22.燐光の舞台
馬車は一旦ハコネシアで止まることになる。
忘れてはならない。元々この峠を抜けるつもりであったが、再生の書を確認しなければならなかった。
再生の書というくらいだから書物を予想していたが、そこに飾られていたのは天使言語の描かれた古いタペストリーだった。
古代の遺物に目の色を変えたリフィルにやはり男前に指示されてコレットが読み上げたのはこんな内容だ。
荒れ狂う炎 砂塵の奥の古の都にて
街を見下ろし、闇を照らす
清き水の流れ 孤島の大地にゆられ、あふれ
巨大な柱となりて空に降り注ぐ
気高き風、古き都、世界の─
巨大な石の中心に祀られ 邪を封じ聖となす
煌めく──、神の峰を見上げ 世界の柱を讃え
──古き神々の塔の上から 二つの偉大なる─
後半になるほど損傷が激しく、コレットの読み上げる声は途切れ途切れになっていた。
結局読めたのはそこまでで、残る封印がいくつなのかもわからない、とロイドはぼやく。
はうかつにも先入観ですっかり地水火風の4つだと思っていたが、どうも最後の一説は「地」とも思えず首をひねった。
世界の柱、を救いの塔とするなら神の峰とはその周辺の山脈だろうか。それが見える場所など五万とあるだろうに。
ともかく、前のふたつは既に解放済みと言う事になる。
3つめの封印はすぐ北のアスカード遺跡と踏んで、彼らは更に馬車で峠を越える。
パルマコスタからの行程を考えると意外なまでに、峠から近距離にその町はあった。
どれくらい近いかと言うと…つい先ほど登った峠を降りて「あそこに町が!」…という距離だ。まだまだかかると思っていたはやや拍子抜けした。
だが、町はといえばこれまた独特の情緒に溢れていた。
遺跡の町、アスカード。
草原を抜けてきたのにここは少々乾いた風が吹いている。
ハコネシアから先の街道は北と西に分かれていた。そこを北にずっと行くと希望の町ルインがあるという。
一行が辿ったのは西の街道で、先は山脈を正面に途切れていた。
その右手には断崖の亀裂が口をあけ、崖を取り巻くように町は作られていた。
メインの道はきれいに整地されはいるが崖沿いにずっと奥まで延びている。
その両脇に勾配のある段があって、規則性もなく建物は半ば埋まるように作られているのだ。
そしてその屋根には大方、風車が回っていて絶えずカラカラという音が町々に響いていた。
この世界は町に入るたびに驚きに似た新鮮さを覚える。
お子様3人組などその度におおはしゃぎだ。気持ち的にはもよく理解できた。多分、「わくわく」の意味が少し違うのだろうが。
さて、街に入るなり遺跡へと向かおうとするリフィルを、まずは休もうと全員が止めた。
真顔でまともな一見、その実すぐにでも向かいましょうという有無を言わせぬ口ぶりが、控えめに言っても半分くらいは興味が止まらんと聞こえた気がするのが事実だった。
ニールの手配してくれた馬車は、急ぎの旅と気遣い夜通し動いてくれたがそれなりに硬い荷台に揺られっぱなしというのも疲れるものだ。
人間の体というのは適度の運動と休息を必要とする。
久々の町であるし休息を取ってから活動しようとリフィル以外のメンバーの意思はもっぱら一致していた。
それに封印をといたら試練が待っているに決まっている。万全の状態にしておきたい。
「それにしても…」
それでも珍しい景色に目を輝かしていたロイドが持ち前の冷めやすさではしゃぐのをやめて今度は町の空気を読んだ。
「田舎っぽいなぁ」
「ここは遺跡として有名な町です。ほら、宿も何軒もあるでしょう?古きものを大切にしてはいるけれど決して田舎ではなくてよ」
「だって、なんか…」
そうしてもう一度見渡した。
町はどこか静まり返って見える。
ようやくそれが、町の見かけどおりののどかさではなく違和感を覚える静けさであることに気づいた。
行きかう人々の生活はおそらくいつもどおりだ。けれど、笑顔があまりない。
「嫌われ者のハーフエルフと一緒にいるからアイーシャも生贄にえらばれるのさ」
