
!こんなチャンスは滅多にないぞ!!ぜひ古の精霊との契約の現場を私に見せてくれ!!」
遺跡モード再びスイッチON。
こうなると誰も止めてくれる人がいなくなる。
「試練だったらオレたちも手伝うぜ!」
「うん、皆で協力するから、ね?」
ね?って何が?
皆、今ここで契約する意味を深く考えていないだろう?
だって普通の事態だったら喜んで精霊と話もしよう。が。
展開自体に抱いたこの、なんとも言いようのない違和感。
人には役割と言うものがある。
こういう時はメインメンバーの誰かが前に出るはずだ。
しかし、誰も手を挙げるものはいない。
何?この展開。
大体、私が契約するって事はどこかで何かが大きく食い違っているんじゃなかろうか。
もちろん今の
には何がどう食い違っているのかなどわかるはずがない。
「クラトスさん…」
「いいのではないか?精霊が味方についてくれれば、神子の旅もより安全なものになるだろう」
現在、最も良識的な判断をしてくれそうなクラトスは…
ものすごく筋道の通った理屈を展開してくれた。
「よし、決まりだ!!いいぜ、ウンディーネ。試練だろうが何だろうが、何でも来い!」
─よいでしょう。
本人の意思は無視か、お前ら。
ここへ来て、
はこのパーティの問題点を的確に把握した。
このパーティは、一人一人がとてつもなく人の話を聞かないマイペースな人々だ。
違和感を残したままバトルが始ってしまった。
せめて何でも来いとか言ったロイドを集中攻撃してやってくださいと思いつつ。
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