井戸端会議的に集っていたおばさん、と呼んでももう失礼でないだろう年と思しき町人たちとすれ違いざま、潜められた小さな言葉が耳を掠めは足を止めた。
コレットにも聞こえたのだろうか。少し先を行っていたはずの彼女も振り返る。
「
、行くよ〜」
気づけば先頭のジーニアスたちとは結構な距離が開いていた。
彼らはその間に今日の宿を決めたのか、左手奥の高台を指して行く手を示している。
ジューダスは、コレットと
の間くらいで最後尾のが追いつくのを待って歩き出した。
「何かみつけたか?」
「じゃなくて、いまそこにいた人が生贄がどうとか言ってたから…」
「生贄?」
ジューダスは聞いていなかったらしい。
は黙って首を振る。それ以上は聞いていないと察してジューダスも追求はしなかった。
「何の話だか知らんが、きな臭い言葉ではあるな」
「宿に行ったら聞いてみよう」
巻き込まれるのは避けたいが、ここが神子の目的地のひとつであるなら避けられないだろう。
ジューダスはそれを思って複雑な顔をする。
は決して首をつっこむタイプではないが、好奇心は時として知らなくていいことも知らせてくる。
むしろそれを間接的に知った人間が首を突っ込む可能性は高かった。
ところどころにある横に開いた建物ではない洞穴を気にしつつ、石の階段を上がる一行。
今日の宿に選ばれたのはざっと見回しても立派な建物だった。
* * *
この町に到着したのは、夕方だった。
位置的には台地と台地にはさまれた谷にあるので、翳るのは早い。
風は冷気を含んで少々肌寒くなっていた。
さりげにそわそわと一人で外に出ようとするリフィルをジーニアスが必死に抑えて夕飯まで済ます。
この町自体が遺跡といっても過言でないので「あんな状態」のリフィルを一人で野放しに出来ないと悟った結果である。
その頃には焦っても仕方ないので明日ゆっくり見て回ろうと言うことで彼女も渋々落ち着いていた。
さて、
はと言えば誰にも止められる謂れはない。
ジューダスを誘ってみると意外にあっさり受けてくれたので、二人は藍色に染まった外へと出かけた。
「さすが遺跡の町、っていうだけあるね」
「あぁ、近世と言うより古代だな」
明かりの漏れる横穴に入ればそこはただ掘り出した土壁が剥き出しで、壁画が描かれた空間だった。
前の世界ではまず見られなかった時代の痕跡。
あの世界では、隕石の落下に続き、天地戦争時代と言うハイテクノロジー終焉時代を経たためにおそらく「古代」と呼ばれるに相当する時代の遺物は殆ど残っていなかったのであろう。
古代的な雰囲気に加え、アスカードと言う名はの世界の「飛鳥」地方を連想させもする。
ジューダスも珍しそうにそれを見上げた。
「ほら、ここに説明文があるよ。「こちらは「祭礼のほこら」です。石舞台で祭礼を行う乙女はかつてここで一晩を過ごしたと伝えられています」だって」
壁画のほかには特に何があるというわけでもない。
ただ、そこには文字はなく跪く人間や、両手を天へ広げた緑色の衣をまとう者の姿がある。
それから、空に描かれた精霊…だろうか。
「それはかの有名なクレイオ一世と風の精霊の契約を描いた壁画だよ」
一番奥の壁画を眺めていると好々爺、といった感じの男性が教えてくれた。
彼も旅行客らしい。今は旅装を軽くしたような身なりで口調はただの観光と言うよりつい趣味の話をしてしまった、といった顔をしている。
もしかしたらどこかの学者なのかもしれない。
気高き風、古き都、世界の─
巨大な石の中心に祀られ 邪を封じ聖となす
タペストリーに描かれた一文を思い出し、訊いてみる。
「石舞台に精霊がいるんですか?」
石舞台と言うのがこの町の一番の観光資源だった。
アスカードではクレイオ一世が風の精霊と契約していたと信じられている。
元々アスカード遺跡はクレイオ三世が嵐を鎮めるため、風の精霊を祀り、儀式をとりおこなった場所であるとリフィルに聞いていた。
「そう言われているね。でも詳しいことはわからないんだ。
古代文明の遺跡はわずかしか残っていない。まるで誰かによって消し去られたかのように…」
これほどのものが残っていれば見事だと思ったが、その口ぶりでは他の地方にはあまりこういったものはないようだ。
二人は顔を見合わせると、男性は表情を緩めて二言三言、この遺跡を褒める言葉を残すと去っていった。
本当にこういうものが好きなのだろう。
それから他にも似たような洞穴を巡って、はじめにたどり着いた街の入り口から続く土の道に出た。
町、と言っても人口的には村だと思う。
適度に谷を照らす灯りを眺めながら
はひっそりとした紺色の空を見上げた。
上の段にかかっている桁のない石橋が、黒い影を落としていた。
中途で崩壊しているそれが、どこへ続いていたのかはわからない。
けれど崖の向こう側に家がないことを考えるとそれもまた古代の遺物なのだろう。
「よそ見していると落ちるぞ」
は谷側を歩いていたわけではないのだが、右手にぽっかり開いた亀裂の存在を思い出しややぞっとする。
思わず足を止めると、ジューダスがフと涼しげな笑みを落とした。
左手の坂の上に宿を見ながら、下の道を進む。
メインの道は右に緩やかなカーブを描き、亀裂の端を回りこむように北側の崖まで続いていたが、そのまま狭くなった断崖の奥にひっそり続く道の方が気になり、二人はまっすぐに進んだ。
細い道の先にあった崩れた一枚岩の門を抜けると道幅は途端に倍になった。
風が急に強くなる。
両脇は門をはさんで切り立つ岩の壁。その合間に更に上に続く幅広の階段がある。
「いかにも」といったそれを上っていく先に石舞台があるようだった。
しかし。
立入禁止。
「…………」
無造作に張られたロープの前で二人は足を止めた。
「なんで?」
「僕が知るか」
果たしてこの先に何があるのか。
崩壊してでもいるのだろうか。昼間耳にした生贄、と言う言葉も思い出したがあまりにも行く手は静かだったのではロープをひょいと潜り抜ける。
ジューダスも小さくため息をついただけでそれに続いた。
ピラミッドのような造りを想いながら何度か踊り場をはさんでたどり着くとそこは吹きさらしだった。
その正面には巨大な一枚岩の石舞台がひとつ。
といっても、高さが身長ほどもあるので上ってみるまでそれが何なのか良くわからなかった。
四方にはそれぞれ女性をかたどったかのような緑色の彫像がチェスの駒のように置かれている。
彫像がみつめる中央には古代ごと紋様で円陣が描かれていた。
既にあたりは暗く、ここには灯りもないため星の光でのみ周囲がうかがえるくらいであったが、石舞台の先は遥かまで台地が広がっているようだった。町からの景色が嘘のように見晴らしは良い。その開けた光景が町に風をもたらしているらしかった。
『うわぁ、広いですねぇ』
ようやく人気のないところまで来て感嘆したようにシャルティエ。
彼にとってもこういった「遺跡」というのは初めてなのかもしれない。
なにせ、ジューダスの世界で遺跡といえば主にシャルティエの時代のものを指しているようなものだったのだから。
ラグナ遺跡がそうであったように。
「星もきれいだね、風が強いせいかな」
明日もまた来るだろう。
薄闇で歩き回るにはあまりにも広く、他には何もないためは上がってすぐ左手の彫像の下、石舞台の端に腰をかけた。
風を正面から受ける場所だ。
ジューダスもそちらを向くと黒髪が鮮烈な風に靡いた。
「シャル、ずっと黙りっぱなしだったね。大丈夫?」
冗談半分に訊くと大仰なため息とともに同意が返ってくる。
人間であれば、眉を気弱に寄せる青年の姿がそこにあったことだろう。
『そうなんだよねぇ、なんかみんなあんまり離れないからしゃべれないし』
戦闘に使われることはあっても彼は黙ったままだった。
それはそうだ。
しゃべる剣などといえばますますリフィルの興味を惹くか猜疑心を招くだけだろう。
それ以前にしゃべる分には一向に構わないが、話し相手のジューダスの方が変な人になってしまう。
無視は多分…不可能だろう。
「そういえばそうなんだよね。自由行動する時間自体ないというか、しても範囲が狭いと言うか」
「神子を護る、という意味で目的が一致しているからではないか?」
とってつけたくらいの返答だ。
けれどあながち間違いでもなさそうだった。
コレットを護ることがリフィルとクラトスの役目で、ロイドも望んでそうしている。
ジーニアスはロイドの親友なので自然、固まってしまうことが多かった。
割合好き勝手やっていた前のパーティと大違いと言えば大違いだ。おかげで、二人だけそれぞれが勝手に動くといらない誤解を生じそうで動き辛いと言うのもあった。
ジューダスは見下ろしていた
の隣に腰をかける。
風は相も変わらず正面から吹き続けている。
「なんだか、こうやって二人で話すのも久しぶりだよね」
「しみじみ言うほどのことか」
「いや、話したいことがたくさんあったから…」
「?」
ロケーションとしては最高なのだが、ジューダスはそれを想定してはいなかった。
少しだけ動揺した自分を叱咤しながらも。
『話したいこと?』
聞き返したのはシャルティエだった。
「うん、ほらいつもみんな一緒だからさぁ…あんまり話せないこともあるでしょ」
「マーテル教の伝承の話か」
「それとか天使の話とか」
いまさら、という気もする。
もう大分彼らはこの世界に関わってしまっている。
封印も再生の書に書かれているのもで全てだとすれば、半分は解いた。けれどいまさらだからこそ他の人間には聞けないことなのだろう。
ジューダスもここに至るまでに数多の疑問を持たなかったわけではない。
「天使?」
ジューダスは聞き返した。疑問が多すぎて何から話されるのかまずもって推測も立たなかった。
「ジューダス、天使、って信じる?」
「馬鹿か、お前は」
あまりにも今更。ジューダスは「はっ」と思わず声に出して笑ってしまった。
面白かったわけでもない。本当に今更だ。いや、それより笑ってしまうほど推測もたたない中からなお、想定外の質問だったのだろう。
少々不満顔になった
から視線を眼前の台地に向けて答えた。
「僕らの世界の神は人間が捏造したものに過ぎない」
つまり、フォルトゥナを除けば神も天使も物語の中の存在でしかなかった。
唯一ストレイライズにおいて信仰されている神、アタモニはと言えば神の眼と呼ばれていた巨大レンズを隠蔽するために作られた存在。
それを知る者は世界の中でもごく一部でしかなかったので宗教としては定着してしまったが、裏を知ればそんなものはいないことは明らかだった。
フォルトゥナは神として語られない歴史に現存してしまったが…それだとて、人の想いが作り上げてしまった存在だ。
「まぁ神の御使いを天使とするならば、神と呼ばれる存在がある以上…ないとは言えんのだろうな」
『坊ちゃん…』
変わりましたね、というシャルティエの声は聞こえているのかいないのか。
ジューダスはしばし瞳を閉じとおりすがる風に耳を傾けた。
変わった…のだろうか。確かにリオンであるならば信じないと言い切ったかもしれない。しかし実際訊いたことがないには如何ともいいようはなかった。それよりも。
「そうじゃないってば。リオンはどうなの?って」
「…」
少々意外な顔でジューダスは
を見返す。
闇の中で黒い彼の姿と同じ黒髪の
の姿はおそらく、この石舞台の前に立つ者がいても見つけ辛かったかもしれない。
意外に思ったのは問われた内容か、それともリオンと呼ばれたことか。
彼女がそう呼んだことに大して意味はないだろうに。
「………なぜそんなことを訊く」
「私はねぇ、多分信じてないから」
「は?」
「昔は…」
の視線も、台地へと馳せられた。暗い緑と紺色の空、そして輝きを増し始めた星々が見える。
「そういうの、好きだった。光の使徒って言うの?絶対的な正義と言うか、まぁ、物語的の中の話として、だけど」
「…」
少々ぽかんとしていたのだろう。全くもって意外すぎる。
ジューダスが言葉を失っている間にシャルティエが軽く言葉を返した。
『へぇ〜なんだか意外だね』
「まぁ…ね。今も嫌いじゃない。けど好きでもない。それは本の中だけの話かな」
「ここは本の中ではないのだが」
「だからどう思うかって訊いてるんだよ。私はね…胡散臭いと思ってる」
ドきっぱり。
あぁ、確かにこんな話なら少なくとも神子一行の誰かの前で話せるものではない。
ジューダスは軽く額を押さえて自分なりの言葉を捜した。
「確かに、マーテル教の伝承とやらは謎が多いが…」
『「が?」』
シャルティエと
の鸚鵡返しが同時に返った。
「マーテル教の司祭そのものは嘘をついているように思えんな。今まで関わってきた人間たちもだ。だが、確かにあのレミエルと言う天使は胡散臭い」
『二人とも…何か今まで鬱憤溜まってました…?』
結局同じようなことを言うジューダスにシャルティエが小さく呟いた。
気にせず話を続ける。
「生憎と僕は例え異世界でも天使物語を素直に信奉するほど純粋じゃない」
「純粋なジューダスって何か笑えるよ」
うるさい、とジューダスはすっぱり断つが、話をそらしたは言われなくても話の進路を戻す。
「なら、私も。というべきなのかな。天使ってさ…本当はすごく残酷なんだよね」
「それは物語の中の話か?」
「自分なりの解釈だよ。信じる者は救われる。じゃあ信じない者は救わないんだろうか?敵対するものに慈悲は無い、ってイメージもあるけど」
「そういうことはそれを言った伝道師か物語の作者にでも聞いてみるんだな」
天使のごとき大胆さと悪魔のごとき繊細さ、という言葉を聴いたことがある。
天使と言うのはいつでも絶対の力と自信を持っていて、それが大胆な行動に繋がるのだろう。自信というのは神への信奉、そして神自身の力に対するものでもある。
そういった者たちを同じように信者も妄執してしまうからそれは時折、危ういのだ。
傾倒する盲目さ。エルレインたちは正にそれだった。
「正義は勝つって、「勝ったのは正義だ」の間違いだと思う」
『
、話が唐突だよ』
自分でもそう思うのか、彼女はただ苦笑しただけだった。
「やっぱり、文化レベルの差、ってやつなのかなぁ」
「馴染めないのか?」
「うーん、楽しくないわけじゃないんだけど、釈然としないと言うか」
『確かに、僕から見てもここの人たちは純粋素朴で、絵本の中の人たちみたいですねぇ…』
少し違うのかもしれないが、合っているのかも知れない。
シャルティエの言葉は彼ののんきな口調から察する限りジューダスにはどう解釈していいものか謎だった。
「謎は多いほどいいんじゃないのか?」
「そうだね。それもある」
「じゃあ僕に何が話したかったんだ」
なんだろう?と
は首をかしげてた。改めて問われると心当たりがないのかありすぎるのか。
結局それらしい答えは返ってこなかった。
「ただ、ゆっくり話したかっただけかもね」
気の置けない相手。
と解釈すべきなのだろうか。
少しは気が済んだのか
は石舞台に手をついて空を見上げた。
文化が進んでいないと言うことは汚染されていないということだ。
確かに美しかった。
けれど、それらを美しくさせるこの世界の「マナ」は着実に減少しているはずだった。
ふいに。
「?」
彼らは仄かな輝きを感じて振り向いた。
灯りは背後から湧き上がっていた。
それはあまりにも弱弱しく…故に誰かが来たとは思わなかった。
光は白く、淡く、神秘的で──
それは石舞台そのものから滲み上がって見えた。
「なんだ?」
「わからない。けど…」
『綺麗ですねぇ』
にじみあがるように見えた光は不安を感じさせなかった。
よくみればごく小さな火花が散るように弱弱しく光は溶けて消え、消えては爆ぜる。
「…リフィル先生がいたら狂喜乱舞だね」
「いなくてよかったな」
ほんの僅かな時間だけ見せた石舞台の神秘さを彼らは見守ってから宿へと帰着した。
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